Plus Ultra‼︎ 『関東予選、開幕!』

924. 一年越しの


「ハルト。ページ更新されたわよ」

「お。やっと来たか」

「やっぱグループリーグありだって。あとルールがちょっと変わってるみたい。みんな呼ぶ?」

「ええわ別に。来ないやろどうせ、行ってもマイク持たされて話進まんわ」


 週末。この日は比奈と琴音の18歳を祝う合同バースデーパーティーだ。一番広いし気を遣わなくても良いから、という理由で市川邸で開催された。


 冬に訪れた際は気付かなかった。一階の角にカラオケルームがあり、誕生日らしい催しも程々にみんなかれこれ二時間は籠っている。もう市川家の諸々に関しては一切ツッコまない。二度と。


 カラオケが苦手な愛莉と、彼女を気遣った俺がもぬけのリビングに残っていたところ。

 来月頭から始まる予選大会のレギュレーションが発表されていた。頭を突き合わせスマホを覗き、大会要項を確認する。



 関東の出場枠は3.5チーム。まず5チームに分かれたグループリーグを行い、各上位1チーム、計8チームで決勝トーナメント。


 決勝戦に進出した二校と、三位決定戦で勝利した一校が全国への切符を手に入れる。三位決定戦で敗れると地域プレーオフなるものに回され、そこを勝ち上がると晴れて全国大会出場というわけだ。



「あぁ、男子は登録上限があるのか」

「ウチには関係無いけどね。案外女子中心のチームが多かったんじゃない?」

「かもな。むしろ好都合や」


 男性選手は登録上限が五名。同時に二名しかプレー出来ない。実質女子の部プラス若干名男子の助っ人という構図だな。


 元々この混合大会は、女性プレーヤーの人口増加とは裏腹に、対象チームの少なさが理由で考案されたものらしい。

 最初から女子ばかりの我らが山嵜、混合チーム一本の青学館、新たに結成した町田南、男女それぞれでチームを組める瀬谷北はむしろ珍しい部類。


 実力のある女性選手は一部の名門校に集まってしまい、地域によっては選手自体が足りないチームも多い。そのような事情もあり、高体連主催のフットサル大会は女子の部自体が存在しないのだ。


 今までは成人チームの大会にでもエントリーしなければ、対外試合の機会さえ恵まれなかった高体連の女子チーム。

 それが混合大会の発足により、部員の足りない女子フットサル部は男子の助っ人を招き入れることで、大会へ参加出来るようになった。



「でもなんか、ホントに? って感じよね」

「男子とロクに関わり無いしな」


 栗宮胡桃、日比野栞を筆頭に女性選手ばかり目立っている気がしてならない。それを言い出したらウチも似たようなものだが。



 ともかく、混合大会は事実上女子の部と考えて差し支えない。俺のような若干名加わる男性選手が及ぼす影響力も勿論大きいが、基本的には女性選手のスペックがよりウェイトを占める格好だ。


 ライバルとして考えられるのはまず、上記のように混合チーム一本で活動している高校。早い時期から性差に囚われないチーム作りをしているから、特殊なルール下で行われる大会への適応も早い筈だ。


 加えて愛莉の母校である常盤森をはじめとした、実績のある女子サッカー部が男子サッカー部の助っ人を招集し結成する臨時チーム。

 競技性の違いも無視は出来まいが、単純な個人のスペックで殴り掛かってくるわけだからやはり侮れない。



「3.5枠……少なくとも準決勝までは行かないといけないのね。グループリーグ合わせて最大で七試合、そのうち六試合勝たないと……」

「同じメンバーばっかり使うわけにもいかねえからな。ほぼひと月の長丁場やし、上手いことローテーションしないと疲労も溜まる」


 一枠は高校フットサルの盟主たる町田南でほぼ確定か。男子は国内無敵。女子チームも成人大会に混じって好成績を上げているガチ中のガチ勢。男女の融合もそれほど苦労はしないだろう。


 残りの2.5枠を我らが山嵜、そして弘毅率いる川崎英稜など新鋭チームで争う格好となる。勿論、まだ対戦していない隠れた強豪校も数多くいる筈。


 実に四十校もの高校がエントリーしている。しかもグループリーグは一位しか抜けられない。

 広い関東で一括りの影響もあるだろうが、狭く厳しい門だ。



「まぁでも、イケるわね」

「そりゃそうさ。余裕余裕」


 額を突き合わせ似たような顔で笑う。


 自信はある。自信しかない。純粋な個の力、そして一年掛けて積み重ねてきたチームワークが何よりの根拠。どこが相手でも負ける気はしない。


 他の参加校には申し訳ないが、俺たちのために用意された大会と言っても過言ではない、本気でそう思う。

 山嵜フットサル部がどこにも負けない最強のチームだと、世界一幸せなファミリーだと、胸を張って主張するための舞台装置でしかないのだ。



 結局のところアスリートという人種は、競技自体に魅力を感じている以上に世間一般へ自身の能力を誇示するのが大好きな、エゴイズムの塊みたいな生物だ。少なくとも俺がサッカーで努力し続けて来た理由の半分は自己顕示欲だった。


