第209話 待ち望んだ海の物?
「ハルト、ユウマ、レティ、くれぐれも知らない人にはついて行かない様に」
「「「はぁ~い」」」
「メフィスト、ちゃんとお兄ちゃん達の言う事を聞いて、良い子にしてるんだぞ?」
「あ~ぃ!」
「ライアン殿下、すまないがハルトたちをよろしく頼むよ。ウェンディも、何かあったらすぐにライアン殿下に知らせてくれるかい?」
「はい! お任せください!」
「(コクコク)」
バージルさんたちの指名依頼が終わってから一週間。
トーマスさんは家でのんびりしたそうだったけど、冒険者ギルドの新人冒険者訓練制度でトーマスさんに指導してほしいと言うパーティがいたらしい。
トーマスさんはどうしようかと悩んでいたんだけど、新人冒険者に教えると知り、ハルトとユウマがおじぃちゃん、かっこいい! と騒ぎ出した為、トーマスさんはその新人パーティの初討伐に付いて行く事になった。
「ユイト、オリビア、子供たちを頼むぞ?」
「ふふ、心配性ねぇ。フレッドくんたちもいるし大丈夫よ!」
「トーマスさんも気を付けてくださいね?」
今日の討伐は、乗合い馬車に乗ってから少し離れた森まで行くらしい。
その人たちの分もお弁当かせめてハンバーガーを作ろうと思ったんだけど、今日はその新人パーティもいるからこそ干し肉と黒パンなんだって。
最初にお弁当に慣れると、遠征する時にツラいらしい。
まぁ、アレクさんも王都から護衛してる間、干し肉と黒パンって言ってたもんな……。
「あぁ、遅くても夕方には帰ると思うから。サイラス、フレッド、アーロにディーンも。すまないがよろしく頼むよ」
「畏まりました!」
「我々にお任せください!」
「じゃあ、行ってくるよ」
「「「いってらっしゃ~い!」」」
皆に見送られ、トーマスさんは一週間振りの仕事へと出掛けて行った。
「さぁ~、今日はトーマスがいないから、皆でメフィストちゃんを見てあげてね?」
「「「「はぁ~い!」」」」
「あぃ~!」
僕とオリビアさんは仕込みがある為、ここで皆と別れお店のキッチンへ。
ハルトたちの事は、フレッドさんたちが見ていてくれる事になっている。メフィストもはいはいが出来るようになったからなぁ~。
何か仕出かさなければいいんだけど……。
*****
今日はトーマスさんもいないし、ハルトたちもお店の手伝いはお休み。
オリビアさんと二人で営業だ。
「「いらっしゃいませ!」」
開店してすぐにお客様がご来店。
「……あっ!」
扉から顔を覗かせた人物に、僕は慌てて駆け寄った。
「お姉さん、こんにちは! 来てくれたんですね!」
「あぁ、約束しただろ?」
「来るの遅くなっちゃってごめんね~?」
来てくれたのは、アレクさんと出掛けた時に乗合馬車で一緒になった冒険者のお姉さんたちだ。
あれから結構経ってたし、王都に帰っちゃったのかなと思っていた。
「お? この子がお前らの言ってた子か?」
「へぇ~! キミの髪、珍しいね?」
そう言って声を掛けてきたのは、お姉さんたちの後ろから入って来た大柄の男性と、キレイな三つ編みを前に垂らしている……、お兄さん……?
