第8話 言いたくない……
「狭いわね! 寝れないわ!」
「…………」
「ちょっと聞いてる?」
「…………」
「返事しなさいよ!」
「……テント奪われて……外で寝ている僕にそれを言いますか、そうですか……」
僕はジェシカの隣で寝ている、ただし……テントの外、布を挟んでの隣だけど……。
一応、パーティーにいた時も、テントを使わせて貰えない事が多いので、寝袋は持っていた。でも……それもジェシカに奪われ僕は仕方なくバックパック中身を抜いてその中に入って寝ていた。
「荷物の中身は入れてあげたでしょ? それに広いし星も見えるし素敵じゃない?」
「はい、ありがとうございます」
嫌み満載の棒読みで返事をする。
「どういたしまいして、お陰で狭いったらないわ」
全く通じなかった……。
結局何も出来ない、何もしないジェシカ、なのでキャンプ地の設営を全て一人でこなす。
森に近いこの場所、森より安全だが、魔物が全く現れないわけではない。
何もしなければ、朝を迎える事なく天国召される事になる。
ジェシカが呑気に身体を拭いている間に僕はテントを設置、薪を拾い集め火をおこす。
その火を使い、鍋で豆のスープを作る。
スープが煮える間に周囲に罠を仕掛け魔物が嫌う匂いのする袋を配置、さらに広範囲に細くて頑丈な糸を張り巡らせる。
その糸の端、本来はテントの中に通すのだけど、今は僕の寝ている頭上にある。
糸の先には重りがついていて、どこかで切れれば重りが落ちる仕組みだ。
通常パーティーの場合見張りを付ける。
最も長い時間見張りをさせられるのは非戦闘員であるポーターの僕……そこで編み出した方法。
これでつい居眠りをしていても、いきなり襲われる事はなくなった。
そして……僕がそれらを設置している間、ジェシカは勝手に豆スープを飲んでいた。
やっぱり助けなければ良かった……僕は改めてそう思っていた。
「ねえ……あんた何であんな所に一人でいたの?」
町や村から他に移動する場合、森を通るのが一番の近道だが、わざわざ危険な森を通り抜ける奴はいない。
森の周囲を大きく迂回して、町や村に宿泊し何日もかけて移動する。
どうしても通らなければならない時はパーティーを組むか、大金を出してボディーガードを数人雇うかのどちらかになる。
森に居るのはその移動パーティーと職業パーティーの二種類、単独行動する者はまず存在しない。
「──パーティーを追放された……」
「あははははは!」
「笑うなよ!」
「森の中で追放って……間抜けねえ」
「うるさい、仕方ないだろ、酔わされて朝置いてかれたんだから」
通常ポーターを置いて逃げ切るのは不可能だ。
戦闘職は武器や荷物を置いて逃げるわけにはいかない、全ての荷物を抱えてポーターから逃げ切るのは不可能に近い……なので最悪なパーティーの場合殺されてしまう事もある。
「あははははは、命は助けて貰ったんだから良いじゃない」
「ううう、人を見る目はあったんだけどなあ……」
「そうねえ、まあ職業パーティーの場合ギルドに申請がいるし、貴方の出身だったグラーブ村がかなり頑張って、ポーターの地位を向上させたし、最近は滅多にそういう事はなくなったけどねえ」
「……ジェシカはさ……何でそんな事まで知ってるの? それに、ジェシカこそあそこで何をしてたの?」
「…………言いたくない」
さっきまで、いや今までずっと明るく高いテンションで話していたジェシカはそう聞いた瞬間、とてつもなく暗い声に変わった。
「そか……」
僕にばっかりと思ったけど……それ以上聞かなかった。
ドレス姿で一人森の中に……それは恐らく……。
でも……これからどうしよう……ジェシカはどうするのか……僕はどうすれば……。
先の見えない不安をこらえ、これからの事、ジェシカの事を考えながら眠りについた。
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