第92話 メイソンさんとお食事会
「ありがとうございましたー!」
最後のお客様を見送り、今日も無事に閉店時間を迎える。
昨日今日と、お持ち帰りのハンバーガーを頼む人が増えていた。多分、今から夜番をする警備兵の人たちだと思う。いつもお疲れ様です、と言うと、驚いた後に嬉しそうに笑って礼を言われてしまった。
アイザックさんたちが宣伝してくれているのかも。またお礼を伝えなくちゃ。
「ユイトくん、パパっと仕込み終わらせちゃいましょ! 今日はすぐ出来ちゃいそうだもの!」
「そうですね! 早く終わらせて夕食の準備しましょうか!」
あれからエキスの効果はまだ持続していて、営業中もいつもより動けていた気がする。普段って知らないうちに疲れが溜まっていたんだなぁと実感した。
思わぬ恩恵に、ブレンダさんには絶対成功させてあげたいと謎の使命感が湧いてきた。
「メイソンさんもいっぱい食べそうですよね、体も大きいし。ピザも大きくしますか?」
「そうね、トーマスもいるし大きくしちゃいましょ! その方がパーティーみたいで楽しいわ!」
「そうですね、アヒージョも気に入ってもらえるといいんですけど……」
「それは心配しなくても大丈夫よ! あんなに美味しいんだもの! 残っても私が食べるから心配しないで!」
「は、はい……!」
今夜は夕食にメイソンさんを誘って、皆でお礼をしようとトーマスさんが提案してくれた。
僕もすごくお世話になったのに、未だにお礼を伝えていないのを反省している……。
メイソンさんは気にしていなかったとトーマスさんは言ってたけど、今夜は絶対に美味しい料理をご馳走したい……! 僕のやる気は漲っていた……!
「この黒いソース? これが美味しいの?」
「はい! ソフィアさんに分けてもらえてラッキーでした! これがあると、僕の好きな料理が色々作れちゃうんです!」
そう! 今夜は、僕とハルトとユウマも大好きなあの料理を作ろうと思う! まだ秘密だけど、喜ぶぞ、きっと! 二人とも美味しいって思ってくれたらいいなぁ……!
「そうなの? じゃあ今度の行商市、私も行こうかしら……?」
「え!? オリビアさんもですか?」
二週間後にある隣街・アドレイムの行商市。ソフィアさんがそこでこの
「だって、この黒いソースがあれば、美味しいものがたくさん出来るって事でしょう? ある分だけ買っちゃいましょう!」
「えぇ~!? まずは、今日の料理を食べてから判断しましょう……?」
「確認しなくても、ユイトくんのお料理には絶対の信頼を置いてるって言ったでしょ? 行くのが楽しみだわぁ~!」
そうなると、今夜のこのソーヤソースの活躍にかかっているな……。
腕によりをかけて作りたいと思います……!
「ユイトくん、本当に私にも内緒なの~?」
「はい……! 匂いでわかっちゃうと思うんですけど、これは食べてからのお楽しみにしていてください!」
「そんなに……? 期待しちゃうわぁ~……! じゃあ私、こっちでハンバーグとスープ作るわね~!」
「はい! お願いします!」
そう、これは食べてもらった方が一番分かると思うから!
まず用意するのは鶏肉、酒の代わりに白ワイン、塩、胡椒、
まずは鶏肉を食べやすい大きさに切り、白ワイン、塩、胡椒、すりおろしたジンジャーとガーリク、そしてソーヤソースを入れよく揉み込んで味を馴染ませる。
少し時間を置いたら、その上に片栗粉をまぶして更に揉み込むだけ。
それを油で揚げると、ジュワジュワ~っといい音と美味しそうな匂いが……!
うぅ~、早く食べたい……!
揚がったら一旦取り出し、少しだけ置いておく。後でもう一度揚げる予定。
そしてもう一つはピザなんだけど、これは前に作った物とは少し違う。
なんて言ったって、このソーヤソースがあるからね!
トーマスさんが美味しいと言ってくれた炙り焼きチキンに、今夜はこのソーヤソースで作った照り焼きソースを塗っちゃいます……。
絶対美味しい。間違いない。
まずは、みりんが無いので代用品として白ワインと砂糖を使用。それにこのソーヤソースを入れて中火で煮詰めるだけで、いい匂いのする照り焼きソースが簡単に作れてしまう……!
