第263話 皆だいすき! お子様プレート
「しばらくは森の中を走るからな。寒くない様に
「そうですね。子供たちもいますし」
森の中に入り、初めての休憩。
今はオリビアさんとブレンダさん、バートさんが付き添い、ハルトたちは用を足しに行っている。ユウマたちもいる為、トイレ休憩はマメに取るらしい。
「うおぉ~……! これ美味いっすね!」
「ホントですか? ありがとうございます」
「甘いものはいいな」
「食べると元気出ますよね」
トーマスさんとドリューさんが幌を下ろしている間、僕とミックさん、リーダーのメルヴィルさんで馬たちを撫でながら談笑中。
チョコチップクッキー、二人とも気に入ってくれたみたいだ。
「サンプソン、気持ちいい?」
《 あぁ、とても 》
「よかった」
サンプソンたちを撫でていると、ふわりと僕の足元に影が落ちる。
《 ユイト、私も撫でてくれ 》
セバスチャンが幌の上から降りてきて、自分も撫でろと頭をスリスリせがんでくる。
「セバスチャン、意外と甘えただね?」
《 む……。そんな事はない 》
そう否定しつつ、ゆっくり撫で始めると目を瞑りまるで蕩けた表情に。サンプソンも鼻先でつんとセバスチャンを
これにはメルヴィルさんもミックさんも笑っていた。
「お、いいもの食べてるじゃないか。ユイト、オレにも」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「ドリューさんもどうぞ」
「お、ありがとう! 初めて見るな……」
「それ、スッゲェ美味いです!」
「へぇ~!」
トーマスさんとドリューさんにも渡すと、二人とも嬉しそうに頬張っている。ドリューさんは初めて食べた味に感動したらしく、もう一つあげたら大喜びで食べてくれた。
ドリューさんは甘党なのかな? また休憩の時にあげよ。
「お待たせ~! あら、いいもの食べてるじゃない! ユイトくん、私も!」
「ふふ、オリビアさん、トーマスさんと同じ事言ってますよ」
「あら、ホント? だって美味しいんだもの~!」
「そうだな。これは次から常備しておきたいくらいだ」
「そんなに気に入ってくれて嬉しいです」
皆でチョコチップクッキーを食べて休んだ後、またこの森の中を走り続ける。
幌が四方全て下ろされているため、ノアたちも姿を現し、お菓子を美味しそうに頬張っている。
「本当に森の中を進むんですね」
街道と言っても、この辺りはまだ道が
道の両側には木々が生い茂り、幌の隙間から覗く景色も木の葉がほんのり色付き始め、秋の気配を色濃く感じる。
「そうよ~。途中で村もあるけど、まだまだ先ね。しばらくはずっとこの景色よ」
「そっかぁ~。じゃあちょっとレシピの整理してもいいですか?」
「えぇ、いいわよ。揺れるから酔わない様に気を付けてね?」
「はい」
オリビアさんに断り、僕は鞄の中からレシピをまとめた紙を取り出す。
フレッドさんに送った手紙にも書いたけど、これは後から思い出して急遽まとめたもの。意外と自分の作った物って忘れるんだよな……。
「にぃに、おべんきょ?」
「これ、なんですか?」
「ん~? これはお料理のメモだよ。お料理を教える時に皆に説明するから、間違ってないか確認してるんだ」
「いっぱい、かいてる……!」
「うん。お菓子のレシピもまとめてるからね。いっぱいになっちゃった」
ユウマとレティちゃんは僕の持つレシピのメモに興味津々だ。
レティちゃんはその中の一枚、オムレットケーキのレシピに目が釘付け。もしかしたら、お菓子の作り方が見たいのかな……?
ハルトはその量に感心した様に、すごいです! と手で紙の厚さを測っている。
その様子を見て、お菓子を食べていたノアたちも集まってくる。
「レティちゃんもお菓子のレシピ……、いる?」
「……! ほしい!」
「じゃあ、レティちゃん用にも書いて渡すからね」
「うん! たのしみ!」
お菓子を作るの楽しいって言ってたからなぁ~。
今度からお菓子を作る時は、なるべく一緒にしよう。
あ、ニコラちゃんにも手伝ってもらえるお菓子がいいかな。
妖精が作るお菓子屋さん……、ふふ、人気出るかも……!
