第206話 可愛いお裾分け
「はぁ~い! お待たせしました! これがキミたちのお菓子だよ~!」
「おぉ~! スゲェな!」
「美味しそう~!」
妖精さんたちにテーブルに集まってもらい、朝から皆で頑張って用意した蒸しパンやバタークッキー、プリン、シュークリームにドーナツ、ふわふわなパンケーキにモチ粉で作ったお団子を並べていく。
全部、妖精さんたち用にミニサイズ。
もちろん、ウェンディちゃんの好きなチップスも忘れずに。
今回は
所狭しと並んだお菓子を見て、ウェンディちゃんやノア、妖精さんたちのテンションが一気に高くなるのが分かった。
皆でパチパチパチと手を叩いて飛んだり跳ねたり大喜び。
梟さんは僕の傍で目を瞑り、ジッとしているんだけど……。
寝てないよね……?
トーマスさんが森の中にある魔法陣を全て見つける為に、妖精さんたちに協力してもらおうと持って来たお菓子の味が忘れられずにいたらしい。
そこまで喜んでくれると、僕たちも嬉しくなっちゃうな。
「「「可愛いな……」」」
見守っているイドリスさんたちのテンションも心なしか高い気がする。
特にダリウスさんとルーナさんは目が蕩けている……。
ダリウスさんに至っては、最初に手の平に乗った妖精さんとすっかり仲良くなったみたいだ。
「のぁちゃん、ぷりん、おいしいです!」
「こぇねぇ、みんなでちゅくったの! どぅじょ!」
ハルトとユウマも、自分たちの大好きなプリンをノアに勧めている。
ノアはぷるぷると揺れるプリンに興味津々。
小さいスプーンが無いため、プリンはハルトとユウマ、レティちゃんがスプーンで小さく掬ってあげていく事にしている。
「ウェンディはこれが食べたいのですか?」
「(コクコク)」
ウェンディちゃんは大好きなチップスの前に陣取り、いつもと違う種類のチップスに目が釘付け。
スイートパタータもキュルビスも、ほんのり甘味があって美味しいはず。
他の妖精さんたちも思い思いに興味のあるお菓子の前に飛んでいき、これはなぁに? と言う様に僕たちを見上げている。
その仕草に僕たちは全員もれなくデレデレだ。
「今日はたくさん食べてね! さ、どうぞ! 召し上がれ!」
「「めしあがれ!!」」
僕たちがそう言うと、ウェンディちゃんもノアもいただきます、と両手を合わせている。
他の妖精さんたちは皆、二人の真似をしていただきますのポーズ。
各々食べたいお菓子の前に飛んでいき、小さな可愛い手でドーナツやシュークリームを掴んでいる。
なるべく小さく作ったけど、まだまだ大きかったみたいだ。
「のぁちゃん! あ~ん!」
ユウマはノアにプリンを食べさせているところ。
小さく掬っても、ノアには十分に大きいんだけど。
「のぁちゃん、おぃち?」
「(コクコク)」
「ほんちょ? ゆぅくん、うれち!」
ノアは小さな口いっぱいにプリンを頬張り、おいしい! と言う様に両手を頬にあてて満面の笑みで味わっている。
ユウマもにこにこ嬉しそうだ。
「ようせいさん、おいしいですか?」
「(コクコク)」
「あわてなくても、いっぱいあるからね」
「(コクコク)」
ハルトとレティちゃんも、他の妖精さんたちにプリンをあげている最中。
皆、可愛い口を大きく開けて嬉しそうに頬張っている。
メフィストもトーマスさんの膝に座り、妖精さんたちが食べている姿を楽しそうに眺めている。
「めふぃくんも、あげてみる?」
「あぅ~?」
ハルトはメフィストに小さな蒸しパンを手渡し、妖精さんにあげようとしているみたい。
蒸しパンを持ったメフィストの前に、一人の可愛い妖精さんがふわりと舞い降りる。
