第241話 お土産
六時課の鐘が鳴り、本日も“オリーブの樹”は営業を開始。
今日はトーマスさんが不在の為、ハルトたちは四人ともお店のお手伝いをしてくれている。メフィストもハンバーガー待ちのお客様の相手をしてくれているので、これも立派なお手伝いだ。
「メフィストはほんっとに可愛いなぁ~」
「見てるだけで癒されますね……」
「あ~ぃ!」
「「あぁ~……、かわいぃ……」」
メフィストのベビーベッドの前を陣取っているのは、この村の警備兵のキラキライケメン・リックさんと、明るくて人懐っこい雰囲気のヒューゴさん。
以前にアイザックさんと食べに来てくれて以来、お二人はお持ち帰り用のハンバーガーをよく買いに来てくれる様になり、今やすっかり常連さんだ。
だけどその度に、今日はメフィストはいないのかと訊かれるんだよねぇ……。
「りっくさん、ころっけばーがー、できました!」
「ハルトくん、ありがとう! お手伝いして偉いね」
「えへへ……! ありがとう、ございます!」
「んん……っ!(笑顔が眩しい……!)」
「ひゅーごしゃん! ちーじゅばーがー、できまちた!」
「ユウマ~! ありがとう! これで夜番も頑張れるよ~!」
「おちごと、がんばってぇ!」
「んん……っ!(めちゃくちゃ頑張る……!)」
お二人ともこの調子だから、この店の密かな名物になりつつある……。
それにハンバーガーが出来上がっても、暫くここにいるんだよね……。
「りっくさん、ひゅーごさん……。じかん、だいじょうぶ……?」
「あ! ヤッベェ! 今日隊長と一緒じゃん!」
「本当だ! レティちゃん、教えてくれてありがとう!」
「ん。いってらっしゃい」
「「行ってきます!」」
お二人はまた来ます! と手を振り、息ピッタリの様子で店を後にした。
「こんにちは~!」
「あ! いらっしゃいませ!」
そして入れ替わりに入って来たのは、乗合馬車で知り合った冒険者のリンダさんとヴァネッサさん。同じパーティのメイナードさんとマシューさんも、遅れて後から来るらしい。
王都に戻る前にもう一度来ると言っていたけど、本当に来てくれたんだ! テーブル席は埋まっているので、カウンター席へご案内。
「いらっしゃいませ! おきゃくさま、おひやをどうぞ!」
「いらっちゃぃましぇ! おきゃくちゃま、おてふき、どぅじょ!」
「ありがとう!」
「僕たち、お手伝いしてるの?」
「はい! てんいんさん、です!」
「ゆぅくんも! てんいんしゃん!」
「「かわいぃ……」」
突然真顔になったお二人に一瞬驚いたけど、また来てくれて良かった!
「もう王都に帰っちゃったのかなと思ってたから、また来てくれて嬉しいです!」
注文のオムライスと、トマトとモッツァレラのカプレーゼを調理しながらカウンター越しに会話をすると、お二人ともニコニコしながら僕の手元を興味深そうに眺めている。
「そう言ってくれると私たちも嬉しいよ! ここでも依頼を受けててね。王都周辺とはまた違って楽しかったよ」
「ね! 依頼主さんの家に泊めてもらえたりね!」
王都ではなかなか無い様な依頼がたくさんあり、面白いからとどんどん滞在を延ばしてしまったらしい。
畑に出ると言って困っていたワイルドボアと言う猪の魔物を討伐し、そのお肉を御馳走になりちょっとした宴会の様になったと。そしてメイナードさんのお酒の飲みっぷりを気に入られ、そのまま依頼主のおじいさんの家に泊まらせてもらい、そこから他の依頼をこなし……。
結局、一週間程その依頼主さんの家で宿泊して、帰るのが今になったと笑っていた。
「こんな事初めてだったからね。色々面白かったよ」