「……ユウマはそこで見るの?」
「うん!」
そう言ってユウマが座っているのは、僕の胡坐をかいた足の中。その隙間にすっぽり収まり、テオと一緒に僕のレシピを眺めている。一応クッションは敷いてるけど……。
「ユウマ、お尻痛くない?」
「ん! だぃじょぶ!」
ふんふんとレシピを眺めては、こぇちゅき! と好きな料理を教えてくれる。料理名の横に絵も描いたから、分かりやすいのかもしれない。
それにハルトもレティちゃんも加わり、これもすき、あれもすき、と三人で好きな料理を教えてくれる。
正直、レシピの整理は全く進まないけど……。
……まぁ、可愛いから、いっか!
「……じゃあ、今日の昼食はこれにする?」
「「「やったぁ~!」」」
こんなに嬉しそうにしてくれるんだから、可愛い三人の好きな料理、出すしかないよねぇ~……?
*****
「さ、今日はここで昼食だ」
「「「はぁ~い!」」」
トーマスさんが幌を開け、僕たちが降りるのを手伝ってくれる。
ハルトとユウマは馬車から降りると、一目散にサンプソンたちの下へ駆け寄り、水をあげているドリューさんとバートさんの手伝いをしている。
「んん~……!」
僕も馬車を降り、思いっきり伸びをする。意外と座りっぱなしも疲れるんだな……。
「ひろいね!」
「そうだね、ここでご飯食べるの気持ちよさそう!」
僕たちが降りた場所は、休憩場所として使われている広場らしく、よく見ると辺りには野営した後が微かに残っていた。
この場所でも周りの木々はほんのり赤や黄色に色付いていて、目でも楽しめそうだ。
「オリビアさん、メフィスト抱っこしますね」
「ありがとう」
メフィストを預かり、オリビアさんはトーマスさんの手を借りてゆっくりと馬車を降りる。
「さ、ユイトくん。お昼は頑張っちゃいましょうか!」
「ですねぇ~!」
「あ~ぃ!」
馬車の中で僕たちの会話を聞いていたオリビアさんも、何を作るのかは把握済み。
メフィストも応援してくれているのかな? 機嫌良さそうに僕の指を掴んでいる。
「わたしもおてつだいする!」
「ホント? ありがとう! じゃあ早速始めよっか?」
「うん!」
メルヴィルさんたちが広場にある大きな石を集め、簡易のかまどを作ってくれている。そこに網を乗せて、メフィストのミルク用とスープ用のお湯を沸かす。
かまどの隣に小さなテーブルを設置して、そこでレティちゃんに卵をカシャカシャとかき混ぜてもらう。量は多いけど、よくお手伝いしているからか、もう手慣れたものだ。
オリビアさんはその間に、トーマスさんの
魔法鞄の事は秘密じゃないのかと焦ったけど、ドリューさんたちには伝えたらしい。そしたら、ドリューさんたちも容量は少ないけど、自分たちも持っているからと鞄を見せてくれたみたい。これで気兼ねなく使えるなと安堵する。
「おにぃちゃん、できた~!」
「ありがとう、じゃあ次はスープをお願いしようかな」
「おばあちゃんと一緒に作りましょ」
「うん!」
レティちゃんにはオリビアさんと一緒にスープ作りをお願いして、僕はフライパンでレティちゃんの溶いてくれた卵を焼いていく。
ふわふわとろとろになったら、オリビアさんが用意してくれたお皿にふんわり盛り付けていく。そうして二つ、三つと焼いている間に、いつの間にかハルトとユウマも僕の後ろでその作業を眺めている事に気付く。
「もうすぐ出来るからね。もうちょっとだけ待っててね」
「うん! たのしみです!」
「ゆぅくんも! たのちみ~!」
期待にキラキラさせた目を見ると、盛り付けも気合が入るな……。
そしてそんな二人の後ろで、キラキラと期待に満ちた目を向ける影が……。
「ブレンダさんもミックさんも。もうすぐですからね~」
「あぁ! 楽しみだ!」
「オレも!」
ふふ、まるで大きい弟と妹が出来たみたいだ。
レティちゃんの方がお姉さんに見えてくるよ。
「は~い! お待たせ! 皆手に持った~?」
「「「はぁ~い!」」」
「あぃ~!」
ハルトとユウマ、レティちゃんの分はテーブルに置き、ブレンダさん達は石に腰掛けるか、地べたに座って料理の盛られたお皿を大事そうに持っている。
「では、いただきま~す!」
「「「いただきま~す(ちゅ)!」」」
オリビアさんの号令に合わせて、皆一斉に食べ始める。
僕はメフィストにミルクを飲ませながら、食べる皆の様子を窺う。
「ん~! とっても、おいしいです!」
「ねっ! おいちぃねぇ!」
「わたし、おむらいすだいすき!」
「美味しい? よかった~!」
今日の昼食は、皆の大好きなお子様プレート。
ふわふわのオムライスにトマトソースをかけて、
そしてスープは、ユウマの大好きな
だって、記念すべき旅の初日だからね!