他の子たちよりも背が高く、ノアよりもお姉さんの様だ。
どうやらハルトの会話を聞いていたらしい。
「めふぃくん、どうぞ、って」
「あ~ぃ!」
メフィストが蒸しパンを妖精さんの方に差し出すと、その妖精さんはにこりと笑みを浮かべ、ありがとうと言う様にメフィストの頬にちゅっとキスを贈る。
「きゃ~ぃ!」
「めふぃくん、よかったねぇ!」
妖精さんはにこにこと笑みを浮かべながら、手渡された蒸しパンを小さく千切り美味しそうに食べている。
心温まる光景に、皆の様子を見守っていたトーマスさんとオリビアさんはいつも以上に顔が緩んでいる。
「キュ~ン……」
僕たちがノアたちにお菓子をあげていると、悲し気な鳴き声と共に、僕のズボンの裾を引っ張る感触。
振り向くとアドルフたちがお行儀よくお座り中。
「ん? もしかして……。アドルフたちも、食べたいの?」
「ワフッ!」
さっきあげた分で、アドルフたちのおやつにと準備していたささみのジャーキーや野菜たっぷりのパンケーキ、クッキーは食べきってしまったんだけど……。
「クゥ~ン……」
「キュ~ン……」
「うぅ……」
まだ食べたいとウルウルと訴える目には結局勝てず……。
「ちょっと時間掛かるけど……、良い子で待てる?」
「ワフッ!」
結局こうなるんだよなぁ~……。
アドルフは僕の言葉にパッと立ち上がり、尻尾をフリフリ。
その後ろにはアドルフの弟・妹のグレートウルフたちが勢揃い。
皆で尻尾をフリフリ……。圧巻だ……。
だけど、どうしようかなぁ~……、お菓子用の材料はほとんど使っちゃったんだよなぁ……。
残ってるのは野菜が少しと炊いたご飯……、それで何か作れるかな……?
そう思っていると、ノアがふわふわと僕の前を通り過ぎ、アドルフの目と鼻の先まで飛んでいく。
どうしたんだろう?
そう思いノアを目で追うと、両手に抱えた小さな蒸しパンをアドルフに差し出した。
「クゥ~ン……?」
アドルフも突然目の前に来たノアに首を傾げ、困惑している様子。
それでもノアは蒸しパンをアドルフの前にグイグイと差し出している。
もしかして……。
「ノア、それアドルフにあげたいの?」
「(コクコク)」
ノアは僕の言葉に一生懸命頷いている。
「ユイトさん、ウェンディたちもあげたいらしいのですが……」
ライアンくんの声に振り返ると、ウェンディちゃんたちが自分たち用のミニサイズのお菓子を持ってにこにこしている。
「え? それ、アドルフたちにあげてもいいの?」
「(コクコク)」
ウェンディちゃんたちも僕の言葉にコクコクと頷く。
「皆で食べた方が嬉しいし、楽しいからと言ってます」
「そうなの……? 皆、優しいね……!」
お菓子を欲しそうにしていたアドルフたちに、自分たちが食べていたお菓子のおすそ分けをしたかったらしい。
食べきれなかったら妖精さんたちのお土産にしようかと思っていたけど、アドルフたちに分けたいなんて、なんて良い子たちなんだ……。
そしてノアがもう一度蒸しパンを差し出すと、アドルフはそれをそっと口を開けて受け取る。
アドルフにとったら、ほんの一口にも満たない小さな小さな蒸しパン。
ノアから受け取ったそれを、大事に大事に味わっている様に見える。
「……ワフッ!」
ゴクリと飲み込むと、まるでありがとうと伝える様にノアを鼻先でつついている。
ノアも楽しそうに羽をパタパタとはためかせて、アドルフの鼻先にしがみ付き、嬉しそうにはしゃいでいる。
ノアに続き、他の子たちもグレートウルフの前にふわふわと飛んでいき、蒸しパンやクッキーを差し出している。
それを嬉しそうに受け取るグレートウルフたち。
言葉は通じないけど、穏やかな空気が流れている。