そして照り焼きソースを満遍なく塗ったチキンとパタータ、
「「ゴク……ッ、」」
……ん?
僕が匂いを堪能していると、後ろの方で何か聞こえた様な……?
振り返ると、そこにはハルトを抱っこしたトーマスさんと、ユウマを片手に抱っこするメイソンさんが立っていた。
「メイソンさん! ご無沙汰してます! お礼が遅れてごめんなさい!」
僕が慌ててキッチンから出ると、メイソンさんは目を丸くして驚いていた。
「気にする事はない。しかし、旨そうな匂いだな……?」
メイソンさんは鼻をスンスンと鳴らし、この匂いを嗅いでいる。
ユウマもメイソンさんの真似をして、スンスンしているのが可愛らしい。
「もうすぐ出来るんで、テーブルに座って待っていてください!」
「分かった。メイソン、こっちだ」
「あぁ、それにしても旨そうだ……」
席に案内されながらも、メイソンさんはずっと匂いを嗅いでいる。これを見たら、誰も怖いなんて思わないよなぁ、と少しだけ笑ってしまった。
「今夜はとっておきなのよ! トーマスも覚悟しておいた方がいいわ!」
「そんなにか? 確かにいつもと違う匂いがするな……?」
「そうなの! 私、隣にいるだけでお腹が空いてツラくって……!」
オリビアさんはトマトソースで煮込んだハンバーグとサラダ、スープと白パンをテーブルに並べ、この匂いがどんなに辛かったか力説している。今日は仕方ないと僕も思う。
だって、僕もさっきからぐうぐうお腹の音が凄いから……。
「さ、お待たせしました! 今夜はいつもと違うソースが手に入ったので特別です!」
「「おぉ~~~~……!」」
僕がテーブルにドン! と大皿を並べていくと、トーマスさんとメイソンさんから歓声が上がった。ハルトとユウマも見慣れたアレにはしゃいでいる様だ。
「まず、こちらの大皿にあるのは、鶏もも肉を調味料で漬け込んだ
骨は付いていないけど、大皿にてんこ盛りに盛った唐揚げの山は圧巻だ。これにはハルトとユウマも目をキラキラと輝かせ、期待に満ちた目で待っている。僕も早く食べたい……。
「次はトーマスさんが好きな炙り焼きチキンのピザ! ……ですが、今回は少し違います……! チキンにこの照り焼きソースを塗った事で、以前よりももっと深い味わいになっているはずです……!」
これにはトーマスさんが喉をゴクリと鳴らし、早く食べたいと目で訴えてくる……。あともう少しなので待っていてください……。
「あとはメニューにもあるハンバーグと、トーマスさんとオリビアさんも好きなアヒージョです! 熱いので気を付けてくださいね!」
僕以外は皆、すでに食べる準備万端の様子。
「では、メイソンさんに感謝を込めて! いただきまぁーす!」
「「「「いただきます(しゅ)!」」」」
「……え? い、いただきます……!」
メイソンさんは少しだけ戸惑いつつも、僕とオリビアさんが取り分けたフライドチキンとピザ、ハンバーグを旨い旨いと言って、味わいながら食べている。
最近、たくさん食べる人たちを見ているせいか、メイソンさんは食べ方が上品だな、と思ってしまう。だけどそれは仕方ないと思うんだ……。
トーマスさんもオリビアさんも、前とは違うチキンピザに感動している様で、今日はメイソンさんだけなので、ゆっくりと味わって食べていた。
誰かと一緒に食べるのに、こんなにゆっくりできるのは久しぶりなんじゃ……?
ハルトとユウマは、久し振りに食べた唐揚げを口いっぱいに頬張り、メイソンさんに笑われている。孫も大きくなったら、こんな風に食べるんだろうか、と産まれてくるお孫さんを楽しみにしていた。
そして僕も念願のフライドチキン……、もとい、唐揚げをパクリ。
噛んだ瞬間に、口の中にジュワァ~っと肉汁が溢れてくる。外もカリッとして香ばしい。何といってもこのソーヤソースのおかげで、念願だった唐揚げをこっちでも食べれる事に猛烈に感動している……!
ソフィアさん……、ありがとうございます……!
僕はソフィアさんのいる牧場を思いながら、心の中で深く感謝した……。
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