第42話 ぽかぽか陽気の昼下がり


「ついて来たのか……」

「そうみたいです……」


 頭を抱えるトーマスさんと僕に、にこにこと笑いかける妖精さん……。うん、とっても可愛い……。

 ハルトとユウマは、テーブルの上にちょこんと座る妖精さんを、かわいぃねぇと言いながら興味津々といった様子で見つめている。

 オリビアさんは叫びださない様に、両手で口を塞いでいる。

 オリビアさん、可愛いもの好きだからね。


 どうしてトーマスさんが頭を抱えているかと言うと、妖精は人前に現れないのが常で、もし見つかったら研究や見世物として捕まってしまうかもしれないと危惧しているかららしい。

 そうだよね、いきなり今まで見えなかったものが現れたら、驚くし興味も湧くよね……。


「ねぇ、妖精さん。なんでついて来ちゃったの?」


 僕の問いかけにきょとんと首を傾げた後、小さな両手を口元に持っていき、大きく口を開け食べる仕草をした。

 ……あ、もしかして。


「僕がお菓子を持ってくるって言ったから?」


 そう訊ねると、妖精さんは正解! とでも言う様に満面の笑みを浮かべ、こっくりと大きく頷いた。


「う~ん……。悩んでても仕方ないし、とりあえず昼食を済ませましょうか……? 冷めちゃうものね」

「そうだな……。食べてから考えよう」

「ようせいさん、ごはん、たべますか?」

「ゆぅくん、いっちょにたべたぃ!」


 一緒に食べたいと聞いた途端、妖精さんは羽をぱたぱたとはためかせ、ユウマの肩にちょこんと座った。

 それを見て、きゃあきゃあとはしゃぐユウマとハルト。

 トーマスさんとオリビアさんは考えるのを放棄した様で、可愛いを堪能する事に決めたらしい。


「そういえば妖精って、食事は食べられるの? お菓子が欲しくてついて来たなんて、初めて聞いてビックリしちゃったわ!」

「それがまだ分からないんだよ。お菓子がどんなものか、知っているのかさえも怪しいしなぁ……」


 トーマスさんは腕を組み、どうだろうなぁ~、と妖精さんを困った顔で見つめている。


「一度どんなものが食べられるか、少しずつあげてみますか?」

「ぼく、ぱすてく、あげます!」

「ゆぅくんも!」


 妖精さんは首を傾げた後、にっこり微笑んだ。

 たぶん西瓜パステクが何かわかっていないと思う。でも、とっても可愛い。


 オリビアさんが用意してくれた昼食は、茹で卵を粗く刻んでマヨネーズで和えた玉子サンド。ブラートパタータ、キャベツキャベジとトマトのスープに牛乳だ。

 昼食後は、デザートにパステクを皆で食べる予定。


「さ、冷めないうちに食べちゃいましょ! 召し上がれ!」

「「「「いただきます(まちゅ)!」」」」


 妖精さんに僕の分の昼食を少しずつあげてみようとしたら、オリビアさんに別に用意するから先に食べなさいと促された。

 妖精さん、ごめんね。先にいただきます。妖精さんはにっこりと微笑んでくれた。


 まずは玉子サンドをパクっと一口。


「ん~、美味しい~!」


 僕、卵がゴロゴロ入ってる方が好きなんだよな。だからこれは大きさもマヨの量も僕の好みですっごく美味しい! あと一つあるけど、また最後に食べよう。


 ブラートパタータは、こちらの世界に来てからオリビアさんに初めて教えてもらった思い出の料理。簡単に言うとじゃが芋パタータとベーコンの炒め物。今日はアスパラアスパラゴも入ってる。トーマスさんがこれを食べてお酒が欲しいと言ってたな。


「これもパタータがホクホクで美味しいですね~!」


 多めに盛ってくれていたのに、美味しくてペロッと食べてしまい少し残念。

 ……と、思っていたらオリビアさんが料理を分けてくれた。申し訳ないなと思っていたら、食べ盛りなんだから遠慮せずにしっかり食べなさいと笑っていた。


 次はキャベジとトマトのスープ。

 キャベジは触感を残しながらも柔らかく煮込まれていて、噛むとほんのり甘味を感じる。トマトのほのかな酸味とすごく合い、スープを飲むと身体もポッカポカだ。


 そして一切れ残しておいた玉子サンド!

