第一章 君を知りたい
第0話 大切だからこそ
「起きなさいよこのウスノロ頓知気野郎!」
早朝、鳥の囀りが聞こえようというときに、少年の耳には甲高い激昂が――。
「わぁあッ!」
飛び起きて、ベッドの上で寝癖を一つつけて起床。キョロキョロと寝ぼけ気味に自身の部屋を見回す少年――彼の名は、
容姿が秀でているわけではなく頭脳が明晰なわけでもない、至って普通の男子高校生だ。
彼のことを一言で表すなら、平凡という言葉が一番お似合いだろう。その消極的で自分を卑下する性格もさることながら、彼には特出したものが一つもなかった。
なにもない。ただの一般人。それが彼、影井涼なのだ。
そんな彼には少し、いやとても変わった幼馴染がいる。変わっているとは人聞きが悪いが、本当にキラキラしていて直視できないのだ。
「朝ごはん作ってあるから、早く食べちゃいなさいよ。陽ちゃんは先に食べて、もう家出ちゃったからね」
「う、うん。いつもありがとう、千聖」
「ばっ、ばっかじゃないの!? 別にあんたのために作ったわけじゃないんだから、お礼なんて必要ないわよっ」
そう言って顔を真っ赤に染める幼馴染は、なんだか可愛らしかった。ツンデレを拗らせていて少々とっつきにくいが、涼にはそんなことは関係ない
涼は言われるがまま身支度を整え、彼女と一緒に家を出た。
理由は定かではないが、彼女は毎日自分を起こしにきてくれるし、嫌々言いながらも一緒に登校してくれる。きっと、相当なお人好しなのだ。と、このときの涼は思っていた。
「りょうちゃんっ、ちさちゃんっ、おはよう!」
門扉を出るとそこには、もう一人の幼馴染の少女がいた。笑顔がとても似合う明るい女の子だ。
「なんで結衣がいるのよ……」
「今日は朝練ないから、二人と一緒に学校行こうと思って」
「そんなこと言って、本当は涼と二人きりがよかったんでしょ?」
「違うよちさちゃん! わたしは、三人で一緒に登校したいのっ」
不満げな幼馴染に対し、こっちの幼馴染はなぜだか嬉しそうだ。しかしこのままだと、二人の会話がヒートアップして口論が始まりそう。
「えっと……喧嘩はやめよう?」
家がほぼ隣同士なんだからもう少し仲良くしてほしい、と涼は少女二人に挟まれた状態で苦笑いを浮かべる。
彼女たちは毎回こうなのだ。いつからかはわからないが、涼といるときは喧嘩していることが多い。
「ふんっ、行くわよ涼」
「え、あ、うんっ」
「ちょっ、待ってよ二人ともー!」
そうして、結局は三人で一緒に登校することとなった。
素直じゃない少女と、素直すぎる少女。どちらも涼の幼馴染で、どちらも彼にとっては大切な存在。
それゆえに、この日常はいつしか掛け替えのないものへと変化していた。
少し前までは人生なんて糞食らえ、なんて思っていたのに。すごい変わりようだ。
きっとこれは、彼女らが自分を励ましてくれたおかげだ。
涼は人知れず笑みを浮かべると、二人の背中を温かい気持ちで目で追った。
それから、胸中でこう呟く。
――願わくば、この日常は手放したくない。
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