第47話 破廉恥なことは屋上の踊り場で

「おっぱいを想像してるんだ。千聖が触らせてくれないっていうから」


 校舎五階の廊下で、秋鷹は両手を前に突き出してナニかを鷲掴んでいる。

 時速60kmで走る車から手を出すとおっぱいの感触を感じるらしいが、秋鷹は現在、時速4kmで歩いている為その理論が全く通用していない。


「ばっかじゃないの? そんなキョンシーみたいな格好して、恥ずかしくないワケ?」


「見て分かる通り、俺は今、おっぱいに浸ってるんだ。空気さんの無いおっぱいを、揉ませてもらってんの」


「無いなら揉む意味ないじゃない」


「夢のないこと言わないでよ。それ言っちゃおしまいだよ?」


 当然、周囲からは不審がられている。オークのコスプレをしていることもあり、とにかく怪しいのだろう。


「ねぇ、まだやるの?」


「もう少しで揉めそうなんだよ。この、空気の隙をつく感じで……」


「や、やめてよっ……!」


「……え?」


 秋鷹がふざけていると、千聖が小さく怒鳴り手首を掴んでくる。空気との戯れを中断されてしまい、秋鷹はその場で立ち尽くした。


「やめてよね……触るなら、こっち――」


「うわっ……ち、千聖……!?」


 千聖に手を引っ張られ、強引に走らされてしまう秋鷹。


 縁日やお化け屋敷などの――辺りで賑わいを見せる一年生の教室を後目に、人がごった返す廊下をふたりで駆け抜ける。


 一体、どこへ向かっているのだろうか。

 秋鷹が疑問符を浮かべていると、いつのまにか校舎端の階段に辿り着いていた。僅かに乱れた呼吸を整え、千聖がそこの階段を上がっていく。


 下へ行くならまだしも、ここから上は立ち入り禁止で行き止まりだ。それは彼女もわかっているはずなのだが――。


「もしかしてだけど……千聖、空気さんに嫉妬してる?」

 

 屋上の踊り場まで出たところで、秋鷹は千聖の背中に向けて問いかける。

 しかし彼女は振り向くと、階段の壁を背もたれにするようにして座り込み、隣の床をポンポンッと叩いた。


「うっさい……それ脱いで、はやくここに座りなさいよ」


 少し照れた表情で、千聖がそっぽを向く。若干むくれているのが気になるが、秋鷹は緑色の鎧と兜を外し、千聖の隣に三角座りで腰かけた。

 着ているのは制服のズボンにクラスTシャツ、そして身に付けているのは竜剣ドラゴンソードのネックレス。コスプレと比較すれば幾分ラフな格好だ。


 そんな秋鷹の膝の間に、千聖が入り込んでくる。


「やっぱり、嫉妬してた……?」


 千聖の顔をまじまじと見つめて、秋鷹はふっと微笑んだ。


「してちゃ悪い……?」


「全然。冗談なのに、そんな本気にするんだなーって、思っただけだよ」


「だって……まるであたしに興味ないみたいだったから……」


 秋鷹の胸に手を置き、顔を埋め、千聖は「んぅ~っ!」と唸りながら肌をスリスリ擦りつけてくる。

 最近の彼女は毎回こうだ。秋鷹のニオイが好きなのか、ことあるごとにスリスリして匂いを嗅いでくる。甘えてくれるのは嬉しいのだが、一度抱き着くと中々離してくれなくて困りものだ。


 けれど、今日は少々違うらしい。千聖はしばらくしてから密着を解いてくれた。そのまま視線を落とすと、表情に熱の籠った羞じらいを乗せる。


 ――それが何故だか艶めかしく見えたのは、たぶん気のせいではなかったのだろう。


 彼女はドレスのような薄緑の服に手をかけ、肩全体を露出させた。胸の谷間から綺麗な肩甲骨にかけて全てがむきだしになり、加えて透き通るような首筋までもが丁寧にさらけ出される。

