本編とは関係ないエピソードを雑に消化する番外編 その6
937. 深淵
【保科慧の場合】
「陽翔く~ん。今日よろしくね~」
「あいよ。なるべく早く帰るから」
「期待してま~す♪」
(…………よろしく?)
ゴールデンウィークも真ん中頃になりまして、すっかり暑くなって来た今日この頃。
週五の練習だけでなく連休にも集まるなんて、フットサル部、想像以上にハードっス。
まー、チームの皆さんはみんな優しいし、フットサルも面白いし、それは全然良いんスけどね。むしろ超楽しい。高校生活最高。
あ、どうも。保科慧っス。
練習後はこの談話スペースってところと、ヒロセ先輩ん家のアパートで駄弁るかのどっちかが多い。
アタシも後者の場合はよくお邪魔していて、夜ご飯も御馳走になるっス。出来ればユーキちゃんのご飯は勘弁っスけど。
で、今日は早々に解散みたいっスね。ヒロセ先輩はアルバイトがあるらしくて、他の皆さんもさっさと帰っちゃった。
まぁそんな日もあるんでしょーけど……でも、クラハタ先輩はこれから家に行くんスよね。あの言い方だと、たぶん一人だけ。
「慧ちゃん。帰らんの?」
「ほえっ。あ、そーっスね。今日もラーメン行っちゃうっスか!?」
「あっ……ごめんなせー。今日はちいとやることがあって……」
「わははっ。全然良いっスよ! じゃーまた明日、練習で! ばーい!」
「ば、ばーい……へへへっ」
照れくさそうにはにかむセーラちゃん。最近はフツーにお喋りしてくれるようになったっス。アタシの努力が実を結んだってわけっスね。間違いないっス。グッジョブ!!
……ふーむ。にしても、この一週間くらいセーラちゃんも妙に付き合い悪いんスよね。いや、全然良いんスけど。やることってなんなんだろー。
で、で、それは置いておいてっスよ。
アタシ、フットサル部に入ってからずーっと疑問に思ってることがあるっス。
たぶんアタシだけじゃなくて、他の人も思ってる筈なんスけど……。
(結局ヒロセ先輩って、誰と付き合ってるんスかね……?)
知る限り先輩は、他の部員みんなとメチャクチャ仲が良いっス。距離感が全員彼女、的な?
ユーキちゃんと真琴氏も、中学の頃から練習に参加しているらしくて、そりゃもうエライ仲良しみたいっス。真琴氏なんて兄さんとか呼んじゃってるし。
「あら慧ちゃん。一人なの?」
「ナガセ部長っ。お疲れ様っス!」
ソファーでボサッとしているとナガセ先輩がやって来た。いつ見てもお美しいクールでビューティーな先輩っス。ヒロセ先輩の前だとなんか変な感じっスけど。
「なんだか珍しいわね。慧ちゃんが黙ってるのって。もしかして元気無い? それとも緊張してる?」
「いえいえっ、そんなことは! ただっ……えーっとぉ……」
「……どうしたの?」
まさに疑問の種である張本人を前に、流石のアタシも調子が狂う。
てゆーか、そんな綺麗な目で見つめないで欲しい! フツーに照れる! 美人が過ぎるッ!
(ナガセ部長……っスよねぇ……?)
フツーに考えたら、ヒロセ先輩と付き合ってるのはこの人の筈っス。二人っきりでいることが誰よりも多いし。
ヒロセ先輩の前でだけこの人、露骨に雌の顔になるっス。色恋沙汰に鈍感なアタシでも気付くレベルで。
でもでもっ、今日はクラハタ先輩がヒロセ先輩のお家に、一人で行く…………あれ?
確か先週はカナザワ先輩で、その前はクスミ先輩で……その前はイチカワ先輩だったっス! あれ? アレッ!?
(メチャクチャ浮気してるッッ!?)
絶対おかしいっスよね!?
よくよく考えたらあり得ねーッ!!
だって、彼氏でもない男の家に、夜な夜な一人で向かうって! そんなのもう一つしかやることないじゃないっスか! アタシでも分かるっスよそれくらい!!
こんな絶景の美人さんが彼女なのに、他の先輩方と浮気してるんスか、ヒロセ先輩……!? あ、いやでも、確かに他の先輩も綺麗で可愛い方ばっかりっスけど……。
(……じゃあ、ユーキちゃんと真琴氏は?)
ユーキちゃん、どう考えてもヒロセ先輩のことガチラブっスよね……真琴氏もお兄ちゃん扱いにしては距離が近過ぎる気がするし、てゆーか実の兄でもない人をお兄ちゃんって呼んでるって、これもフツーに考えたらおかしい……!?
(セラ先輩とルビーちゃん先輩は!?)
だってあの人、ヒロセ先輩を追い掛けて大阪から上京した人っスよね!?
ルビーちゃん先輩もバイト先で知り合って、金曜日はお手手繋いで一緒にバス乗って先帰ってるっスよね!?
