第133話 おにぃちゃんは、とくべつ?
「遅くなってすみませ~ん!」
「おぉ、ユイト! ちゃんとたくさん食べてきたか?」
「はい! お恥ずかしいです……」
他のお店も見ながら歩いていたせいか、予定より遅くなってしまった。
漸くバージルさんたちと合流すると、オリビアさんとソフィアさん、フローラさんの三人が見当たらない。
どうやら少し疲れたようで、三人で木陰のあるテラスで休憩中との事。
アーロさんとディーンさんも、そのまま一緒に付いてくれているそうで一安心だ。
「にぃに~! しょれどぅちたの~!?」
ユウマが早速、僕の手に持っているマイスを見つけて興奮気味。
袋に入っているのにどうしてわかったんだろう……?
トーマスさんにお願いして、抱っこされながら僕の方へと近付いてきた。
嬉しくて体を揺らしているせいで、ユウマの麦わら帽子がトーマスさんの顔に刺さっているから、あまり揺れないでほしい……。
ほら、それを見たバージルさんたちが後ろで笑いを堪えている。
「串焼き屋のおじさんが、ハルトとユウマにってくれたんだよ~!」
「えぇ~!? ほんちょ?」
「ほぅ、これは旨そうだな……」
「店主さんが、トーマスさんにもよろしくって言ってました!」
「オレに? そうか、また後で礼に行かないとな」
僕がユウマにタレを塗って焼いた
ユウマはマイス大好きだからね、嬉しいんだろうな~。
「まぃしゅ! ゆぅくん、まぃしゅたべる!」
「さっきお昼を食べただろう?」
「ん~! まぃしゅも! じぃじ~! まぃしゅ~!」
「分かった、分かった。じゃあこっちで座ろうか」
僕たちは他の人の通行の邪魔にならない様に端に寄り、花壇の石積みに腰を下ろした。
ユウマはアレクさんにもマイスを見せて、今から食べると嬉々として報告している。
よかったな、と頭を撫でられてご機嫌だ。
「ハルトもおいで。こっちで一緒に食べよう」
トーマスさんがライアンくんとお喋りしているハルトを呼ぶと、二人で手を繋いで仲良くこちらに近付いてきた。
すっかり仲良くなった様で、後ろから付いてくるサイラスさんとフレッドさんも笑って見守っている。
「らいあんくんも、たべましょう!」
「え? 私もですか?」
まさか自分も食べるとは思わなかったのか、僕とトーマスさんの顔を交互に見て困惑気味。
「三本あるから遠慮せずに食べなさい。あぁ、先にフレッドに一口食べてもらおうか?」
「そうですね。フレッドさん、ちょっと冷めちゃいましたけど十分美味しいと思いますよ」
毎回毒見をしないといけないなんて、ちょっと大変そう。
フレッドさんはスタスタとやって来て、マイスの粒をナイフで削ぐと、パクリと一口。
「ん、これは香ばしくて美味しいですね!」
すると、ん? という表情を浮かべてマイスを味わっている……。
「……これは、ユイトさんの料理と同じ調味料の味……?」
一口食べて分かっちゃうものなんだ! さすがだなぁ……!