 シミひとつない、きめ細やかな雪肌だ。何度も見て、何度も触れてきたはずなのに、どこか新鮮で神秘的に思える。


 下手をすれば、服で隠されたその膨らみも晒されてしまうかもしれない。千聖が胸に添えている手をどけてしまえば、それは図らずも叶ってしまう。

 

 あるいは、秋鷹が触れてしまえば一瞬だ。

 

「いいよ、触りたかったんでしょ……?」


「……ここ、学校だよ?」


「そ、そんなの――! 今さら……」


 ギュッと胸元で服の端を握り締め、千聖は潤んだ瞳で秋鷹を見つめた。ゆっくりと瞬きが繰り返され、彼女の長い睫毛が何回も伏せられる。


「そうだよな、今さらだよな――」


 言いながら、秋鷹は千聖の後頭部に掌を添え、鼻先が触れるくらいの距離まで顔を近づけた。


「あき、たか……」


 千聖が呟いて間もなく、僅かに開いた唇同士がそっと重なる。

 柔らかい感触、温かな肌、交差する互いの息が口腔に広がり、思考が角砂糖のように甘く溶かされるのに時間はかからなかった。


「んっ、はっ、ぁ……き、たかっ……」


 瑞々しさを纏った舌先が触れ合い、千聖から甘い息遣いが聞こえてくる。

 それでもこれは、もう何度と交わした深い深いキス。秋鷹が舌を動かすと、彼女もそれに応えて舌を絡めてきた。


「んぁッ、あぁっ、へろっ……ちゅぱっ……」


 ねっとりとした肉片が絡み合うと、互いの唾液が混ざりあっているということがよく解る。

 当たり前だが、信頼しきっていないと出来る行為ではない。唾液をかき混ぜ、時には交換し、最後には喉に伝わせて。


 夢中で舌を貪りあってしまう程、このキスは気持ちよかった。


 千聖の表情も蕩けきっている。せがみ癖がついてしまった千聖は「もっと、もっと」と言うように、微かな嬌声を上げながらチュパチュパと水音を鳴らした。

 そんな彼女の服を、秋鷹は気づかれないように脱がす。胸の部分だけを空気に晒すように、すでにはだけかけている服の端を掴んで下におろした。


 すると、それと一緒に下着も脱げてしまったようだ。千聖の大きな胸がブルンッと小さく揺れ、生まれたままの姿で飛びだした。

 

 その若々しい真っ白な肌に、秋鷹の手が伸びていく。

 千聖に許可をもらったということから、遠慮なくである。言っても恋人同士だし、許可なんて最初から取る必要はないのだが。


「――んぅッ、は、あんっ……んっ、ちゅぷっ……」


 柔らかな胸を揉むことはしないで、下乳からなぞるように撫でる秋鷹。ぷにぷにとモチ肌をつついてみたり、優しめの愛撫で小さな刺激を千聖に与える。

 

