第255話 コーディネート
「きもちいぃ~~~」
「これはいいな……」
お風呂から上がった僕たちを待っていたのは、リュカの風魔法によるお手伝い。
アドルフがやっていたのと同じ魔法の様で、座っているだけで僕たちの濡れた髪の毛を心地良い温風がふわりと包み込んで乾かしてくれる。
タオルで拭くのとは段違いにふわふわに仕上がり、先に乾かしてもらったオリビアさんとレティちゃんの髪はいつもより艶々している。
ぐっすり眠るメフィストの髪も、いつも以上にふわふわだ。
《 えへへ~! じょうずにできた? 》
「りゅかくん、すごいです!」
「ふわふわぁ~!」
「オレの髪もふわふわだな……」
トーマスさんの言葉に思わず笑ってしまったけど、見れば納得。ふわふわのサラサラになっていた。オリビアさんは相当気に入ったのか、また次も乾かして! とリュカにお願いしている。
リュカは頼まれ嬉しそうだ。
「じゃあ私は、こちらの部屋で寝ますので……」
「えぇ~?」
「いっちょ、ねよ~?」
コンラッドさんは僕たちに寝室を案内してくれた後、自分は違う部屋で寝ようとしていたんだけど、ハルトとユウマのいっしょにねよ? と言う言葉には逆らえず……。
「すみません、私まで……」
「いいじゃない! ふふ! こんなに大勢で雑魚寝なんて、いつ振りかしら~?」
「案外こういうのも悪くないな」
《 ふかふか~! 》
《 ひろ~い! 》
いま僕たちは、広いリビングの真ん中で布団を敷いて皆で雑魚寝している状態。セバスチャンやノアたちも、布団の上で楽しそうだ。ちょっと寝返りする時に潰してしまわないか緊張するけど……。
「まさかこのリビングで雑魚寝するなんて、想像もしなかったな……」
「私も一緒に寝ていいんですか?」
「みんな、いっしょ! たのしいです!」
「たのちぃねぇ!」
「あぁ! 一緒は楽しいな~!」
「「きゃあ~っ!」」
ハルトとユウマはイドリスさんに布団で包まれ、きゃあきゃあと楽しそうにはしゃいでいる。コンラッドさんも笑っているし、皆楽しそうで良かった。その光景を眺めながら、僕は寝ているメフィストの隣に寝転んだ。こんなに騒がしいのに、起きる気配が全くない……。
「おにぃちゃん、きょうはそこでねるの?」
メフィストの寝顔を頬杖を突きながら眺めていると、レティちゃんがメフィストの隣で寝転んだ。
「うん、レティちゃんはそこで寝る?」
「うん」
「話は聞いてたけど、ホントに起きないんだね?」
「めふぃくん、いっつも、あさまでぐっすりなの」
メフィストの小さな指先をちょんと触ると、きゅっと僕の人差し指を握る小さな小さな可愛い指。これだけで顔が自然と綻んでしまう。
何気にメフィストと寝るのは初めてかも……。寝顔もすっごく可愛い……。ふふ……、むにゃむにゃ言ってる……。どんな夢、見てるんだろうな……。
スゥ─…、スゥ─…、
「おばぁちゃん……」
「あら、なぁに?」
「おにぃちゃん、ねちゃったの……」
「あら、ホントね……」
《 おてて、つないでる~! 》
《 なかよし~! 》
「ホントだな。ハハ、二人ともぐっすりだな……。オレ達もそろそろ寝ようか……」
「じゃあ、灯り消しますね……? 皆さん、おやすみなさい……」
「おやすみなさい……」
「おやすみ、なさい……」
「おやしゅみなしゃ~ぃ……」
*****
「あ~ぅ!」
「んぶぅっ……」
僕の顔をぺたぺたと触る小さな掌の感触で僕は目を覚ます。
うっすらと目を開けると、メフィストとリリアーナちゃん、そしてノアが僕の顔を間近で覗いていた……。
「ん~? みんな、おはよう……?」
「あ~ぃ!」
メフィストは機嫌がいいのか、そのままハイハイで僕の顔に突っ込んでくる。おかげで顔中、涎まみれになってしまった……。
昨夜はリビングで皆で寝ていたはずなのに、布団には僕とメフィスト、リリアーナちゃんとノアだけ……。
《 ゆいと、ぐっすりだったの! 》
《 もうみんな、おきてるよ~! 》
皆もう起きてるのか……。だけど、リビングには誰も居ない……。ん~、どこ行ったんだろ……?
