865. そのような論調も捨てがたい


「え、町田南がどこで練習してるって? …………教えねー!! だってライバルだも~~んクソして寝ろッ!! ごめんね!!」


 よう分からんノリで弘毅に断られる。

 謝るなら最初から茶々入れんな。


 学校のホームページに練習予定が載っていないか確認したところ、なんでもフットサル部は公式戦を除き多くの活動を非公開で行っているらしい。

 あの栗宮胡桃が在籍しているとあって、マスコミ対策も徹底されているようだ。


 スマートフォンをしまい最寄り駅に降り立つ。午後はバイト等が無い集まれる奴だけで集まり学校裏コートで自主練の予定。

 一方、昨晩の誕生日パーティーもとい有希のカレー爆撃から何人が回復しているか……胃薬飲んでおいて良かった。



(映像だけなら幾らでも転がっているとはいえ……やっぱ試合してえなあ)


 男女ミックスチームの実力はまだまだ未知数な部分が多い。数少ない情報は、蔵王で練習試合を行った青学館高校・日比野栞の『完膚なきまでに叩きのめされた』という証言。


 そして自ら目撃した、愛莉の母校である常盤森学園のAチームと対等に渡り合ったあの試合。ただ、主力選手は海外遠征に出ていると栗宮胡桃が言っていた。どちらにせよあまり参考にはならないだろう。


 関東予選まであと一か月。新設大会とはいえ、ライバル校の研究がまったく進んでいない現状。

 俺たちの現在地を図る上でも町田南は最適な対戦相手。何か接触する方法があれば良いのだが……。



「あ。センパイだ」

「ノノ。おはようさん」

「もうお昼ですけどね~。珍しいですね駅にいるなんて、どこか行って来たんですか?」


 改札を抜けたノノが背後から現れる。午後の自主練にはまだ早いがトレーニングウェア姿でやる気満々と言ったところ。


 ……にしても、なんか薄いな。生地が。ショートパンツとレギンスの組み合わせはスポーティーさと可愛らしさを両立した実にお洒落な着こなしだが……それで電車に乗ったのか?



「ブラオヴィーゼのアカデミーに顔出しとってな……寒くないかその恰好」

「はぁ。途中まで走ってたんでちょうど良いくらいですけど……え、なんすかジロジロ見ちゃって。興奮してます?」

「エロいなって」

「Whoa! Sexual harassment!」

「往来やぞ」

「おっ互いさま~!」


 そんな良い笑顔でセクハラ告発する奴がどこにいるんだ。くっ付くな胸を押し当てるな膝と膝をスリスリするなやめて本当に興奮しちゃうからやめて。

 


「どーします? まだ集合時間まで結構あるんですよねぇ~……むふっ♪」

「せめて一日が終わってからがええな」

「じゃあ今晩はノノが予約ということで、ちょっとだけデートしましょう! ド○ールで良いですか?」

「餌代の掛からないペットだこと」

「むふふふふっ♪ 安心・お手頃価格なのです! センパイ限定ですけど!」


 どうしよう。困った。町田南への関心が一気に持ってかれた。今日も俺だけのペット系ロリ巨乳後輩美少女が可愛い。いっぱい奢っちゃお。






「ミクエルちゃんがいるじゃないですか」

「確かに過ぎる」


 ドト○ル店内は激混みだったのでテイクアウトに。ホットサンドを秒速で平らげるノノを観察していたら逆に向こうが暇し始めたので、市営バス停留所までの道中、町田南の話をなんの気なしに振ってみる。


 忘れていた。山嵜にも身内がいた。

 栗宮ミクル。栗宮胡桃の妹。


 一卵性の双子である自分より胡桃とは親密な関係と、前に弘毅から聞いたことがある。町田南の情報もある程度持っているかもしれない。



「今日アイツ自主練来るっけ?」

「あー。そう言えばリアクション無かったような。様子見に行きます?」

「そう聞くと起きている気がしないな」


 土日のミクルはたいてい暇している、というか昼過ぎまで寝ていることが多い。アルバイトも一切せず祖父の仕送り一本で生活しているそうだ。なのにゲームやお菓子へ投資するので基本飢えている。