まるで絵本の中の様な、現実とは思えない不思議な光景だ。
トーマスさんもオリビアさんも皆、その光景を微笑みながら黙って見守っていた。
*****
「いやぁ、何と言うか……。今日は色々と凄かったな……」
ダリウスさんの言葉に、ケイレブさんとアーチーさんがうんうんと頷いている。
ケイレブさんと同じ新人冒険者パーティのオーウェンさんとワイアットさんも、この国の第三王子のライアンくんがいて緊張していた様だけど、最後には近衛騎士のサイラスさんも加えて一緒に楽しそうに会話しながら料理を食べていたし。
フレッドさんもどういう経緯があったのかは分からないけど、いつもは隠しているふわふわの耳と尻尾を出してコーディさんと一緒にメフィストをかまっていた。
正直、とっても羨ましい……。
当のメフィストはお二人のふわふわの尻尾に大興奮し、トーマスさんが抑えるのに必死の様子だった。
今晩はぐっすり寝そうだな……。
ハルトは冒険者の人たちがたくさん来ているという事で、食後は剣の稽古をつけてもらっている。
その真剣な表情に、教えているアーロさんとディーンさん、ブレンダさんにブラントさんも真剣そのもの。
あそこだけ熱気が違う気がする……。
イドリスさんとギデオンさんのお二人は、疲れたと言って芝生にごろりと横になりお昼寝中。
そのお腹でぴょんぴょんと楽しそうに飛び跳ねる妖精さんたち。
レティちゃんはオリビアさんと一緒に、ケイティさんとモリーさん、ルーナさんと五人で、妖精さんたちを眺めながらお喋りに花を咲かせている。
そして、僕はと言うと……、
「にぃに~! こぇ、おぃちぃねぇ!」
「ホント? よかったぁ~!」
ユウマと一緒にアドルフたちに追加で作った砂糖不使用のスイートポテト……、ならぬ
それだけだと足りないかもと思い、お米でささみと野菜を入れた雑炊も作ってみた。
皆、ガフガフと凄い勢いで食べてくれているので、どうやら気に入ってもらえた様だ。
ノアは僕の肩に、そして梟さんは僕の隣にピッタリと寄り添い、ユウマと一緒にスイートパタータを美味しそうに食べている。
「ユイトくん……、今日はごめんね……」
アドルフたちが食べるのをほのぼのと眺めていると、キースさんが肩を落として申し訳なさそうに謝ってくる。
きっと気にしているだろうなとは思っていたけど。
「大丈夫ですよ? ユウマもアドルフたちに会えて嬉しかったもんね?」
「うん! ゆぅくんねぇ、あどりゅふも、きーしゅしゃんも、みんなちゅきなの! あぇてうれち!」
「ゆ、ユウマくん……!」
ユウマの嘘のない言葉に、キースさんは目をウルウルとさせながらホッとした様子。
こうやってのんびり過ごせるのも、皆が守ってくれたおかげだ。
今日は転移やら何やらで慌ただしかったけど、振り返ってみれば全部楽しかったしなぁ。
ふとキースさんを見ると、ユウマにどぅじょ、とおやつを分けてもらい嬉しそうに笑みを浮かべている。
初めて会った日は、顔を見せない様にフードを深く被っていたっけ……。
こんな風に一緒に過ごせるなんて、思ってもみなかった。
「キースさん」
「ん? どうしたの……?」
ユウマの頭を撫でながら、僕に優しく微笑むキースさん。
赤い瞳はキラキラと光に反射し、宝石みたいだ。
「またこうやって、皆で集まりましょうね!」
僕の言葉に、一瞬驚いた表情を浮かべるけど、それはすぐに笑みに変わる。
「うん……。ありがとう……!」
キースさんのその笑顔に、僕も釣られて笑顔になる。
「お~い、ユイト! 助けてくれぇ~!」
僕を呼ぶ声に振り向くと、トーマスさんが身を乗り出すメフィストに手こずっていた。
