956. 普通に口が悪い
【後半12分41秒 市川ノノ(PK)
14分10秒 栗宮未来(PK)
山嵜高校12-0葉山中央高校】
ブレブレの判定基準が逆に功を奏した。
再度セカンドセットへ入れ替わりプレー強度を保つことで、またも葉山中央の荒っぽいプレーが目立ち始める。気付けばファールも蓄積。
続けざまにホイッスルが鳴り、山嵜へ第二PKが与えられる。一つは自らファールをゲットしたノノが。もう一つはベンチで不貞腐れ始めたミクルを緊急投入し決めさせる格好となった。
「ハーーッハッハッハ!! 見たか貴様たち、聖堕天使の大いなる力をッ!! 我がサンクチュアリに一片の陰り無しッ!!」
「ダメ押しのダメ押しやっちゅうに、ようあんなんで喜べるなアイツ」
「鬱憤溜ってたんじゃないですか」
呆れる文香とノノを放置しスタンドへ走り出すと、謎の変身ポーズを披露し観客を煽るミクル。流石のファビアンたちも微妙な反応であった。
程なく試合終了のホイッスル。結果はとっくのとうに見えていたが、山嵜の応援団たちは大いに沸き上がる。
ファイナルスコア、12対0。
圧巻のゴールショーで初戦を見事に飾った。
「いやぁぁ~……強かったっす……」
「お疲れさん。お互い頑張ろな」
「すいませんホントに。俺ら初心者多くて、その辺のブレーキ全然利かなかったというか……」
「ええよもう。そっちも怪我せんで良かったわ」
整列後の挨拶、ガックリ肩を落とす10番の瀬川。他の面々も後半のファールを気にしていたのか、申し訳なさそうに首を下げる姿が印象的。
すると例のド腐れ審判団。厳密には荒らしに荒らしまくった主審が俺を呼び寄せる。なんだ、やっと謝る気になったか。
「キミ。試合中なんだけど、ちょっと手癖が悪いよ。反則に見えるプレーが多いから、これからの試合気を付けなさい」
「……はいぃ?」
「後半はあんまり取らないようにしたけど、他の審判ならカード出てもおかしくないから。女子も多いんだし気を遣いなよ」
(駄目だこりゃ……ッ)
俺たちの実力とゴールショーを目の当たりにし改心したかと思いきや、最後まで尊大な態度を崩さないとんでも野郎であった。
あとで峯岸に頼んで、運営に意見書でも提出して貰おう……あんなレベルの審判がまかり通っているようじゃ、幾ら怪我人が出ても不思議じゃない。
「ハルト、もう気にしないの。ああいう審判はどこにでもいるんだから」
「いや、いねえって。なんでノーサイドのあとにグチグチ言われなきゃ……あんなレベルの低いレフェリー初めて遭遇したぞ」
「どーせガキだからって下に見てんだよ、言わせとけってハル。そのうち『サインもらえば良かったー!』ってコーカイさせてやるよっ!」
「あげてもメル〇リで売るやろあんな奴……」
二人の言う通りか。どうしようも出来ない大人はいるものだ……これからの試合で彼に当たらないことを祈るばかり。
さあ、一先ず初戦は終わった。
しっかりクールダウンして次に備えよう。
大会はまだまだ続く。大事な一歩だが、終わってしまえば数あるうちの一つに過ぎないのだから。まぁ、にしてもデカ過ぎる一歩だけどな。
【試合終了】
長瀬愛莉×3
廣瀬陽翔×2
市川ノノ×2
金澤瑞希
シルヴィア・トラショーラス
世良文香
長瀬真琴
栗宮未来
【山嵜高校12-0葉山中央高校】
* * * *
予選はすべて同じ会場で行われる。次節は翌日の第五試合だが、近場へ泊まるわけにもいかないので毎回帰宅だ。これが結構大変だったりする。
接触後も少々張り切ってしまった真琴を筆頭にケアが必要な子がいるので、みんな先に地元へと帰って行った。保科家の療院へ直行するらしい。
「なぜ私だけ残したんですか?」
「目の保養」
「……禁止にした筈です。愛莉さんに言い付けますよ」
「冗談やって」
(わしがおるんじゃけどなあ……)
ほとんど出番の無かった琴音、マネージャー聖来と三人だけでアリーナへ残る。目的は他校の偵察。
町田南のような強豪を除いて、対戦相手のデータはまったくと言って良いほど集まっていない。本大会は貴重な情報収集の場でもある。
既に同グループのもう一試合は後半へ突入していた。コートから遠いスタンド後部座席へ腰を下ろすと、早速ゴールが生まれる。
って、今ので5対0か。
こちらも結構な差が付いているな。
「勝っとる方……白のユニフォームが
「ふむ。フットサル部があるってとこか」
試合前にも聖来が話していた。同じグループFでウチの他に、唯一フットサル部を抱えている高校。それが東雲学園。
特にサッカーが強いとか、そういう話は聞いたこと無いんだよな……まぁ俺も関西の人間だし、東京の高校にはさほど詳しくないのだが。
「おーっと! 両手に華のお兄さん発見!」
「どっちが本命なんだよ、おい」
「アァ?」
背後からヘラついた中性的な声と、やや厳ついテノールボイス。他校の選手が喧嘩でも売りに来たのかと一瞬身構えるが。
「おひさ~アニキ~! ねえねえどっちか紹介して?」
「やめろ省吾。ちぇっ、試合後だってのにハッスルしてんな。殴りてえ」
「会話下手くそかよお前ら……久しぶり。相変わらずやな、二人とも」
西ヶ丘の藤村俊介。埼玉美園の堀省吾だ。約四か月ぶりとなる元チームメイトとの再会に、心なしか頬も緩んでしまう。
