715. お持ち帰り
何度かメンバーを入れ替えてミニゲームを繰り返し、体験入部は一旦お開きとなる。明日も含めて約一週間、人数はどこまで減るのだろうか。
せっかくの機会だし親睦会的なものをやろうと瑞希が音頭を取り、その場で一年たちに参加を募ったのだが。
有希と真琴はともかく、他の面子は保科さんと小谷松さん(無理やり手を挙げさせられていた)、和田少年にその他数人の男子と集まりは良くなかった。
女子に至ってはその二人を除いて誰も残らなかった。レベルの高さに打ちのめされ早々に見切りを付けてしまったのだろうか。
何度も言うように、問題はそこじゃないんだけどな。まぁ帰ってしまったものは仕方ない。
「ほほー。ご実家がマッサージ屋さんなんですか」
「色々やってるんすよ、針治療とか、指圧式とか、なんか電気流してこう、ビビビッて! 地元じゃ超有名なんすよ! ジジイ支持率ナンバーワンっす!」
「ババアは来ねえの?」
「ウチの男ども、みんな手つきがやらしいから女性には不評なんすよ! あと鼻息煩いんで! 血筋的に!」
瑞希とノノが保科さんを囲みアレコレ情報を引き出している。ご実家は中々評判の良い個人経営の療院だそうだ。大学を出たお兄さんが二人いて、既に療院で働いているらしい。
で、当の慧ちゃん(そう呼んで欲しいと煩かった)だが、小中合わせてスポーツにはまったく縁が無かったとのこと。これだけ背が高ければバスケやバレーのお誘いがありそうだが、すべて断って来たそうだ。
「じゃあなんでまたこのタイミングで?」
「あのバカ親父のせいっすよ! 散々『お前は跡取りなんだから部活なんてやらず真面目に勉強しとけ』とか言っておいて、兄ちゃんたちが帰って来たら『やっぱ継がなくていいや』って酷くないっすか!?」
「あ~。やりたくても出来なかったんですね」
「そうなんすよっ! ユーキちゃんに誘って貰えて、マジで感謝っす!」
さっきから有希の名前間違えてるような気がするけど、単に舌っ足らずなだけだろうか。にしても声デカいな。ファミレス中に響き渡ってるぞ。
喧しい金髪コンビとも何かとフィーリングが合うようで、食事中もずっと楽しそうにしている。よほどのことが無ければ入部してくれるだろう。これは面白い人材が入って来たな……もうちょっとボリューム下げてくれると嬉しいけど。
「へぇ~! お父さんのお仕事の都合で一緒に? そうなんだあ、大変だねえ」
「……………………」
「岡山には縁がありませんが、比奈が信玄餅をきびだんごと言い張って私を騙そうとしたことだけは覚えています」
「え~? 騙される琴音ちゃんが悪いんだよ~」
「どう考えても比奈が悪いです。譲りません」
一方こちらは比奈と琴音に囲まれ、肩身狭そうにストロー咥える小谷松聖来さん。相変わらず一言も喋らない。首振るだけ。
面白いことに、ぶっ続けでミニゲームを行い有希や慧ちゃん含めほとんどの一年生が息を切らしてたにも関わらず、小谷松さんだけが練習後も実に飄々としていた。本当に疲れていないのか、それとも態度に出さないのか。
最初のゲーム以降彼女のスピードが目立つシーンは無く、覚束ない足元のスキルが露呈するばかりであったが……明日のフィジカル練では更に目立ってくれそうな予感。非常に興味深い。色んな意味で。
「ほらっ、これ見てください! 中学の大会の映像ですよ!」
「ほんとだあ! 県大会決勝……わあ、はやーい!」
「これは中々……凄い選手だったんですね」
「……………………」
中学時代の試合の映像が動画サイトに残っていたそうで、有希がスマホを開き二人に見せている。小谷松さんは酷く恥ずかしそうに指先まで真っ赤にさせ顔をブンブン振り回す。
有希が間に入ってくれるおかげでなんとかコミュニケーションは成り立っているが、本当に喋らないな小谷松さん。辛うじてヤル気だけは見えるから良いけど、この調子で今後大丈夫なのだろうか……。
「兄さん、そろそろアレなんとかしなよ。もう泣きそうなんだケド」
「いやあタイミングがな……」
「言うてメンドイだけやろはーくん」
「まぁ若干」
『いっつもあんなに強がってるのに、男子相手にはてんで駄目ね、アイリ』
隣のテーブルで男子に囲まれている愛莉を眺め四人揃って呆れ顔。さながら大学サークルの新歓飲みが如く。どっちが新入生が分かったモンじゃない。
愛莉を囲っているのは和田少年と、練習中は瑞希と比奈のチームだったパリピワンチャン組三人だ。
歓迎会があると聞いてノコノコ着いて来やがった。言い方は非常に悪いが、本当にノコノコ来やがった。練習中あんだけチンタラやっといて。
