第207話 恐るべし、新メニュー
「うぅ~……、ねむ……」
今朝はいつもより早めに起床し、同じベッドでスヤスヤと眠るハルトとユウマ、ライアンくんの可愛い寝顔を眺めた後、三人を起こさない様にそ~っと部屋を出た。
「お、ユイトくん。おはよう!」
「ユイトくん、おはようございます」
「おはようございます……。皆さん、いっつもシャキッとしてて、尊敬します……」
ダイニングで布団を敷いて寝ているサイラスさんたちはもう皆起きていた。
僕に向ける、爽やかな笑顔が眩しい……。
「ハハ! ユイトくんはいつも寝癖がスゴイな!」
「今日もあちこち跳ねてますね……」
「うぅ~……、そんなにですか……?」
笑う四人と挨拶を交わし、僕はのそのそと洗面所へ。
「うぅ~……、つめたぃ~……」
この間まで丁度良い温度だったのに、もう水が冷たい……。
でもそのおかげで一気に目が覚めた。
お店のキッチンへと続く廊下を歩いていると、すでに店内には灯りが付いている。
「オリビアさん! おはようございます!」
扉を開けると、鼻を擽る美味しそうな匂いが充満している。
キッチンではオリビアさんがトマトソースとミートソースの仕込みの真っ最中。
「ユイトくん、おはよう!」
お店の仕込みの為、今朝はオリビアさんもいつもより早めに起床。
残っていた食材も昨日のバーベキューに余すことなく使ったので、今朝は買い出しが大変そうだ。
アーロさんが手伝うと言ってくれたので、素直に甘える事にした。
「ふふ、昨日は楽しかったわねぇ」
「はい! まさかコーディさんが失神するとは思いませんでしたけど……」
メフィストが初めてハイハイをした時、トーマスさんはテンションが上がったのかメフィストを抱っこするフレッドさんとコーディさんに駆け寄って、皆まとめて抱き締めていた。
特にトーマスさんに憧れているコーディさんは、顔がまっ赤になりそのままふらふらと気を失ってしまった。
慌てたトーマスさんに抱えられダイニングのソファーで横になっていたけど、目が覚めてからもまっ赤なままで、ハルトとユウマも心配して付きっきりだった。
「トーマスは焦ってたけど、ダリウスくんたちは普通だったわね……」
「きっと、いつもの事なんでしょうね……」
「可愛いけど、ちょっと心配になっちゃうわね……」
「はい……」
あの後、梟さんと妖精さんたちと一緒に森へと続く扉を使い、アドルフ以外のグレートウルフたちは森へと帰って行った。
レティちゃんはお腹がいっぱいで、ウトウト眠そうだったから丁度良かったんだけど……。
結局あの木は、今もフェアリー・リングの森へと繋がったあのままの状態で庭に存在している。
皆が解散した後、お隣のカーターさん一家にもオリビアさんが説明したんだけど、トーマスさんの家ならもう何が起きても驚かないと。誰にも言わないから安心して、と笑ってたそうだ。
あの人たちも、お人好しだよねぇ……。
「あ、そうだったわ! 今日はアイラちゃんがお店に来るから!」
「アイラさんですか? カーターさんと食べに来てくれるんですか?」
あの夫婦はラブラブだから目のやり場に困るんだよね。
あのお喋り好きのエリザさんでさえ、席を変えたいと言うくらいなんだから……。
「うふふ……! 頼んでた物が出来たんですって~!」
「頼んでた物……?」
「えぇ! ユイトくんの分もあるから、楽しみにしててちょうだいね!」
「は、はい……」
「あぁ~! 早くお昼にならないかしら~!」
オリビアさんは何やらご機嫌な様子……。
そんなに楽しみな物……? それって、一体……?