「外でこんなに旨い食事が出来るなんてな」
「ホントね~! とっても美味しいわ!」
トーマスさんとオリビアさんもハルトたちの傍らに座り、オムライスを美味しそうに頬張っている。
子供たち用はミニサイズだけど、オリビアさん以外の大人用はオムライスを一人前ずつ盛ってある。フライドチキン五個にハンバーグは丸々一個。サラダだって野菜を食べてほしいからモリモリだ。
皆食べ切れるかなぁ~? って心配は、今のところしていない。
だって……、
「これ、スッゲェ好きっス……」
「これがコメとかいうヤツか……」
「美味しいですね……」
「毎日食べたい……」
「皆さん、気に入ってもらえました?」
「「「「もちろんっ!」」」」
ドリューさんたちも気に入ってくれたみたいで、特にミックさんとメルヴィルさんは毎日食べたいと言いながらバクバク食べている。
お替りもありますよ、と声を掛けると、全員嬉しそうに皿を持ってくる。笑顔が子供みたいで、ちょっとかわいいな……。
「ブレンダさんはどうですか?」
今日は静かだな、と思っていると、ブレンダさんはお子様プレートを見つめながらまだ一口も食べていなかった。
「え……っ!? ブレンダさん、具合でも悪いんですか!?」
僕の言葉に、トーマスさんとオリビアさんも心配そうに駆け寄ってくる。レティちゃんもビックリしてスプーンを持つ手が止まったままだ。
「なに!? ブレンダ、まだ一口も食べてないじゃないか……!」
「やだ! ブレンダちゃん、どうしたの!? 体調が悪いなら馬車で……」
「えっ!? ち、違います……! あ、あの、可愛いなと、思って……」
「「「え……?」」」
「うぅ……、だ、だから……! 盛り付けが、可愛くて……。眺めてたんです……!」
ブレンダさんのその言葉に、僕たちは一瞬で肩の力が抜けてしまう。
具合が悪いんじゃなくて良かった……!
「もう~……! ブレンダちゃんが食べないと驚くじゃないの~……!」
「そうだぞ? いつもの食欲はどうしたんだと心配するだろう……」
「は、はい……! すみません……!」
顔をまっ赤にしてお皿を大事そうに抱えるブレンダさん。僕たちの慌て振りに、ドリューさんたちも呆気に取られていた。
「ブレンダさん、冷めちゃうから食べましょ?」
「あ、あぁ……!」
僕がそう言っても、ブレンダさんはスプーンを持ったまま。
オムライスを食い入る様に見つめている。
「美味しそうな物がたくさんのってると、見てるだけで楽しくなりますよね」
「そ、そうなんだ……! こんなにワクワクするのは初めてで……!」
嬉しそうに笑顔を浮かべるブレンダさん。
ん~、もしかして……。
「そうだ! またエレノアさんにも作ってあげましょう! 僕、作り方教えますね!」
「──……! あ、ありがとう……!」
どうやら正解だったみたいだ。
ようやくスプーンを動かし、オムライスをそっと掬う。
そしてパクリと口に頬張った途端、ブレンダさんの顔が嬉しそうに綻んだ。
「美味い……!」
僕たちの心配は無用だったらしく、その後もブレンダさんはお替りを三回していた。
だけど心配になっちゃうから、今度からはちゃんと食べてくださいね、とお願いしたら、少し恥ずかしそうに頷いてくれた。
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