第254話 幸せのかたち


 オリビアさんたちがお風呂から上がり、今度は僕たちが入る番。

 ちょっとしたハプニング(?)のせいで、入るのが少し遅くなってしまったんだけど。コンラッドさんに広い家の中を案内され、僕たちは着替えを持って奥の脱衣所へと向かう。


「ここにタオルを置いておきますね」

「はい! ありがとうございます!」


 念願のお風呂に入れるせいか、少し声が大きくなってしまった……。僕の隣にいたハルトがビックリしている。ごめん……。


「ふふ、ユイトくん、嬉しそうですね」

「はい! 楽しみにしてたので!」


 また大きな声が出てしまい、よっぽど楽しみだったのかと思われたんだろうな……。ゆっくり浸かってきてくださいね、と微笑まれてしまった……。



「はい、ハルト、ばんざーい」

「ばんざーい!」


 両手を上げて万歳ポーズをしているハルトの服を、僕はパパッと脱がしていく。裸になったら風邪を引かない様に、先に浴室にいるトーマスさんにお願いして、すぐお風呂場へ直行だ。


「ハルト、おいで。こっちで体を洗おう」

「は~い!」


 ハルトも嬉しそうにトーマスさんの下へ。トーマスさんが扉を開けただけで、もわもわと湯気がこちらにまで……。早く入りたい……!

 そして僕も服を脱ぎ、今度はユウマの番。


「はい、ユウマもばんざーい」

「ばんじゃ~ぃ!」


 ユウマも可愛く両手を上げて、万歳ポーズ。服をパパッと脱がせ、僕と一緒にお風呂場へ。


「うわぁ~~~……! ひろ~い!」

「しゅごぃねぇ~!」


 浴室の扉を開けると、そこにはイドリスさんみたいな体の大きな人が何人も入れる様な大きな大きな浴槽が。これは確かに、掃除が大変そうだ。


「ほら、ユイトもユウマも。こっちで体を洗おう」

「「は~い!」」


 トーマスさんは先にハルトの体を丁寧に洗ってくれている。もこもこと泡まみれになっているハルトはとっても楽しそう。


「ユウマ、お湯熱くない?」

「ん! だいじょぶ!」


 ユウマにもお湯の温度を確認してもらい、早速ユウマの髪と体を洗い始める。


「にぃに~! あわあわ、しゅごぃねぇ!」

「ホントだねぇ。ほら! ユウマの頭、猫さんになったよ」

「ほんとぉ~?」

「あ! ゆぅくん、ねこさんのおみみ!」

「ハハハ! 可愛いな!」


 泡で猫耳を作ると、トーマスさんもハルトの頭で泡で出来た猫耳を作り出した。それを見て、ゆぅくんといっちょ! ぼくと、ゆぅくん、おそろいです! と嬉しそうにはしゃぐ弟たち。ハァ……、ほんとに可愛い。


「トーマスさん、背中流しますね」

「え?」

「はい?」


 ユウマの髪と体を洗い終わり、僕がトーマスさんの背中を洗おうとすると、そんな事微塵も頭になかったのか、トーマスさんがポカンと驚いた表情を浮かべていた。


「おじぃちゃん、ぼくも、あらいたいです!」

「ゆぅくんも! ごしごししゅる~!」

「じゃあ皆でトーマスさんの背中、洗おっか!」

「「うん!」」


 有無を言わさずトーマスさんの背中に回り、三人で順番にごしごしと洗っていく。その大きな背中には、大きなものから小さなものまで傷があちこちにあって、この背中が僕たちを守ってくれているんだなぁとしみじみ実感した。

 大きな頼りがいのある背中に、ハルトとユウマはすごい! かっこい~! とはしゃいでいる。


「ふ……、ハハハ……!」


 順番に洗っていると、トーマスさんが堪え切れないとばかりに笑い出し、僕たちは三人で顔を見合わせる。


「おじぃちゃん、どうしたの?」

「じぃじ~?」


 ハルトとユウマがトーマスさんの顔を覗き込むと、トーマスさんは両手で瞼をゴシゴシと擦り、幸せだなぁ、と小さな声で呟いた。


「ぼくも、しあわせです!」

「ゆぅくんも~! しあわしぇ!」


 それに答える様に、ハルトもユウマもトーマスさんの腕に抱き着いている。

 そしてもちろん、


「僕も幸せです!」


 感謝を込めて、僕も大きな声で答えた。





「ユイト、二人を先に入れてくるから」

「あ、お願いします!」


 少し目の赤いトーマスさんに二人を任せ、僕はゆっくり自分の体を洗い始める。最近はマジマジと自分の体を見る事はなかったけど、ほんの少し前の痣だらけだった腕と足。今見ると、痣もきれいさっぱり消えていた。

 髪の毛もあの頃はちゃんと洗えなくてベタベタだったのに、今は褒められるくらいに艶々してる。

 湯船に浸かり、気持ち良さそうにしているハルトとユウマを見ていると、トーマスさんと不意に目が合った。


「ユイト、早くおいで。気持ちいいぞ」

「おにぃちゃん、はやく~!」

「おゆ、きもちぃの!」


 三人の笑顔を見ると、胸の辺りがじんわり温かくなってくる。

 急いで泡を流し、そっと湯船に足を浸ける。

 そしてゆっくり肩まで浸かると、何とも云われぬ心地良さ。


「あ゛ぁ゛~~~……、き゛も゛ち゛い゛ぃ゛~~~……」


 思わず変な声が漏れてしまう程に、久々の湯舟は最高だった。


「「あ゛ぁ゛~~~……」」


 ハルトとユウマは僕の声を真似し、トーマスさんを笑わせている。


 笑い声の響く浴室。

 ほど良い満腹感に、気持ちいい湯舟。

 そして大好きな家族。



( はぁ~、やっぱり幸せ! )


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