711. 便乗したいだけ


 ロンドを終えた新入生たちは束の間の休憩時間。その間もよく喋る連中が輪に入りコミュニケーションを取っている。



「ほほー。説明会見て入りたくなったと」

「なんか雰囲気イイ感じだなぁって! こう、青春してますって感じがすっごいあって、ああいうとこ入りたいなーって思ったんですよぉ!」

「先輩、マジでカッコよかったです! 一年でも超話題なんですよいま!」

「いやぁ~んセンパイ照れるぅ~~♪」


「へえ~、そうなんだあ。サッカー詳しいんだねえ。わたし見るのは全然だから知らなかったよ~」

「いやでもアレっす、マジでウイ〇レとF〇FAの知識だけなんで! なんかこう、そろそろ自分でもプレーしてえなーってちょうど思ってて!」

「サッカー部は流石に無理すけど、フットサルならギリギリイケるかなって! 男女一緒の大会出るって、ヤバイっすよね!」

「あははは。そっかそっか。そうだねえ。サッカー部さん凄いからねえ~」


 ノノはパリピエンジョイ女子のお相手、比奈はワンチャン勢に囲まれている。

 煽てられて調子に乗っているノノはともかく、比奈の目よ、目。完全に死んでいる。誰に対しても分け隔てない心優しき彼女にしては露骨過ぎる。



「うわ~。わかりやす~」

「な。比奈のあんな顔初めて見たわ」

「んーん。そっちじゃなくて、ほら」


 影に隠れ様子を窺う瑞希。チョンチョンと彼女が指差す先には、一年男子と比奈の会話を怪訝な顔つきで眺めている数人の一年女子。


 さっきまで同じグループでロンドやってたにしては距離があるように見える。なんだ、早くも仲間割れか。



「ひーにゃん完全にロックオンされたな」

「は? どういうこと?」

「そりゃもうアレよ。『男子の人気全部持ってっちゃうあざとウザい女子の先輩』認定喰らってんの」

「なんそれ。メンドくさ」

「女の嫉妬は醜いですからな~」

「ふむ。身に覚えがある」


 新入生の誰とも会話を図らず、端っこで一人ウォームアップに励んでいるコミュ障陰キャ部長の悪口ではない。違うったら違うもの。



「これダメだね。半分は今日でお別れだな」

「そんなに?」

「便乗したいだけなんだよ。あたしたちがなんか楽しそうにやってるから、仲間に入れて欲しいってだけの一番ダルい奴ら。『フットサル部で青春謳歌してる自分マジイケてる』ってカンジ。もう浅いのなんの」


 半笑いで吐き捨てる瑞希。

 やはりさっきから機嫌が悪い。


 なにも考えずひたすら『楽しい・面白い』を軸に行動している彼女からすると、あのような打算が透けて見える連中とは相容れないのだ。


 たった数十分の関係性で断言することも出来ないが、なんとなく雰囲気で察するところもある。恐らく彼女たちはフットサル部の活動にそこまで熱量を持てないだろう。比奈を囲んでいるワンチャン勢も同様。



