第151話 星に願いを
「にぃに~! おきてぇ~!」
「んぶぅっ……」
僕の顔をぺたぺたと触る小さな掌の感触で僕は目を覚ます。
うっすらと目を開けると、暗闇の中でハルトとユウマが僕の顔を覗いているのが分かった……。
「なぁに~? まだ暗いよ~……?」
まだ起きるまでだいぶ時間はありそうだけど……。
「おにぃちゃん、おそと、すごいです!」
「そと……?」
「にぃに、はやく~!」
「おきる、おきるからぁ~!」
ハルトとユウマに急かされ、僕はポヤポヤした頭のまま二人に手を引かれ庭に向かう。
既にオリビアさんとライアンくんも外にいて、皆の歓声が聞こえた。
あ、なんか隣のカーターさんたちの声も聞こえるなぁ……。
何があるんだろ……?
「あ、ユイトくん! ほらほら早く! 凄いわよ~! 上見て!」
「うえ……?」
オリビアさんの興奮した声に促され、僕はハルトとユウマと手を繋いだまま空を見上げた。
「うわぁ~……! スゴイ……!」
見上げた夜空には眩い光を放つ星が幾千も散りばめられていて、その光景は昔、ニュースで見た事があった。
「流星群だ……!」
眺めている間にも次々と流れ星が現れ、その度に思わず声が漏れる。
「ユウマ、抱っこしてあげる。こっちおいで」
「ん、ありぁと!」
少しでも近いようにと抱っこしてみたけど、二人同時にはムリだなぁ。
すると、アーロさんがこちらに駆け寄ってきた。
「ハルトくんは私が抱えましょう」
「いいんですか?」
「えぇ、ハルトくんこちらへ」
「はい! ありがとう、ございます!」
ハルトは稽古をつけてくれているアーロさんに少し緊張しているみたいだけど、それでも星の誘惑には勝てないようで大人しく抱えられている。
「こんなにキレイに見えるんですね……。流れ星なんて、久し振りに見たかも……」
「この時期はよく見えるんですよ。今夜は雲もないし。見張りだというのに思わずサイラスたちを起こしてしまいました」
「これは誰かに教えたくなりますよね。そう言えば、流れ星に三回願い事を言うと願いが叶うって本当でしょうか……」
「そうなのですか? 面白そうですね、皆でやってみましょう」
そう言うと、アーロさんはディーンさんたちの元へ行き説明し始めた。
ユウマは僕の腕の中で一生懸命呟いているけど、なかなか上手くいかないらしい。
どうちてぇ~、なんて言いながら必死に流れ星を探している。
「ユウマは何お願いするの?」
「ゆぅくんねぇ、まいしゅいっぱぃたべちゃぃって! あと、おともらちいっぱぃちゅくるの!」
「そうなの? じゃあにぃにが代わりにマイスの事お願いしてあげるよ。ユウマはお友達の事、お願いしてみたら?」
「いぃの~? ゆぅくん、がんばりゅね!」
「ふふ、頑張って!」
可愛いお願い事を一生懸命呟くユウマに、どうかたくさん友達が出来ますように。
稽古を頑張るハルトにも、素敵な出会いがたくさんありますように。
トーマスさんとオリビアさんも、どうかいつまでも仲良く過ごせますように。
なんかお願い事ばっかりになっちゃったなぁ……。
でもこんな事滅多にないし、たまにはいっか!
