第300話 皆でお披露目
ここはローレンス商会の建物内にある一室。
建物周辺には厳重な警備体制が敷かれ、廊下にも見張りの兵士たちが等間隔で配置されている。
そんな物々しい雰囲気のなか、和やかな空気を放っているのは……、
「らいあんくん、ぼくね、ばーじるさんにも、おてがみかきました!」
「父上もとても喜んでいました! ユウマくんも書いてくれたんですよね?」
「ん! ゆぅくんねぇ、らいあんくんとあしょんでいぃでしゅかって、おてがみかぃたの!」
「父上の似顔絵も描いてあったと喜んでいましたよ!」
「ほんと~? ゆぅくん、うれち!」
ライアン殿下に会えて嬉しくて仕方がない様子のハルトとユウマ。
その二人を優しい眼差しで見つめながら、にこにこと楽しそうに会話するライアン殿下。
《 みんな、あいたかった~! 》
《 わたしも! 》
《 ぼくも~! 》
そんなライアン殿下の近くでふわふわと飛びながら、久し振りの再会にはしゃいでいるウェンディ達。六人揃うとキラキラし過ぎて眩しく感じるのは気のせいだろうか?
……いや、サイラスも目を細めているから間違いなさそうだ。
「あ、そうだ。らいあんくんに、おかしつくったの」
「お菓子ですか?」
「うん! おじぃちゃんもだいすきな、おいしいおかし!」
「じぃじねぇ、おいちぃってゆってた!」
「おばぁちゃんも、だいすきって、いってました! ね? めふぃくん!」
「あ~ぃ!」
レティもメフィストもその中に加わり、何とも言えないほわほわとした空気が漂っている。サイラスの分もあると伝えると、サイラスは満面の笑みを浮かべていた。
オレもオリビアも椅子に座り、それを眺めているだけで幸せだ。
「でも、フレッドがいないので食べれません……」
「あ、そっか……。じゃあ、ごはんのあとにたべよ?」
「みんなでおやちゅ? たのちみ!」
「あ~ぅ!」
ハイハイしながら自分の元に向かって来るメフィストを、殿下は優しく抱き上げる。以前よりも大人びた表情をする様になってきたな……。陛下の様に奔放……、いや、やんちゃにならなくて良かった……。
「もうすぐユイトさんも城に来られますね! その日が待ち遠しくて……!」
「おにぃちゃん、はりきってました!」
「れちぴもねぇ、いっぱぃだちてたの!」
「そうなのですか? 母上たちも料理長たちも楽しみだと言っていました!」
あぁ、殿下に甘いものをあげていたという料理長。フレッドが王都に帰ってから叱られたんだろうな……。その光景が目に浮かぶ様だ……。
「らいあんくん、ぼくね、ゆみもれんしゅう、してます!」
「剣だけじゃなくて弓もですか? 凄いですね!」
「ばーとさんに、おしえてもらいました!」
「バートさん……?」
その名を聞いた途端、ライアン殿下の眉がピクリと顰められる。
「ぼうけんしゃさんです! とってもやさしくて、ゆみもじょうずで、かっこいいです!」
「弓か……。それなら城にも訓練場があります! そこで一緒に練習しましょう!」
「ほんとう? らいあんくんも、いっしょ?」
「はい!」
「やったぁ! ぼく、たのしみです!」
……ハルトとライアン殿下を見守っていたのだが……。
殿下のアレは無意識なのだろうか? バートの名前が出た途端、少し眉を顰めていた。後ろに控えていたサイラスも、殿下が一緒に弓を練習すると聞いて驚いた表情を浮かべている。
「あ、そう言えば……。ここにドラゴンもいると伺ったのですが、本当ですか?」
「どらごんさん、とってもかわいいです!」
「しゃんぷしょんとねぇ、せばちゅ……、せばしゅちゃんと、いっちょなの!」
「ふふ、そうなのですか?」
セバスチャンの名前をきちんと言えないユウマに、ついつい顔が綻んでしまう。む~! と膨れながら、ユウマも少し照れている様だ。
「どらごんさんね、げいもできるよ」
「げい?」
「うん! みんなでおひろめしたもんね?」
「「うん!」」
ライアン殿下は何のことか分かっていない様子だが、ハルトたちの楽しそうに話す芸が気になっているみたいだ。
「……サイラス。ドラゴンを見に行きたいんだが……」
「ドラゴンですか? あぁ、丁度ここから見えますね」
「本当に?」
「はい。あそこに」
サイラスの言葉にライアン殿下はメフィストを抱えたまま窓の外をそっと覗く。
