第208話 皆でお揃い
「こんにちは~!」
「あ、アイラさん! いらっしゃいませ!」
「「「いらっしゃいませ(ましぇ)!」」」
営業ももうすぐ終了という頃、アイラさんがそっとお店の扉を開ける。
その腕の中には大きな袋が大事そうに抱えられていた。
「アイラちゃん、いらっしゃい! 待ってたわ~!」
「うふふ、オリビアさん! 我ながら上手く出来ました!」
「そうなの? 楽しみだわぁ~!」
アイラさんはハルトとユウマに案内されカウンター席に座ると、その大きな袋をオリビアさんに見える様にテーブルに置く。
「あ、レティちゃん! そのお洋服とっても似合ってるわ! 可愛い!」
「あ、ありがとう……、ございます……!」
キッチンで洗い物をしているレティちゃんを見て、アイラさんはにこにこと満足気。
レティちゃんは突然褒められ、照れた様子でもじもじしている。
「全部素敵だから、今日はどれを着ようか毎朝迷っちゃうのよね?」
「うん……!」
そう言ってオリビアさんは、先程まで使っていたフライパンを片付けながらレティちゃんを見る。
レティちゃんの今日の服装は、首元にリボンの付いたフリルの襟付きブラウスに、淡い山吹色のふわりとしたスカート。
それにオリーブ色のお店のエプロンを着用している。
レティちゃんが着ているこの可愛い服、実はアイラさんが作った物らしい。
退院した日に着ていた赤いワンピースも、なんとアイラさんのお手製。
あのカーターさんのお店に買い物に行った日、アイラさんとずっと服を選んでたからなぁ……。
まさかアイラさんが作った物だとは思わなかったけど……。
「アイラ、やけに大きな袋だが……。何を持って来たんだ?」
「あぅ~?」
トーマスさんもお店を手伝ってくれていたんだけど、もうお客様もいないし、残すのは片付けくらいだから今はメフィストを見てもらっている。
今日もお客様にたくさんかまってもらい、メフィストはご機嫌だ。
「ふふ……、よくぞ聞いてくれました……! オリビアさん、ここで開けても大丈夫……?」
「えぇ……! 是非お願い……!」
二人の意味深なやり取りに、トーマスさんも少しだけ興味が湧いたみたい。
アイラさんが袋を広げると、そこから出てきたのは見覚えのある黒い生地……。
「ジャーン! 兎耳フード! 作っちゃいましたぁ~!」
「えぇ~!?」
「きゃあ~! 可愛い!!」
カウンターテーブルに広げられたソレは、ふわふわの黒い生地で兎の耳をデザインした子供用のフード付きの服。
しかも一着じゃなく、いち、にぃ……、六着……?
よく見ると、兎耳だけじゃなく猫耳らしき物もある様な……。生地も黒だけじゃなくて白と茶色もある……。
「アイラちゃん、こんなにたくさん大変だったでしょう?」
「いえいえ~! 楽しくって夢中になっちゃいまして!」
あれから一週間、お店の営業の合間にコツコツ作り始め、昨夜漸く全て完成したらしい。
「メフィストくん、ちょっと合わせてみても、いいかなぁ……?」
「う~?」
アイラさんは兎耳フードを手に取り、トーマスさんに抱えられているメフィストにそっと合わせてみる。
「あぅ~?」
メフィストは首を傾げ、小さな両手で自分の頭に被せられたフードの耳の部分を触っている。
「「か……」」
「「かわいぃ……!!」」
アイラさんとオリビアさんは二人で手を取り合い、メフィストのあまりの可愛さに打ち震えている。
服を合わせただけであれだから、ちゃんと着せたら大変な事になるんじゃ……?
