第152話 頼りになるお姉ちゃん?
「ステラちゃん、久し振りねぇ~!」
「元気そうでよかったよ!」
「はい! おば様たちもお元気そうで何よりですぅ~!」
お客様たちも次々とステラさんに声を掛けている。
この村の出身だって言ってたからなぁ、皆、顔馴染みなのかな?
「ステラちゃん、ユイトくんの事はアレクから聞いたの?」
カウンター席に座り、お冷をくぴくぴと美味しそうに飲むステラさん。
アレクさんの名前が出てきて、僕は一瞬ドキリとする。
「いえいえ~! アレクさん、出掛けるときいっつも楽しそうに行くので、皆知ってますよ~! 宿屋の女将さんも噂してますぅ~!」
「あらあら……。ステラちゃんたちが泊まってるの、イライザの宿屋でしょう?」
「はい~!」
その返事を聞くと、オリビアさんは僕に同情するかのような視線を向けた。
「オリビアさん、知ってる方ですか?」
「知ってるも何も、エリザのお姉さんよ~! これはあの街の大半がユイトくんの事知っててもおかしくないわねぇ……」
「「あぁ~~」」
お客様たちも声を上げて納得した様子。
「えぇ~? 皆さんまで……」
確かにエリザさんは噂好きだけど……!
お姉さんまでそうなの……?
「あ。だから最近、この村の人じゃないお客様が多かったのかな?」
言われてみれば、行商市の後から増えた気がする……。
もしかしたら、このお店に興味を持ってくれた人が増えたのかも?
それなら有難いんだけど……。
「それはたぶん陛下たちのせいですよ~! 行く先々でユイトさんの事褒めてるって聞きましたから~! それに行商市で噂になってましたよ~?」
「噂?」
「はい! 美味しい料理を売りながら、他のお店も宣伝してる子がいるって~!」
「あぁ~、そうね、そんな事してたわね!」
オリビアさんも思い出したのか、面白そうに笑っている。
確かにカリーを売りながら、パンとか串と一緒に食べてもいいかもって言ったけど……。
「普通は自分のお店の事ばっかりなのに、他のお店の事も宣伝するなんてって、店主さんたち感激してましたぁ~! あの辺りでは有名みたいですよぅ~?」
「まさか陛下たちだけじゃなく、お店の人にも噂されてるなんてね?」
「もう恥ずかしくて、あの通りには行けません……」
「どうしてですかぁ~!? 今行けばたくさんサービスしてもらえますよぅ~!」
ステラさんは勿体ないと言って納得いかない様だ。
だってそれ、アレクさんにも知られてるよね? きっと……。
*****
「ハァ~……! 最高でしたぁ~……!」
ステラさんは注文したパスタを食べて、満足そうにお腹をポンポンと擦っている。
美味しそうに食べてくれて、僕も嬉しい。
「師匠~! 聞いてくださいよ~! せっかく娘が会いに来たのに、お父さんったらひどいんですよぅ~! 家の手伝いばっかりさせるんです~! 早くこのお店に来たかったのにぃ~!」
どうやらステラさん、宿にいるとき以外は全て家の手伝いをしていたようで、疲れが取れないと怒っている。
「あら、偉いじゃない! お父さんも助かったんじゃない? ステラちゃん皆に人気だし!」
「えぇ~? それ程でもないですよぅ~!」
「ステラさんのおうちって、何をされてるんですか?」
疲れが取れないってお店か何かかな?
ハワードさんの家みたいに家族で牧場とか?
「わたしの家はぁ、この村の教会と孤児院をしてますぅ~! 皆とってもいい子たちですよぅ~?」
そう言って僕にニコッと微笑んだ。
「孤児院……? この村にあったんですか……?」
「あ、孤児院と言っても~、そんなに立派な建物じゃないんですけど~……。皆さんの寄付のおかげで助かってますぅ~!」
「気にすることないわよ~! あの子たちも家のお手伝いしてるんでしょう?」
「はい~! 皆とっても元気なので、よく物を壊すんですけどねぇ~!」
この村に来て一ヶ月は経つのに、教会の存在は知ってても孤児院があるとは知らなかった……。
ちょっと申し訳なくなってしまう。
「そうだ~! ユイトくんに訊きたい事があったんですぅ~!」
「僕にですか? 何でしょう?」
「ん~……、ちょっとここでは恥ずかしいのでぇ……。師匠、ユイトくんお借りしてもいいでしょうかぁ~?」
そう言うと、ステラさんはチラリとオリビアさんの方を窺う。
「ふふ、いいわよ?」
「ありがとうございます~! ささ! ちょっとこちらへ来てくださぁ~い!」
「わわ!」
了承を得た途端、ステラさんは僕の腕を掴みズンズン外へ。
お店の物陰に入ると、キョロキョロと周囲を確認し僕を掴んでいた手を離した。
「ふぅ~! ここなら安全ですね~?」
「あの、訊きたい事、って……?」
僕が困惑しながら問いかけると、ステラさんは上目遣いでニヤリと笑う。
「はい! 単刀直入にお訊きしますけどぉ~、アレクさんの事、どう思ってらっしゃるんでしょうかぁ~?」
「えっ!? あ、アレクさん……、ですか……!?」
ここへ来て突然の質問に頭が追い付かない。
しかも初対面の人にそんな事訊かれるなんて……。
もしかして、ステラさんもアレクさんの事を……?