だけどそれ以上は、口にされると困っちゃう。
「フレッドさん、それ以上は秘密なので、大きい声で言っちゃダメですよ……!」
僕がフレッドさんに耳打ちすると、目をパチクリさせてあぁ、と理解した様子。
「む! そうでしたか……! これは失礼致しました……」
秘伝のタレだからね……! 他に知られちゃダメだから。
僕とフレッドさんがこそこそ話していると、後ろで見ていたサイラスさんが感心した様に呟いた。
「ユイトくん、スゴイね! フレッドと普通に話せるなんて」
「普通、ですか?」
「フレッドはいっつも口煩いからな~! 結構怖がられてるんだけど」
「失礼ですね! 私は改善するよう、皆さんに注意しているだけです!」
「な? こんなカンジなんだよ」
サイラスさんはおどけた様に肩を竦ませ、やれやれとポーズを取る。
「確かに。フレッドが謝るのも珍しいな!」
バージルさんや警護の人たちもうんうんと頷いている。
そんなに口煩いの? と思ったけど、ライアンくんの事が心配だからかも知れない。
「それだけお仕事に熱心って事ですよね? フレッドさん、僕と年も変わらないのに尊敬しちゃうなぁ!」
そう言うと、フレッドさんは一瞬ポカンとした後、まっ赤になって黙ってしまった。
サイラスさん曰く、褒められることに慣れていないらしい。
そんな珍しいフレッドさんを見たおかげで、皆でほっこりとした気分になった。
「おにぃちゃん」
「ん? なぁに?」
ユウマが食べ終わるまで皆でのんびりしていると、隣に座っていたハルトが僕の服をくいッと引っ張った。
「おにぃちゃんが、いってたおみせ、さっき、みつけました……!」
「おみせ……。あ、あのお店……!?」
「いっぱい、うってます……!」
「ほんと? じゃあこの後、三人で……。抜け出せるかなぁ~……?」
考えたらこの大所帯……。秘密で買うには、ちょっと難しいかも。
「あれくさんに、きてもらったら?」
「アレクさんに?」
僕がう~んと頭を悩ませていると、ハルトがいい考えだとばかりに小声で教えてくれる。
「みはり、です……!」
「……なるほど! いいかも知れない!」
もしトーマスさんかオリビアさんが来たら、気を逸らしてもらえるかも!
その案、採用です!
「へぇ~? いいじゃん! 面白そう」
アレクさんの手を引いて場所を移動し、誰にも聞こえない様にお願いしてみると、あっさり快諾してくれた。
「じゃあ、ついて来てもらえますか?」
「いいよ。ユイトの専属って言っただろ?」
また笑顔でそういう事を言う……。
「せんぞく? って、なんですか?」
「うわっ!? ハルト、いたの……?」
いつの間にか僕の後ろについて来たハルトにビックリしてしまったけど、どうやら気付いてなかったのは僕だけの様だ。
アレクさんは不思議そうに首を傾げるハルトを抱き上げると、笑顔で口を開いた。
「ユイトだけって、事だよ」
「おにぃちゃんだけ?」
「そ。オレは、お兄ちゃんだけ、特別」
あぁ~~……!!
僕は思わず耳を塞ぎたくなったけど、嬉しいと思っている自分もいて、この場にいる事が居た堪れない……。
「ん~、ぼくと、ゆぅくんは?」
「ハルトとユウマ?」
「とくべつ、ちがいますか?」
「え~? そうだな、二人も特別だな?」
「えへへ! うれしいです!」
アレクさんの顔を見るのは恥ずかしいし、だけど嬉しそうに笑うハルトが可愛くて見ていたいし……!
僕が唸っていると、僕の肩をポンと叩く人物が。
「ば、バージルさん……!」
「ユイトくん……、アレクと……。そう……、トーマスには内緒にしておくよ……」
「えっ!?」
意味深な笑みを浮かべ、バージルさんはそれだけを言うとまた皆の元に戻って行った。
トーマスさんの元に戻り、僕たちだけで少し買い物をしてくると言うと、案の定……。
「ホントに付いていかなくて大丈夫なのか?」
「アレクさんもいるので大丈夫ですよ! トーマスさん、心配性なんだから……」
さっきから、僕たちだけで行かせるのがそんなに心配なのか、なかなかうんと首を縦に振ってくれない……。
「しかしだな……」
「まぁまぁ、トーマス! ユイトくんたちも欲しい物があるんだろう」
「うむ……、そうか……? あんまり危ないところには行くんじゃないぞ?」
やった! バージルさんの援護のおかげで、渋々ながらもやっと了承してくれた!
「はい! 大丈夫です! じゃあ、ちょっと行ってきます!」
「「いってきま~す(ちゅ)!」」
「気を付けてな~!」
「あぁ……、心配だ……! いっその事、跡を付けて行こうか……?」
「オイオイ、そんな事したら嫌われるぞ?」
「ハァ……、だよなぁ……」
そんな会話があったとは露知らず。
僕たち兄弟とアレクさんは、意気揚々とハルトの見つけたお店へと足を延ばした。
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