第3話 は?聞かぬが仏だなんて、ただのヘタレの言い訳じゃん。
「ちょっと!今日はソーダじゃなくて、コーラの気分なんだけど!」
私は、坊主の男の子がアイスにかぶりついているパッケージを指さすと、不満げにそう言う。
「はぁ?ゲソゲソ君っつったら、ソーダに決まってんだろ!」
ほんっと。分かってないなぁ。
「もちろんソーダもいいけど、さすがに1週間連続ソーダはきついって…」
「なら、お前が自分で買えばいいじゃんか!」
私は佐藤を見つめると、むーっとする。
「ひどっ!彼氏になるって言ったのは、そっちなのに!」
私はそう言うと、持ち前の演技力で、泣きまねをする。
「ひどいよ…佐藤…」
目をうるうるとさせながら、上目遣い!
これでおちないやつはいない!
「ちょっ…そんな泣かなくても!」
周りを通る人からも、かわいそう。ひどい男ね。などと、ぼそぼそと言われる。
それに耐えきれなくなったのか、佐藤は困った顔をすると、
「わーったよ。コーラな!」
そうやけくそに言う。
「…やっぱ、リッチがいいな。ほら、新作の、闇鍋味」
「はぁ?あり得ねぇって!お前、途中でもう無理とか言うなよな!絶対!ちゃんと全部食べるんだからな!」
ーなんだかんだ言って、いつもちゃんといろいろ考えてくれるんだよなー。佐藤って。
「は~い!」
涙をひっこめると、へへっといたずらっぽく笑い、舌を出す。
「おまっ…!うそ泣きかよ!」
「バ~カ!こんなことで普通泣くわけないだろ!」
あきれる佐藤の背中を押し、ほら行くよ!と、いつものコンビニへ行く。
「ほら。ゲソゲソ君闇鍋味あったよ!」
「うわ~!明らかにヤバそうなパッケージじゃん!」
「新作は、期待すべし。」
私たちが笑いながら話していると、後ろにいた中学生っぽい男子2人組が、こっちを見てこそこそと話し出す。
「あの女の人、めっちゃ可愛いのに、なんであんな地味なやつと付き合ってんだろ。」
「確かに。つり合わねぇよな!」
その話を聞いて、ちらっと佐藤を見上げると、なんだか寂しそうな、辛そうな、そんな顔をしていた。
…。
「バ~カ!」
そう言って、私は佐藤のほっぺたをつねった。佐藤は、驚いた顔をしたけど、私は気にせずに続けた。
「ぼけーっとしてると、殺されるよ!」
「はい?」
佐藤は、面倒くさそうに、そう答える。
「佐藤を恨んでる人に!」
「はぁ?誰だよ。」
「私!」
そう私が答えると、佐藤は一瞬ポカンとしたあと、ガハハと笑い、
「そーだな。じゃ、お前にだけは殺されねぇようにしねぇとな。お前、凶暴だし。」
と言う。
「きょーぼーじゃ、ないしー!」
私も笑いながら言う。
さっきの、辛そうな顔が消えた佐藤を見て、私もほっとする。
優しく微笑んだあと、ばーかと口パクで言う。
すると、さいてーな彼女だ。と、口パクで言い返されたから、
「特大ブーメラン」
とでも言っとく。
「それよりどうなんだよ。闇鍋味」
「あー。これ?」
と、私は真っ黒のパッケージを指さす。
「くそまずい!」
「ほら!だから言ったろ?」
「はぁー。じゃ、仕方ないなぁ。明日は私が奢ってやるよ。」
「おっ。まじ?何味?」
「…闇鍋味。」
「うわっ。最悪!」
そう言うと、また2人で笑う。
ねえ、佐藤。もしもまた、私たちが誰かに悪く言われたら、聞かないふりとか、強がったりとか、もうしなくていいよね。
あの時佐藤が、私の涙を笑顔に変えてくれたように。
「ちょっと、この味一口くれない?」
「いーよ。」
私も。
「うわっ!これまっ…いや、意外といけるわこれ。」
「はぁ?嘘でしょ?しかもソーダ信者が!」
あんたの、辛さを、寂しさも。
全部笑顔に変えてあげるよ。
「…あんたは、どうせ私とつり合うわけないんだから、気にしなくていいよ。」
「ほんとにお前ってやつは…」
2人で。笑っていようよ。
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