「メフィストくんにこれ、着せてもいいですか……?」
「え? あぁ、いいが……」
「やった! では少~し、失礼しますね~!」
アイラさんはメフィストを抱っこするトーマスさんに許可を得ると、いそいそとメフィストに服を着せていく。
メフィストの服はフード付きのロンパース。
お尻部分に丸い尻尾も付けたかったらしいけど、寝るときに邪魔になるだろうと泣く泣く断念したらしい。
「なんっっって……、可愛いの……っ!!」
オリビアさんは着替えたメフィストを見て、完璧だわ! 天才! と作ったアイラさんを褒めちぎっている。
トーマスさんも黒い兎耳フードを被るメフィストを見てやはり唸っている。
「めふぃくん、とっても、かわいいです!」
「うしゃぎしゃん? かわいぃねぇ!」
「ほんと! とってもにあってる……!」
「あぃ~!」
ハルトとユウマ、レティちゃんもかわいいと大絶賛。
すると、そんな子供たちにアイラさんは満面の笑みで残っている服を手に取った。
「皆の分もちゃんとあるからねっ! 合わせてみて~!」
アイラさんはハルト、ユウマ、レティちゃんにそれぞれ服を手渡していく。
三人は服を広げ、早速確認。服はフード付きのポンチョだった。
「わぁ~! ぼくの、くまさんです!」
「ゆぅくんの、くろねこしゃん!」
「わたしのは、しろい……、ねこびとのみみ……?」
皆それぞれに可愛い耳が付いている。
フードを被り、お互いに見せ合いっこ。
トーマスさんとオリビアさんは子供たちのあまりの可愛さに、アイラさんに何度もありがとうと伝えている。
「皆可愛いね~! とっても似合ってるよ!」
ふわふわ生地のポンチョを羽織り、頭には耳が付いたフード。
メフィストは黒い垂れた兎耳だけど、それがとっても似合ってる。
ハァ~、僕の弟と妹たちがとっても可愛い……。
目の保養だな……。
「にぃにのは~?」
「おにぃちゃんの、おみみは、なんですか?」
「え? 僕の……?」
ハルトとユウマはフードを被りながら、僕の手を握り一緒に着ようと言っている。
確かオリビアさんが僕の分もあるって言ってたなぁ~……。
「わたしも、みたい!」
「あぃ~!」
すると、アイラさんが満面の笑みでこちらに向かって来る。
「ユイトくんのは、コ・レ・よ?」
「あ……、やっぱりあるんですね……」
「もっちろん!」
笑顔で手渡されたこの服……、やっぱり着ないと、ダメかなぁ……?
「「着てみて?」」
「は、はい……!」
アイラさんとオリビアさんの圧が凄くて思わず即答してしまう。
僕はなんて弱いんだ……!
「ど、どうでしょうか……?」
僕に用意してくれたのは、ポンチョではなくフード付きのコート。
「「か、可愛い……っ!!」」
フードを被った僕を見て、オリビアさんもアイラさんもいい笑顔……。
「おにぃちゃん、ねこさんです!」
「にぃに、ゆぅくんといっちょ!」
「にあってる!」
「あ~ぃ!」
僕のフードの耳は黒猫らしく、ユウマがにぃにとおしょろぃ! とはしゃいでいる。
「ほぅ、ユイトも似合うな! 可愛いぞ!」
「あ、ありがとうございます……?」
可愛いと言われてもあまり嬉しくないんだけど、皆が楽しそうだからいっか……。
手渡された服を着てみると、思ってた以上に肌触りが良くてあったかい。
これなら寝るときにも良さそうだ。
「アイラさん、これは?」
「あ、これはねぇ~?」
僕はカウンターテーブルに置かれている残りの一着を指差すと、アイラさんはオリビアさんと一緒に意味深に微笑む。
「皆さん、集まってどうされたのですか?」
すると、タイミングよくフレッドさんとサイラスさんたちがお店へと顔を覗かせる。
ふと確認すると、もう閉店時間をとうに過ぎていた。
営業が終わったと思いこちらに来たのに、何やら賑やかなので気になったみたい。
「あ、フレッドくん! ライアン殿下は部屋かしら?」
「いえ、殿下もこちらに……」
「私がどうかしましたか?」
オリビアさんの問いかけに、ライアンくんはひょっこりとサイラスさんの後ろから顔を覗かせている。
「あ! 皆どうしたのですか!?」
ライアンくんは、ハルトたちが耳付きのフードを被っているのを見て興奮している。
可愛いです! と言って駆け寄って来た。
「ふふ、ライアン殿下にも用意してくれてるのよ~?」
「私の分もですか?」
「はい、気に入って頂けると嬉しいのですが……」
「何と……! この可愛らしい物を……?」
ライアンくんの分もあると知り、フレッドさんは心なしか目をキラキラとさせている様な……。
「こちらをどうぞ!」
「わぁ! ありがとうございます! ……あ! これは……!」
アイラさんから服を受け取り、ソワソワしながら服を広げて見ると……。
「フレッドと同じ耳です……!」
「わ、私と……?」
ライアンくんのフードには、フレッドさんと同じミルクティーベージュ色の狐の耳が……!