「ね! 村の人たち皆良い人ばっかりだったし! あ、コレ美味しい~!」
「ありがとうございます! 皆さんが楽しそうで良かったです!」
カプレーゼを食べるお二人と和やかに話していると、漸く同じパーティのメイナードさんとマシューさんがやって来た。お二人もハルトとユウマに案内されニコニコしながら席へ着く。
「おにぃさん、けん、おもく、ないですか?」
ハルトはメイナードさんの持つ剣と盾に興味津々だ。前回も思ったけど、アレを担いで歩くってだけでもビックリなのに、あの装備で戦うんだもんな……。冒険者の人たちって凄い……。
「これかい? 初めは重たかったけど、今はこれじゃないとしっくりこなくてね」
「きたえたら、おっきいけん、もてますか?」
「そうだね。持てる様になると思うよ? でも一番は、自分に合う武器を見つける事の方が大事かな?」
「みつける……」
「そう。無理して合わない武器を使っても、自分や仲間を危険な目に合わせるなら止めた方がいい。たくさん鍛えたら、いつかコレだ! っていう物が手に取った瞬間に分かるんだ。まぁ、こればっかりは巡り合わせだけどね」
「ぼくも、じぶんにあうぶき、さがします!」
「良い物が見つかる様に祈ってるよ」
「はい!」
ハルトは目をキラキラとさせてがんばります! と気合十分。メイナードさんも周りのお客様たちもそんなハルトを微笑ましく見つめているのが分かる。
「お待たせ致しました。オムライス二人前です」
「ありがとう! これが無性に食べたくて!」
「二人ともずっと言ってたもんな」
「だって、美味しいもんね~?」
「はい! おむらいす、おいしいです!」
「ゆぅくんもねぇ、おむらぃしゅちゅき!」
「「「「そうなんだぁ~!」」」」
ハルトとユウマの言葉に、うふふ、と笑い合うリンダさんたち。この人たちも子供に優しいんだな。
「王都に帰ったらオムライスが食べれないなんて……」
「あ、そうだったぁ~……」
帰るのを思い出したのか、リンダさんもヴァネッサさんも肩をガックリと落とす。
「ふふ、そんなに気に入ってくれたんですか?」
「だってぇ~! 美味しくって量も多いし~!」
「値段も手ごろだしな」
「このコメっていうのも、ここで初めて食べたな」
「お腹に溜まる感じもいいよね」
どうやらお米は皆さんにも好評みたいで、僕は内心ニヤニヤしてしまう。冒険者さんたちにも美味しいって言ってもらえてるし、孤児院でも上手くいくといいな。
「皆さん、近くに来たらまたいらして下さいね!」
「あぁ! 絶対に来る!」
「ユイトくん! オムライスはメニューから外さないでねぇ~!」
「ふふ、分かりました! 皆さん、お気を付けて!」
リンダさんたちは会計を済ませ、このまま王都に帰るそうだ。手を振り見送ると、ハルトはふんふんと鼻を膨らませ、レティちゃんにお店が終わったら稽古したいとお願いしている。なんでレティちゃんに……?
僕の疑問もそこそこに、次のお客様がご来店。
「「「いらっしゃいませ!」」」
次から次にやって来るお客様で、今日も“オリーブの樹”は大忙しです。
*****
「ユイトくん、皆呼んできてくれる? その間に並べておくわね」
「はい!」
オリビアさんにセッティングを任せ、僕は庭で遊んでいるであろうハルトたちを呼びに行く。
お店が終わったら稽古するって言ってたから、多分いる筈だ。昼寝もせずに大丈夫か心配だけど。
トーマスさんはまだ帰って来ていないけど、ハルトたちを待たせるのもね、と先に食べる事に。
「皆~! ご飯出来たよ~!」
「「「はぁ~い!」」」
「あぷ~!」
僕が声を掛けると案の定、皆仲良く庭で遊んで……。
……ん?