 ノノが電話を掛けるが反応は無い。どうせ今日も寝ているだけだ、家まで迎えに行って連行しよう。連携練習が一番必要なのもアイツだし。


 ……そう言えばコロラド、ミクルのプレーには一度も言及しなかったな。



「なんか騒がしいですね」

「真琴か?」


 一旦アパートへ帰宅。一階角部屋のミクル邸は朝からどんちゃん騒ぎだ。昨日真琴が家に帰ったのを見ていない。そのまま泊まったのか。



「あらま。鍵開いてる」

「待てノノ、この展開は身に覚えが」


 ドアノブに手を掛けたノノを制するが、一歩遅かった。玄関脇の給湯器がキューキュー鳴っているのだ。これはつまり……。



「ああもうっ! 大人しく入りなって! せっかく水道復旧したんでしょ!」

「め~ん~ど~く~さ~い~~!!」

「通りで昨日から臭うと思っ…………たァァァァっ!?」

「Whoa! Lucky pervert!」


 一糸纏わぬ姿の真琴とミクルがドタバタとユニットバスから飛び出て来た。ミクルを風呂に入れようとして自ら身を切ったみたいだ。


 先日有希の部屋にお邪魔した際と同じ形。しかも今度は隠すものが無いので、完全に開けっ広げ。

 真琴は見る見るうちに頬を紅潮させわなわなと震え出す。何だかんだで真琴とはハプニングが多いなぁ……自主的なものも含めて。



「あれ。なんか冷静ですねセンパイ」

「実は三回目くらいなんよな」

「ほほー。やることやってるんですねえ」

「あのさぁ!! せめてドア閉めるとか目線逸らすとか、もっとやるべきことがあると思うんだケド!? ねえ!?」



 部屋中の段ボールを一心不乱に投げ飛ばられ収拾が付かなかったので一旦退却。シャワーを済ませた二人に招かれ再入室。

 ここまでだいたい三十分。姉共々何かと時間の掛かる姉妹だ。果たして俺の責任か否か。


 先週有希と自主練が出来なかったので、今回はミクルを誘ったそう。なんでも有希はお母さんに召集され実家へ戻っているらしい。

 恐らくカレーの出来栄えを報告したからだ。今日は再特訓で忙しかろう。



「ほんっっとデリカシー無いんだよね……いくら気の知れた相手だからって、マジマジと見て良いものとダメなものの区別くらい付かないかな……!」

「だからごめんって」

「ハァー……これだから自分みたいなヤツは損が多いんだ…………で、なんの用?」


 ぶっきらぼうに言い放ち安物のドライヤーで髪の毛を乾かす。時に昨日から真琴はどうにも当たりが強い。勘違いかも分からないが。



「ミクルに色々聞きたくてな。姉の胡桃……もっと言えば、町田南について知ってることがあれば教えて欲しくてよ」

「……我が半身、クルーミか?」

「伸ばす意味が分からんがその通りや」


 こちらは全身鏡の前に立ち、本日のコーディネートを吟味する聖堕天使ミクエルもとい汚部屋女子ミクル。改造の施されたトレーニングウェアが敷布団に散乱している。違いが分からない。



「我の手を借りる必要も無かろう。奴らは日夜、今この瞬間も天界リユニオンの……ただクリスタルを求めんが為、渇望を続けている」

「かもしれへんけど、肝心のどこでやっとるのかが分からん。練習場所も非公開やからな。ミクルは町田南のセレクションには行かなかったのか?」

「無論。付近一帯にある帝国闘技場が奴らの最重要機密情報機動要塞だ。尤も、我の手には及ばぬ禁域ではあったが……」

「市立体育館か。確か町田のプロチームもそこがホームや弘毅が言うとったな……しかし、ミクルでも怖気づくほどのレベルの高さか」



「……なんで普通に解読してるの?」

「ヒロイン理解力が上限突破したのでは?」

「こんな小さな子まで手籠めにする気か……」


 エライ風評被害を受けている気がしないでもないが、ともかく町田南の活動拠点は分かった。あとは今日、そこで練習か試合をしているかどうかだな。


 面子もちょうど良いところが揃った。コロラドから名指しされたノノと真琴、そして多少の伝手があるミクル。道場破りには心許ないが、偵察部隊としては悪くない人選だ。



「我が半身、そしてヴァルキュリアの情勢を窺うということであれば、次期暗黒卿として名高き我も一向に吝かではない。良い機会だ、併せて報奨金を受け取りに行くべき頃ではあった!」

「……お小遣い?」

「そのような論調も捨てがたいな!!」


 改造フレアスカートを靡かせドヤ顔を撒き散らす次期暗黒卿。丈が短すぎてさっきからずっとパンツが見えている。


 なにも言わんとこう。

 手籠めになんぞしない。出来るか。



「……変態兄さん」


 投げやりな彼女の呟きは、割かしちゃんと聞こえていた。見てねえって。見えてるんだって。


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