ど、どうしよう……ッ!? アタシ、フットサル部のとんでもない闇を見つけてしまったかもしれないっス……!?
「…………ナガセ部長って、その……」
「うん?」
「あ、イヤ、なんでもないっス……」
「なによ、どうしちゃったの?」
い、言えるわけねー……ッ! いっつも先輩の隣であんなに幸せそうにしているこの人に、彼が何股もしているだなんて……口が裂けても……ッ!!
「……人生、色々あるっスよね……」
「う、うん?」
それとも、前に先輩が言っていた『家族みたいなもの』って、そういう意味だったんスか!? 全員俺のヨメ的な!?
き、気になる……気になり過ぎるッ!!
でもそれ以上に、怖くて聞けねェッ!!!!
【小谷松聖来の場合】
『もうっ、焦っちゃだ~め♪ わたしが良いって言うまで――してね?』
『頼む比奈、もう我慢出来な……!』
(まっ……また始まってしもうた……これで何回目じゃ……ッ!?)
お母さんが買うてくれた新しいパソコンから、廣瀬先輩と倉畑先輩の会話が聞こえて来る。
もう回数は数えとらん。休憩しとったなぁほんの十分程度……い、いったいなんべんするつもりなんじゃ……。
(ごめんなせー先輩……けどわしかて、こねーなつもりじゃなかったんじゃ~……ッ!!)
廣瀬先輩はほんまにええ人じゃ。すまほにじーぴーえすあぷりを勝手に入れたことも、先輩は笑うて許してくれた。
それなのにわしゃあ、また過ちを犯してしもうた。次に先輩の家へ行った日、わしは先輩んちのゴミ箱に、余っとった盗聴器を……栗宮さんから貰うたもので、まだ使うとらんやつが一つだけあって……。
うぅっ……わしゃあなんて恩知らずな女じゃ……赦してくれた先輩や部のみんなを裏切るようなことを、いつまでも続けとるなんて……っ。
(……も、もうちいとだけ……っ)
それなのにわしゃあ、一向に先輩の生活を盗聴することをやめられんでいた。
はじめは先輩の声と、言葉遣いがカッコようて気になったんじゃ。関西弁は耳馴染みがあったし、しかも標準語と上手えこと使い分けとって、凄いなあって思うた。じゃけぇ真似しよう思うたんじゃ。
けど最近は……こうやって先輩と、他の先輩たちが夜な夜やこーねーなことをしょーるのかがめ聞きするのが、日課になってしもうた。
ひょんなげじゃった。先輩たちは部活動中、そねーな素振りを一切見せんのに……二人きりになった途端、人が変わったみてーにやらしいことばっかしとる……。
『んぅっ……! んふふ……っ♪ すごぉ~い、まだまだこんなに――くて、あっつくて……わたし、溶けちゃいそうだよぉ……っ!』
『比奈、比奈っ……!』
『気持ちいい? 陽翔くん、ねえ答えて……っ! わたしの――気持ちいい……っ!?』
『すっごくいい、比奈の――! ――で――すっげえ――で、めちゃくちゃ――ザーーーーッ、ガガッ…………ほらっ、ここがええんやろ……!』
『もっと、もっとして欲しいの……っ! お腹いっぱいになるまで、陽翔くんの――いっぱいほしいのぉ……!』
(やっぱり倉畑先輩が一番すんげえ……)
肝心なところは接続不良で上手う聞こえんけえど、むしろそれくれーがちょうどええ思う。わしにゃあまだまだ早すぎる領域じゃ……。
上手う言えんのじゃが……倉畑先輩は一番『楽しんどる』って感じじゃ。長瀬先輩やこーはもっと必死な感じで、わしも共感するところがあるけど……あ、あれが大人の女性なんじゃなぁ……っ。
(それに着いてく廣瀬先輩も……うぅっ、まさか先輩がこねーにだらしねえなんて……っ)
がめ聞きしとる分際で言えたことじゃねえけど、廣瀬先輩、流石に先輩たち五人と毎日こねーなんして……貞操観念はどうなっとるんじゃ……。
(わしもいつか、誰かとこねーなことするようになるんじゃろうか…………いや、おえん。全然想像出来ん……)
倉畑先輩みたいに余裕たっぷりで対応するのも、廣瀬先輩みてーな人を受け流すのもわしにゃあ出来そうにねえ。あんなん百年経っても無理じゃ……。
はぁ、もうこねーな時間じゃ……先輩たち、まだ続けるんじゃろうか。
もう日付も変わるってのに、家に着いてからずーっとこの調子じゃけぇなあ……。
「…………明日、練習何時じゃったっけ」
もうちいと、もうちいとだけ聞いていよう。
あくまで今後のため、将来の参考までに……わしゃ悪うねえ。こねーな遅うまでやらしいことしょーる先輩たちが悪いんじゃ……っ!!
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