第7話 二人っきりのキャンプ

 ポーターとしては不便極まりない僕の魔法。

 自分を含めた物、それ自体の重さは変わらないのだから。


 無重力状態、僕はこれを0重力と呼んでいる。

 幸いな事に僕の魔法の力はそれほど強くはない……0重力になる事はない。


 それでもフルに能力を、魔法を発動すれば、歩く事も厄介となる。

 そう……大袈裟に言うとふわふわと浮いている様な……そんな状態になってしまう。

 走るには地面を蹴り、止まるには地面を踏ん張る。

 荷物自体が軽くなるなら、そんな事を気にする事はない。

 でも僕の魔法は違う、荷物の重さは、質量は変わらない。

 

 地表から伝わる重力自体を変えてしまう。

 だから走る時も、止まる時も、転回する時も、全て慎重に行動しなければならない。

 ポーターとしては、不便極まりない最悪な魔法となる。


「ねえ、ねえってば」

 僕は黙っていた、荷物とジェシカを背負い、黙って森を歩いていた。


「ふん、まあいいわ……この程度なら、ね」


 それからジェシカは僕同様に黙りこんだ、寝ているわけではないが、何も言わずにただバックパックの上で空を見上げていた……。


 そして辺りが暗闇に包まれる頃、ようやく森を抜け出す。

 森を抜けたと言ってもまだ周囲には木や草が生い茂っている。

 林と言った方が良いだろう、勿論周囲に灯りは一切ない。


 空が、星空が見えれば方向もわかるが、木々が生い茂る真っ暗闇の林の中では方向もままならない。


 僕は立ち止まりそっとバックパックとジェシカを地面に下ろした。


「もう……ここで休まないと」


「……そうね」

 暗闇で動けば命に関わる……僕はそう判断をしてジェシカにそう提案した。

 

「こんな所で野宿?」ってまた怒られるかと思った。しかしジェシカは素直に僕の提案を受け入れてくれた。


 それにしても……変な人だ……一見旅慣れているかと思いきや、魔物の森に一人でいるし。そういった事に疎いのかと思えば、僕の家をズバリ言い当てさらには僕の隠している魔法まで見抜いてしまう。


 ジェシカは何やらごそごそと自分の荷物から何かを取り出していた。

 僕は構わずバックパックからテントを取り出し設置を開始する。

 仕事柄テントの設営はお手のもの、森や林、ダンジョンの中は木や岩にロープを結び付け、布を張るだけなので楽に設置出来る。


 逆に草原や高原、山岳や岩場では支柱が必要になるので時間が掛かる。

 今回は林の中なので手っ取り早く設置出来た。


「ジェシカさん……えっと」

 さっきは無視してしまったので、雰囲気が悪くなってしまっている。

 このまま二人っきりで夜を明かすのは嫌だなと、僕は、なにか話題をと振り向くと……。


「ば、馬鹿! こっちみんな!」

 ドレスを捲り水に濡らした布で身体を拭いているジェシカの姿が……。


「な、何でこんな所で!」


「汗が気持ち悪いの! いやらしい、見るな!」

 そう言ってジェシカは僕に背中を向けた。

 白い肌……細い手、足括れたウエスト……僕はその美しさに、目を反らせなかった。


「ご、ごめん」

 とりあえず背中を見つつジェシカに謝る。僕はこれから彼女と一晩一緒に過ごす……。

 大丈夫パーティーでも、女子がいた事もあるのだから……でも……テントは一つだけ。

 そう……寝る場所は一つしかない……つまり……一緒に? 


 ジェシカとの長い夜が始まった。



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