862. よろしゅう
『……はい、もしもし』
「おっ。出た出た~」
『こんばんは。元気そうですね』
「ん~? そ~お?」
『はい。前に話したときと声色が全然違います。なんと言いますか、憑き物が取れた、という具合に』
「にゃははっ。まぁそんなとこやなぁ」
『…………あの、世良っち』
「にゃーん」
『……ごめんなさい。先日はその、ちょっと言い過ぎました。すみません。自家発電の直後でハイになっていた節もあり』
「ホンマ暇さえあればって感じやなしおりん」
『ええ。それはもう充実の毎日で……なので、まぁ、あれです。あまり重く受け止めないで頂けると、大変助かると言いますか』
「なにをぉ?」
『自分が無いとか、空っぽだとか、結構なことを言ってしまいましたから……本当に、気にしないでくださいね』
「ほー」
『あんなの、発破を掛けるための方便みたいなものですから。世良っちのような個性の塊が空っぽ扱いだとすれば、世の中の大半が心神喪失状態と言っても過言ではありませんし』
「そら言い過ぎやろアンタ」
『とにかく、行き過ぎたお節介でした。ずっと謝りたくて……連絡が付かなかったので、本当に嫌われたか、その……ヒロくん絡みで、不味いことになっていないかと、本当に心配だったんです』
「あー。はーくんなぁ。んー…………ほんならしおりん、ついでにもう一個相談やねんけどな」
『えぇ、なんでしょう。でも、あれですよ。こないだみたいなことは言いません。あくまでお話を聞く程度にしますから』
「かまへんかまへん。ウチも聞いて欲しいっちゅうくらいのもんやさかいに」
『はい。それで、相談とは?』
「まぁ、計画通り一人旅は行って来たんよ。だいたいはしおりんのゆーまんまで終わったんやけどな……問題はそのあとや」
『……なにがあったんですか?』
「…………見てもうたんや」
『見た?』
「……はーくんの、はーくん」
『…………はいぃ~?』
……………………
『……あの、ごめんなさい。もう一度』
「なんや急に。電波悪いんか? 杉下○京のモノマネみたい聞こえたで」
『そんなつもりはまったくありませんが、思い返せば確かに似ていた気はします。いや、あの、世良っち。そうではなくてですね』
「どしたんエライ焦ってもうて」
『焦ってはないですが……想定していた内容とは少々乖離があるのでは、と』
「まぁ聞いてえな」
『はい。聞きます。聞きますが、非常に嫌な予感がしているということだけは予めお伝えしておきます』
「え、おー。まぁアレやねん。よーするにな、はーくんな。ウチが思っとった以上に、ウチのことむっちゃ好きやったんよ」
『はい』
「それはええねん。ええねんけどな。あん人、いくらなんでも変態すぎひんねん。ホンマに。暇さえあればギューってしてくんねん」
『…………はい』
「いや、ええねんで? それは自体はな? ウチもくっついとるの好きやし、あったかくてむっちゃええねんけどな!?」
『はい』
「明らかワンチャン狙っとんねんアイツ! 今日っちゅうかさっきもや! ウチん部屋でパ○プロしとったんやけどな、負けた方がなんでも一個ゆーこと聞く言うて、サクセスで作ったクッソ強いバッター並べてきはってな!?」
『はい』
「試合中なんもうエッグイでえ!? ウチのおっぱいずーーっと見よるのな!? お前が膝に座るん悪いんやあ言うて、全然悪びれもせんで!」
『はい。ん、え、膝?』
「でな!? ほんでな!? 結局ウチが負けてもうて、なんて言うてきた思う!? 風呂入ろうて!! 年頃のキュートなふみふみに!! なんの躊躇いもなく!!」
『…………はい』
「どんだけイヤや言うても帰らへんと、カギ閉めて先に入ろう思うたらな!? 無理やりこじ開けて入って来てん、こんなんただの犯罪やで犯罪!」
『はい』
「でまぁ、なんとか撃退には成功してんねんけどな? したらはーくん、ホンマにその気やってんなんも着とらんと……ぅぅぅぅうう~~っ!! 思い出しただけで顔から火ィ噴きそうやぁ~!」
『…………で、相談とは?』
「エグイねんッ!! なんやあれペットボトルかいな!? あんなんが中に入るて、いったいなにがどうなってんねや!?」
『……怖気づいたと』
「百歩ゆずってあーりんは分かるで!? 身体もおっきいしな!? 入らんこともないなぁ!? せやかて、ことちーはアカン! 裂ける! ちゅうかもう裂けとるわっ! ミズキチなん真っ二つに割れるであんなん!?」
『はい』
「……無理やって。あんなん入るわけあらへん……いやな、ウチやって興味ゼロかぁ言うたらんなことあらへんしな。分かんねんはーくんの気持ちも。ウチやってホンマは応えてあげたいねん、それはホンマなんよ……っ!」
『……はい』
「なぁしおり~ん一回こっち来てえやあ……! そーゆうんの詳しいんやろぉ~!? 言い過ぎたんなん水に流すとさかい、もっかい助けてやぁぁ~……!」
『…………あの、世良っち』
「にゃ~~ん?」
『この手の類は極めてデリケートな話です。その、一回落ち着いた方がよろしいかと。私も知る限りの情報しか持ち合わせていませんし』
「聞いてくれるんか!?」
『はい。聞きます。なので、あの、一旦切りませんか。色々と集めて来ます。情報を。また日を改めて話しましょう』
「分かった! ほなまた今度なっ! にゃふふふっ……♪ いやぁ~、まさか急にここまで進展するなんてなぁ~♪ ホンマしおりん様々やでまったく、持つべきものはしんゆ」
