第140話 魅惑のプリン


「「ありがとうございました~!」」


 今日の営業も無事終了し、看板を店の中へ入れてホッと一息つく。

 なぜか週替わりメニューの照り焼きチキンのピザと、カーティス先生にも好評だったチキン南蛮に注文が集中した。

 やっぱり、醤油ソーヤソースを使うと匂いも違うからかも知れない。

 オリビアさんの言う通りに大量に買ってよかった! 買ったのはオリビアさんだけど!


「ハァ~! これだけ出るとは思わなかったわぁ……!」

「そうですね、売り切れなんて初めてですね……!」


 チキンはたくさん仕込んだけど、途中で足りなくなって仕方なくこの二つは品切れに。

 明日は今日より多めに買って、たくさん仕込んでおかないと! 何より、カーティス先生の予約注文があるからね!



「にぃに~!」

「あれ? ユウマ、どうしたの?」


 店内の掃除を終えて、明日の仕込みの準備を始めると、お店と家とを繋ぐ扉からユウマがひょっこり顔を覗かせた。

 傍に行ってユウマを抱えると、その小さな体は暑いからか少し汗をかいている。


「汗かいちゃったね? 先に着替えよっか?」

「うん」


 ……だけど、一人だけ?


「ユウマ、皆とお昼寝できた?」

「うん! はるくんと、らぃあんくん、まだねてりゅの!」

「あ、そうなんだ。ユウマだけ先におやつ食べる?」

「ん~ん、みんないっちょ! にぃにもね!」

「僕も? ふふ、わかった。じゃあ着替えに行こっか?」

「うん!」


 オリビアさんに伝えてから僕たちの部屋へ向かうと、サイラスさんとフレッドさんがお昼寝中の二人の傍に座り、サイラスさんは武器の手入れ、フレッドさんは黙々と手帳に何かを記していた。


「お疲れ様です。ユウマを着替えさせたらおやつにするので、ライアンくんとハルトを起こしてもらえますか?」

「分かりました。しかし……、こうぐっすり寝ていると気が引けますね……」


 フレッドさんはベッドでスースーと気持ち良さそうに眠っている二人の顔を見ると、困った様に眉を下げた。


「ふふ、わかります。でも起こさないと、夜寝れなくなっちゃいますよ?」

「……それならば、仕方ありません……!」


 フレッドさんが二人を優しく起こしている間に、ユウマの着替えを手早く済ませる。


「お二人もあとでお店の方に来てくださいね? おやつの時間なので」

「……! 必ず行きます……!」

「ハハ! フレッド、耳出さない様にな?」

「失礼ですね! もう出しません!」


 相変わらずな二人にハルトとライアンくんをお願いし、僕はユウマを連れて外にいるアーロさんとディーンさんを呼びに行く。

 二人ともこの暑い中、庭で訓練の最中だ。


「アーロさん、ディーンさん、ユウマたちのおやつの時間なので、着替えてお店の方に来てくださ~い! ちゃんとお二人のおやつもありますからね!」

「いっちょにおやちゅ~!」


 僕とユウマが呼びかけると、二人ともすぐに行きますと、とってもいい笑顔で答えてくれた。


「ばぁば~! いっちょにおやちゅ!」

「あら、私も?」


 お店のキッチンではオリビアさんが仕込みを始めていた。

 だけど、ユウマの一言で一旦休止。


「オリビアさんの分もあるので休憩しましょう?」

「そう? ならお言葉に甘えようかしら!」


 夕飯の時も使うので、皆で囲めるようにアーロさんとディーンさんがテーブルを動かしてくれる。

 そしてお行儀よく椅子に座るハルト、ユウマ、ライアンくんたちの前に取り分け用の小皿を置き、テーブルの真ん中にドンとグラタン用の容器を置く。

 皆の顔にはおやつなのに? と疑問が浮かんでいる。


「今日は人数が多いので、大きい容器で大きいプリンを作りました! 取り分けて食べようね~!」

「ぷりん~!? おっきいです!」

「にぃに、しゅご~ぃ!」


 ハルトとユウマは大興奮だけど、ライアンくんはこれは何だろう? という表情のままだ。


「えっと、プリンじゃなくて……、プディング? 卵と牛乳を使った甘いお菓子だよ」

「甘いプディング……? ですか?」


 プリンでは伝わらず、こちらでは蒸し料理のプディングの方が一般的らしい。

 グラタンの容器に入れたせいか、余計に甘いプディングの想像がつかないみたい。

 ハルトとユウマの興奮具合を見て、少し興味はあるようだけど……。


「ぷりん、とっても、おいしいです!」

「ゆぅくん、こぇちゅきなの!」

「ライアンくんも食べてみて? 苦手だったら違うの作ってあげるからね」

「は、はい……!」


 まず最初にライアンくんのお皿にプリンを取り分ける。

 スプーンを入れた瞬間、プルンッと弾むような感触が。


「あ、先にフレッドさんに食べてもらった方がいいですね。ライアンくん、ちょっと待っててね?」


 僕は毒見があるのをすっかり忘れていた。

 急いでフレッドさんのお皿にプリンを取り分け、スプーンで一口掬いフレッドさんの口元へ。


「フレッドさん、コレ食べてみてください! どうぞ!」

「え? あ、はい……」


 フレッドさんが口を開けた瞬間、僕はスプーンを突っ込んだ。

 だって、ライアンくんに早く食べてほしかったから!


「……んっ! ……おぃひぃです!」

「よかったぁ~!」


 フレッドさんは怒りもせず、耳が出ていないか頭を触りながら確認している。

 サイラスさんたちは笑いながらそれを眺めていた。


「ライアンくん、はい、どうぞ。一口食べてみて?」

「は、はい……! いただきます……!」


 ライアンくんは少し緊張しながらも、スプーンでプリンを掬い、ぷるんと揺れるプリンを見て感動している。

 そして口を開けて、パクリとプリンを頬張った。

 ハルトたちもその様子をドキドキしながら見守っている。


「~~~……っ! スゴイ! とても! 美味しいです!!」


 ライアンくんは目をキラキラと輝かせ、プリンを一口、また一口と口に運んでいく。

 気に入ってくれたようで、こっちも嬉しくなってしまう。


「さ、皆さんもどうぞ。冷たいうちに召し上がってください」

「「「いただきます!」」」


 サイラスさん、アーロさん、ディーンさんの三人も興味があったようで、プリンをすぐに頬張ると、三人で美味い! と叫んでフレッドさんに叱られていた。


「らいあんくん、おいちぃねぇ!」

「はい! 私もプリン、大好きです!」

「よかったぁ~! まだあるから遠慮しないでね」

「はい!」


 皆に気に入ってもらえてよかった!

 たまには大きいデザートも夢があっていいよねぇ~!


 この後、プリンを気に入ったアーロさんから騎士団寮用にレシピを訊かれ、それを見ていたフレッドさんからも城の料理人に教えたいとレシピをお願いされた。

 二人ともレシピをメモすると、いそいそと大事そうに手帳に挟んでいる。

 そんなに気に入ってもらえたなら、今日は作って正解だったな!


 さ、おやつを食べたら仕込みの再開。

 いっぱい仕込まないとね!


 僕はプリンを頬張りながら、一人そんな事を考えていた。


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