「ぷはっ……あんま、焦らさないでよ……やめ、んっ……」


「もっと触らしてほしいな。千聖のおっぱい、俺好きなんだ」


「好きって……散々さわってきたじゃないっ、我慢しなさいよ……ん、ひっ……」


「我慢できないから言ってんだよ」


 成長期がまだ終わらないのか、以前よりも更に大きさが増しているような気がする。いや、秋鷹が丹精込めて揉み解してきた結果だろうか。

 それなのに形も崩れず、ツンッと先端を尖らしている様は綺麗でもあるし見事だ。我儘な性格は態度だけではなく、胸に表れるとはまさにこのこと。


 しっとりと汗ばんではいるが、すべすべの肌触りは変わらず、滲み出た汗がいいアクセントとなってもっちりとした感触を誇張させる。

 よく見れば、皮膚の表面に青い静脈の筋が薄っすらと透けて見えていて、千聖の扇情的ないやらしさが溢れかえっていた。


「千聖……すごい、えっちな顔してる」


「ひゃっ、あっ……! それはっ、んんッ! 秋鷹がっ……」


「俺が、なに……?」


「秋鷹が、あたしをエッチな子にさせたのっ、あぁ……うっ、はぅ、あっ……」


 責任取りなさいよ、とでも言いたげな顔で見つめてくる千聖。胸を柔らかく揉まれると、彼女の声は甘ったるい喘ぎに変化した。

 普段の高圧的な振る舞いは決して見せようとはせず、逆に猫撫で声で秋鷹に媚びついてくる。女の本能とでも言うべきか。秋鷹にだけ、そういった可愛らしい態度を見せてくれるのだ。


「もう、子供みたい……」


「おっぱい揉むのって、男のロマンでもあるからな」


「ほんと、男の子ってバカね……」


「間違いない」


 むっちりな肉感を楽しみ、秋鷹は敢えて力を込めないで胸を揉む。

 壊れ物でも触るかのような繊細な手つきで、白くて丸いマシュマロに掌全体を沈めた。むにゅぅっ、と指が見えなくなるほどの柔らかさ、そしてそれを押し返すくらいの弾力性。なにをとっても、どれをとっても、一級品であることは間違いない。

 

「ほーら、おっきくなれよー……」


「ば、ばかなすびぃ……んぅッ!」


 下乳に指を添え、たぷったぷっと実りに実った贅肉を上下に揺らす。見た目通り重量感があり、ずっしりとした重みが指に伝わってくる。


 少し前の千聖なら、秋鷹には指一本すら触れさせはしなかった。しかし今となっては、その面影すらない。

 真っ赤な顔でされるがままになって、破廉恥な表情で乳房を揺すられている。胸で遊ばれているというのに、彼女は黙ってそれを受け入れていた。


 そんな千聖の形良い胸を揺らしながら、秋鷹は堪えきれないような面持ちで、


「そろそろ、俺の方も気持ちよくしてくれない……?」


「あっ……」


 下を向いて、千聖は何かに気づいたようだ。

 秋鷹の膝の間に入り、かつ至近距離で密着しているため下は見えないはずなのだが、彼の表情から感じ取ってしまったのだろう。


 揉まれ続ける乳房の下には、秋鷹のアレがあると。


 それは制服のズボンに大きなテントを張り、千聖に「慰めて欲しい」と懇願している。その要望に、千聖は秋鷹の瞳をじっと凝視することで応えた。


「だめ、かな……?」


 柔らかな双丘に触れながら、秋鷹が聞く。


「いいよ、気持ちよくしてあげる……んっ」


 静かに返答した千聖だが、乳房の先端に触れられると、瞼を閉じてビクッと肩を震わせた。

 そのまま突起した部分をクニクニされ、秋鷹の胸板に力尽きたようにもたれかかる。


「ふぅー……あっ、は、んぁっ……やっ……」


「硬くなってるね? 気持ちい……?」


「あっ、あたしが、気持ちよくするのにぃ……ふぁっ、あぁ……」

 

「ごめん……やっぱ、先にイってよ千聖――」


「あっ、やぁッ……! つねっちゃッ、はぅんっ、あぁ、あっ……」


 自制が効かなくなった千聖の嬌声が、屋上の踊り場でみだりがましくも響き渡る。

 階段のすぐ下は五階の廊下で、人通りがあるというのに。秋鷹は少しも自重しなかった。


 ――もしバレてしまったら、なんて思いもあるのかもしれない。


 淫らな行為をこんなところでしているのもそうだが、二人きりでいるところを目撃されても、秋鷹たちならきっと騒ぎになってしまう。

 けれど、それすらも厭わない時間がここにはあった。ちょっとばかしの淫らな時間。二人だけの秘密。


 そんな秘め事が、屋上の踊り場で密かに繰り広げられていた。



 

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