第134話 プレゼント探し
「おにぃちゃん! あそこ!」
ハルトが見つけたお店は、お昼を過ぎた今も女性客で賑わっていた。
壁一面にキレイな指輪やピアス、シルバーアクセサリーや装飾されていない石等、種類豊富な品揃え。
「ユイト、オレはこっちで待ってるな。ゆっくり選んで来いよ」
「はい! ありがとうございます!」
アレクさんはお店の邪魔にならない様に、少し陰になっているところで待っててくれるみたい。
僕はユウマを抱っこし、ハルトにははぐれない様に僕の服を掴んでもらっている。
「わぁ~! キレイだねぇ~!」
「きらきら、です!」
「しゅごぃねぇ!」
お店に近付いてよく見ると、思わず声が漏れてしまう程に綺麗に装飾されたネックレスが。
ピアスも何だか凝っていて、花や鳥、月などの自然なものをモチーフにしている作品が多い。
ハルトとユウマも目をキラキラさせて眺めている。
「こんにちは。ゆっくり見てってね」
僕たちが溜息を漏らしていたのが面白かったのか、店主らしいお姉さんはにこりと僕たちに挨拶をしてくれた。
腕にはたくさんのタトゥーが入っていて、女性なのにカッコいいという表現がしっくりくる。
「こんにちは。これは全て手作りなんですか?」
「そうだよ。同じ物はなるべく作らない様にしてるんだ。オーダーメイドも受け付けてるからよろしくね」
そう言ってウィンクをすると、お姉さんは別のお客さんのお会計に戻ってしまった。
「おにぃちゃん、いっぱいです……!」
「うん、迷っちゃうね……!」
「ゆぅくんも、まよっちゃう……!」
トーマスさんとオリビアさん、お二人のイメージにピッタリの物が見つかるといいんだけど……。
そんな事を考えながら、僕たちは一つ一つ商品を吟味していく。
「にぃに、これぇ! きれぇねぇ~!」
あともう少しでお店の中の商品を見終わるという時に、ユウマが大きな声を上げた。
「わ、ホントだ……! ハルト、これ見て……!」
「うわぁ! おばぁちゃんに、ぴったりです!」
ユウマが見つけたのは、太陽を形どったネックレスで、真ん中にオリーブ色の石が埋め込まれている。
でも高そうだな……。
僕のお給料で買えるか心配だ……。
「あれ? それが気に入った?」
僕たちがそのネックレスを熱心に眺めていると、先程のお姉さんが話しかけてきた。
「それね、最近の自信作なんだよ。真ん中の石はペリドットって言って、“太陽の石”って呼ばれてるんだ」
「“太陽の石”……」
いっつも明るいオリビアさんにピッタリだ……!
「ちなみに石言葉は“夫婦の愛”に“平和”、“幸福”。 夫婦で持つと、いつまでも仲良くいられるって言われてるよ」
そう言って、対になるペリドットの付いた指輪を見せてくれる。
こっちは月がモチーフになっているらしい。
お姉さんの言葉を聞いて、たぶん僕たちは今、心では同じ事を考えているハズ。
ハルトとユウマの顔を見ると、
「おにぃちゃん、ぼく、これがいいです……」
「ゆぅくんも……」
「うん、僕も……」
トーマスさんとオリビアさんに、ピッタリなんだけど……。
「あの、これって……。おいくらですか……?」
僕がおずおずと値段を訊くと、お姉さんはにっこりと上を指差した。
その指された方を見ると……。
「えっ!? 5,000
嘘! 本当に一つでこの値段なら、僕にも買える……!?
「これ、本当に……!?」
「そうだよ。私はまだ見習いの付与師なんだ。石も伝手があるからね。だから今はこの値段。将来は有名になる予定だから、先物買いしない? お買い得だよ?」
そう言ってまたウィンクすると、この石の付与の説明をしてくれた。
「このネックレスには“周囲を温かく照らす”、指輪には“悪魔を払う”っていう付与が付いてる。お守りにもいいんじゃないかな」
ネックレスはいいけど、指輪の付与が少し物騒だな……。
でも、トーマスさんは冒険者だし……。
「お姉さん! これ、二つとも買います!」
「本当に……!? 一つだけだと思ってたのに、結構やるね~!」
「はい! 初めてのお給料が入ったので、大事な人たちにプレゼントしようと思って!」
お姉さんは僕の話を聞くと、じゃあとびっきりのラッピングにしてあげるよと言ってお店の奥に行ってしまった。
「ハルト、ユウマ、いいの見つかってよかったね!」
「「うん!!」」
僕たちがラッピングが終わるのを待っていると、ふと僕の目に、きらりと光る石が埋め込まれたネックレスが目に入る。
これ、カッコいいな……。
角度を変えるとキラキラと色を変え、七色に反射する。
粒は小さいけど、すごく惹かれるものがあった。
値段を確認すると、これもさっきのペリドットと同じ値段……。
コレも買うと、かなりの出費になってしまうけど……。
「お姉さん、これも……。これも、包んでもらえますか……?」
僕は勇気を出して、そのネックレスをお姉さんに手渡した。
「これも? 大事な人用でいい?」
「……はい!」
僕の答えにお姉さんは笑みを浮かべると、これもとびっきり最高にしてあげると言ってくれた。
「これは?」
代金を支払い、お礼を言って帰ろうとすると、お姉さんは僕たち三人に小さな石が嵌めこまれたブレスレットを手渡してきた。これも、さっきと同じペリドットかな?
「これは可愛い兄弟に、お姉さんから来店サービスだよ。さっきのより粒は小さいけど、付与はバッチリだから」
ハルトとユウマは手渡されたブレスレットを手に、カッコいいとはしゃいでいる。
「でも………」
「おっと、それは申し訳ないけど返品不可なんだ……。一度人の手に渡った物は、売り物にはしない主義なんでね?」
お姉さんは大袈裟に肩を竦めてウィンクする。絶対、確信犯だろう……。
そう言われると、断れないじゃないか……。
「じゃあ、有難くいただきます……!」
「いいよ。ちゃんと使ってやってくれ。私は普段王都にいるから、来た時は寄ってくれよ?」
「はい!」
「「はぁ~ぃ!!」」
お姉さんにお礼と別れを告げ、外で待ってくれていたアレクさんの元へ。
「どうだった? いいの見つかったか?」
アレクさんは優しく笑みを浮かべて、僕の髪を撫でてくれる。
「はい! すごくピッタリの物があって……! 早く渡したいです……!」
「そうか、よかった。あれ? それは?」
アレクさんは、僕たち三人の手首に巻かれたブレスレットに気付いた様だ。
「店主さんがサービスにってくれたんです。とってもいい人でした!」
「あれくさん、かっこいいですか?」
「にぁってゆ?」
ハルトとユウマも嬉しいのか、ブレスレットをアレクさんに見せて感想を訊いている。
「あぁ、ハルトとユウマもすっげぇ似合ってる! カッコいいぞ!」
「「やったぁ~!!」」
アレクさんは僕の代わりにユウマを抱っこし、僕はハルトと手を繋いで合流場所へ。
お二人へのプレゼントも買えたし、あのネックレスも……。
ちゃんと渡せるかは分からないけど、決心が着いたら……。
その時は、受け取ってもらえるかな……。
僕はそんな事を考えながら、トーマスさんたちの元へと歩みを進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。