781. 峯岸先生のお悩み相談室(後)
(四月某日)
愛莉「あ。いた」
峯岸「……おー長瀬。なんか用か?」
愛莉「生徒会に出す書類で、先生のハンコが必要で……こんなところでなにやってるんですか? 誰もいない駐輪場で」
峯岸「見りゃ分かんだろ。一服だよ」
愛莉「校内は禁煙なんですけど……」
峯岸「へっ。そう堅てえこと言うなよ。妹と違って融通利かねえなぁ」
愛莉「いや、なんで真琴が出て来るんですか」
峯岸「はいはい、書類ね。あとで持って行くから」
愛莉「はぁ……じゃあ、お願いします……さっきからなに読んでるんですか?」
峯岸「気にすんな。はよ行った行った」
……………………
愛莉「……あの、いっつもここで煙草吸ってるんですか?」
峯岸「そーだよ。制服に匂い移る前に、とっとと戻りな」
愛莉「ホントに、控えてくださいね。先生のせいでまたハルトが喫煙者になったら、本気で怒りますから。困らせないでくださいよ」
峯岸「アアッ? むしろ辞めさせた側だっつうの。だいたい、アイツを一番困らせている奴に上から言われたくないね」
愛莉「うぐっ……!? なっ、なんですかいきなりっ!? わたしとハルトのことは先生には関係ないじゃないですかっ!?」
峯岸「そりゃあ無いけど、まったく無いと言えば噓になるさね…………ほら、煙草ならもう吸ってないぞ。話したいことがあるなら今のうちだぜ」
愛莉「……別に相談なんて一言も言ってませんけど」
峯岸「部活の書類なんて放課後に幾らでも渡せるだろうに。このタイミングでここに来たってことは、わざわざアイツに居場所を聞いたんだろ?」
愛莉「…………変なところで鋭いですよね。先生って」
峯岸「聞いて欲しいって顔してるぜ」
愛莉「……じゃあ、ちょっとだけ」
峯岸「まぁ座れや」
……………………
愛莉「……ハルトが好き過ぎて、辛いです……」
峯岸「早速ド真ん中放って来やがったな」
愛莉「先生にはバレてるし、もう良いかなって……軽く流してくれそうだし」
峯岸「腰が痛むのか」
愛莉「…………あー、どうしよう……全部喋っちゃおうかな……」
峯岸「女同士だろ、気にすんな。友達相手じゃ話せないこともあるだろ?」
愛莉「…………いやでも、私は悪くないんですよ。絶対に。ハルトのせいです」
峯岸「はぁん?」
愛莉「ハルトがおかしいの、どう考えてもっ……そりゃまぁ、体力とか力の強さとか、色々と差はあるかもしれないけど……でもっ……」
峯岸「骨抜きだな」
愛莉「…………あの、これ……本当に誰にも言わないでください……っ」
峯岸「言うわけねえだろ。どした」
愛莉「……そういうことで、頭がいっぱいです」
峯岸「そりゃ良かったな。愛しの彼が逞しいものをお持ちで、羨ましい限りよ」
愛莉「ちっ、茶化さないでくださいっ……! ほんとにすごいんです、何回やっても全然衰えなくてっ……! もう最後の方とかほぼほぼ意識無くなっちゃうし、私が満足するまで絶対付き合ってくれるし……っ!?」
峯岸「良いよそこまで話さなくて」
愛莉「昨日なんてもうほんとにすごくて!?」
峯岸「だから良いってそんなタイムリーな話題は」
……………………
愛莉「……でもっ、ほんとに困ってるんですっ……あんなのがこれからずっと続いたら、わたし、もうっ…………人として終わっちゃう気がして……」
峯岸「人として……ねえ」
愛莉「将来のこととか、今までも全然考えて来なかったけど……なんかもう、ハルトとずっとそういうことしてたら、それだけで良いなぁって……」
峯岸「結局惚気かい」
愛莉「ほんとに悩んでるのっ!! 私だってハルトとみんなの役に立ちたいし、ただ甘えてるだけじゃダメだって分かってるし……! でも、でもっ……!」
峯岸「まぁ気持ちは分かるけどね。何の苦労も無く好きな奴と一緒に居たいって、別にお前に限った話でもねえよ。世の恋人はみんな同じこと考えてるさ」
愛莉「……先生も経験あるんですか?」
峯岸「おい。当たり前のようにプライバシーへ踏み込むんじゃねえよ。お前みたいにみんな自慢したがるわけじゃねえんだぞ」
愛莉「じっ、自慢じゃないってば!?」
峯岸「私のことなんてどうでも良いだろ……まぁアレだ。経験の浅いカップルによくありがちな話さね。愛情が全部肉欲に変換されて、他の要素がおざなりになって……実は好きなのは身体だけなんじゃないかって疑い始めて」
愛莉「ヴっ……!?」
峯岸「ところがしかし、その刺激があまりにも強すぎて……他に愛情を確かめる方法があるにも関わらず、そちらを優先してしまう。で、お互いますます依存して、腰突き合わせねえと会話も出来なくって……どちらかが飽きて、サヨナラ」
愛莉「ひいいいいっ……!?」
峯岸「怯えんなって。ごめん悪かった」
……………………
峯岸「 ……まぁでも、初期段階ではあるんじゃねえの? 少なくとも。言っとくけど長瀬お前、凄いぞ教室でも。アイツの下半身目で追い掛けてるの、前から見たらバレバレだからな」
愛莉「…………う、うそっ……!?」
峯岸「若いうちはどうしても仕方ない部分もあるけどな。今は心配要らないかもしれないけど……ふとした拍子に『最近満足出来なくなった』なんて思うようになったら、一気に冷めるぜ」
愛莉「うぅっ……想像したくもない……っ」
峯岸「だから怯えるなって……そうならないためにちょっとだけ我慢するんだよ。勿論無理のない範囲でな。本質を見失うなってことさね」
愛莉「……本質、ですか……っ?」
峯岸「アイツのどこが好きなのか。どうして好きになったのか、ってことだよ。まさか先に身体の関係持ったわけじゃねえだろ?」
愛莉「…………まぁ、はい。そうです」
峯岸「だったら分かる筈さね。お前とアイツがそういう関係になったのは、あくまで結果論。愛情余ってのことだろ? 本気であの女誑しと足並み揃えて生きていく覚悟があるのなら、必ずどこかに落とし処はあるよ。今は分からなくてもな」
愛莉「…………なんか、難しいです」
峯岸「ハッ。妹より馬鹿なんじゃねえのお前」
愛莉「……否定は出来ません……ッ」
峯岸「愛は真心、恋は下心ってね。今のお前は、一時的にアイツの○○○に恋してるってわけさ。偶には悪くないけどね。でも溺れたらそれこそ人として、女として終わっちまうぞ」
愛莉「…………気を付けます。ホントに」
峯岸「幸いお前たちには、フットサルっつう大義名分があるからな。それを言い訳にして欲しくは無いところだが」
愛莉「……大丈夫です。フットサル部も、ハルトのことも、全部本気で向き合うって、ずっと前から覚悟してますから」
峯岸「じゃ、頑張りたまえ」
……………………
峯岸「終わるぞ昼休み」
愛莉「……ありがとうございます。色々と」
峯岸「へーへー。まっ、いつでも頼りなさいな」
愛莉「……ちなみになんですけど」
峯岸「おー」
愛莉「…………やっぱり妊娠してると、仕事って見つけにくいんですか……?」
峯岸「……なに? 腹膨らませる予定あんの?」
愛莉「…………保険だけ掛けとこうかなぁって」
峯岸「勘弁してくれんかね」
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