《 こっちだよ~! 》
《 ゆいと、おきて~! 》
「あぷぅ~!」
「おきてるよ~……」
ポヤポヤした頭のままメフィストを抱え、ノアとリリアーナちゃんに案内されるがまま声のする方へと歩いて行く。
どうやら皆、庭に出て遊んでいる様だ。
「おはようございます……」
「あら! ユイトくん、おはよう……、じゃないわね! もう昼前よ~?」
「え……?」
もうひるまえ、その言葉にようやく目が覚めた。
「おにぃちゃん、ぐっすりでした!」
「ぜんぜんおきないんだもん」
「にぃに、おねぼぅしゃん!」
三人はすでに朝食も食べ終わっているらしく、ハルトはトーマスさんとイドリスさんに稽古をしてもらい、レティちゃんとユウマは庭のベンチでリュカとテオ、ニコラちゃんと一緒にのんびり寛いでいた。セバスチャンも庭に出て、のんびり日光浴を楽しんでいる。
「ユイト、もうすぐ約束の時間じゃないか? 支度しなくて大丈夫か?」
「え……? あ! しまった……!」
そうだ! ケイティさん達にお店を案内してもらうんだった……!
「き、着替えてきます……っ!」
「転ばない様にな?」
「はぁ~い!」
メフィストをトーマスさんに預け、僕は服を着替えに、荷物を置いているリビングへと向かう。
「……え? な、なにこれ……」
僕の着替えが入っていた鞄の前に、すでに僕の服が散乱している。しかもくちゃくちゃになり、涎と思わしき物まで……。
あ~……、メフィストだ~……。僕が寝てる間に遊んだんだろうな……。寝ぼけてて全く気付かなかった……。
「あれ? ユイトくん、どうしたんですか?」
「あ、コンラッドさぁ~ん……」
時間が無いのに、この服を着て外に出るのは憚れる……。そう思っていると、二階からコンラッドさんが本を抱えて下りてきた。
僕の手に持つくしゃくしゃになった服を見て、ポカンと口を開けている。
「寝てる間に、メフィストが遊んでたみたいで……」
「あぁ~、成程……」
「この後ケイティさん達と会う約束してるのに、どうしよう……」
「え? それは大変じゃないですか……!」
コンラッドさんは少し考えて、よし! と僕の手を掴む。
「ユイトくん、こちらに来てください!」
「え?」
突然の事に呆気に取られている僕を見て、コンラッドさんは苦笑い。
「その服は後回しです! 私に任せてください!」
「は、はい~……」
僕はコンラッドさんに連れられるがまま、二階へと上る。元々僕たちが泊まる予定だった寝室の隣、そこはコンラッドさんとイドリスさんの服が掛かったウォークインクローゼットだった。
「す、凄いですね……!」
「感心するのは後ですよ。そうですね……、ユイトくんならこの服とあの服を組み合わせて……」
コンラッドさんは僕をくるくると回し体型を観察した後、掛かっているたくさんの服の中から僕にポイポイと選んだ服を手渡してくる。
「私の昔の服ですが、少しキツくなって着れなかったんです。ちょっと着替えてみてくれますか?」
「え? いいんですか……?」
「? 時間が無いんでしょう? さ、着替えてみてください」
「は、はい……!」
有無を言わさずその場で着替えると、ふむ、と一考した後に追加でアレもコレもと着替えさせられた。
何着か着替えると、ようやくコンラッドさんの御眼鏡に適った様で、コレにしましょう! と一言。
いま僕が着ているのは、白のシャツに黒のジレベスト、グレーのテーパードパンツだ。コンラッドさんに教えてもらったけど、すぐに忘れてしまいそう。
そしてすぐに一階に下り、僕は椅子へ座らされ、コンラッドさんは庭で遊んでいたリュカを呼んでいる。