彼女の人見知りぶりは初対面でもなんとなく分かるところがあるようで、最初は主に比奈だったターゲットを愛莉に移したというわけだ。さっさと帰っていった面子と違い状況が見えていないから尚更困ったりする。
「しゃあねえな……文香、二人連れて適当に引っ掻き回しといてくれ。その隙に脱出させるから」
「えぇー!? ウチもはーくんと一緒がいい~!」
「帰ったらゲーム付き合うたるから。パワ〇ロでもモ〇ハンでもやったるわ」
「え、ホンマにっ!? 言うたな!? 絶対やで!? 嘘やったら殺すでお前っ!」
「ええからはよ行ってきい」
軽率に約束を取り付け三人を隣のテーブルへ向かわせる。その間に愛莉がスルスルと席を抜けてこちらへやって来た。
今にも泣いて飛び付いて来そうだったので、慌ててこっちへ来いとジェスチャーを送り店の外まで連れ出す。出るや否や腕をグイっと引っ張り蹲る愛莉。
「ごわがったぁ゛~~……!!」
「んな大袈裟な……」
「だってすっ゛ごい胸見て来るんだもぉぉ゛ぉぉんやだぁぁ゛ぁぁ!゛!」
凄まじい狼狽ぶりである。確かに連中の……和田少年を除いた三人の態度はそれはもうあからさまであった。アホみたいに凝視するし、酷い奴なんて何かを落としたフリしてスカート覗こうとしてたし。
隣が距離を保ってくれる和田少年で本当に助かった。こうも辛そうな姿を見ると、もっと早く助けてやれば良かったと今更ながら思う。腹立って来た。あとでしっかり殺、あ、いや、怒ろう。そうしよう。
「気持ちは分かるけどよ……俺もなるべく助けてはやるけど、もっと落ち着いて構えてねえとこれから苦労するぞ。つうか、逆になんで俺だけ平気なんだよ」
「だってハルトだもん……っ!」
クッソ。依存甚だしいな。可愛い奴め。
上目遣いをやめろ。お持ち帰りたくなるだろ。
ずっと前から懸念していたことではあるが、フットサル部に俺以外の男子が加入することを許容出来ない奴が愛莉をはじめ何人かいて……いつか解決しなければならないとは思っていたが、これといった打開策が無く来てしまった印象だ。
要するに慣れて貰うしかないのだが、こうも露骨に怖がられると……というか、今までの日常生活はどうやって切り抜けて来たんだよ。もはや恐怖症の領域だぞ。テツオミ相手でもここまでビクビクしてねえだろ。
「不思議なモンやな。エロいこと考えてるのは俺もアイツらも同じなのによ」
「……だって、ハルトはハルトだもん。ああいうのとは違うしっ」
「だったらここで乳揉み散らかしても怒らねえか?」
「…………誰も見てないなら、別に……っ」
「お前倫理観おかしいよ……」
どうしてこうなっちゃったんだろう。俺が甘やかしたのが悪いのかな。満更でも無くて怒るに怒れねえ。
すると、愛莉の様子でも見に来たのか和田少年が現れドアの間からひょっこり顔を出す。なんとも申し訳なさそうな顔色だ。
「あの……すいません、長瀬先輩。アイツらオレのクラスメイトなんですけど……マジ最悪っすよね。ホントすいません。あとで謝らせます……」
「悪いな。気ィ遣わせて」
「いえっ、あの、ホントにすいません……!」
「お前が謝らんでもええし、どうせ言っても聞かねえよ…………愛莉、真琴連れて一緒に帰れ。キツイなら俺ん家か有希の部屋におってもええから」
頭を撫で身体を引き離す。和田少年が見ている手前甘え続けるのは気が引けたのか、物足りなさそうな様子ではあるが素直に店内へ戻る愛莉であった。
「あの、お二人って……」
「見りゃ分かんだろ。そういう関係だよ」
「あっ……了解です。理解しました。えっと……黙ってた方が良いですか?」
「いや、むしろ言って回れ。それならアイツらも諦め付くやろ」
「分かりました……あの、廣瀬先輩。自分、ちょっと先輩にお話というか相談が……ここで良いですか?」
誰がいるわけでもなしに何やら言い淀んでいる和田少年。そこそこ大事な相談っぽいな。仮にも初対面だというのに、いったいなにを話すつもりなのやら。
「駐車場まで降りるか。ちと寒いしな、缶コーヒーくらい買ってやる」
「えっ……だったら店で飲んだ方が」
「俺が奢りたいっつってんだよ。黙って先輩風吹かされとけ。ほら。着いて来い」
「はっ、はい……!」
まったく。次から次へと問題が降り掛かる。
が、しかし、意外と楽しんでいたりもする。本気で困っているのは愛莉だけだ。色んな意味で。いっつも。
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