「こら、二人とも! いきなり失礼だろう!」
「あ、すまん!」
「ごめんね? 気を悪くした?」
「いえいえ、大丈夫ですよ? 皆さんこちらのお席へどうぞ!」
「ありがとう」
「お腹空いちゃったぁ~!」
テーブルへ案内すると、お姉さんたちは早速メニューを見始める。
三つ編みのお兄さんは、店内を流れる音に合わせて体が揺れているな。
「あのお客様たち、ユイトくんの知り合いなの?」
お冷を用意していると、オリビアさんがこそっと僕に訊ねてきた。
「あ、あのお姉さんたちですか? アレクさんと出掛けた時に、乗合馬車で一緒になったんです。元々アレクさんの知り合いの方だったみたいで……」
ふふ、お姉さんたちに揶揄われてた時のアレクさん、拗ねたり笑ったり表情がコロコロ変わって可愛かったなぁ~。
ハァ……、また会いたくなってしまった……。
「あら、そうなの? ……て、事は、王都からこっちに来てるのかしら?」
「そうみたいです。今回はたまたまこっちにいた時に、招集がかかったって言ってたので……」
あのお姉さんたちも、森の魔法陣の見張りをしていたと思うんだよなぁ……。
「あらあら……。じゃあ、あの子たちも森の見張りをしてたのかしら……?」
「たぶん、そうだと思うんですけど……」
オリビアさんも考えは同じだったようで、大変だったわねぇ、と頷いていた。
「皆さん、お冷をどうぞ」
「ありがとう、頂くよ」
「ねぇねぇ、ユイトくん……、だったよね?」
「はい、そうです。覚えててくださったんですね!」
自己紹介はしてなかった筈なんだけど、アレクさんが名前を呼んでいた時に覚えててくれたのかも。
「アレクがあれだけ嬉しそうにしてる相手だよ~? 強烈過ぎて……」
「そうだな! 私たちも同じ馬車に乗り合わせた時は、何かの間違いだと思ったからな」
「そんなにですか?」
「「そんなにだ(よ)!」」
声を大にして言うお姉さんたちに、僕は思わず笑ってしまう。
いいなぁ。王都でのアレクさんの事、色々知ってるんだろうな~。
「あ、そのネックレス~! もしかして~?」
お姉さんが僕の首に掛けてあるネックレスを見て、にやにやと顔を緩めだした。
「え? あ、えへへ……。アレクさんに貰ったんです……」
「「「「おぉ~……!」」」」
照れ臭いけど、正直に言った方がいいもんね。
僕の返事に、皆さんは驚きと、あのアレクが……! と感慨深い様子でネックレスを眺めていた。
さすがにそこまでジッと見られると恥ずかしいな……。
「えぇ~と……、ご注文はどうしましょうか?」
「そうだなぁ~! この数量限定の、おむらいす……? コレのチーズ有りを頼もうか!」
このハキハキとした口調のお姉さんはリンダさん。
ちょっとブレンダさんと雰囲気が似ていて、話しやすいかも。
「限定って言葉に惹かれるよね~! 私も頼みたいんだけど、同じグループで注文しても、大丈夫かなぁ~……?」
人懐っこい雰囲気のこのお姉さんは、ヴァネッサさん。
表情がくるくる変わって可愛らしい。
「はい、大丈夫ですよ! 気に入ってもらえたら、お店の定番メニューにしようかと思ってるので!」
確かに、限定って書かれてると気になるよね。
「お前らもそれを頼むのか? じゃあ、俺はこの豚の……、ジンジャー焼き? とたまごサンドを頼もう」
大柄なお兄さんの名前はメイナードさん。熊の獣人さんらしく、丸い耳がとっても可愛らしい……!
剣士らしく、今は椅子に立て掛けているけど、大きな剣と盾を背中に担いでいた。こんなに大きなの、重くないのかな……?
雰囲気も名前も、ちょっとバーナードさんに似ている……、かも……。
「じゃあボクは……、あ! 懐かしいな~! ホッペルポッペル! これと……、フライドチキンにしようかな!」
そして三つ編みのお兄さん? の名前はマシューさん。
男性だけど、とってもキレイな人だから最初はちょっとどっちかなと考えてしまった。
「はい、かしこまりました! 少々お待ちくださいませ!」
「「お願いしま~す!!」」
キッチンへ戻り、早速調理の準備。
調味料が手に入ってから、お店のメニューも色々と試行錯誤している最中。
オムレツとハンバーグ、パスタにサンドイッチとピザは定番にして、後のメニューは週替わりで色々試している。
パスタもピザも一つは週替わりで変えるようにしてるんだけど、どれも概ね好評だ。
そしてあの三つ編みのお兄さんが注文してくれたのは、家庭料理の『ホッペルポッペル』。
僕がここに来てからオリビアさんが教えてくれた料理の一つで、
シンプルだけどすごく美味しい。
お姉さんたちがオムライスを頼んだから、卵料理が被っちゃうなと思って注文するか聞いたんだけど、久し振りに食べたくなったんだって。
こうして僕が調理している間にも、お客様が次々と御来店。
今日はオリビアさんが接客もこなしつつ、揚げ物やサラダ、サンドイッチを作って提供している。
僕はしばらく調理に専念する事にして、注文されたメニューを同時に作っていく。
最初は難しかったけど、今は少しだけ早くなったかな?