「陽翔さん、この方たちは?」
「セレゾンの同期。デカいのが藤村、小っちゃいのが堀や。覚えんでええよ」
「ご友人じゃないんですか……?」
違うよ。ただの旧友だよ。一度たりとも友達なんて思ったこと無いよ。嘘だけど。半分。
「ちょうど良かった。なあ藤村、東雲学園って対戦したことあるか? サッカー部の方でもええけど」
「早速そういう話かよ。クソ真面目なのは変わんねえな……ああ、あるぜ。去年インハイの都予選で、ベスト16で当たった。PK勝ちだったよ」
「結構強いんだな」
「ところがどっこい、選手権予選は二回戦落ち。エースが退部しちまったんだよ。ほら、アイツだ」
藤村の指差す先には、フットサルのエースナンバー、5番を背負った小柄な男性選手。クリアな茶髪が印象的だ。顔立ちも心なし端正に見える。
「
「…………いや、知らん」
「アニキは知らないっしょ、年下とプレーしたことほぼ無いんだから。アイツ、都のトレセンに入ってるんだよ。二年だけど飛び級で。去年トーソンと一緒にやったんだ。僕も埼玉トレセンだから対戦した」
トレセン、と聞いてもあまり有難みを感じないのは、たぶん谷口のせいだ。悪口だな、控えとこう。
「でも退部したんやろ?」
「そうなんだよね~、ほんでフットサル部に移ったみたい。事情は知らないけど。面白い選手だったんだけどなあ、コージと似た感じのアタッカーでさ。あ、どっちかって言うとアニキっぽいかな?」
「ああ。レフティーで持ちたがり……当時の廣瀬をショボくした感じだ」
「持ちたがり言うな」
お前らが頼りないから俺がキープしていたんだ、反省しろ下手くそどもめ。
ふむ。にしてもサッカー部を退部してフットサル部に移籍、か。彼も栗宮胡桃のような特殊な事情……もとい残念な性格だったりとか?
「どう聖来? なんか引っ掛かった?」
「…………名前だけじゃ。映像はねえな」
ノートパソコンを広げ聖来が調べるが、有益な情報は落ちていないようだ。まぁそれより目下のコートから集めるか。
右で受け斜めに侵入。男性選手から寄せられるが……おぉ、上手い切り返しだ。プレスを軽々と往なしてみせた。
逆サイドに構える女性選手へパス、と見せ掛けて更に自分で持ち出す。左脚を振り抜き……ほほう。
「決まりましたね……確かにあれは、陽翔さんの得意なプレーと同じです」
「まだまだ遅いけどな」
「自意識過剰は身を滅ぼしますよ」
「そんときは琴音に介錯して貰うからヘーキ」
「まったく……」
他の選手と比べても一枚、二枚は抜けている印象だ。都トレセンの経歴は伊達じゃないな。なんと言ってもこの二人が一目置くほどだ。
「どういう奴なんだ?」
「リトル廣瀬」
「は? なんそれ」
「性格だよ。とにかくストイックで他人を寄せ付けない、そういうタイプだ。俺らの代に混じっても物怖じしてなかったし。あと普通に口が悪い」
「そこだけ切り取って俺扱いすんなや……」
「え? 違うのか?」
「うるせえ死ね」
藤村に感謝するのも癪というものだが、おかげでなんとなく掴めて来た。
恐らく当時の俺と似たようなマインドの持ち主で、サッカー部でもチームメイトと衝突してしまったのだろう。そしてフットサル部へ流れて来たと。
一方で経歴は、あくまでトレセン止まり。俺の耳に入るようなズバ抜けた成績までは残していない……なるほど。確かにリトル俺、かも。
「まぁアレだよ。確かに良い選手だけど、今日の試合を見た限り……お前らの敵じゃねえだろ」
「なんや、馬鹿に優しいな」
「とにかく待ってっから。負けんなよ」
「……ん、おう。じゃあ必ずな」
かったるそうな目で俺を見下す藤村。その横で堀がニコニコ笑っていた。なんだ気持ち悪い。男のツンデレは流行らんぞ。
でも、そうだな。藤村の西ヶ丘とは組み合わせ上、準々決勝で対戦することとなる。
そのためにわざわざ教えてくれたのか……変なとこで優しい奴。だから彼女を寝取られるんだ。
「あっ、そうだそうだっ! トーソン、こんな話しに来たんじゃないって!」
「おっと! そうだったわ……なあ廣瀬、お前はこれ知ってたのか?」
「なにを?」
「これだよこれっ!」
途端に慌てた様子の二人。堀がスマホを突き出し、何やら画像を見せて来た。これは……町田南の試合結果だ。
「おう、知っとるで。45対0やろ。ホンマアタオカな連中やさかいに……」
「そうじゃなくて、得点者の欄だよ!」
どうやら試合前に愛莉と見た画面から、更に更新されているらしい。45点のうち、馬鹿みたいなゴール数を記録している選手がいた。
「な、何語じゃ……?」
「恐らくポルトガル圏の姓名かと……陽翔さん、この方もお知り合いですか?」
いくらスクロールしても延々と続くその名前。
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula.
Giuliano Kato de Paula……。
セレゾン黄金世代の秘密兵器。
僅か一年でチームを離れた天才ドリブラー。
アイツが、町田南の選手……!?
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