第132話 秘伝のタレの秘密……?
グゥ~~~……、
「うぅ~……、おなか、空きました……」
カビーアさんのお店は大盛況に終わり、またお会いしましょうと握手して、ついさっき笑顔で別れたんだけど……。
カリーを食べ損ねたと思った途端、僕のお腹の虫が鳴き止まない……。
「手伝いはいいけど……。自分の事もちゃんと考えろよ?」
「はい……。ごめんなさい……」
アレクさんは僕に付き合って、串焼きの屋台に一緒に並んでくれている。
バージルさんやソフィアさんたちはと言うと、とっくにお昼も食べ終えて、皆でまた露店巡りを再開中。オリビアさんは軽く食べると言って、ソフィアさんとフローラさんと回るみたい。
ハルトはライアンくんと楽しそうに手を繋ぎ、ユウマはトーマスさんにベッタリでしばらくは離れそうにないだろうな。
つまり、僕とアレクさんだけ別行動という事になっているのだ。
「すみません、付き合わせちゃって……」
僕が思わずシュンとすると、アレクさんは仕方ないなぁという表情を浮かべながら溜息を吐いた。
「それは別にいいんだけど……。あ、ほら。もうすぐだぞ? どれにするんだ?」
「え? わぁ! どうしよう……! 全部美味しそう!」
アレクさんに言われて顔を上げると、あと二組で僕たちの順番が回ってくる。
通りを歩いてると、カビーアさんのカリーと同じくらいこのお店も大繁盛しているみたいで行列がなかなか途絶えない。
炭火焼きなのか、煙が凄いけど、タレの焼ける香ばしい匂いが……!
僕は確信している……。
ここのお店の店主さんは、僕の
「アレクさんは、もう何を注文するか決まってますか?」
焼き網の横には、大量に積まれた牛、豚、鳥、兎、猪の串の山が。
さっきから若い店員さんが補充しては店主さんが焼き、補充しては焼き、を繰り返している。
汗だくで大変そうだ。
「オレ? オレは牛串だな。ユイトは?」
「僕は……、兎肉と鳥肉……! あ、野菜串も美味しそう~!」
「食べきれなくても、残ったらオレが食ってやるよ」
「ホントですか? じゃあ甘えちゃおうかなぁ……」
「こんなので甘えた内に入んないって」
そんな事を話していると、もう次は僕たちの番。
お財布も持って準備万端!
「お待たせしました! 次のお客さんどうぞ!」
店主さんに呼ばれ、僕が注文しようとすると、
「この牛から猪まで二本ずつ。あと、この野菜串も二本ずつで」
「えっ!? そんなに!?」
僕が悩みに悩んで注文しようとしていたのに、まさか全部注文するなんて……!
「せっかくだし色々食べてみようぜ? 残ってもオレが食べるし」
「アレクさん……! 最高です……!」
「ハハ! マジで? やった!」
現金な奴だと思われたかもしれないけど、この場合は仕方ない。
だって全部食べたいからね!
だけど、代金はまたアレクさんが支払おうとしたので、今日は割り勘でと強めにお願いした。
渋々納得してくれたけど、奢ってもらってばかりだと気が引けるから。
「はいよ~! ありがとさん! 横で食べていくかい? それとも持って帰る?」
お店の隣にはテーブルが置かれ、そこで休憩出来るようになっている。
相席っぽいけど、他のお客さんたちも美味しそうに食べてるなぁ……。
「ユイト、ここでいいか?」
「はい! ここで食べたいです!」
「あいよ! 焼けたら持って行くから、席で待っててな!」
「わぁ~! 楽しみにしてます!」
「おぅ! 期待しといてくれ!」
僕たちがテーブルに向かうと、ちょうどお店に一番近い場所の席が空いた。
「いい匂いですねぇ~。楽しみだなぁ~!」
「なんか最近、タレが変わって美味しくなったって聞いたけど」
「そうなんですか……!」
それを聞いて、僕の読みは当たっていると確信した。
ますます楽しみだ!
「お待たせ! 串が二本ずつだったな!」
「わぁ! ありがとうございます!」
「おぉ~! やっぱ美味そうだな!」
僕たちの前に置かれた串焼きは、店主さんが炙ってすぐに持って来てくれたからか、香ばしいタレの匂いが鼻を擽り、食欲をそそる。
「冷めないうちに食べちゃいな!」
そう言うと、店主さんはまた行列の絶えないお店の方に戻って行った。
「アレクさん、食べましょう!」
「そうだな」
「「いただきます!!」」
タレがたっぷりついた串焼きを一口頬張った瞬間、口の中に甘辛いタレと、ぷりっぷりのお肉の食感が……!
すっっごく、美味しい……!