リュカも呼ばれたのが嬉しかったのか、すぐに飛んできた。そしてその後ろから、なんだなんだとノアたちも付いてくる。
「リュカくん、申し訳ないんですが、昨晩の様にユイトくんの髪をキレイにして頂けますか?」
《 いいよ~! ふわふわにしたらいい? 》
「お願いします」
コンラッドさんはリュカの言葉が分からない筈なのに、その表情を読み取って会話している。
そして僕の髪を温かい風が優しく包む。コンラッドさんはリュカに事細かに注文し、リュカも楽しそうに風を操っている。その間に、僕はコンラッドさんに渡された牛乳とパンをお腹の中へ。
《 できたぁ~! 》
「リュカくん! 素晴らしいですね!」
《 うん! やったね! 》
二人は僕の髪を弄り、その出来栄えに満足気。近くで眺めていたノアたちもかっこいい! と褒めてくれた。嬉しいけど、鏡で確認してないから自分がどうなっているのかイマイチよく分からない。
「まぁ~~~! ユイトくん、とっても素敵!」
「おぉ……! カッコいいな……!」
僕が褒められて照れていると、庭から戻って来たオリビアさんとトーマスさんも、僕の姿を見て驚いている。ハルトたちもかっこいいです! と褒めてくれ、何だか少し擽ったい……。
「ユイト~! ワイアット達来た……、おぉ~~~! スゴイ決まってるな!」
「こんにちは~! え!? わ、わ、わ! ユイトくんカッコいい~!」
「おぉ……! カッコいいな……!」
僕が鏡で確認する間もなく、ケイティさんとワイアットさんが迎えに来た。二人ともカッコいいと褒めてくれるけど、年の近い二人から言われると、すっごく照れてしまう……。
「ふふ、ユイトくんったら顔まっ赤よ?」
「おにぃちゃん、とってもすてき……!」
「今日は貴族様の護衛ってカンジで、緊張しちゃうかも~!」
「それは言えてる……」
皆に褒められながら、今の僕は茹でダコみたいにまっ赤になってるんだろうな……。さ、行きましょう~! とオリビアさんとレティちゃんに手を引かれ、ケイティさんには背中を押され、僕は休む間もなく玄関へと足を進める。
「ユイトくん、そのネックレスも映えますね」
見送りに来てくれたコンラッドさんが、自分の首元をトントンと指し、僕の首に掛かるネックレスを褒めてくれる。
アレクさんに貰った、大事なリングを通してあるネックレス。
それを褒められると、自分の事を言われるより嬉しくなってしまう。
「おにぃちゃん、いってらっしゃい!」
「にぃに、いってらっしゃ~い!」
「うん、チョコレートいっぱい買ってくるからね」
「「やったぁ~!」」
ハルトたちに見送られ、僕はケイティさん達と一緒にチョコレートを売っているおばあさんのお店へと向かった。
他にも種類があるのかな? 楽しみだ!
「トーマス、ユイトのあの顔、見たか?」
「あぁ……」
「自分よりアレを褒められる方が嬉しそうって、よっぽどだぞ?」
「笑顔が蕩けてましたねぇ」
「ハァ……。アレクが孫……。いや、息子かぁ……」
「ハハハ! 頼もしい息子が出来るな!」
「将来が楽しみですね」
「騒がしくなるだろうなぁ……」
◇◆◇◆◇
※いつも読んで頂き、ありがとうございます。
作品へのフォローに応援、レビューも、話を考えるうえで励みになっています。
ちょっと書きたい事が多くなり、予定していた王都編が延ばし延ばしに……。
申し訳ないですが、もう少しだけお付き合いくださると嬉しいです……(焦)
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