第262話 出発
おはようございます、気持ちのいい朝です。
いよいよ、この日がやってきました。
「うわぁ~~……、緊張してきちゃった……!」
「ふふ、ユイトくん、遠出は初めてだものね!」
「はい……!」
オリビアさんとトーマスさんと一緒に、家中の戸締りと忘れ物が無いか最終確認を済ませ、僕たちは今、店内でハワードさんが来るのを待っているところだ。
サンプソンの他にも、ブレンダさんたちが騎乗する馬も五頭、ハワードさんの牧場から借りる事になっている。
「どりゅーさんも、おうまさん、のりますか?」
「護衛の時は半々かな? 何日も掛かる時は馬に乗る事もあるな」
「ハルトくんも、もし冒険者になるなら馬に乗れた方が便利だよ」
「おうまさん……! ぼく、がんばります……!」
店内では、すでに到着しているドリューさんたちのパーティも一緒。
ハルトもユウマも楽しそうに膝に座らせてもらい、話を弾ませていた。
「さんぷそん! はやく、あいたいです!」
「しゃんぷしょん、まだかなぁ~?」
ハルトもユウマも、さっきからソワソワしっぱなし。だけど、ソワソワしているのは僕とハルトとユウマだけ。ブレンダさんやドリューさんたちに笑われるのも無理はない。
「ぶれんだちゃん、もうおなかすいてない?」
「あぁ! いっぱい食べたから大丈夫だ!」
ブレンダさんは昨日そのまま泊まっていったので、朝から美味しい朝食が食べれたと機嫌がいい。
レティちゃんも昨夜は珍しく、ブレンダさんと寝ると言って、この家に来て初めてオリビアさんとトーマスさんと離れて自分の部屋で寝ていた。
オリビアさんとトーマスさんは少し寂しそうだったけどね。
「あ、おにぃちゃん、もうすぐくるよ」
「あ、ホント?」
レティちゃんに言われ、僕はお店の扉を開けて確認する。向こうから遠目でもサンプソンだな、と一目で分かる大きなシルエットがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「サンプソン見えました!」
「そうか。そろそろ外に移動しようか」
「皆、忘れ物しない様にね?」
「「「はぁ~い!」」」
オリビアさんに言われ、ハルトたちも持ち物を確認。レティちゃんに持たされたハンカチも確認し、だいじょうぶです! と皆で自信満々にオリビアさんに報告している。そしてオリビアさんは、ドリューさんたちが先に外に出たのを確認し、そっと小声で僕の後ろに向かって呟いた。
「皆も姿を消して、ちゃんと肩か頭にくっついててね……?」
《 だいじょうぶ~! 》
《 ちゃんとひっついてる~! 》
《 おかし、たべてい~? 》
「お菓子は後でね……?」
《 《 《 はぁ~い! 》 》 》
そして……。
「おはようございま───す!」
馬から降り、元気よく僕たちの前に現れたのはマイヤーさん。
ハルトたちの頭を撫でながら、一人ずつ挨拶を交わしている。
今朝も笑顔が眩しいです……。
「おはようございます、皆さん。お待たせしてしまった様で……」
馬車の御者席から慌てて降りて来たのはハワードさん。
今日も早速ユウマに手を繋がれ、ブンブンと腕を揺らされている。それを怒りもせず、おはよう、今日も元気だね、とニコニコしている。本当に優しい人だ……。
「トーマスさん、護衛の方が乗る
「あぁ、分かった。ありがとう」
「さ、皆の荷物は馬車に載せるからね。少しだけ待っててくれるかい?」
「「「はぁ~い!」」」
「あ~ぃ!」
「ハハ! 皆、今日も可愛いねぇ」
トーマスさんとブレンダさん、ドリューさん達は、自分が乗る馬たちの確認。体の大きい人達がいるからか、連れて来られた馬たちは皆、僕たちを乗せてくれた馬たちよりもがっしりとしていた。
ハワードさんとマイヤーさん、牧場の従業員の人たちは、オリビアさんと一緒に確認しながら荷物を載せるのを手伝ってくれている。
その間に、ハルトとユウマはサンプソンの下に駆け寄り、鼻先を合わせて挨拶している。
レティちゃんに抱っこされたメフィストも、サンプソンに鼻先をスリスリされて嬉しそうにご挨拶。はしゃぐ声がとても和む。
そして僕もゆっくりとサンプソンに近寄り、その鼻先にそっと触れてみる。
「おはよう、サンプソン……」
《 おはよう、ユイト。会えて嬉しいよ 》
低い嘶きと共に響いてきたのは、とても優しく、穏やかな声。
ハルトたちの言った通り、サンプソンとも会話が出来るなんて……!
