第91話 反省会
「ほぉ……? それで今日は上手く出来たのか……?」
夕食時、今日のメニューは、ブレンダさんが失敗したエキス入りのフレンチトースト……、を出すわけにはいかないので、エキスの入っていない方の余った卵液で、僕が一口サイズのフレンチトーストを作ってみた。
食後のデザートには丁度いい量だ。
「いえ……、それが一枚も……」
「一枚も……?」
トーマスさんも少し驚いた様子だったけど、ユウマに催促されて、にこにこ顔でフレンチトーストを食べさせている。
「どうしてかしら……? もう少しで上手くいきそうなんだけど……」
「……すみません。私の腕が悪いばっかりに……」
「あら! ブレンダちゃん、そんなに落ち込まないで? 今日は緊張してたみたいだし仕方ないわ!」
そう、今日の夕食はブレンダさんも一緒。
余りの気落ちぶりに、オリビアさんが心配して夕食をどうかと誘ったのだ。初めは断っていたブレンダさんだったが、今日はハンバーグだと聞くとようやく首を縦に振った。
まぁ、そんなに量が無いから二個だけなんだけど、それでも美味しそうに食べてくれていた。
「ぶれんだちゃん、うまく、できない、ですか?」
落ち込むブレンダさんに、ハルトも心配そうだ。ユウマももぐもぐとデザートを頬張りながら、ブレンダさんを覗き込んでいる。
「そうなんだ……。教えてもらっているのに、申し訳ない……」
ハァ……、と溜息を漏らす姿は、哀愁が漂っている気がする……。
「ハルトちゃんとユウマちゃんも、お料理作ったでしょう? その時は緊張しなかった?」
「ん~、おりょうり、よろこんで、もらえるといいなって、おもってました」
「ゆぅくんもねぇ、おぃちくなぁれっておもった!」
「「ねぇ~」」
ハルトとユウマは仲良く顔を見合わせている。確かに教えているときも、二人とも緊張してなかった気がするなぁ……。
「おじぃちゃんと~、おばぁちゃんと~、おにぃちゃん。みんなのかお、かんがえてました」
ぶれんだちゃんは?
ハルトは指折り数えながら、ブレンダさんに問いかけた。
「私……? 私は……、失敗したらどうしよう、とか……。上手く作れるのか、心配で……」
自分の事ばっかりだな、とまた落ち込んでしまった。
「ぶれんだちゃん、すきなひと、かんがえてつくれば、だいじょうぶです」
「ゆぅくんもねぇ、いっぱぃかんがえたの! がんばってぇ!」
「うん……。次は、頑張るよ……」
「おうえん、してます!」
「ぶえんだちゃん! がんばれぇ~!」
「ふふ、ありがとう。なんだか元気が湧いてきたよ」
そう言ったブレンダさんの表情は、さっきよりも少し明るくなっていた。
*****
「ブレンダちゃん、大丈夫かしら……? 心配だわ……」
ブレンダさんが帰った後、皆でソファーで寛ぎながら、オリビアさんが溜息を吐く。
「次も教えるんだろう? きっと上手くいくさ」
「そうです! ぶれんだちゃん、だいじょうぶです!」
「うん! ゆぅくんおぅえんしゅる!」
「そうね、次はきっと大丈夫ね。今日は緊張しちゃったんだわ」
ハルトとユウマも、次は僕たちと一緒に見守るらしく、応援すると張り切っていた。
「それにしても、ブレンダさんが入れたエキス? あれすごい味でしたね……」
甘いと思って食べたときの、あの衝撃がなかなか消えない……。
オリビアさんも思い出したのか、凄い顔になっている……。
「エキス? 何の事だ?」
「ブレンダちゃんがね、アレンジを加えちゃって。グロディアスのエキスを混ぜちゃったのよ……」
「おいおい……。あんな高価なもの入れたのか……?」
トーマスさんはハァ……、と頭を押さえ溜息を吐き、何か考えている様子。
「……体調は? 二人とも変わりないか?」
「はい、今はなんとも……。オリビアさんは?」
「私もなんとも……。あ、少しポカポカするくらいかしら?」
「そうか、ならいい。あんまり余計な物は入れるなと教えて……。いや、次はオレも一緒にいよう……」
どうやら、僕が思っている以上にそのエキスは高価な物らしく、結局、次にブレンダさんが練習する日は皆総出で見守ることになりそうだ。
*****
ふと目が覚めると、今朝はなんだか、いつもより目覚めがスッキリしている様な気がする……。頭も冴えてるし、体が軽い……。
「おはようございます、オリビアさん」
「おはよう、ユイトくん」
お店に入ると、オリビアさんがすでに起きて仕込みの準備と朝食を作り始めていた。
「ユイトくん、今朝はいつもよりスッキリ目が覚めなかった?」
「オリビアさんもですか? 僕もです……! 疲れが無くなったというか、すっごく軽くて!」
「やっぱり? 私もなのよ~! そうすると、昨日のアレが原因かしら……?」
僕とオリビアさんは、昨日の苦いフレンチトーストを思い出す。
多分いま、僕たちは凄い顔をしていると思う……。
「やっぱり高価なだけあって、微量でも効果は凄いのね……」
「ですね……」
僕達は顔を見合わせ、深く頷く。
次はちゃんとブレンダさんを見張っていようと、二人で決心したのだった……。
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