アレクさんもお気に召した様で、大きな口でお肉を頬張り味わっているみたい。
夢中になって食べていると、あんなにあった串焼きもいつの間にか残り僅か。
アレクさんもユイトの分、結局残らなかったな、と笑っている。
お腹も空いてたけど、やっぱりこのタレが美味しいんだよね~!
僕が残りの一本をもぐもぐと頬張っていると、お客さんの列も落ち着いたのか、僕たちの席に店主さんがやって来た。
「お味はどうだい? お気に召したかな?」
「はい! とっても美味しいです!」
「そうか、そいつは良かった!」
すると、店主さんは僕の顔をジッと凝視して、一人でうんうんと頷いている。
何だろう? 僕の顔に何か付いてる?
「お兄ちゃん、トーマスさんの家の子じゃないか?」
「えっ? なんで知ってるんですか?」
僕とこの店主さんは、今日初めて会ったはずなんだけど……?
アレクさんも僕と店主さんを交互に見て、首を傾げている。。
「前に、トーマスさんが連れてきたちびちゃんたちとそっくりだからな! あの子らが美味しそうに食べてくれたおかげで、この店にも家族連れも買いに来るようになってな~!」
「へぇ! そうだったんですか!?」
トーマスさんと一緒にギルドに行った日かな?
ハルトとユウマは本当に色々やってるなぁと感心してしまった。
「ギルドの近くだから冒険者はよく来るんだけど、女性客と子供連れがさっぱりでねぇ~。ちびちゃんたちが店の横で食べてるのを見てから、その後すぐに結構並んだんだよ!」
「そうなんですか……! あ、今日は一緒に来てるので後で挨拶にきますね!」
「いいよ、いいよ! 疲れるだろうしな! 代わりにこれをちびちゃんたちに持って行ってくれると助かるんだけどなぁ?」
店からのサービスだ、とポンと追加で置かれたのは、ユウマが好きな
これ、絶対美味しいやつ……! ユウマのゆぅくん、うれち! と言う声が聞こえてくる。
「え!? こんなにいいんですか?」
「いいよ! トーマスさんにもよろしく伝えといてくれ!」
満面の笑みを浮かべる店主さんに、僕はどうしても確認したい事があった。
「店主さん、少しお聞きしたい事があるんですけど……」
「聞きたい事? 何だい?」
僕は店主さんに近付き、他のお客さんたちに聞こえない様に、そっと耳打ちする。
「もしかしてこのタレ……、
僕の囁いた言葉に、店主さんはギョッとした顔をして後退る。
「ど、どうしてそれを……?」
店主さんは首に掛けたタオルで汗を拭きながら、かなり動揺しているみたいだ。
「……実は僕も、ゲンナイさんのお店で買ったんです……!」
「お兄ちゃんも……!? こりゃたまげた……!」
「ゲンナイさんが、買ってくれる人がもう一人いるって言ってたので、もしかしたらと思って……!」
「そうかい、まさかバレるとはなぁ~! この事は、誰にも秘密だぞ……?」
「もちろん……! 僕もまた買いに来ますね……!」
「ハハ! 有難いねぇ! サービスしてやるからまたおいで!」
「はい! ありがとうございます!」
ヒソヒソ話を終えて店主さんと握手を交わすと、店主さんはにこにこと笑いながらお店へ戻って行った。
「アレクさん、この後……」
僕が振り返ると、アレクさんは何故かムスッと口を尖らせていた。
「え……、どうしたんですか……?」
訳が分からずに訊いてみると、アレクさんは口を尖らせたままボソリと呟く。
「ユイトがオレの事、放っとくから……」
その答えに呆気に取られてしまう。
「えぇ~? ちょっと話してただけじゃないですか……」
「なんか楽しそうだったし……。いや、楽しそうなのはいいんだけど……」
「それで拗ねてたんですか?」
「別に拗ねてないし……」
「ふふ、アレクさんって時々子供みたいですよね~」
僕が堪らずに笑うと、アレクさんはバツが悪そうに頭を掻きだした。
「なんかこうしてると、アレクさんに会うの緊張してたのが、噓みたいです」
「緊張……?」
アレクさんは何が? という顔をするが、僕には大事件だったんだから!
「だって、昨日……」
僕がそこまで言うと、顔が自分でも分かるくらい熱くなっていく。
だけどその言葉だけでアレクさんは見る見るうちに元気になり、満面の笑みを浮かべている。
「ユイト! 次はどこを見る?」
僕の赤面とは逆に、アレクさんは元気いっぱいの様だ。
ハァ……、言わなきゃよかった……。
満面の笑みを浮かべるアレクさんに手を引かれ、僕たちは次のお店へと向かった。
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