第138話 素敵なプレゼント
「ハァ~! なんだか今日は疲れちゃったわね!」
帰宅して早々、オリビアさんは困った様に笑いながら夕食の準備を始めた。
今日は色々ありすぎて、僕もちょっと疲れちゃったな……。
ハルトとユウマは、家にライアンくんがいるのが嬉しいのか、さっきから三人でベッタリだ。
「オリビア様、私共はこちらで結構ですので……!」
「そうです。野営なら慣れておりますので……!」
そして、オリビアさんの後ろでオロオロとしているのは、ライアンくんの近衛騎士サイラスさんと、側近見習いのフレッドさん。
それに、荷物持ちも手伝ってくれたフェンネル王国騎士団第一小隊隊員のアーロさんとディーンさん。
改めてその肩書を聞くと、本当に凄い人たちなんだと実感が湧いてきた。
この四人と、ライアンくんを合わせた五人が、今日からこの家で暮らす同居人だ。
一気に大所帯になったなぁ……。
「あら、何言ってるのよ~? 庭で野宿なんてさせられる訳ないでしょう? ちょっと狭いけど、部屋ならあるからそこで寝てちょうだいね?」
「「「「ありがとうございます……!」」」」
四人は深々と頭を下げると、アーロさんとディーンさんは早速手伝いをすると言ってオリビアさんに指導を受けながら野菜の皮剥きを始めた。
さすがにこの人数だとダイニングでは狭いので、今夜からはお店のテーブルでご飯を食べる予定。
サイラスさんとフレッドさんは、ライアンくんの傍から離れない。
必然的にハルトとユウマの面倒も見てくれているので、僕たちも安心だ。
「オリビアさん、僕は明日の生地の仕込みやっちゃいますね」
「ユイトくん、大丈夫なの? 休んでてもいいのよ?」
僕の泣き腫らした目を見て心配したのか、オリビアさんは心配しっぱなしだ。
この泣き虫も直さなきゃなぁ……。
「いえ、何かやってた方が気が紛れるので!」
「そう? じゃあ、お願いね? ムリしちゃダメよ?」
「はい! ありがとうございます!」
ハルトとユウマも疲れているだろうし、暫く二人のお手伝いはお休みだ。
僕は黙々と、明日のパスタ生地とピザ生地を捏ねていく。
*****
「さ、皆~! ご飯できたから手を洗ってきてね~!」
「「「はぁ~い!!」」」
ハルトたちは元気よく返事をし、サイラスさんとフレッドさんを引き連れて手を洗いに行った。
今日の事などすっかり忘れている様で安心した。
皆が揃い、早速夕飯。
これだけ人数がいるので、またテーブルを移動して皆で食事を囲む。
「さ、冷めないうちに召し上がれ!」
「「「「いただきます!」」」」
「「「うっまぁ~~~~っ!」」」
「三人とも煩いですよ!」
……うん、今夜から賑やかになりそうだ……。
「ライアンくんは私たちと一緒でいい?」
「はい!」
体を拭き、後は寝るだけ。サイラスさんとフレッドさん、アーロさんとディーンさんの四人は、見張りを立てて交代で眠るそう。
だから使っていない部屋ではなく、ベッドのある僕たちの部屋を貸す事にした。
実はフレッドさんも戦闘は得意らしく、意外過ぎて最初は信じられなかった。
失礼です、と言ってフレッドさんは拗ねてしまったけど、服の袖から出てきた仕込みナイフを見てようやく信じたくらい……。
「皆さんは僕たちの部屋で寝てください。家の冷蔵庫の物は、お腹が空いたら飲み食いしてくれて構わないので」
「ありがとう、ユイトくん。今日からしばらく世話になるよ」
「はい。僕たちの方こそ、よろしくお願いします」
「じゃあ、私たちは寝るけど……。何かあったら、遠慮なく起こしてちょうだいね?」
「はい、分かりました。皆様、おやすみなさい」
「「「おやすみなさ~い」」」
僕たちの部屋はサイラスさんたちに貸すため、今夜からはしばらくオリビアさんと一緒に寝る事になった。
「おばぁちゃん、おじぃちゃん、かえってこないです……」
「そうねぇ、また暫く無理かもしれないわね……」
「じぃじ、ちゃみちくなぃかなぁ~?」
「ふふ、トーマスが? そうねぇ、寂しくて泣いちゃうかもね?」
「帰ってきたら、皆でおかえりって言おうね」
「「うん!」」
「ライアンくん、寂しくない?」
「はい。私はいつも、一人で寝ていますから」
「そうなの? じゃあ、今日からちょっと賑やかになるね?」
「はい! 楽しみです!」
ライアンくんを真ん中に挟み、両隣にハルトとユウマ、両端はオリビアさんと僕という配置で寝る事になった。
前と違って、トーマスさんがいないだけで、少し広く感じるなぁ……。
そんな事を考えながら少しウトウトしていると、あっ、と大きな声を上げて急にハルトとユウマが体を起こし、僕に話しかけてきた。
「おにぃちゃん、あれ……!」
「え?」
「ばぁばのぷえじぇんと……!」
「……あっ!」
オリビアさんとライアンくんも、何をしているんだろうと体を起こして僕たちを見ている。今日は色々ありすぎて、二人に教えてもらうまですっかり頭から抜け落ちていた……。
せっかく皆で選んで買ったのに……!
