942. これ以上広げようがなかったショート×ショート


【戸籍】


ノノ

「陽翔センパーイ。次センパイの番なんで、ちゃちゃっと書いて愛莉センパイに渡しといてください」


陽翔

「なんこれ」


ノノ

「大会のパンフレットに載せるプロフィールです。ほら、選手名鑑とかによくあるじゃないですか。お決まりの質問に答えるやつ」


陽翔

「高校生の分際でそんなの書かされるのかよ」


ノノ

「載るのは全国大会のパンフからみたいですけどね〜。それに嫌なら空欄でも良いって、峯岸センセーが言ってました」


陽翔

「はぁ、顔と名前でプレーするちゃうねんぞまったく…………しゃあな。どうせ書かんでもいつかはバレるし、協力してやるか」


ノノ

「あとほら、名前とか細かいプロフィールとか、間違ってないか確認して欲しいそうです」


陽翔

「はいはいっと。えーっと名前の漢字はオッケーで、身長体重、出身地も……」


ノノ

「むふふっ。悪用しちゃダメですよぉ?」


陽翔

「悪用されるような身分の奴に非があるやろどう考えても…………ん?」



『市川暖々(二年)』



陽翔

「……ノノってこういう字なの?」


ノノ

「いま知ったんですか逆に」


陽翔

「てっきりカタカナが本名かと」


ノノ

「誰も読めないんでいっつも簡略化してるんですよ。だいたい日本人の名前がカタカナっておかしいと思わなかったんですか?」


陽翔

「それは偏見やろ……まぁでも、ノノらしい名前ではあるな。お前、暖かいし。色々と」


ノノ

「おっほっほ。練習終わったら早速下ネタですか。流石はセンパイ。今日泊まりますね」


陽翔

「なんでそうなる??」



【ある日の一年A組】


真琴

「はぁぁぁぁ~~…………」


慧ちゃん

「真琴氏が朝からぐったりしてるっス」


克真

「ブランコスがまた負けたんだよ。ついに降格圏まで落ちたから……」


慧ちゃん

「あーっ、横浜のチームっスよね! あれ、克真がいたとこだっけ?」


克真

「いや、オレは川崎フロレンツィア。しかも昨日はウチとのダービーでさ……あ、やっべ」


真琴

「ねえ和田。あのレアンドロとかいうブラジル人なんなの? 元代表とか反則過ぎない? 金にモノ言わせて勝って楽しい? だいたいさフロレンツィアのサッカーは国内じゃ良いケドアジアじゃ通用しないんだよね中盤もテクニシャンばっかりで戦えるタイプじゃないしそれとゴールキーパーも……」ブツブツ


克真

「なんだよっ!? オレに文句言うなって!?」


真琴

「なんか最近調子良いくらいで強豪面しちゃってるしさブランコスの方が歴史も長いしタイトル取った数も多いしちょっと本拠地が近いくらいでダービーとかライバル面しないで欲しいんだよねウチからしたら長いリーグ戦のたかが一敗だしホームで勝ったくらいであんな大喜びされてもウチとしてはちっとも気にならないしていうかもうすぐアジアの大会始まるんだから左サイドバック補強しないとまたグループリーグで敗退するね間違いないあとレアンドロはもっと良い選手だからフロレンツィアじゃ使いこなせないよさっさとウチに……」ブツブツ


克真

「分かった分かった!? ブランコスも強いからっ! 今は調子落してるだけで凄いチームだからっ!! これで満足!?」


真琴

「その気持ちは態度で表して。はい100円」


克真

「サラッとパシリにするなっ!?」


慧ちゃん

(なんだかんだ相性良いっスよね~……)アタタカイメ



【キッシュ】


(お花見から二日後くらい)


有希

「ふぅ~……! 一気に全部読んじゃいましたっ……文香さん、これの続きは無いんですか?」


文香

「ウチやなくてトガシに聞いたってくれや。誰も知らへんねん……ゲッ、最悪や。2パーで普通怪我せんやろ~!」


有希

「うぅっ、一番良いところなのに……って、そろそろお昼ですねっ。文香さん、なにか食べたいものはありますか?」


文香

「おっ。ユッキ料理できんのか?」


有希

「バッチリですっ! 一人暮らしのためにいっぱい特訓して来たんですよっ」


文香

「お~そりゃ頼もしいなぁ~。いやなぁウチも言うて作れへんことも無いんやけどなぁ。はーくんを筆頭にど~も不評やねんなぁ……」


有希

「じゃあ、わたしと一緒に作りましょうっ! 一緒ならお互いのダメなところとかが分かって、相乗効果になると思いますっ!」


文香

「ええな、ええな! ウチも今日くらいから作って、はーくんに食わせよう思うとったさかいに」


有希

「……そうですね。ここは一時休戦と行きましょう。張り合っても廣瀬さんは喜びませんっ」


文香

「せやな。これは間違いなく争いになる……張り合うより先に、まずはーくんの胃袋を掴まなアカンからな!」


有希

「では、協力しましょうっ! えーっと、じゃあ、なにを作りますか?」


文香

「…………キッシュ」


有希

「きっしゅ?」


文香

「いやな、今なんとな~く頭に浮かんでんねん。名前だけこう、ビビッと。なんか作ってみたいなぁて。ユッキ知っとる?」


有希

「……知らないです」


文香

「うむ。ウチも知らん」


有希

「……作りましょう」(自信)


文香

「作るか」(とにもかくにも食べたい)


有希

「たぶん大丈夫だと思いますっ!」(確信)


文香

「おっしゃ、買い物行くかぁ!」(まだ出逢って日が浅いので、有希が料理上手だと勘違いしている)


有希

「行きましょうっ!」(まだ出逢って日が浅いので、文香が料理上手だと勘違いしている)



(徒歩30秒のデパート)


有希

「まずはイメージを固めましょうっ。文香さん、キッシュってどういうイメージですかっ?」


文香

「……黄色?」(?)