「お待たせ致しました! オムライスご注文のお客様!」
「「はい!」」
「わぁ~! 結構ボリュームあるね~!」
「これは美味そうだな! 早く食べよう!」
オリビアさんがオムライスをテーブルに運ぶと、お姉さんたちの歓声が。
お連れ様の男性陣とも仲良く分け合いながら食べるみたいだ。
そして四人は同時にオムライスを口に運び……、
「「「「うっっっま……!」」」」
「何コレ~! めっちゃ美味しいんですけど~?」
「オムレツとはまた違うな!」
「この中の粒、麦とはまた違う……? しかしこれは美味いな!」
「チーズの掛かったとこも美味しい!」
うんうんとお互いの顔を見合わせながら、最後に僕に向かって親指を上に向けて美味しいのサイン。
満足頂けた様で一安心です!
そうこうしている合間に店内は満席で、外では二組待ちの状態。今日も事前に断り、相席をお願いしている状態だ。ここまで来てくれると、もう開き直るしかないかと思い始めた。
求人はまだ応募がないけど、良い人が来てくれるといいな!
「なんかさぁ~……、すっごく人気のお店なんだね……?」
「なぁ、もう出た方が良くないか……?」
「俺はもう少し食いたいんだが……」
「分かる……。だけど、あれだけ並んでるとね……」
「どうかされましたか?」
「「「「な、なんでも……!」」」」
お姉さんたちが何かヒソヒソと言い合っていたので、何かあったのかと思い声を掛けたんだけど……。思いの外、驚かせてしまった様だ……。
「ありがとうございました! お仕事頑張ってくださいね!」
「あぁ、ありがとう! 行ってくるよ!」
いつもお持ち帰り用のハンバーガーを注文してくれる警備兵の人たちに、今日はメフィストはいないのかとガッカリされてしまった。
待つ間にメフィストを眺めるのが癒しだったらしい。
ウチの子はここでも人気なのかと、ちょっと自慢したくなってしまう。
「あの子がアレクの大事な子か……。あぁいう子が好みだったんだな……」
「笑顔が可愛らしいね」
「馬車でもずっと可愛かったんだよ~!」
「私たちの周りにはいないタイプだな」
「「「確かに……」」」
また何かヒソヒソ話してる……。大事な話かな……?
今度はそっとしておこう……。
*****
「「ありがとうございました~!」」
最後のお客様を見送り、漸く閉店の時間。
お姉さんたちも二度目の注文をして満足そうにお腹を擦り、王都に帰るまでにもう一度来ると言っていた。
気に入ってくれたみたいで嬉しいな!
今日はこのまま仕込みに入れるぞ……、と、思いきや。
閉店間際、ローレンス商会のクリスさんがお米や小麦粉の契約書を持って来てくれた。
しかも、話をしていたケルプを持って……!
「連絡も無しに伺って申し訳ありません。すぐにでも、と思いまして……」
相変わらず表情は動かないけど、声の感じからは申し訳なさそうなのが伝わってくる。
気にしないでください! 僕も待ってましたからね!
「いえ、大丈夫です! えっと、それでその……、ケルプっていうのは……」
「あぁ、ケルプですね。ユイトさんの求めている物かは分かりませんが、今回お持ちしました」
僕がよっぽどソワソワしていたのか、クリスさんは契約書よりも先に包みを開け、ご覧ください、と言ってテーブルに取り出した。
海藻……、天日干し……、黒っぽくて、硬い……。
それは紛れもなく……!
「こ、昆布……っ!!」
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