 あ~食べ終わるのが勿体ない! でも、美味しいからすぐに無くなってしまった……。

 最後に牛乳を飲み切って、


「ご馳走さまでした!」


 はぁ~、満足! お腹を撫でていると、ハルトとユウマがこちらを見てにやにやというか、によによというか……。すると、いきなりハルトが立ち上がり、


「おにぃちゃん! ぜんぶ、たべました!」

「じぇんぶ、はるくんとゆぅくんでちゅくったの!」

「「やったぁ~!」」


 え!? ハルトとユウマで作ったの!? 


 思わずオリビアさんを見ると満面の笑みで親指を立てていた。

 どうやらトーマスさんも知っていた様で……。あ! だから森に連れて行ってくれたのか!! はぁああ~~~! そうか、皆で内緒にしてたのか……! 

 もう~~! ユウマもいきなり立ち上がるから、妖精さんビックリしてるよ! でも楽しそうにしてる! よかった!


「ハルト! ユウマ! すっごく美味しかったよ! お兄ちゃんビックリしちゃった!」

「ほんと~? やったぁ~! ゆぅくん、やりました!」

「にぃにおぃちぃって! うれちぃねぇ!」

「教えてくれれば、もっと味わって食べたのにぃ~~!! もったいないよ~~~!」


 二人をぎゅうっと抱きしめれば、とっても嬉しそうにはしゃいでいる。弟たちが可愛くて仕方がない。


「お兄ちゃん、ハルトとユウマのお兄ちゃんで、ホントに良かった……!」


 思わず抱きしめながらポツリと呟くと、おにぃちゃんがおにぃちゃんでよかった、と小さい手でぎゅうっと抱きしめてくれた。

 後ろでオリビアさんの嗚咽が聞こえるけど、たぶん問題ない筈だ。





 オリビアさんも落ち着き、昼食の続き。僕の反応を窺うために、皆食べていなかったからね。よく味わって食べてください。


「僕、こんなに嬉しくなるなんて、知りませんでした……」


 妖精さんをかまいながら、トーマスさんとオリビアさんに伝えると、


「オレもオリビアも、初めてな事尽くしだよ。ユイトたちが来てから毎日飽きないな」

「私たちも毎日楽しくて、若返った気分よ」


 と、笑ってウインクされた。

 妖精さんもそれを見て、真似しようと両目を瞑っている。とっても可愛い。


「さ、妖精さんには少しずつ切り分けたから、大きさ的には大丈夫だと思うわ」


 そう言って、オリビアさんが細かくした昼食を持ってきてくれた。スプーンやフォークは大きすぎるので、串をさらに短く切ったものを刺して食べてみてもらう事に。


「妖精さん、どうぞ」


 妖精さんは料理を興味深そうに眺め、まずはハルトたちの見よう見まねで玉子サンドをパクリ。

 もぐもぐと小さい口を動かし、ごくんと飲み込んだ。すると、ぱぁあああっと効果音が付きそうなほど目を輝かせ、若干光っているようにも見える。

 ハルトとユウマは妖精さんの反応が気になる様で、食べるのを忘れてこちらを凝視していた。


 次はブラートパタータ。

 しかしベーコンは食べれないようで残してしまった。


「気にしなくても大丈夫だよ」


 心なしかシュンとして見えるので、残してごめんなさいと言っているように感じる。


 スープは丁度いい器が見当たらなかったので、僕がスプーンを持って、それを妖精さんが飲む形にした。


「美味しかったみたいですね」


 スープも気に入った様で、羽がゆらりゆらりと揺れている。


 そして最後に牛乳をスプーンで飲んで、妖精さんの初めてのお食事は一旦終了。

 ベーコン以外は気に入ってくれた様で、ハルトとユウマも大喜び。


 トーマスさんもオリビアさんも、妖精もちゃんと食事するんだな、とビックリしていた。

 ちょっとお腹がいっぱいになってしまった様で、コクリコクリと舟をこいでいる。

 ユウマもそれを見て眠くなってきた様で、皆でお昼寝をする事に。楽しみにしていたパステクは、お昼寝の後に持ち越しだ。


「ほら、ハルト、ユウマ、こっちで寝よ」


 ハルトとユウマをベッドに寝かせ、妖精さんも潰されない様に、机の上に柔らかいタオルを置いてそこでお昼寝してもらう。


 ふわぁ~


 ぽかぽか陽気の昼下がり。

 弟たちの寝顔を見ながら僕もいつの間にかウトウトしていた様で、遠くでトーマスさんとオリビアさんのおやすみなさい、と言う声が聞こえた気がした。

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