キラキラと輝く星を眺めながら、ふとアレクさんもこの空を見ているかなぁ、なんて考えてしまう。
どうかアレクさんともう一度、話せるチャンスがありますように……。
僕は一際輝く流れ星を見ながら、心の中でそっと呟いた。
*****
「あぁ~! まぃしゅ! どうちてぇ~!?」
朝食の時間、食卓に並ぶのはユウマの好きな
パン屋のジョナスさんのお店でも、買い出しとは別に朝食用のマイスの入ったパンを購入した。
「あら! 早速ユウマちゃんのお願い事、叶っちゃったわねぇ~!」
「ゆぅくん、よかったね!」
「うん! しゅごぃねぇ! ゆぅくんうれち!」
にこにこ顔で嬉しそうに椅子に座ろうとするユウマを、後ろからひょいと抱えて僕の隣に座らせる。
「今日はいただきますって、ユウマが言ってくれる?」
「ゆぅくん? いぃの~?」
いつもはご飯を作るオリビアさんか僕なんだけど、どうせなら今日はユウマの号令に合わせてみよう。
「いいわよ~! ほら、ユウマちゃん。ご飯冷めちゃうわよ?」
オリビアさんも楽しそうに笑う。
ユウマは少しもじもじしながら、小さな両手を合わせた。
「まぃしゅいっぱぃ! うれちぃでしゅ! いたらきましゅ!」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
ハルトはユウマと一緒ににこにこしながら食べているけど、オリビアさんとフレッドさんはユウマの可愛さを噛み締める様に動かない。
フレッドさんが先に食べないと、いつまで経ってもライアンくんが食べれないんだけどなぁ……。
ライアンくんの悲しそうな視線にようやく気付いたのか、その後フレッドさんは何度も頭を下げていた。
「「いらっしゃいませ!」」
僕の瞼もキレイに治り、いつも通り営業に戻った。
どうやら僕は風邪を引いた事になっていたみたいで、近所に住むお客様たちも心配したのよ、なんて声を掛けてくれる。
まさか酷い顔をしていたから休んだなんて、言えないもんなぁ……。
そう思いながら調理していると、ご婦人たちの楽しそうな会話が聞こえてくる。
「そうそう、昨日の星空! キレイだったわねぇ! 年甲斐にもなく旦那と一緒にはしゃいじゃって……! 庭で星を眺めながら、二人でお酒飲んじゃったわ!」
「あら、いいじゃない! うちなんてずっと寝てたわよ~? 毎年の事だけど、娘も呆れちゃって……。オリビアさんとユイトくんは見たかしら?」
お父さんも大変だなぁ、なんて思っていると、オリビアさんと僕にも話が飛んでくる。
「まぁまぁ。旦那さん、お仕事頑張ってるじゃない! だけど昨日のは凄かったわねぇ~! 私たちも皆で庭に出て眺めてたの。ユウマちゃんたら、星に願いを三回唱えたら叶うって聞いて、マイスをいっぱい食べたいって一生懸命言ってるのよ~!」
「「あら、可愛い~~!!」」
ユウマはどこに行っても可愛がられるな……、なんて、兄としてかなり鼻が高い……。
「ユイトくんもお願い事したの?」
「え、僕ですか? いっぱいしましたよ? ハルトとユウマに友達が出来るようにと、トーマスさんとオリビアさんがずっと仲良く過ごせますようにって」
「「「可愛い~~!!!」」」
「えぇ~?」
ハルトとユウマは分かるけど、オリビアさんたちの可愛いの基準が未だに分からないなぁ。
そんな僕を置いてけぼりにして、オリビアさんたちはきゃいきゃいとお喋りを続けている。
すると、店の扉が開きチリンと音が鳴る。
「「いらっしゃいませ!」」
そこには初めて見るお客様。
冒険者かな? ローブを着ているけど、背が小さいからブカブカだ。
ローブと同じく、ブカブカでサイズの合っていない魔法使いの様な帽子を被っているから分からないけど、見た感じ……、僕と同い年くらいかな?
「……あら! ステラちゃん!?」
すると、オリビアさんが声を上げて驚いている。
ステラちゃんって、もしかして……!
オリビアさんはキッチンから出ていくと、その子の方に向かって駆け寄った。
その子も口元に笑みを浮かべているのが分かる。
「師匠~! お久し振りですぅ~!」
「ホントねぇ~! 元気そうで安心したわ……! 背も少し伸びたのね!」
「きゃあ~! 分かってくれるのは師匠だけですぅ~!」
そう言ってブカブカの帽子を取ると、金髪にショートボブ、蒼い瞳に耳には揺れるイヤリングが。
「あぁ~! あの子がユイトくんですかぁ~?」
その子はにこっと満面の笑みを浮かべて僕を見た。
何だろう? とっても嫌な予感……。
「えっと……、こんにちは……?」
僕はとりあえず、笑う事しかできなかった……。
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