第295話 とっても、いいもの


「よ~し! これで全部包めたね!」

「うん! いっぱいだね……!」

《 すごいりょう~! 》


 レティちゃんとニコラちゃんと三人で皆に配るクッキーとケーキを包み終え、やっと一息。おやつ用のケーキは残してレティちゃんがトーマスさんの魔法鞄マジックバッグにお菓子を詰め込んでいき、僕はその間に洗い物を済ませていく。

 

「たっ! た~ぅ!」


 すると、リビングからメフィストの元気な声が響いてきた。


「めふぃくん、ごきげんだね」

《 たのしそう! 》

「何してるんだろ?」


 洗い物を済ませてそちらに向かうと、メフィスト用に敷かれたラグの上で、ユウマが絵本の読み聞かせをしていた様だ。

 メフィストは自分を支えるハルトに、みて! とでも言うかの様に、挿絵のクジラを一生懸命指差している。


「くじらさん、おそら、およいでるね」

「あぃ!」

「めふぃくん、くじらしゃんみたぃねぇ」

「あ~ぃ!」


 ハルトとユウマが顔を覗き込むと、メフィストは満面の笑みで返事をする。


 どうやらユウマに何度か読んでもらっているうちに、この絵本がお気に入りになったらしい。僕もこの光景を見るのは初めてではない。

 オリビアさんはソファーにゆったりと腰を下ろし、メフィストたちの微笑ましいやり取りをにこにこと眺めている。


「おにぃちゃんはくじら、みたことある?」

「クジラ? ん~……、本物はないなぁ……」


 レティちゃんに訊かれたものの、僕の場合はテレビで見たからなぁ……。何て説明すればいいか分からない……。


「私もないわねぇ~。こんなに大きいものなのかしら?」


 オリビアさんはユウマの持つ絵本の挿絵をじっくりと眺めている。


 挿絵には、立ち並ぶ家々よりも遥かに大きなクジラが悠々と空を飛んでいる姿が描かれていた。

 浮かぶ雲は白波、空はまるで大海原の様に描かれている。

 その大空の中を、クジラが泳ぐ様に飛んでいる。


「ぼくも、くじらさん、みたいです!」

「ゆぅくんも! めふぃくんもね~?」

「あぃ!」


 三人の可愛いやり取りを眺めつつ、どうにかしてメフィストが興味を示したものを見せてあげられないかと考えてみる。


 ……うん。全く浮かばない。


 それに、存在するかも分からないしね……。


「ふふ、いつか皆で見てみたいわね~!」

「「うん!」」

「あ~ぃ!」


 せっかくメフィストが興味を示したのに……。

 そう思いながらふと横を見ると、ノアの羽にきらきらと外からの柔らかい陽射しが反射している。


《 ゆいと、どうしたの~? 》


 すると、じっと見過ぎたのか、ノアが僕を見上げ首を傾げている。


「え? いや、ノアの羽キレイだなぁと思って」

《 ほんと~? うれしい! 》

《 ゆいと~! ぼくのは? 》

《 わたしは~? 》

「皆、す~っごくキレイ!」

《 《 《 《 うれし~! 》 》 》 》


 リュカもテオも、ニコラちゃんにリリアーナちゃんも、羽を褒められて嬉しいと飛び回っている。陽射しに当てられて、皆の影が……。

 


( う~ん……。、使えるかも……! )