フレッドさんとコーディさんは楽しそうにメフィストを尻尾で誘っている。
すると……、
「きゃ~ぃ!」
「「「「えっ!?」」」」
トーマスさんの腕をすり抜け、メフィストはそのふわふわの尻尾に向かってゆっくりと這っていく。
「あっ!」
「めふぃくんが!」
「「「「はいはいしてる……!」」」」
ハルトとユウマ、ライアンくんにレティちゃんの驚きを含んだ声が重なり合う。
その声に、お昼寝中のお二人を除く全員がメフィストのはいはいに全神経を集中させている。
トーマスさんなんか、メフィストを抱えていた腕の形のまま固まって動かない。
オリビアさんは口を開けたままピクリとも動かない。
あれはあれで、少し心配になるんだけど……。
そして皆の注目を浴びながらも、ゆっくりとはいはいしながら少しずつ少しずつ歩みを進めていくメフィスト。
「あ~ぷ、あ~ぷ!」
その可愛い掛け声に、妖精さんたちもふわふわと舞いながらメフィストの様子を眺めている。
そして大変なのがもう二人……。
「メフィストくん……! もう少しです……!」
「あと少しでゴールですよ……!」
尻尾をフリフリしながらも、フレッドさんとコーディさんは自分たちの下へはいはいで来ようとしているメフィストを必死に応援している。
「あぅ、あ~ぅ……」
少し疲れて来たのか、はいはいで進むペースが落ちるものの、視線はふわふわの尻尾に釘付けだ。
そして……、
「あ~ぃ!」
その小さな手がフレッドさんの尻尾にぽふんと触れた瞬間……、
「「「「やったぁ~~~っ!!」」」」
メフィストを抱え、フレッドさんとコーディさんは耳を後ろに倒し、尻尾を思いっきり振って喜びを隠しきれていない。
トーマスさんもオリビアさんも駆け寄り、メフィストを抱えるお二人ごと抱き締める。
冒険者の先輩・トーマスさんに憧れているコーディさんは、抱き締められ瀕死の状態だ。
「……ん?」
すると、ふわりふわりと空から何かが降ってくる。
それを手の平に乗せて確認すると、それはキレイな色とりどりの鮮やかな花びら……。
「えっ!? 何で……?」
この庭にはこんな色の花は咲いていないのに……?
そう不思議に思い空を見ると、ノアを始め、妖精さんたちが空でくるくると舞いながら楽しそうに踊っている。
その小さな手を叩く度に、空からひらりひらりと花びらがシャワーの様に舞い降りて……。
「しゅごぃねぇ!」
「きれいです!」
その息を呑む光景に、僕たちは空を見上げながら感嘆の吐息を洩らす。
もしかして、メフィストのはいはいをお祝いして……?
そして……、
「お、おい……! コーディ……!? 大丈夫か……!?」
「コーディくん……!? しっかりして……!!」
トーマスさんとオリビアさんの焦った声にそちらを向くと、憧れのトーマスさんに抱き締められて限界だったのであろう、顔をまっ赤にさせふらふらのコーディさんが……。
「あぁ~……、やっちまったなぁ……」
「あれはキャパオーバーだな……」
「今日は会えるって浮かれてたもんねぇ……」
「でもまぁ、幸せそうだし……」
「「「「いいんじゃねぇ(ない)?」」」」
同じパーティのダリウスさん、ジュリアンさん、モリーさんにルーナさんがやれやれと言った表情で肩を竦めている。
「「コーディ~~っ!!」」
「あ~ぶぅ~!」
ライアンくんとレティちゃんの快気祝い&冒険者さんたちの慰労会? は、ちょっとしたハプニングもありつつ、概ね大成功で幕を閉じたのだった……。
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