940. 仁義なき悪戯《タタカイ》 PART11 ~伝説を継ぐもの~


「イイカゲンシロォォ!!」

「うるさいよ兄さん。なに、イグニッション?」

「い、い、か、げ、ん、に、しろッ!! 撮れ比奈ァァァァ!!!!」


 やられた。この日は更衣室に清掃業者が入っていて、荷物を談話スペースへ置きっぱなしだったのだ。軽率だった。


 比奈がスマホでカメラを起動すると、真琴を筆頭にみんなが集まって来る。

 誰かがヤられたら動画は回さないといけない。山嵜フットサル部における鉄の掟だ。



「ええか、俺は怒っとらん! 注意!! しょうもないことするなよっていう、注意やから! もう犯人とかどうでもええわッ! 琴音、電話鳴らせ!」


 練習後、またスマホが無くなった。岡山事変から日も経っていないし、このタイミングで悪戯をされるわけがないと信じていた。普通に俺が失くしたと思っていたらこの仕打ちだ。許せない。



「なんかこっちから聞こえるなあ……あれ、どこかなどこかなぁ~~……」


 着信音に導かれ猿芝居。

 その出処はノノの鞄だった。



「え、なにこれ。スルメ?」

「ノノちゃんのおやつかなあ?」

「よく学校でそんなもの食べ……えっ!?」


 愛莉と比奈が近付いていく。真琴はすぐに気付いたようだ。みんなも段々と隠し場所を悟り、声を殺して笑いを抑えている。



「ハルいつの間にケース変えたの?」

「最近のスマホはエライもんやなあ」

「――――俺の携帯イカ臭くした奴誰やァァァ゛ァ゛ーー゛ッッ゛!!!!」


 スルメいかが沢山入っているプラ箱の中に、俺のスマホが混入していた。煽り散らす瑞希と文香に取り出したスマホを突き付け、更に続ける。



「誰やこんなことしたのはッ!!」

「でも陽翔くん、今日は注意なんでしょ?」

「そうや! 問わない、罪をッ! 怒らない! だから正直に言えっ!!」



 ……………………



「ハルトが自分で入れたんじゃないの?」

「アァッ!?」

「そーだよハルが間違えたんだよ」

「おまっ、とうとう言いやがったな貴様!?」

「きっとそうよ。誰かがハルトのスマホと、スルメを間違えて入れちゃったのね。そうに違いないわ」

「だとしても食い掛けのスルメ元に戻すって意味分からへんやろが……ッ!」


 やっと口を開いたと思ったらこれだ。顔を合わせニヤニヤ結託する愛莉と瑞希……間違いない、このなかに犯人がいる。コイツらしかあり得ないが。


 残りはみんな静かに黙りこくったまま。

 よろしい……ならば、戦争だッ!!






