第2話 いや、そのノリが、ノリノリ過ぎる件について。

「ああ。まじたぜ。」

いや、いや、いやー。ないわ。そっ。これはドッキリ。そうでしょ?

「佐藤~?」

「んじゃ。お前らはせいぜい騒いでろよ。俺はさとねとデートでも行ってくるわ。」

ちょっ。まじこいつ何考えてんの?

「ちょっと!!あん…」

「なあ。」

「お前さ、昨日聞いてただろ?」

「は?何が。」

「奈々たちが、お前の悪口言ってるとこ。」

…こいつ、本当何が言いたいの?

「だったら、何?」

「…何とも、思わないのか?」

佐藤はそう言うと、少し驚いたような顔をした。

「別に。慣れてるし。」

そ。こんなこと、昔からよくある。だって仕方ないじゃん。私がこんなにも可愛くて、何でもできちゃうんだから。そう。嫉妬だよ、嫉妬。

「じゃあ何で、泣いてたんだよ。」

…それは、ちょっとだけ、期待してたからかもしれない。みんなといるときは楽しかったし。

…でも、やっぱりそんなことなかったんだね。私が、期待し過ぎてた。それだけだよ。それだけ。

「さとね?やっぱり…」

何で。何で?悲しくなんてないのに。こんなことくらい、分かってたのに!何で、涙が…

「俺が、嫌なんだよ。」

佐藤はそう言うと、私を抱きしめた。

「ちょっ、ちょっと!」

「お前は、自意識過剰で、意地っ張りで、すぐ泣くくらい弱くて。」

「はぁ?あんたに何が!」

「ただ、自意識過剰だけど、その分自分のことをよく分かってて、自分にできることを考えて、相手のためにそのできることを精一杯やる。それから、意地っ張りな分、誰よりも努力をして、すぐ泣くくらい、優しい。」

「…佐藤。」

「俺のせい、だろ?俺がお前を普通だって言ったから。だからあいつらは盛り上がってたんだろ?」

…そうだよ。あんたのせいだよ。佐藤のせい。全部、全部。

「…違う、よ。もともと、私は言われてたと思うよ。直接聞いたのは、はじめてだったけど、でも多分、昔から。…嫌味なやつだ。って。」

そう言って、私は寂しそうに笑った。

「何でお前は、つらいのに、笑うんだ?つらいときくらい、泣いたっていいはずなのに。」

「んー。なんかさー。笑ってると、つらさ紛らわせられない?」

私はそう言うと、また笑った。

「それに、あんたみたいな、いやーなやつに、本性がバレないようにするためね。」

今度は意地悪く、笑う。

「ふっ。やっぱさとねは、つえーな。」

そう言いながら、私の頭をぽんと叩いた。

…あっ。そうだ。

「それより、何であんなこと言ったのさ。」

「ん?あんなことって?」

「ほら、そのー。私達が、付き合ってるー。とか何とか。」

「あー。あれか。あれはお前が不特定多数の男子を誘惑して、彼氏つくんないくせにみんなからチヤホヤされてウザいって言われたから。ほら、彼氏がいたら言われないだろ?」

…なんじゃそれ?

「は?それだけで?ってか、そんなことまで言われてたんだ。いや、でもそれじゃあんたにも迷惑かかるじゃん。」

そうだよ。何で私のためにそこまで。

「でもなんかさ、聞いちゃった罪悪感ってゆーか。ほら、俺聞いてるだけで何も言えなかったし。」

「…あんた、私のこと好きでしょ。」

「それに、お前の彼氏ってだけで俺のポジション上がるし。」

「っ。さいってーっ!」

なんだよ。ちょっとでもドキッとしたの返してよ。

「てか、そっちがほんとの理由でしょ?」

「あっ。バレた?」

むっ。やっぱこいつはヒドイやつだ。

「私が人気者になったら、あんたなんかすぐ捨ててやる!」

私はイーッとしてみる。

「はいはい、できたらねー。」

「うん!明日にでもなるから!その上あんたにいじめられたって、被害者ぶってやるから!」

「うわっ。最低な女と付き合っちまったな。」

「こっちこそ!それより、アイス。」

「は?」

「おごって。彼氏でしょ?」

「こういうときだけ彼氏かよ。いつも子供扱いするくせに、都合のいいときだけ高校生とか兄ちゃん扱いする母ちゃんかよ!」

ふふ。

「ほら、ゲソゲソ君でいいから。」 

「あ。それ、安いしうまいから俺も好きだぜ。」

はぁ。なんか、嘘なのに、ノリだったのに。ノリノリになってません?佐藤も、…私も。でも、思っちゃったよ。ちょっとだけ、いいやつかもって。


ー「お前らどっちから告ったのかよ。」

「もちろん佐藤!」

「もちろんさとね!」

やっぱり最低。

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