「はい~! あれでも大事な仲間ですのでぇ~……。今朝も宿でウジウジしてて鬱陶し……、コホン、いえいえ、元気がなくてとっても心配でぇ……!」
「元気、ないんですか……?」
「……! はい! いつもは煩いくらいでリーダーに怒られるんですけど~、リーダーも心配しちゃって困ってるんですぅ~!」
「あ、僕は……。アレクさんの事、勝手に勘違いしちゃって……。でも、また会って、話したいとは……、思ってます……」
「ふぅ~ん……? なら、ネックレスはまた貰えるなら欲しいですかぁ~?」
「う……、はい……」
ネックレスの事も知ってるなんて……。
もしかして、もうアレクさんの事は諦めろって言われるのかな……?
嫌な予感はこれだったのかも……。
「フフ~! それを聞いて安心しちゃいましたぁ~っ!」
「え?」
諦めろって言われるんじゃないかと身構えていたのに、予想外の言葉に拍子抜けしてしまう。
「あれぇ? 何でそんな顔してるんですかぁ~?」
ステラさんもキョトンとした表情で僕を見つめている。
「……だって、ステラさんもアレクさんの事、好きなのかなって……」
「きゃぁああ~~っ! やだやだ、やめてくださいよぅ~! わたしはトーマスさんみたいな、知的で寡黙な方が理想なんですぅ~!」
「えぇ~……、そんなに否定しなくても……」
アレクさんだって優しいし、頼りになるのに……。
「あっ! ごめんなさい~……! 好きな人の事そんな風に言われると、悲しくなっちゃいますもんねぇ~?」
「……はい」
「ムフフ~! これで心置きなく協力できますぅ~! 視察の日はわたしたちがユイトくんたちを警護するので、二人きりになれる様に協力しますねぇ~! だから、ちゃんとお話ししてあげてください~」
そう言ってにこにこしながら、ステラさんは僕の頭をよしよしと撫でてくれる。
少し背伸びしているけど……。
「うぅ……、ありがとう、ございます……」
「ちなみにわたしぃ~、ユイトくんよりもお姉さんなんですけど~……」
「……? はい……」
「“お姉ちゃん”って、呼んでくれても……、いいんですよ~?」
「えぇ~……?」
オリビアさんの弟子だから~、とか、私の方が年上だから~、と言って、チラチラとこちらを窺うステラさん。
「ほらほらぁ~、協力しますからぁ~!」
「う、えっと……、じゃあ……」
恥ずかしいけど、協力してもらうし……。一度だけなら……!
僕は覚悟を決めた。
「お、おねぇちゃん……?」
「うぅっ……!」
ステラさんは呻きながら、胸を押さえて蹲ってしまった。
「だ、大丈夫ですか……?」
「こ、これは危険ですね……! 新しい扉が開きそうです……!」
新しい扉って何……!?
あ、もしかしたら暑さで気持ち悪くなったのかも……!
「あれ? ユイトさん、こんな所で……って、ステラさん……? 何をして……」
すると、僕が騒いでいるのが聞こえたのか、アーロさんとディーンさんが様子を見に来てくれた。
後ろからトコトコと、ハルトとユウマも駆けてくる。
「アーロさん! ディーンさん! ステラさんが突然蹲っちゃって……!」
僕の焦った様子に、ハルトとユウマもステラさんを心配そうに覗き込む。
「おねぇさん、だいじょうぶ、ですか?」
「おねぃしゃん、だぃじょぶ~? ゆぅくん、ちんぱぃ……」
ハルトはステラさんの背中を擦り、ユウマはステラさんの熱がないか、手でおでこを測ろうとしている。
「ハァ~……、ここは……、天国なのでは……?」
虚ろな表情でハルトとユウマを見つめるステラさん。
「大丈夫そうですね」
「うむ、問題ないだろう」
アーロさんとディーンさんは互いに頷き合うと、ハルトたちが心配するからと言ってステラさんをお店に連れて行ってくれた。
*****
「師匠~! あの子たち危険すぎますぅ~! 絶対絶対、誘拐されちゃいますよ~!」
店に戻るなり、元気を取り戻したステラさん。
顔を両手で押さえ、真剣な表情でオリビアさんに話し出す。
「あら、ステラちゃんもトーマスと同じような事言うのね?」
対するオリビアさんは、のほほんとした表情で笑っている。
「だってだって! 可愛さが溢れ出てるじゃないですかぁ~! あんなに心配されたの久し振りでキュンとしちゃいましたぁ~……! 守ってあげたくなっちゃう~……!」
「ふふ、じゃあ視察の日はステラちゃんがいるから安心ね? 守ってあげてね? お姉ちゃん!」
「は……、はい~~っ! わたし、全力で守りますぅ~~っ!!」
椅子から立ち上がり、お店の中で宣言するステラさん。
他のお客様たちも呆気に取られている。
ハルトとユウマは新たに、ステラさんというお姉さんを虜にしてしまった様だ……。
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