「わぁ……! 僕も……、嬉しいよ!」
思わずその鼻先に抱き着くと、サンプソンはこれからよろしく、と優しい目をして笑っている様な気がした。
*****
村の人達や警備兵のアイザックさん達にも見送られ、僕たちは今、サンプソンの牽く馬車に揺られながら、のんびり街道を走っている真っ最中。
隣街のアドレイムもとっくに通り過ぎてしまった。
この先には僕はまだ行った事がない。本当に初めての事ばかりだ。
「今日はいいお天気で良かったわねぇ~!」
「ホントだな」
今日は風もあったかくて気持ちいい。道端には黄金色のねこじゃらしが穂を垂れ、そよそよと風に揺れている。そう言えば、あの草の名前って何て言うんだろう? ねこじゃらししか分かんないや……。
「ちょ~っと上が気になるけどねぇ~……」
「ホントにな……」
オリビアさんとトーマスさんの苦笑いの理由は、この馬車の
《 今の所、危険は無いな 》
そう、幌の上には、大きな梟のセバスチャンが……。
姿が見えないなと思っていたら、僕たちがサンプソンと挨拶している間に幌の上に移動していたらしい。どおりですれ違う馬車の人達がビックリしてこっちを見る筈だよ……。
「せばすちゃん、なか、はいらないですか?」
「ねむくなぁい?」
《 ありがとう。私はここで見張っているよ 》
そう言って、どうやら僕たちを危険から守ってくれているみたい。残念ながら幌の上だから顔は見えないんだけど……。今の声の感じからして、キリッとしてそうだな。危ないから、居眠りしないといいんだけど……。
「しっかし、トーマスさんのとこは面白いなぁ~!」
「この馬たちも、とても懐いてましたし……」
「あんなデッケェ梟、オレ初めて見た!」
「トーマスさんの従魔なんだろ? 首にタイ着けてるもんなぁ~」
「わっ! こっち見た!」
僕たちが乗る馬車の周りには、先頭にブレンダさん。
左前にドリューさん。右前にはバートさん。
左後ろにはミックさん。右後ろにはリーダーのメルヴィルさんが、馬車に並走して護衛してくれている。
ミックさんだけ若いなぁと思っていたら、メルヴィルさんの甥っ子さんだと紹介してくれた。21歳だって。ブレンダさんと同い年だ。お店に来た時もいっぱい食べてたもんね。
「お、そろそろだな……」
トーマスさんの声に顔を上げると、目の前には大きな森が広がっていた。
「皆、森に入るからローブを羽織っておきなさい」
「「「はぁ~い」」」
「メフィストちゃんも寒くない様に、包まりましょうねぇ~?」
「あ~ぃ!」
どんどん近付いてくる、大きな大きな森。
ユウマにローブを着せながらふと後ろを見ると、上がった幌の向こうで、アドレイムの街が遠く微かに見えていた。
「にぃに、たのちみ?」
ローブを着せ終わると、ユウマが僕を見上げてにっこり笑みを浮かべる。
「うん! ユウマもお出掛け、楽しみでしょ?」
「うん! ゆぅくんもたのちみ!」
楽しそうに声を上げるユウマを膝に抱き、僕たちを乗せた馬車は、森の中へと進んでいった。
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