第298話 再会


「皆さん! お久し振りです!」

「「「ライアンくん!?」」」


 そこには、僕たちに手を振る少し大人びたライアンくんの姿……。

 その隣にはフレッドさんと、こちらにひらりと手を振るサイラスさんの姿もあった。


「あっ! ハルト! ユウマ!」


 突然の再会に驚いていると、二人が駆け出しライアンくんへと抱き着いた。思わずライアンくんと呼んでしまったけど、今は村とは違い王族として接しないと駄目な筈……。

 だけどフレッドさん達は何も言わずに黙ったまま。


「らいあんくん! あいたかったです!」

「ゆぅくんも!」


 抱き着く二人を誰も止めようとはせず、ライアンくんは二人を抱える様にぎゅうっと嬉しそうに腕を回している。


「私も会いたかったです! 手紙も受け取りました」

「ぼくね、ゆぅくんとまいにち、らいあんくんとあえますようにって、おねがいしてました……!」

「はるくんとねぇ、おほちちゃまにおねがぃちたの!」


 顔を見上げ、また嬉しそうに抱き着く二人にライアンくんは柔らかい笑みを浮かべている。


「本当ですか? とても嬉しいです!」

「おねがい、かないました!」

「うれちぃ!」


 二人のあまりの喜び様に、僕は声を掛けられずにいた。

 ふと向かいにいたカビーアさんとゲンナイさんの方を向くと、お二人は膝をつき右手を胸に当て、深々と頭を下げている。

 ネヴィルさんも、後ろにいたユランくんも。

 そしてトーマスさんとオリビアさんも、頭を下げていた。


( ……あ、僕もしないと…… )


「顔を上げてください」


 慌てて跪こうとすると、部屋に凛とした声が響いた。


「ここは公の場ではありませんし、皆の発言を咎める事もありません。今回、私の我が儘を会長が聞き入れてくれた事、心より感謝します」


 するとネヴィルさんは立ち上がり、お役に立てて光栄です、と笑みを浮かべている。


「トーマスおじさまも、オリビアおばさまも、秘密にしてくれてありがとうございます! 驚かせるのに成功しました!」


 そう言って僕に向かって満面の笑みを浮かべるライアンくん。

 その両手は二人を離す事なく抱きしめたままだ。


「二人とも、知ってたんですか……?」


 僕が振り返ると、トーマスさんは気まずそうに目を逸らす。ユランくんも僕と目を合わせようとしないから、もしかしたら知っていたのかもしれない。

 ……あ! だからあんなにソワソワしてたのか……!


「ふふ! だって面白そうだったんだもの~! ハルトちゃんもユウマちゃんも、喜んでたでしょ? ね? メフィストちゃん!」

「あ~ぃ!」


 この中で唯一、オリビアさんとメフィストだけが楽しそうだ。

 レティちゃんは涼しい顔でライアンくんに手を振っている。

 さては気付いてたな……?


「ユイトさん! 今日は美味しい料理を食べれると聞きました!」

「えっ!? 料理……!?」

「あれ? 違いましたか……? この方達と作ると聞いたのですが……」


 ハルトとユウマと手を繋ぎ、あれ~? と首を傾げるライアンくんに、カビーアさんもゲンナイさんも汗がだらだらと止まらない様子。

 どうやら二人も初耳らしい。よかった、僕だけじゃなくて……!


 ネヴィルさんが集めた食材を見せてもらうとは聞いてたけど、料理を作るとは聞いてないんだけど……?

 そう思いネヴィルさんを三人で見ると、ネヴィルさんは人の良さそうな笑みを浮かべて口を開いた。


「ユイトさんの手紙にあったのですよ! カビーアさんとゲンナイさんがいれば、美味しい料理がたくさんできると!」


「「「えっ」」」


 二人の視線が今度は僕に……。

 ……確かに、ネヴィルさん宛ての手紙に書いたかもしれない……。

 でもこんなに早く呼べるものなの……?


「私宛ての手紙にもそうありましたよ。それに以前、ユイトさんが大豆ソーヤとスパイスは野営にも使えそうだと仰ってましたので。それに孤児院への支援物資の件もありますし。だから今回、ローレンス商会に協力してもらい御二方にも集まって頂きました」


「「「えっ」」」


 また二人の視線が僕に……。

 ……確かに、野営にも使えるって前に言った気がする……。


「ユイトさんが書いていたんですよ? もっと知られて欲しいって。これが認められれば御二方の扱っている品も安定した収入が見込めると思いますし、悪い話ではないと思うのですが……」


 いかがでしょう? と首を傾げ、困った様に眉を下げるフレッドさん……。

 ……絶対、あの顔は困ってないな……。

 僕の直感がそう言っている。


「……わ、私でよければ、是非手伝いたいと……」

「わ、私共も、協力させて頂ければ……!」


 少し震えた声でカビーアさんとゲンナイさんが前に出る。

 その瞬間、フレッドさんの目がにっこりと細められた。

 その隣でサイラスさんは苦笑いし、ライアンくんは全く気にせずハルトとユウマとお喋りしている。


「そう言ってくださると思いました! では早速、皆様のお持ちになった食材を見せて頂けますか?」


 狙った獲物は逃がさないとばかりに、フレッドさんはツカツカとこちらに近付いてくる。


「あ、私達は隣の部屋で待ってるわね~!」

「あ~ぅ!」

「レティちゃんはこっちでユイトくん達といる?」

「ん~……。じゃましちゃうから、わたしもおばぁちゃんとあっちいってるね?」


 オリビアさんはメフィストとレティちゃんを連れて扉の方へ歩いて行く。

 去り際、がんばって、と手を振られてしまった。


「オレもそっちに行こうかな……」


 トーマスさんも素知らぬ顔でオリビアさんの後について行く。


「らいあんくん、いっぱい、おはなししたいです!」

「ゆぅくんも!」


 ハルトとユウマはあれからずっとライアンくんに引っ付いたままだ。

 そのせいかは分からないけど、ライアンくんは眩しいくらいの笑顔を浮かべている。


「そうですね! フレッド、私も隣に行っても?」

「えぇ、問題ありません」

「「やったぁ~!」」

「では、行きましょう!」


 ライアンくんもフレッドさんに許可を貰い、サイラスさん達を引き連れて隣の部屋へと移動し始めた。


「……ユイトくん、ボクこっちにいてもいい?」


 ユランくんはライアンくんがいるからか、こっちの方が気がラクでいいみたい。


「もちろん!」

「ありがとう……!」


 ホッとした表情のユランくんと一緒に、僕たちは気を取り直してテーブルに置かれた食材の前へ。



「さぁ! 早速、皆さんの意見を訊かせてください!」



 なぜか楽しそうなフレッドさんの声が、この部屋いっぱいに響いていた。


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