僕は急いで自分の部屋をノックすると、仮眠しようとしていたアーロさんとフレッドさんが驚いていた。
すみません……、と平謝りし急いで鞄に仕舞っていた包みを取り出す。
一つはオリビアさん、もう一つはトーマスさん。
そして、最後の一つは……、
*****
「オリビアさん、疲れている所すみません……。少し、いいですか……?」
「あら、なぁに?」
僕とハルトとユウマは、ベッドから下りてオリビアさんの近くへと寄って行く。
オリビアさんも疲れているのに、申し訳ないな……。
ライアンくんも眠そうだ……。
「あの、これ……。僕たちからオリビアさんへ、プレゼントです……!」
「おばぁちゃん、いつも、ありがと!」
「ばぁば、はやくみてぇ~!」
僕が後ろ手に持っていたプレゼントを渡すと、オリビアさんは目を見開いて両手でそっと受け取った。
「まぁ……!」
丁寧に包みを開けると、中からは僕たちが選んだ太陽を形どったネックレスが現れる。
「真ん中の石はペリドットって言って、“太陽の石”って呼ばれてるそうです。オリビアさんにピッタリだな、と思って三人で選んだんです」
オリビアさんはそれを指でそっと撫でると、目に涙を浮かべていた。
「……こんな、素敵なプレゼント……、貰える、なんて……っ、」
そう言って言葉を詰まらせると、オリビアさんはネックレスを首に合わせ、似合うかしら? と笑顔を浮かべた。
「おばぁちゃん、きれいです!」
「ばぁば、しゅごくにぁってるの!」
「あら、本当? とっても嬉しいわ……! ありがとう、おばあちゃん大事にするわね……!」
「「うん!」」
「ユイトくん、このネックレス……、本当にありがとう……!」
「えへへ。オリビアさん、これからもよろしくお願いします……!」
「えぇ、私の方こそよろしくね……!」
オリビアさんはネックレスを大事そうに包みに仕舞うと、僕たち一人一人をぎゅっと抱きしめてくれた。
「ふふ、明日からまた頑張れちゃうわ!」
そう言って笑うと、もう遅いから寝ましょうね、とおやすみを言ってランプをそっと消した。
僕もハルトたちも疲れていたのか、そのままスッと眠りに落ちた。
*****
「フレッドさん、アーロさん、おはようございます!」
「「おはようございます」」
僕が起きてくると、見張りを交代していたフレッドさんとアーロさんが。
二人とも睡眠時間は短いけどキリっとしている。
「随分と早いですね?」
「はい。お店の仕込みと、買い出しの確認をするので。僕はお店の方にいますけど、何かあれば呼んでください」
そう言って会釈し店のキッチンへ向かう。
今日から週替わりのメニューでピザの種類を変えるんだけど、昨日
アレクさん、昨日は悪い事しちゃったなぁ……。
僕が泣いたせいで、トーマスさんに詰め寄られていた時はどうしようかと思った。
だけど、説明もせずにすぐ謝るなんて……。
あれじゃ、アレクさんが悪いみたいじゃないか……。
(ハァ……、今度いつ会えるかな……)
会ったらちゃんとお礼をしなきゃ。
そう心に決めて、僕は今日の週替わりメニューの仕込みを始めた。
*****
「おぉ……! これはいい匂いですね! また腹が鳴りそうです……」
「これがお店で食べれるなんて……! この村の方が羨ましいです……!」
「え~? 言い過ぎですよ~!」
「「そんな事はありません!!」」
お腹が空いているだろうと、フレッドさんとアーロさんを呼んで軽くお腹に入れてもらおうとスープを作ったんだけど……。
「うおぉ~……! いい匂い……!」
「これは……、
「ふふ、サイラスさん、ディーンさん、おはようございます」
「「あ、おはようございます!!」」
「お二人も軽くお腹に入れますか?」
「「是非!!」」