『おやすみなさい』
……………………
「…………取りあえず本人にも聞いてみましょう。電話だと出てくれないかも……んふふっ。これはつまり、次は私の番ということですね。嗚呼ヒロくん。貴方、やっぱり只者じゃないわ……ッ!」
* * * *
「にゃああああ!! ぜんっぜんできへん!」
「…………」
「なーにがさかあがりや、ぼけ! あほ! こんなんできへんでもこまらへんやろがい!! あのばばあせんせー、あしたしばいたる! ふしゃーー!!」
「…………」
「…………ゲッ」
「まだやってんのかよ」
「な、なんや……ねんちゅーのにいちゃん」
「ひろせはるとや。おぼえろ」
「うっさいなあ! あんなんせんせーがかってにきめただけやっちゅうに! ひまじんが! もりへおかえり!!」
「そーゆーわけにもいかへんねん。ペアがさかあがりできひんと、おれもおこられねんで。はよやれや」
「うぐぐぐぐっ……!! そこまでゆーうんやったら、ちゃんとおしえてえや! ウチやってはよかえりたいねん!」
「それだけ?」
「……りっちゃんとゆーこにばかにされるぅぅ~~!! それだけはいやぁ~!!」
「ったく、アホかおまえ……あんな。うでだけでやろうとすっからアカンねん。ちゃんとじめんけって、いきおいつけんの」
「……ぱわー?」
「のー。てくにっく」
「なんそれ」
「ええからほらっ……ああ、おまえ、ずっとソレでやってんねんな。そらせいこうせんわ。て。ぎゃく」
「ふぇっ……あ、う、うんっ……っ」
「こーやってしたからもって……おら、いくで!」
「にゃにゃっ!?」
「いってこーい!!」
「だわほあぁああああアアアアーーッ!?」
「あー!てェはなすなよ!」
「アカンてッ、むりムリムリ!? こわすぎるてこんなん!!」
「てェはなすからや! けったいきおいで、ひっぱりあげんだよ!」
「ぱわーいらへんいうたやろが!?」
「ゼロともいうてへんわ!!」
「わからん!!」
「…………はぁ~~。だる~……」
「おしえんのへたくそやねん! ねんちゅーのくせに!」
「……しゃあな。あれや。せんせーがやっとったのでいくわ」
「……にゃにゃ?」
「おまえがとんだら、そのままもちあげたる。ならおっこちたりせえやんやろ」
「…………ほんまか?」
「なにが」
「にいちゃん、えらいせいかくわるいってみんないうとるで。どーせウチがとんだら、ススーッてはーれんのやろ」
「……しねーよ。そんなこと」
「ふふーん。しんようできへんなあ!」
「……なら、しんよーするまでつきあう」
「…………へ?」
「さかあがり。せいこうするまで、ぜったいにかえらん。どーせかえってもアイツらおらへんし……」
「……なんでそこまでするん」
「おめーがおれをなめてっからだよ!!」
「あぁぁ~~?」
「ええから、さっさとやるで! できるまでかえさんからな! ほらっ、やれ!」
「ちょちょちょっ……まってまって、こわいこわいこわいっ!?」
「こわない!! てはさかさ! はなさない!」
「ホンマにむりやってええ~~!!」
「あしはなせ! いうこときかへんとけっとばすで! もしくはころす!!」
「おっかないなァ!?」
「いやならとべーー!!」
「にゃーーーー!! わかったわかった、やりますやりますぅぅー!!」
「そう、それや! ほんでこしにちからいれて! グッと!!」
「わからん! わからんてぇ!!」
「ああもうっ、ホンマに……!」
「ギャアああアアアアーーーーッッ!!!! おしり!! おしりさわっとるううううーーーー!?」
「きにすんな!!」
「へんたいやああああ!!!!」
「へんたいちゃうわああああ!!!!」
「にゃあああああああああああああああ!!!! …………あ、あん? にゃにゃ?」
「はぁ、はぁっ、ハァッ…………ほれ、できたやん。グルっといったで……!」
「……できた。ウチ、さかあがり、できた……っ! ホンマにできたあ!」
「もうキープできとるやん。ほれ、そんでぱわーとてくにっくで、グルっと」
「おぉーっ!! いける、いけるで!! なんこれたのしい!!!! にゃははははは!!!!」
「きゅうにグルグルまわるやん……」
「すっごお!! なんこれぇ!! え、やばっ!! にいちゃんてんさいやん!」
「おう。ほめろ」
「あんがとな! これでりっちゃんとゆーこにばかにされへんとすむわ! ホンマあんがとさんな!!」
「はいはい。ほな、できたんならかえるわ」
「あ、まってまって! ウチあれもやりたいねん! まえまわり! そっちもおしえてえや!」
「えぇー。だるぅ~」
「ええやんええやん! せっかくなかようなったんやから、もうちょいあそんでこうや!なっ、ねんちゅーのにいちゃん!」
「せやから、ひろせはるとやって」
「……はーと?」
「はると」
「いいにくいなまえやなぁ」
「んなことあらへんがな」
「ほな、はーくんな」
「なんそのきもいの」
「きもくない! はーくんゆうたらはーくんやねん! ええな! はーくん!」
「なんやそれ、ったく……あー、ほんで? おまえは? なんてゆうん?」
「にゃっふっふ……! しゃーないなあ! そんなんききたいなら、おしえてあげへんこともないなぁ~!」
「ウチはな、ふみか! せらふみかーゆうねん!! よろしゅうな、はーくん!!」
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