第139話 カーティス先生は、お疲れ気味?
村に六時課の鐘が鳴り響く。
すると、扉の鐘がチリンと鳴り、早速お客様が。
「あ! カーティス先生! いらっしゃいませ!」
開店してすぐに来店してくれたのは、この村の診療所に勤めるカーティス先生。
営業再開初日に来てくれてから、久々の来店だ。
「こんにちは。やっと来れたよ~!」
そう言って笑顔を見せるけど、カーティス先生、前より少し細くなった気がする……。
そんな事を思いながらカウンター席へ案内した。
「あら、先生……。少し痩せたんじゃない……? 大丈夫なの?」
お冷とお手拭きを持ってきたオリビアさんも、カウンター席に座るカーティス先生の顔を見て心配そう。
すると、先生は気まずそうに頭を掻いた。
「いやいや、ちゃんと食べてるんですよ? 体が資本ですからね! でも、この暑さで体調を崩す患者さんが多くて……」
「そうなの? やっぱり大変よねぇ……」
連日、診療所には体調不良を訴える患者さんがたくさん来るそうで、その診察で助手のコナーさんたちも疲労が溜まっているみたい。
聞くと、先週は休みが取れなかったそうだ。
「カーティス先生、ムリして倒れないでくださいよ? 今日はいっぱい食べてくださいね?」
「ハハ……、ありがとう! ユイトくんの今日のオススメはあるかい?」
「今日ですか? そうですねぇ~……」
カーティス先生は疲れているだろうから、元気の出るもの……。
あ、これかな!
「カーティス先生、酸っぱいものって平気ですか?」
「酸っぱい……?
ふふ、アレクさんと同じ事言ってる……!
「いえ。お酢を使うんですけど、甘酸っぱくて元気が出るかなぁって!」
「元気が出る……、ふむ……。じゃあ、それを頼もうかな!」
「ありがとうございます! すぐ用意しますね!」
僕は早速、キッチンへ向かい鶏肉を揚げる準備をする。
カーティス先生もキッチンを覗きながら、何が出てくるのか興味津々の様だ。
「前も思ったけど、ユイトくんは料理するとき楽しそうだねぇ」
溶いた卵にくぐらせた鶏肉を揚げていると、カーティス先生が頬杖をつきながら感心したように呟いた。
「え? そうですか?」
「そうだよ! 他のお客さんも、きっと同じ事思ってるんじゃないかな? これから美味しいものが出来るんだろうなぁって、待ちながらワクワクするよ!」
揚げた鶏肉のいい匂いに、早く食べたいと溜息を漏らす先生の姿はちょっと面白い。
もうすぐですからね、と笑うと満面の笑みで楽しみにしてるよ、と返してくれた。
鶏肉が揚がったら油を切って、用意していたタレに絡め、千切りにした
その上から更に残ったタレと、手作りのタルタルソースをたっぷりのせてチキン南蛮の完成!
「カーティス先生、お待たせしました! チキンナンバンです!」
「おぉ~! いい匂いだねぇ!」
先生は思わずと言った風に、顔をお皿に近づけて匂いをクンクンと嗅いでいる。
「このタレが甘酸っぱくて元気が出ると思います! 白いのはタルタルソースと言って、玉子とピクルスを混ぜたものです。揚げ物に合うので一緒に召し上がってください!」
「いいね! では早速、いただきます!」
カーティス先生は嬉しそうにチキン南蛮をフォークに刺し、たっぷりタルタルソースを絡めて一口頬張った。
モグモグと咀嚼し、目を瞑ってその味を確認している様だ。
僕はまるで、採点されているかの様な緊張感に襲われる。
「ハァ……」
ゴクンと飲み込み、カーティス先生はフォークを持ったまま止まっている。
「せ、先生……?」
「どうかしら……?」
その様子に、僕もオリビアさんも思わず動きを止めてしまう。
酸っぱくて口に合わなかったかな……?
「ユイトくん……」
「は、はい……!」
カーティス先生は真剣な顔で僕を見ると、パァッと笑顔を浮かべた。
「これ! すっごく美味しいよ!! もう一枚食べるからお願いしていいかい?」
そうだった! カーティス先生も意外とよく食べる人だった!
だけど気に入ってくれたみたいでちょっと安心しちゃったよ……。
「あ、はい! ありがとうございます!」
「いやぁ! これはいいなぁ! コナーくんたちにも食べさせてあげたいよ!」
「あ、お持ち帰り用にサンドイッチに出来ますから言ってくださいね! あ、でもこの暑さなので早めに食べてもらわないとダメですけど……」
「えっ!? 本当かい!? じゃあ明日の分、今から予約しておいてもいいかい?」
「はい、大丈夫ですよ!」
「そうか! じゃあ……、一、二ぃ……、」
そう言うと、カーティス先生は指を折りながら診療所で働く人たちの数を数えだした。
「……十九、……二十! 二十個、お願いしてもいいかな!」
「は、……え? 二十個……!?」
「診療所、そんなにいらしたの……?」
前にお世話になったとき、そんなにいるなんて気付かなかった……!
あ、休みの人もいたのかな……?
「いえいえ! 皆ペロッと食べちゃうので、お替りの分もです! お願い出来ますか?」
「あ……、はい! よ、喜んで!」
「いやぁ! よかった! では明日、開店の時に受け取りに来ますので!」
思いがけない大口注文に、僕もオリビアさんもビックリ……。
注文してくれたカーティス先生は、美味しいなぁ、チキンナンバン! と言いながら嬉しそうに残りのチキン南蛮を平らげていた。
「フゥ~……、美味しかった……!」
カーティス先生はお替りをして、更にパンとスープもセットにしてモリモリと美味しそうに頬張っている。
そこでお腹も落ち着いたのか、フゥと一息ついてフォークを置いた。
「オリビアさん、来た時から気になってましたが、そのネックレス素敵ですねぇ! イメージにピッタリですよ!」
「あら、本当!? 嬉しいわぁ~! これね、昨日ユイトくんたちがプレゼントしてくれたの!」
オリビアさんはネックレスを褒められてとっても嬉しそう。顔が綻んでいる。
「おぉ! そうだったんですか! ユイトくん、やるねぇ~!」
「えへへ……! ハルトとユウマと一緒に選んだんです……。初めてお給料が入ったので、何か贈りたいなと思って……」
オリビアさんは今朝からずっと、プレゼントしたネックレスを着けてくれている。それを見ると、嬉しいような、照れ臭いような……。
「いいですねぇ……。その考え方が出来るのは、とても素晴らしい事ですよ」
思いがけず褒められて、僕も顔が緩んでしまう。
「実はトーマスさんにも買ったんですけど、渡す機会が……」
昨日も帰って来なかったし、もしかしたら今日も……。
早く渡したいのになぁ……。
「そうねぇ、いつ帰ってくるか分からないものねぇ……」
「トーマスなら、貰ったその場で泣きますね、きっと! 僕はそれに一票です!」
「あら、それなら私も泣くに一票よ?」
「え……、僕も泣いちゃうかなと……」
「あら、それじゃあ皆、トーマスが泣くと思ってるのね! 面白いわぁ~!」
「これじゃあ賭けにならないですねぇ」
そんな事を話しながら、僕はトーマスさんに選んだプレゼントを早く渡したいなとずっとソワソワしていた。
今日は帰ってくるかなぁ~? 帰ってくるといいなぁ……。
渡したらどんな反応をするだろう?
気に入ってくれるといいんだけどなぁ~……。
トーマスさんが帰ってくる事を願いながら、その日は営業中もずっと、僕はその事で頭がいっぱいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。