「すいません! 次、なにやるんですか!」

「え。あぁ、普通にミニゲーム。男女ミックスでな。初心者の子もちゃんとリードしてやれよ」

「了解っす! 自分ら、ゆーてそんなになんで! たぶん良い感じになるっすよ」


 経験者グループの一年男子が声を掛けて来て、ヘラヘラ笑いながらそんな風に話す。彼らはどうだろうな。それなりにヤル気は見えるが。


 まぁ良い。それも含めてこのミニゲームで様子見だ。面接官を気取るつもりは毛頭無いが、多少は参考にさせて貰おう。



「じゃ、始めるぞ。みんな円になって……ん、オッケー。えーっと、全員で28人だから……ちと多いけどええか。1から4の数字の数字で。はい、順番に」


 7人組4チームに再編成。コートは正規のサイズとほぼ同じなので少しゴチャゴチャするかもしれないが、初心者も多いしなんとかなるだろう。


 バランスよく分かれたところで、各チームで自己紹介と簡単なポジションを決めるよう指示を出す。さて、俺のグループはどんな奴らかなっと。



『なんやルビーか。ガッカリやわ』

『いきなりご挨拶ね……』

『ただでさえ一年の相手してんのにお前がいると面倒くせえんだよ』

『ねえ、本当に落ち込むからやめてくれない? わたしこれでもヒロのこと結構好きなんだけど?』

『だったら俺にも日本語を使う努力をしろ』

『イヤよ。面倒だもの』

『だからそういうところやぞお前』


 俺とルビー、一年女子が三人。男子が二人だ。いきなり流暢なスペイン語で喋り出した俺たちを見て、揃って目を丸めて驚いていた。



「先輩、それ何語っすか!?」

「スペイン語。正確にはバレンシア語っつうか、方言みたいなモンやけど」


 やたら食い付いて来たのは一年女子の一人。ロンドの最中もやたら声が大きくて目立っていた、背の高い赤み掛かったウェーブヘアの少女だ。キラリと光る犬歯が印象的。あとおっぱいも大きい。これは中々。


 隣には例の青髪眼鏡ロリこと小谷松さんの姿も。二人ともユキマコのクラスメイトだ。気になっていた子が上手いこと集まったな。



「うしっ、自己紹介すっか。俺は廣瀬陽翔、さっきも言うたけど副部長。一応な、一応。で、コイツがルビー。二年の編入生。日本語はほぼ通じないがフィーリングでだいたいイケっから。気軽に絡んでやれ」

「コンチハ! オハヨー! ネムイ!!」


 肩を叩くとお決まりの挨拶で応答するルビー。赤髪犬歯少女は『おぉ~っ!』と感嘆の声を挙げ、ニコニコと笑い拍手を送る。



「はいはいはいっ! アタシ、保科慧ホシナケイって言いまっす!! 中学はすぐそこの八中ハッチュウで、部活は和太鼓部でした!!」

「和太鼓部?」

「なんかこう、ドカドカって叩く感じっス! 音程もなんも無い感じで! まぁ幽霊部員だったんスけどね!」


 声のデカさだけなら瑞希やノノをも凌ぐパッション少女だ。常にニコニコしている、裏表の無い純粋な子という印象。あくまで初見では。



「そんでそんで、この子が小谷松聖来コヤマツセイラちゃんです! 岡山から上京して来たらしいっす!」

「何故キミが喋るのかね」

「せーらちゃんお喋り苦手なんですよぉ! 入学式からずーっとダル絡みしてるんスけど、アタシもまだ声聞いたこと無くて。でも可愛いからオッケーっす!」


 保科さんの言葉を肯定するよう、ちょっぴり赤面しつつも無言でコクコクと頷く青髪眼鏡ロリこと小谷松さん。

 中学の体操着と思われるジャージがまるで似合っていない。保科さんと並ぶとパッと見もう親子だな。同い年でこうも発育の差が出るか。


 しかし、自己紹介まで人任せとは。ちょっと想像以上の引っ込み思案ぶりだ。頷いたりはしてくれるから、コミュニケーションは成り立つと思うけど……他の一年との仲が心配だ。


 さて、気になる奴がもう一人。



「あっ、オレ、和田克真ワダカツマです。一応中学では川崎フロレンツィアってチームで……」

「おう。谷口から聞いた。有望株らしいな」

「いっ、いえ! 自分なんてそんな、全然ですッ! あのっ、オレ、すっげえ廣瀬先輩のファンで……! ワールドユースとかメッチャ見てて、憧れてて! こんなところで会えるなんて思ってもなくて……こっ、光栄です!」


 ガチガチに緊張する噂の和田少年。これでもかと言うほど頭をペコペコ下げ、すっかり舞い上がっている。

 標準的な黒髪短髪。やや幼さは垣間見えるが、端正な顔付きの爽やかな男だ。女子からはさぞおモテになることだろう。



「敬ってくれるのは有難いけど、外に言い触らすなよ。こっちはもう引退した身だからな。今はフットサル一本や。今んところな」

「あっ……やっぱり、サッカー辞めちゃったんですね、本当に……」

「こっちもこっちで面白いもんでな。まっ、詳しく聞きたいなら後で話してやる。じゃあ次。キミ」


 セレゾン時代の俺の活躍をよく知っているそうで、和田少年はどこか複雑げな面持ちでため息を溢す。悪い気分でもないが。



 残る一年女子は柴崎さん、さきほどノノに絡んでいた子だ。もう一人の男子は金子と名乗り、こちらも比奈にご執心だった奴。以上で自己紹介は終了。


 他のグループも粗方終わったようで、ボールを囲んで軽く練習を始めている。こちらも動き出すとしよう。はてさて、いったいどうなることやら。


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