有希

「あっ、卵! これは黄色いです!」


文香

「間違いないな」


有希

「コーンとマヨネーズ……これも必要ですかね?」(取りあえずカゴに入れる)


文香

「せやな。黄色いし。あとアレやな。こう、浸したいたわな。イメージ的に」


有希

「浸す……なら牛乳ですねっ!」


文香

「そうなるなぁ」(?)


有希

「浸すなら食パンが一番ですかねっ?」


文香

「正解やんもう」(?)


有希

「文香さんっ、コーンクリームポタージュですっ! 完全に黄色ですっ!」


文香

「牛乳と混ぜるっちゅうわけやな」


有希

「混ぜるという意味では、何かが混入……めり込んでいるような、そんなイメージですっ」(トッピングの意)


文香

「じゃが○こ入っとることない?」


有希

「あっ、入ってます!」(確信)


文香

「中々揃って来たな。でもアレや。これやとまだ『キッ』の部分だけや」(?)


有希

「じゃあ次は『ッシュ』ですねっ!」(?)


文香

「『ッシュ』なぁ……おっ。このワイン、オトンがよう飲んどるやつや」


有希

「『ッシュ』ってそういうことだったんですね!」


文香

「おぉっ! 『ッ酒』か!」


有希

「近付いてきましたよっ!」


文香

「既に完成といっても過言やないな」


有希

「……でもわたしたち、お酒買えません!」


文香

「ふむ……ならお酢で代用するしかないわ」(?)


有希

「なるほどっ!」


文香

「まぁ酢って酒やろ」(?)


有希

「あれ? でも文香さん、これじゃ『キッ酢』になっちゃいません?」


文香

「オリジナリティー」(?)


有希

「おぉっ……! 流石は文香さん……っ!」


文香

「レシピなん甘えやでユッキ!」


有希

「廣瀬さん、喜んでくれますかね……っ!?」(最初は喜んでくれた)


文香

「ウチらの最高傑作やで、泣いて喜ぶ決まっとるわ! いやぁ~楽しみやなぁ~!」(このあと色んな意味で泣かせた)




【多言語マスター陽翔】


聖来

「にぃに、にぃに……っ!」


陽翔

「んっ。よう聖来。体育か?」


聖来

「へへへっ、今週から陸上なんじゃ……!」


陽翔

「そっかそっか。楽しそうやな。あと聖来、学校でにぃにはやめてな。人のいない渡り廊下とは言え」


聖来

「あっ……ご、ごめんなせー。飲み物買うとるとこが見えて、急いで来たけぇ、ついうっかり……へへへっ」


陽翔

「気ぃ付けなおえんよ。ほれ、もうチャイム鳴るけぇ、授業頑張りんせー」アタマナデナデ


聖来

「ふぁっ……!? にぃに、岡山弁……!?」


陽翔

「合ってる? 使い方」


聖来

「ばっ、バッチリじゃあ……! もしかして、わしのために勉強してくれたんか……っ!?」


陽翔

「ちょっとな、ちょっと。ほらもう行きな」


聖来

「えへへへへっ……! ありがとの……!」


シルヴィア

「¡Oh, cariño! セーラ! ナニシテンネン!」


陽翔

『よっ。シルヴィアも移動教室か?』


シルヴィア

『ねえ聞いて貴方! ノノとフミカったら、わたしだけ一人除け者にして音楽を取ったのよ! 酷いと思わないっ!?』


陽翔

『その方が日本語の勉強にええやろ。頑張りな』


シルヴィア

『でもショドーの先生、とっても怖いのよっ!』


陽翔

『あ~、あの先生なぁ。確か中国の出身で……』



聖来

(わぁっ、すんげえにぃに、スペイン語もペラペラじゃあ、カッコええ……そう言やあ早坂さんが英語も喋れる言よったな……にぃに、何か国語話せるんじゃろう?)



陽翔

『……せやから、知ってる中国語なんか一つ言ってみるんだよ。そしたら急に優しくなっから』


シルヴィア

『でもわたし、バレンシア語と英語以外はあんまり……何か良い言葉知ってる?』


陽翔

『你好。我想和你成为朋友。最好的问候』


シルヴィア

「!?」


聖来

「!?」


陽翔

『ほら、こんな感じで』


シルヴィア

『……貴方、中国語まで話せるの……ッ!?』


陽翔

『簡単な挨拶やけど?』


シルヴィア

『発音まで綺麗じゃないっ!』


陽翔

『そうか? 全然まだまだや思うけどなぁ』



聖来

(日本語にスペイン語、しかも中国語……!? それに岡山弁も……にぃに、いったいいつ勉強しとるんじゃ……!?)


文香

「はーくーん! ご飯食べよーっ!!」


陽翔

「あぁん。お前今日三限やろ授業は?」


文香

「サボってもうた! だるいし!!」


陽翔

「ったく……しゃあな、食堂でも行くか。俺もメシ食うつもりやったし」


文香

「にゃっふふ~ん! はーくんゲット~♪」


陽翔

「アホ、くっ付きすぎ。じゃあな聖来、シルヴィア。また部活で」スタスタ


聖来

(そして元々は大阪弁……)


シルヴィア

(あれはタヌキ語……)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る