「あ! 凄い! あれがドラゴン……!」
「俺も初めて見ました。下に行くなら、フレッドに一言伝えておかないと後で怒られますよ?」
「それもそうだな……」
「あ~ぶ!」
殿下はメフィストのもちもちした腕をふにふにと握りながら、真剣な表情で考え中だ。サイラスも一緒になって触りだし、メフィストは擽ったそうに身をよじっている。
「……よし! 次はいつ見れるか分からないからな! 下に行こう!」
「あ~ぃ!」
「では、フレッドにも?」
「そうだな。……トーマスおじさま!」
不意に自分の名前が呼ばれ、慌てて立ち上げる。
子供たちを眺めていて完全に気が緩んでいた。オリビアもそんなオレに苦笑いだ。
「あのドラゴンの主人は誰ですか? 触れてもいいか確認したいのですが」
「あぁ、それならオレが伝えてこよう。扉を開けるから、ウェンディ達は姿を消しておきなさい」
《 《 《 は~い! 》 》 》
ウェンディ達が全員姿を消したのを確認し、隣の部屋にいるフレッドとユランに会いに行く。
中の二人に伝えると、思いの外すんなりと許可が得られてしまった。
ユランもこちらについて来てくれるそうだ。何やらこの後の調理の事で会議中らしい。ユイトが興奮していると笑いながら教えてくれた。
その様子なら、何か旨いものが出てくるかもしれないな。
昼は期待しておこう。
*****
「クルルル!」
下に行くと、ユランを見つけたドラゴンが一目散に駆けて来る。クルルルと可愛らしい鳴き声を上げ、撫でてくれと言わんばかりに頭をユランの手の平に押し付けていた。
その後ろからは、サンプソンとセバスチャンもこちらに向かって歩いてくる。
「わぁ……! 初めて見ました……! 目が可愛いですね!」
「クルルル!」
初めて見たドラゴンに感動しきりのライアン殿下に、ハルトたちは自分の事の様に嬉しそうだ。
「ありがとうございます。良ければ撫でてみますか?」
「いいのですか?」
「はい。こうやって、そっと手を……」
「少し緊張します……」
そう言いながら、ユランの言われた通りにドラゴンの顔の前にそっと手を差し出す殿下。ドラゴンはその手の平の匂いを嗅ぎ、ぽふんとその手の平の上に顎をのせる。
「わぁ……! 触るとひんやりしてるのですね……!」
「この部分を撫でてあげると喜びます」
「ここですか……? あ! 鳴き声が変わりました!」
どうやら殿下の撫で方を気に入ったらしく、ドラゴンはうっとりと目を細め、機嫌良さそうに高い声で鳴いている。
サイラスも触らせてもらい、小さな声で喜んでいた。
「ゆらんくん」
「ん? ハルトくん、どうしたの?」
「おみみ、かしてください……!」
「何かな?」
ライアン殿下とサイラスがドラゴンを撫でているその隣で、ハルトが何やらユランに相談中だ。
ユランはうんうんと頷くと、にっこりと微笑む。
「いいよ。じゃあ、皆にも協力してもらおうかな?」
「はい!」
「……ここで立っていればいいのですか?」
「あぁ。きっと殿下にも楽しんでもらえると思う」
「とっても可愛いのよ~!」
ライアン殿下とサイラスと一緒に待っていると、どうやら作戦会議が終わった様だ。
ユランと一緒にハルトとユウマ、レティに抱えられたメフィストも楽しそうにドラゴンの隣に立っている。
その後ろでは、まるでドラゴンとハルトたちを見守る様にセバスチャンは木の枝に留まり、サンプソンはドシリと寝そべっていた。
「お待たせしました! では、僭越ながら始めさせて頂きます!」
ユランがこちらに向かって一礼し、ドラゴンに向けて手を挙げる。
「皆、いくよ~?」
「「「は~い!」」
「あ~ぃ!」
「では最初に~、“お手”!」
「クルルル!」
ドラゴンはユランの方に駆けて来ると思ったが、そのまま隣りに並ぶハルトとユウマ、レティの差し出した手の平にその前足を順にのせていく。
ハルトたちに褒められると嬉しそうに鳴き声を上げ、そのままユランの元へ。
ユランが右、左、右と、手を交互に変えても、以前と同じ様に完璧にマスターしている。
それどころか、ユランがフェイントをかけてもちゃんと手の動きを見て前足をのせていた。
それを見ていたライアン殿下もサイラスも、警備をしている兵士達も皆、あんぐりと口を開けて驚いてる! よしよし……! いいぞ……! オレも楽しくなってきた。