そこに起きてきたサイラスさんとディーンさんも加わり、スープはあっという間に空になってしまった。
一応パンも添えたんだけどね。
これは朝食も多めに作らないと、足りないかも……。
*****
「すみません、アーロさん……! とっても助かりました!」
「いえいえ、これくらいならいつでもお申し付けください!」
最初は悪いからと断ったんだけど、何かあってはいけないとフレッドさんがアーロさんに頼み、僕の買い出しに付いて来てくれた。
荷物持ちは任せてくれと張り切ってくれて、おかげでいつもは三往復くらいするのに今回は一度だけで済んでしまった。
これは正直言って助かる……!
「しかし、毎回この量を? 大変ではないですか?」
「あ、週始めは少し多めなんです! 週替わりのメニューが加わるので、どれが出るか分からないので!」
「成程、そうなのですか。しかし先程も言いましたが、この村の方が羨ましいです。店に来ればあんなに美味しい料理が食べれるなんて……」
アーロさんは大量の荷物を抱えながら、しみじみと呟いた。
「アーロさんたちのいる、騎士団? という所はどんな食事が出されるんですか?」
王都の、しかも国を守る騎士団が食べる食事なんて、僕には想像もつかない。
「私たちは団員専用の寮で暮らしているんですが、寮には専属の料理人が数人配属されます。……ですが、生憎、高齢で辞めてしまいまして。今は団員の中で順番に作っている状態なのです。予算もあるので、どんな料理が出るかはその団員の腕次第……、という事になりますね。慣れないうちは予算を使い過ぎて、
懐かしいです……、と遠くを見つめながら歩く姿は、どこか哀愁が漂っている様に見える……。
野営訓練もするから調理の腕を磨くのには問題ないけど、数が多いだけに相当疲れるらしい。
「専属の料理人かぁ~……。次の方は来られないんですか?」
騎士団なら、募集すればすぐに応募してきそうなのに……。
「いやぁ、それが……。なぜか、婿探しと勘違いしている方が多くてですね……」
「あぁ~……、そんな事もあるんですね……」
食事を作って終わりと勘違いしているのか、あまりの忙しさに音を上げてすぐに辞めて続かないみたい。
寮暮らしの騎士団員は、見習いも含めると百人以上はいるらしい。
「以前に働いていた料理人たちは、騎士団の為に三十年以上勤めていた方ですから、その方の仕事振りと比べるとどうしてもですね……。まぁ、比べるのも失礼なんですが……」
「なるほど……。ちょっと分かる気がします……」
自分たちの為に真面目に働いてくれる人を見ていたら、どうしてもその人と比べてしまうのは仕方ない……、と僕は思う。
しかし百人以上かぁ~……。毎日仕込みが大変そうだ……。
「ユイトさん、興味があれば応募しませんか?」
「え、僕ですか!?」
「はい! 是非!」
満面の笑みで僕を勧誘するアーロさん。
よっぽど食事がツラいのかな……? ちょっと可哀そうになってくる……。
「お誘いはありがたいんですが……、僕はあのお店で恩返しするって決めているので……。すみません……」
「ハァ……、やはりそうですよね……。分かってはいたのですが、ダメ元で訊いてみました……」
シュンと肩を落とし、溜息を吐くアーロさんを見ると、何だか罪悪感が……。
「……あ、レシピくらいならメモして渡しましょうか?」
「え!? いいのですか!?」
「はい、問題ないですよ。早く次の方が決まるといいですね!」
「本当に……!」
アーロさんの真剣な顔に、僕は早く料理人が来てくれますように、と願わずにはいられなかった……。
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