「おにぃちゃん、どうしたの?」
「にぃに~?」
《 ゆいと、どうしたの~? 》
僕を心配して、皆が首を傾げている。
「え? ……いや、何でもないよ! ご飯出来たから、手を洗おうね」
「「はぁ~い」」
《 きょうはなんだろ~? 》
《 たのしみ~! 》
「ふふ。今日は皆、初めて食べるご飯だよ」
そう言うと、ノアたちはたのしみ~! とはしゃぎだした。レティちゃんもソワソワしている様子だ。気に入ってくれるといいんだけど。
「ハルトは手を洗って、服も着替えよっか」
「うん!」
余程頑張ったのか、ごしごしと汗を拭い、おなかすきました! とハルトはやり切った顔をしている。
さっきの、目がおかしくなったのかな……? 一瞬だけ、ハルトに向かって黒い塊が飛んでいって、それを剣で叩き斬っていた様に見えたんだけど……。
……うん。気のせいって事に、しておこう……。
「ん……! あついけど、おいしい……!」
「お野菜もこれならたくさん食べれちゃうわね!」
「気に入ってもらえて良かったです! あ、〆に雑炊作るので、レティちゃんもオリビアさんもお腹に余裕残しといてくださいね?」
「「は~い」」
「いいお返事です」
今日の夕ご飯はこちらに来て初めてのお鍋、もとい水炊きだ。
ビフカツソースに使う鶏がらスープを鍋用に取って置き、そこに鶏肉、
《 これ、ぽかぽかする~! 》
《 これにつけたら、すっぱくておいしい! 》
《 おやさい、おいしい~! 》
「皆、気に入ってもらえた?」
《 《 《 うん! 》 》 》
そしてもう一つは、
「にぃに、おだんごいれてぇ~」
「ぼくも、おだんご、ほしいです!」
「鶏団子? 二人とも美味しい?」
「ん! おぃちぃ~!」
「とっても、おいしいです!」
「よかった! 後でお米入れて雑炊にするからね」
「「はぁ~い!」」
ハルトもユウマも、ふぅふぅと冷ましながら美味しそうに頬張っている。やっぱり肌寒い季節はお鍋がいいよねぇ。
「メフィストは美味しい?」
「ん~! まっ!」
「ご機嫌だから気に入ってもらえたみたいだね?」
「あ~ぃ!」
今夜のメフィストの離乳食は、ケルプと干し椎茸の出汁で作った雑炊だ。野菜も細かくして黄身でとじて完成。離乳食作りにはヴァル爺さんのお店で買ったミキサーが大活躍。とってもいい買い物をしてしまった……。
レンジもお客様たちが興味を持ってくれた(主婦の人が多かったけど)し、今度警備兵の人たちの休憩所にも置こうかと言う話になっている。
冷めた夜食より、温めた方が今の時期は良いもんね。宣伝するって、あんな感じでいいのか分からないけど……。
「ただいま~!」
「あっ! おじぃちゃんです!」
「じぃじ~!」
ハルトとユウマは顔を覗かせたトーマスさんに抱き着き、おかえりなさいと満面の笑みでお出迎え。レティちゃんもおかえりなさいとトーマスさんの右手を握りながら席へと自然に誘導している。
「トーマスさん、おかえりなさい」
「おかえりなさい。お腹空いたでしょう? 先に食べましょう」
「ただいま。あぁ、いい匂いで温かそうだな」
「とっても、おいしいの!」
「じぃじ、おだんごたべてぇ~」
「あとで、おこめでぞうすいだから、おなかいっぱいにしちゃ、だめです」
「そうか! 楽しみだな!」
トーマスさんはレティちゃんたちに甲斐甲斐しくお世話をされて、とっても嬉しそう。
レティちゃんがよそってくれた鶏団子と野菜をハフハフ言いながら頬張り、旨いとしみじみ呟いている。トーマスさんにも気に入ってもらえて良かった!
「そうだ。ユイトにお土産があるんだよ」
「僕にですか?」
「あぁ。ワイアットとケイティがお礼にと貰ったそうなんだが……」
「あら、随分と大きいわね~」
「たくさん、はいってます……!」
「貰ったはいいが、自分たちには使い道が分からないからとお願いされてな。ユイトなら何か出来るんじゃないかと思って引き受けて来た」
そう言ってトーマスさんが僕に見せてくれたもの。
「わ! これ……!」
籠いっぱいに詰め込まれた甘いお菓子の原料!
「カカオ豆……!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。