第242話 甘くてほろ苦い、
トーマスさんが籠いっぱいに持って帰ってきたものは、甘いお菓子の原料となるカカオの実とカカオ豆だった。カカオの実って意外と大きいんだな……!
しかも見慣れた板状に加工されたものと、よく分からない白い塊まである……。
メフィストも興味津々で、僕の腕の中から覗き込んでいる。
「ユイトくん、知ってるの?」
「オレは初めて見たんだがな」
「僕がいたところでは、すっごく人気のお菓子の原料だったんです! でも出来上がったものしか食べた事なかったので、現物は初めて見ました!」
メフィストをトーマスさんに預け、籠の中に入っているカカオを手に取る。
カカオ豆って写真でしか見た事なかったから、ちょっと嬉しいかも!
それにこの馴染みのある板状の黒いもの……。すっごく気になる……!
「おにぃちゃん、これ、おいしいの……?」
「甘いもの好きな人には人気があったんだよ! 僕も好きだったし!」
「あまいの……! わたしも、たべたい!」
レティちゃんは興味津々でカカオ豆を観察している。だけど残念な事に……。
「ごめんね? 僕、この豆から作る工程はちゃんと知らないんだよ……。だけどこの板状のなら使えるかも。あとこの白い塊も」
「これはおいしい?」
「どうだろう? 甘いものから、すっごくにが……」
「あっ!」
「え?」
僕がレティちゃんと話していると、その隙にオリビアさんがパクリと板状の欠片をパクリと口に放り込んだ。ハルトとユウマがまた~、って顔をしてる。
「ふええええ~~~~……」
「えっ!? どうしたんですかオリビアさん!?」
「おばぁちゃん、だいじょうぶ……!?」
口に含んだ途端、オリビアさんが顔を
「これ、にがぁ~~い……」
「おばぁちゃん……」
「ばぁば~……」
これにはハルトもユウマも呆れ顔。レティちゃんもトーマスさんも苦笑いだ。メフィストはオリビアさんのその顔が面白かったのか、キャッキャと手を叩いている。
「オリビアさん、ちゃんと確認してから食べないと……」
「ごめんなさ~い……」
オリビアさんのつまみ食いの早さには困ったものだ……。
とりあえず、今はこのお土産は置いておこう……。
気を取り直して、お口直しに鍋の〆、雑炊を作る事に。残った汁に少しだけ塩を入れてスープを味見。うん、これだけでも美味しい! そこにお米を投入し、ほぐしてお米を柔らかくするために少し煮立たせる。
「レティちゃん、この卵を溶いてこの上に回しながら入れてくれる?」
「うん! やる!」
カシャカシャと卵を溶き、レティちゃんは少し緊張しながらもお鍋に回し入れ、これで合ってる? と窺う様に僕の顔をチラリと見た。
「うん! 上手に入れてくれたから、卵もふんわりしてきたね。あともう少しで出来上がるからね」
「ほんと? よかった……!」
満足そうに雑炊の完成を待つレティちゃんとは裏腹に、隣に座るオリビアさんは凄い表情のままだ。まるであのグロディ……、グロディ……なんちゃらのエキス? の時みたい……。
「オリビアさん、雑炊もうすぐ出来ますからね。お口直ししましょう」
「うぅ~……。ごめんねぇ~……」
「おばぁちゃん、つまみぐい、めっ! です!」
「ばぁば、めっ!」
「はぁ~い……」
ハルトとユウマに叱られ、しょんぼりするオリビアさん。トーマスさんも堪え切れずに笑っている。この前、反省したばっかりなのに……。
「オリビアさん、明日はこれを使ってお菓子を作ってみますね。はい、どうぞ」
「こんなに苦いのに~? ありがとう!」
オリビアさんはもう見たくないとでも言う様に、トーマスさんのお土産から顔を背けている。
だけど、雑炊をよそったお椀はしっかり受け取っている。
「ふふ、ちゃんと甘くなるように頑張りますよ?」
「おにぃちゃん、わたしもみてていい……?」
「うん、もちろん。……あ、そうだ! レティちゃんもお手伝いしてくれる?」
この前のクッキー作りも楽しそうだったからなぁ~。この間買った型抜きも使えそうだし。レティちゃんにも雑炊をよそったお椀を手渡すと、満面の笑みで受け取った。
「いいの……!? おてつだいするっ!」
《 わたしも~! わたしもする~!》
レティちゃんといつも一緒にいる妖精さんも手を挙げ、明日は三人でお菓子を作る事に。
「じゃあ、お店が終わったら作ろっか?」
「うん! つくりたい!」
《 たのしみだね! れてぃ! 》
「うん! とってもたのしみ!」
こんなに楽しみにされたら、美味しいの作らないとね。
お兄ちゃんは頑張ります!
「あ、上手く出来たらワイアットさんたちにもすぐ渡したいなぁ~。トーマスさん、ワイアットさんたちって明後日はギルドにいるでしょうか……?」
イドリスさんの家に泊まりに行くし、その時にギルドに寄って渡せたらいいんだけど。このカカオが売ってるお店も知りたいし……。あ、お店かどうかは分からないのか……。
「今朝は依頼を受けてたからなぁ……。何とも言えんな……」
「そっかぁ~。じゃあ会えた時の為に、渡せる準備だけしとこっかな」
「それがいいな。ギルドに向かう途中で会うかもしれないし」
「ですね! ……あ、オリビアさん、雑炊の味はどうですか?」
僕がトーマスさんと話している横で、オリビアさんはハフハフ言いながら雑炊を頬張っている。
「ふふ! と~っても美味しい!」
「良かったです。お替りもありますからね」
「ありがとう~! これ、とっても温まるわね~」
「体の芯から温まりますよね。あ、ポン酢を少し垂らしても美味しいですよ」
「あら、そうなの? 試してみるわ!」
「……ん! これもとっても美味しい!」
オリビアさんはご機嫌で雑炊を頬張っている。気に入ってもらえて嬉しいな!
メフィストも残さずキレイに食べてお腹いっぱいになったのか、トーマスさんの腕の中で眠そうにウトウトしている。
ハルトもユウマも、おいしいと言いながら小さいお椀だけど二杯もお替り。いっぱい食べて大きくなるんだぞ~、なんて思いながら、僕も雑炊を一口……。
ん~! やっぱり雑炊、最高だぁ~!
……さてさて、明日は何を作ろうかなぁ~?
どうせなら、オリビアさんを夢中にさせるお菓子が作りたいな!
甘くてほろ苦い、夢中になるお菓子……。
そんな事を考えながら、結局この日は皆でお鍋を完食!
大満足で、汁の一滴まで残りませんでした。
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