ライアンくんは嬉しそうに羽織ると、フレッドさんに見える様にフードを見せる。
「凄いです! フレッドとお揃いです!」
「本当だ! 殿下、とてもよくお似合いですよ!」
「らいあんくん、にあってます!」
「かわいぃねぇ!」
「ふれっどさんと、おそろい……! とってもかわいい!」
サイラスさんとハルトたちも、ライアンくんを見て次々と褒めていく。
アーロさんとディーンさんも大変可愛らしい……、と深く頷いている。
だけど、肝心のフレッドさんからは感想が聞こえてこない。
こういう時、一番に喜ぶと思ってたんだけど……?
そう思い見て見ると、フレッドさんは目を見開きフルフルと体を震わせている。
「ふ、フレッド……?」
「あ……、お気に召さなかったでしょうか……?」
作ったアイラさんも不安気に声を掛けている。
すると、フレッドさんは首を横に振った。
「こ、光栄です……! 殿下が私と……、お揃い……」
どうやら感激のあまり言葉が出てこなかった様だ。それにアイラさんもホッとした様子。
実はこれ、オリビアさんがお願いして内緒で作ってもらったらしい。フレッドさんは嬉しすぎて耳も尻尾も出てしまっているんだけど……。
う~ん、やっぱりフレッドさんのもふもふはどこか違うんだよなぁ~。
お手入れを欠かさないと言っていたから、そのせいかな?
「これは是非、バージル陛下にもお披露目しないといけませんね!」
「え?」
キラキラと目を輝かせるフレッドさんとは対照的に、作ったアイラさんは陛下にお披露目と言う言葉を聞いて意識が遠のいている。
そ、そんな恐れ多い……、とブツブツ呟きながらもどこか嬉しそうだ。
「じゃあ、今度王都に行ったときに皆で着てみたらどうだ?」
トーマスさんの言葉にいち早く反応したのは、やはりオリビアさんとフレッドさん。
「それはいいわね!」
「こんなに可愛らしいのです! これも王都で流行るのでは?」
「ライアン殿下が着ているだけで、貴族のご婦人方には話題にはなるだろうよ」
「アイラちゃん、今から覚悟しといた方がいいんじゃない?」
そう言って皆でアイラさんを見ると、フレッドさんとサイラスさんの言葉にまたもや意識が飛びそうになっている。
だ、大丈夫かな……?
「あいらさん、しっかり!」
「あぃらしゃん、がんばってぇ!」
ハルトとユウマも、フラフラしてるアイラさんを心配そうに見つめ、倒れない様に支えている。
「あ、ありがとう……! が、頑張るわね……!」
もしこれが流行ったら、カーターさんのお店も今以上に繁盛するって事だよね?
それは良い事だな! 僕も応援しなきゃ!
……ん? でも王都に行ったとき、皆で着るって言ってたけど……。
もしかして、僕もこれを着るの……?
「にぃに~! ゆぅくんとおしょろぃ! いっちょにきよ~ね!」
「う、うん……! もちろんだよ!」
「やったぁ! ゆぅくん、うれち!」
可愛いユウマの言葉には逆らえず……。
僕は王都で、猫耳フードを被る事が決定したのであった……。
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