「お前かっ! お前が犯人かっ!?」

「えぇ~、ノノじゃないですよぉ」

「…………せやな。ノノではない」

「え。どう考えてもそうデショ」

「ハッ、甘いな真琴……! この女がわざわざ自分の所有物へ隠すなどと、単純すぎる悪戯を仕掛ける筈がない……!」


 ノノのスルメ箱に隠されていた。だから犯人はノノ……そんな甘々なトリックはもはや通用しない。手口は日に日に巧妙化している。


 箱のなかに隠すという方法は極めて簡単。そして犯行は、俺が手洗いで着替えている間に行われたと考えるのが妥当。全員が容疑者足り得る。


 唯一のヒントは、スルメ箱のなかに隠してスマホを『イカ臭くする』という卑劣極まりないアイデア。


 こんなことを思い付くのはやはり……。



「お前しかおらへんなぁ瑞希ィ~……!」

「まーた疑われるし。どんだけ信用ないんだよ」

「他とは歴がちゃうんや貴様は……! さあ、正直に白状しろ! 今ならまだ許してやってもええぞ!」

「えぇ~、流石のあたしでもそれにスマホ入れるのは…………あれっ?」


 瑞希は俺の持っていたスルメ箱に興味を示す。目を細め中身を確認。そう言えばこの箱、スルメしか入っていない割に重量感が……。



「ねーねー、これ誰のやつ?」

「……ん、これは俺の……!? いやっ、違う! おいノノ、見ろっ!」

「――――ヴぇアア゛ぁぁぁぁァァ゛ーーーー゛ッッ!! ノノの財布がイカ臭くなってるううううゥゥゥゥ!?」


 なんと箱から出て来たのは、ノノが最近使い始めたブランド物の小銭入れ。


 冬に選手権の諸々で手に入れたマジックテープ式を卒業し、新たに購入したものだ。ちなみに俺とお揃い。シルヴィアが誕生日にくれたやつ。



「ヘイヘイヘイヘイヘイヘイ!! ノノの財布イカ臭くしたの誰じゃァッ!」

「うわあ……いくら罪を逃れるためとはいえ、アンタよくやるわね」

「ぐふふふふ……ッ!! ええやん、ええやん市川っ! こっちの方が銭入って便利やなぁ!」

「自分の財布スルメ箱にするアホがどこにいるんですかァァ!! あームカツクううううゥゥ゛!!!!」


 この悪戯は全員知らなかったのか、ドン引きしている愛莉を除き、揃って箸が転がったが如く爆笑。お前、また被害者になるのかよ。可哀そうに。


 

「酷いっ、酷過ぎますッ!! スマホと違って鳴らせないのに!! これじゃノノがスルメ食べたくなったときじゃないと気付けないですよっ!」

「ていうかイチカワ先輩、なんでスルメなんて持ち込んでるんスか?」

「匂いが好きなんですよっ!!」

「変わってるっスねえ~」


 そんなこと気にし始めたらおしまいだぞ慧ちゃん。ノノの言動に疑念を持つな。ノノやぞ。



「ノノ先輩も間違えたんですヨ。きっと」

「いやっ、どこをどう間違えると!?」

「何か面白いことをしてやろうと考えて、そのまま忘れてしまったという可能性もありますね」

「えぇ~琴音センパイも~……!?」


 信用が無いのはコイツも同じだった。

 だがしかし罪は罪。流石に悪質だ。



「クッ……! 良いですか、土下座ですよ! 確実に土下座です! 二重の罪があります! 犯人は陽翔センパイの件と同一人物に違いありません!」

「間違いないな。ノノのスルメ箱に隠したことで、ノノを犯人に仕立て上げようとした愚か者の犯行や」

「陰湿、陰湿なのですっ! あーあー可哀そうに! せっかくセンパイは怒らないと言ったのに、これのせいで罪が確定してしまいました!」

「しゃあな。0.5が1.5や。重いで」

「共同戦線と行きましょう……っ!!」


 ノノの怒りムーブが面白過ぎるせいで、なんだか怒りが減衰して来てしまった。

 まぁでも付き合おう。だからと言って赦しはしない。土下座させる。絶対に。



 一連の流れは重要だ。まず瑞希は、ノノの小銭入れが隠されていることに気付いていなかった。同一人物説が有力な今、彼女は容疑者から外れる。


 となると、俺やノノのリアクションを見たい奴……愛莉か比奈の線が濃厚だ。



「むむむむっ……そう言えば一年ちゃんたちもイタズラ選手権の件もう知ってるんですよねぇ、そこが難しいっ……!」

「せやな。新犯人も考慮する必要がある」

「だから自分で入れたんでしょアンタ」

「しつこいなお前はッ! 黙ってろッッ!!」


 これだけ煽り倒すということは愛莉の可能性も高い。だが迂闊に指名するのは危険だ。外したら俺が土下座だもの。改めて意味分からんこのルール。


 前回の選手権ではノノに唆された文香が実行犯となった。単独犯説もあるし、下級生を利用した上級生の犯行という線も捨て切れない……クソ、難し過ぎる。容疑者があまりにも多いッ!



(二人も増えてるしよォ……ッ)


 ようやくお喋りを始めコミュニケーションが取れるようになった聖来。そして加入ホヤホヤのミクルもいる。まさかコイツらも容疑者なのか……!?



『くふふふっ♪ 今日は誰のドゲザが見れるのかしらっ! あー楽しみ!』

「コイツゥゥ……ッ」


 単純に選手権を面白がっているシルヴィア。彼女も勿論容疑者だ。もはや誰も信じられない。いったい犯人は誰なんだ。


 そしてこの悪しき風習、いい加減に誰か『そろそろ飽きた』って言って欲しい……ッ!!(続く)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る