 僕は早速、隣にいるレティちゃんに相談する事にした。






*****


「ただいま~!」

「「「「おかえりなさい!」」」」


 トーマスさんが扉を開けた瞬間、僕たちは総出でお出迎え。

 まさかいるとは思わなかったのか、トーマスさんとユランくんはびくりと肩を揺らしていた。


「レティが教えたんだな~?」

「うん! もうすぐくるなぁ~って! おかえりなさい!」

「ただいま! 驚いたよ!」


 トーマスさんはレティちゃんを左腕で軽々と抱き上げると、そうだと思い出した様に、右手に持っていた包みを僕に手渡した。


「何ですか? これ」


 僕の両手で抱えられるほどの、軽くて小さな包み。


「それか? とってもだよ」

「いいもの……?」

「そう! 見たら喜ぶと思うよ!」


 トーマスさんもユランくんも、二人ともにんまりと笑みを浮かべてなぜかノアたちを見つめている。ノアたちも、いいもの~? と揃って首を傾げていた。




《 ゆいと~! はやくはやく~! 》

「はいはい。ちょっと待ってね~」

《 なんだろ~? 》

《 たのしみ~! 》


 ノアたちに急かされ、僕は早速トーマスさんから預かった包みを慎重に開けていく。

 何だろう? ホントに軽いんだけど……。


「なんですか?」

「たのちみ!」

「あ~ぅ!」


 ハルトたちも椅子に乗ってテーブルを覗き込み、今か今かと楽しみにしている様子。

 慎重に包みを開けていくと、中から小さな箱が出てきた。

 その箱の蓋をそ~っと開けると……。



《 《 《 《 《 わぁあああ~~っ! 》 》 》 》 》



 ノアたちが興奮するのも無理はない。

 その箱の中からは、ノアたちが使えそうな小さな小さな食器のセットが入っていた。


 木製のディナープレートに、スープ皿。

 スプーンとフォーク、そしてティーカップまで揃っている。

 それが全部で六セット。


《 これ…… 》

《 もしかして…… 》


「あぁ、キミ達の分だ。あると便利だろう?」



《 《 《 《 《 うれし~~っ! 》 》 》 》 》



 そう言うと、皆一斉にトーマスさんの周りを飛び始める。

 速すぎて、目で追うと間違いなく酔ってしまう。


「ハハハ! ちゃんとしてるだろう? どれ、一人でも持てるか確認してくれるか?」


《 《 《 《 《 は~いっ! 》 》 》 》 》


 ノアたちはテーブルに下りると、それぞれ自分で手に持ち確かめている。その表情は喜びを隠し切れずににこにこだ。


《 とーます~! これ、いっこおおい~? 》

《 あ、ほんとだ~! 》


 ノアとリュカ、テオにニコラちゃんに、リリアーナちゃん。

 僕たちと暮らしている妖精は五人。

 だけど一セットだけ余っている。


「あぁ、ウェンディの分もあるよ。皆でお揃いだ」


《 《 《 《 《 やった~~っ! 》 》 》 》 》


 その言葉にノアたちははしゃぎ回り、部屋の中がきらきらした光で眩しい程。

 早速、今日の昼食に使うと皆で楽しみにしていた。






*****


 皆が揃い、少し遅めの昼食。

 小さな食器に料理を盛り付け、空き箱をひっくり返して簡易のテーブルを作る。ティーカップに牛乳を注ぐ作業は、細心の注意が必要だった。

 スプーンで少しずつ入れていくんだけど、零れるとノアたちにあ~っ! と責められるのでちょっとツラい。

 だけど皆、嬉しそうにスプーンとフォークを使って食べ始める。


「どうだい? 使い辛くないか?」

《 だいじょうぶ~! 》

《 うれしい~! 》


 そう言って皆はトーマスさんにお礼を伝え、頬にぎゅうっと抱き着いていた。

 



「それじゃあ、そのお店には行けたんですね?」

「あぁ、地図を書いてもらわなかったら迷う自信はあるけどな」

「ホントですね! あの職員さんが親切で良かったです!」


 どうやら目的のお店には無事に着いたらしく、その店主さんもユランくんの安否をずっと気にしていたらしい。ユランくんを見た途端、抱き寄せて安堵してたって。


「ボクの手元に残ってた石を渡したら、心配だからその石でお守りを作るって言われちゃって……」

「それが出来たら、ユランともう一度店に行くんだ」

「へぇ~! ユランくん、いい店主さんで良かったね!」

「だけど、頼まれてた石と宝石のほとんど失くしちゃったから……。申し訳なくて……」


 そう言うと、ユランくんはガックリと肩を落とす。


「それに、ドラゴンが見つからなかったらもう石も届けられないし……」

「あぁ、そっか……」


 ドラゴンに乗って移動していたから、王都でも取引出来たんだもんなぁ……。


「ドラゴンの事は念の為ギルドには報告してる。発見次第、オレに連絡が入るから」

「はい……。ありがとうございます……」


 今は元気に庭で遊んでるけど、あのドラゴンも母親がいなくなって寂しいだろうし……。早く見つかってほしい……。


「店主がユランが来なかった翌朝には、ギルドを通じて村に連絡していたらしいんだが……」

「村に連絡が来たら、動ける他の二頭が探しに来るはずなんですけど……」


 ユランくんが村を出てから、今日ですでに二週間が経っているという。

 どうやらユランくんの表情を見ると、他のドラゴンたちにも何かあったんじゃないかと不安になっているみたいだ。


「なに、きっと見つかるよ。オレも依頼したからな」

「はい……」


 少しだけ笑みを浮かべるけど、その表情は浮かないまま。

 ……あ、そうだ。


「二人とも、もう一つのケーキ食べます?」


 おやつには少し早いけど、美味しいデザートを食べたら少しは気が紛れるかもしれないし。


「このけーき、すっごく、おいしかったの……!」

《 びっくりしちゃうよ……! 》


 レティちゃんとニコラちゃんの表情を見て、二人は顔を見合わせる。


「口の中が幸せだったわ……」


 オリビアさん達とはもうお昼前に食べたんだけど、これを見たらまた欲しがりそうな気がする……。まぁ、足りなくなってもまた作ればいっか。


「二人が食べないなら私が……」

「「食べる!」」


 うん、息もピッタリだ!






*****


「じぃじ、おいちぃ~?」

「あぁ、最高だ……」

「ゆらんくんは、どうですか?」

「こんなの、初めて食べた……」


 二人は皆に囲まれながら、ベイクドチーズケーキを美味しそうに頬張っている。

 それも、一口ずつ味わいながら、ゆっくりゆっくりと時間を掛けて……。


「私たちは先に食べたけど、そのケーキ本当に美味しいわよねぇ」

「このなめらかさは凄いな……」

「クッキーもチョコのケーキも美味しかったけど、これも好きです……」


 二人とも、ホォ……、とうっとりした様に食べている。その姿に、僕もつい笑みが零れる。好評みたいでかなり嬉しい! レティちゃんもニコラちゃんも嬉しそうだ。


「明日はローレンス商会に行くんだったな? もう準備はいいのか?」

「あ、はい! 食材を見せてもらうだけだし、ケーキも切り分けてあるので!」


 明日は朝からネヴィルさんとの大事な約束!

 ネヴィルさんの集めてる食材を見せてもらう事になっていて、すでに期待で胸が弾んでいる。


「本当にボクたちも行って大丈夫?」

「大丈夫だよ! 是非にって言われたし!」


 ユランくんはドラゴンと一緒に行くのを不安がっている。

 でも、一緒にと誘われているし、大丈夫だと思うんだけどなぁ……。


 それに、もう一つ重要な事を訊いておかなければいけないし……!


「明日、楽しみだね!」

「え? う、うん……!」


 お金も準備してるし、お土産のケーキも準備した。

 どうか、明日は美味しい食材が見つかります様に!





「おにぃちゃん、きあい、じゅうぶんです!」

「おいちぃの、あるかなぁ?」

「おにぃちゃんが、かんがえてくれるよ。ね? めふぃくん!」

「あぃ!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る