 彼女たちも同様に、自身の居場所を、存在価値を探し求めこのフットサル部へと流れ着いた。

 なら証明しなければならない。全国制覇という分かり易い結果を持って、俺たちの長く険しい闘いはある一点において完結するのだ。



「みんなでグータラ仲良くしてるのも楽しいけどさ。それが一番だって思うけど。でもやっぱ、これはこれで別腹よね。勝利の味って」

「……愛莉」

「私もハルトも、みんなもそう。今の自分とか、これまでの境遇とか。運命に縛られて、色んなものに納得出来なくて……そういうモヤモヤした気持ちをぶつける場所っていうか。目に見える結果が欲しかったんだろうなって」

「……そう、かもな」


 中学でチームメイトから梯子を外され、不完全燃焼のまま地元へ戻って来た過去を持つ愛莉。きっと全国の舞台で、常盤森の連中も待ち構えている。


 自他問わぬ肯定感に飢え、行き場の無い反骨精神を消化することも出来ず、流れるままにフットサルという手段を得て、幾多の葛藤と前進、後退を繰り返し、ようやくここまで辿り着いた。



「みんな何かしら負けてて、それに打ち勝とうとしてる。大きい声で『本当に勝ったんだ』って言えるのがこの大会なんだって、そう思う」

「……二日前に泣きながら禁止宣言ブッ飛ばした奴が、なにカッコつけとんねん」

「ちょっ、今言うことッ!?」

「嘘ウソ。頑張ろーな」

「……もうっ、ばかっ!」


 昨日の練習から若干不機嫌なまであったが、大会要項を眺めているうちに気持ちも切り替えられたようだ。長続きすることを祈るばかり。


 まぁ、大丈夫だろう。一年間、この大会のために走り続けてきた。懸ける思いが違うのだ。


 すべて上手く行く。必ず勝ち取れる。

 予感ではない、確信だ。



「グループリーグの組み合わせも出とるな」

「あっ、それ! そっちの方が重要! 会場は!?」


 画面をスクロール。我らが山嵜は……あったあった。グループFか。勝ち抜くに当たって隣の山も気になるところだが、まずは最初の対戦相手が重要。



東雲学園シノノメガクエン葉山中央ハヤマチュウオウ塩原商業シオハラショウギョウ鴨川カモガワ……知ってる?」

「まったく知らん」


 それぞれ東京、神奈川、栃木、千葉の高校らしい。特に全国レベルの実績があったり、サッカーが強いという話も聞いたことが無い。

 町田南と同じ組を避けたのは幸運だ。ポット分けなしのランダム抽選だったらしいからな。



(って、グループHかよ……順番通りなら準決勝で当たるじゃねえか。川崎英稜はAか……まあトーナメントには出て来るやろ)


 先の話はともかく、このグループリーグだ。流石に今から情報を集めるのは難しく、ぶっつけ本番にはなってしまう。

 が、四の五の言っていられない。他の高校も一緒だ。まさかウチに廣瀬陽翔と長瀬愛莉がいるなんて、誰も思っちゃいないだろ。



「良かった……! ねえ見て、予選会場、東京だって! 群馬とか栃木だったら絶対に遠征費足りなかったわ……ッ!」

「ああ、重要ってそういう」


 もはや部費とスケジュールの管理くらいしか仕事が無い長瀬部長である。後顧の憂いも無くなりホッと一息。東京つっても府中の方だし、遠いけどな。


 そうか。全国まで行ったら移動手段とか、宿のアレコレとか、色々と決めないといけない。峯岸と相談しつつ早めに動き出さないと。コート外でもやることはまだまだ山積みだ。



(楽しみやな)


 再来週末。ついに、いよいよ始まる。

 全国の舞台を賭けた、一年越しの闘いが。


 いや、保険を掛けるのはよそう。

 あくまでも予選だ。ウォーミングアップ。

 目標は遥か彼方、全国優勝。決戦の地は名古屋。


 こんなところで躓いていられるほど、俺たちはのんびりしていられない。生き急ぐのではなく、駆け抜けるのだ。先へ、未来へ。


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