*****
「「「いらっしゃいませ(ましぇ)!」」」
開店と同時にハルトとユウマ、そしてレティちゃんがお客様をお出迎え。
今日も今日とて、冒険者さんや近所の方で店内はすぐに満席だ。
ユウマの将来の兄弟子さんたち(予定)も笑顔でご来店。
丁寧に席まで案内し、ゆぅくん、うれち! と笑顔を振りまいている。
もう少ししたら、トーマスさんもメフィストのミルクをあげ終え手伝いに来てくれる。
ライアンくんたちはダイニングでお勉強中。
王子様は覚える事がいっぱいで大変そうだ……。
それを教えるフレッドさんも、尊敬しちゃうよ……。
「おきゃくさま、おひやを、どうぞ!」
「おきゃくちゃま、おてふき! どぅじょ!」
「ありがとう~!」
「店員さん、今日のオススメはなぁに?」
お客様たちも慣れたもので、ハルトとユウマにおススメを訊いている。
「きょうは、しゅうがわりめにゅーが、あります!」
「にぃにがね、かんがぇてりゅの~!」
「そうなの? 週替わりメニューかぁ……。えぇ~と、数量限定……“おむらいす”……?」
そう! 今週はローレンス商会さんから貰った試供品のお米を使って、一日十食限定のオムライスを販売する事にした。
評判が良ければメニューに取り入れて、お米の大量注文も出来るし!
……まぁ、それは建前で、本当は僕たちがお米を日常的に食べたかったからなんだけど!
「おむらいす! とっても、おいしいです!」
「ゆぅくんもねぇ、だいしゅきなの!」
「おむらいす、わたしもすき……!」
オムライスの味を思い出しているのか、うっとりした表情でオムライスをお勧めしているハルトとユウマ。
レティちゃんもまたたべたい……、と呟いている。
お客様も三人がそこまで言うなら、と早速注文が。
ありがとうございます!
チキンライスにふわふわの卵をのせて、仕上げにトマトソース!
チーズはトッピングするか選べるんだけど、今回の注文はチーズ有りで。
「はい! お待たせ致しました! こちらが週替わりメニューのオムライスです!」
僕が席まで運ぶと、お客様たちの顔付きが戸惑いに変わる。
「これ、オムレツとは……、違うの……?」
あ、初めて見るとそうなっちゃうか……。
「このオムレツの下に、コメと言う食材を使用しています! とっても美味しいので、この卵と一緒に召し上がってください!」
僕が笑顔で言うと、お客様は戸惑いながらもスプーンを手に取った。
そしてふわふわ卵にスプーンを差し入れると、中からはトマトソースで炒めたお米が顔を覗かせる。
鶏肉も野菜もたっぷりのチキンライスだ。
「わぁ……! これがコメ……?」
「はい! そのままパクっと!」
「う、うん……!」
お客様は初めて見るお米に戸惑いながらも、オムライスをパクリ!
もぐもぐとよく噛み、味わっている様だ。
お連れ様は向かいの席でドキドキとその様子を観察中……。
すると、見る見るうちに顔つきが変わり……。
「何コレ!? めっちゃくちゃ美味しんだけど!?」
思わず大声を出してしまうくらい美味しかったらしい。
ありがとうございます……!
「「「やったぁ~~!」」」
ハルトとユウマ、レティちゃんもその様子を見守っていたので、美味しいと言われ嬉しそうにはしゃいでいる。
「こ、コレ! 食べてみて! すっごく好きな味~!!」
「え? ホント? じゃあ、一口貰うわね……?」
そう言ってお連れ様にも一口勧めているお客様。
ハルトたち三人は、そのやり取りを見てどこか満足気だ。
「ん~~~!! おぃひぃ~~~っ!!」
「でしょでしょ!?」
お連れ様も口を押さえ思わず、と言った風に声を出している。
そのお客様たちのおかげか、その後オムライスはものの数分で完売してしまった……!
恐るべし、オムライスの力……!
これはクリスさんに良い報告が出来そうだ……!
クリスさんはまだ来る予定ではないけど、僕は早速、お米の大量発注を心に決めた……!
これでいつでも、お米が食べられるぞ~!!
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