隣を見ると、オリビアもその様子を笑みを浮かべて見守っている。
「よし! 上手に出来たね! 次は~、“伏せ”!」
「クルルル!」
ユランが手の平を下に向けて下げると、ドラゴンはぺたりと地面に伏せ、上目遣いでどう? と得意気な表情を浮かべている様に見える。もうすっかり慣れたものだ。
だが尻尾は楽しいのを我慢出来ない様で、ずっとフリフリと揺れている。
その隣では、ハルトとユウマも伏せをするドラゴンの隣で一緒にしゃがみ、きゃっきゃと楽しそうに笑っている。
二人と一緒にドラゴンもクルルル! と一層楽しそうに声を上げる。
それを見ていた殿下や兵士達は皆、同じ様に真剣な表情で唇を噛み締めていた。
「ハルトくんもユウマくんも、皆上手だね! よし、次は~、“ちょうだい”!」
ドラゴンは伏せの状態から立ち上がり、尻尾を上手に使って体を支えている。
前足を合わせてちょうだい! と上下に振り、可愛くおねだりのポーズだ。
ドラゴンとハルト、ユウマと一緒に、今度はレティに抱っこされたメフィストも加わり、小さな両手を合わせてちょうだいのポーズ。
あぃあ~ぃ! と可愛い掛け声と共に一生懸命、両手を振っている。
可愛すぎて口のにやけが止まらない……。
これを見ていた兵士達は皆、眉間に皺を寄せ、口元を隠して咳払いをしている。
「メフィストくんも上手に出来たね! 次は~、“おまわり”!」
今度はちょうだいの姿勢から少しだけ尻を浮かせている。
そしてハルトとユウマも一緒になって、ぴょんぴょん跳ねながら一緒に横に一回転。
レティも、きゃっきゃと手を叩いて喜ぶメフィストを抱えてゆっくり回り、たのしいね、とにっこり笑っている。
オリビアは深い溜息を吐いて平静を保とうとしている様子。
その可愛らしい光景に、兵士達も頭を抱えたり口を押さえたりと忙しそうだ。
「レティちゃんも可愛く回ってたね! 次はちょっと難しいかな? せぇ~の、“バンッ”!」
「クルルルゥ~……」
ユランが指で撃つ格好をすると、ドラゴンは悲しそうな鳴き声を上げてよろけ出し、ぺたりと倒れ込んでしまった。
尻尾も一度だけピクンと跳ねさせ、その後はピクリとも動かない。
……なかなかの演技力だ。
ほんのりと頬を染めるレティに抱えられながらドラゴンが倒れていく様を見ていたメフィストは、悲しそうな声を上げ、ドラゴンに向かって必死に手を伸ばしている。悲壮感はたっぷりだ。
その様子を見守っていた兵士達からも、あぁ……、なんて悲しい声が漏れている。
「よし! 次は~、“ハイタッチ”!」
倒れ込んでいたドラゴンがパッと起き上がり、ユランの差し出した手の平に自分の前足をぽむ! と合わせる。
そしてユランの横に並んでいるハルトとユウマ、レティが支えているメフィストの差し出した手にも、ぽむ! と優しく前足を合わせてお披露目は終了。
……かと、思いきや……、
「これで最後だ! いくよ~? “ジャンプ”!」
「クルルル!」
ユランが手を大きく回すと、ドラゴンは楽しそうな鳴き声を上げてピョン! と後ろにバク転し始めた。
それと、その隣でもう一つ小さな影が……。
「はるくん! しゅごぃ!」
「かっこいい!」
「きゃ~ぃ!」
ハルトも同じ様に後ろにくるりと回転し、ユウマたちは大興奮。
オレもオリビアもその光景には驚きを隠せない。
そして五回転したところでドラゴンはパッと姿勢を戻し、どうだ! と言わんばかりに尻尾を揺らす。
ハルトも連続で回転し、両手を挙げてポーズを決める。
良く出来ました! とユランが撫でると、ドラゴンはギャウギャウと嬉しそうに鳴き声をあげている。ハルトもやりました! と満足気だ。
それを見守っていた兵士達からも、大きな声援と拍手が。
すると、一際大きな声と拍手が響いてくる。
その聞き慣れた声に振り向くと……、
「いやぁ~! 見事だったな! 素晴らしい!」
「父上!」
「へ、陛下……!?」
そこには楽しそうにこちらに歩いてくるバージル陛下と、ハァと溜息を吐く側近のイーサン、それを見て笑う近衛騎士のアーノルドの姿があった。
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