386. だらしねえやつらだ
クリスマスイブなだけあって、パーク内は芋洗い状態とまではいかないまでも限りなくそれに近い混雑ぶりだ。少し目を離しただけで迷子になってしまいそう。
客層はやはり俺たちと同年代の高校生、若しくは大学生辺りの若い層が中心。比奈と訪れたハロウィンの催しを思い起こさせる、多種多様なコスプレ染みた格好も目に付く。
「おっ待たせーっ♪」
取りあえずそれっぽい恰好になるか、と揃って近くのショップへ突撃し色とりどりのコスチュームに着替えた一同。
瑞希は全身真っ黄色のモコッとしたパーカー。モチーフの作品も相まって、彼女との親和性も高い。気がする。よく分からんけど。
比奈と琴音は黒を基調とした長いローブ。お互い色違いのマフラーを巻いている。比奈がグリフ○ンドールで、琴音がスリ○リンか。拘りがあるのか無いのか。
「で、愛莉はス○ーピーか」
「予算的にちょっと……」
白のニット帽に黒耳が付いた簡素なアイテムではあるが、ギリギリコスプレと言い切れなくもない絶妙なところ。
流石に一着分は買えなかったのか。侘しい。
でも可愛い。普通に。可愛い。
「ハルはなんもしてないの? つまんな」
「よく見ろよ。ちゃんと着てるだろ」
「へっ。どれ」
「ほら。小銭入れ。エ○モのやつ」
「あっ、ホントだ。買ったの?」
「持参」
「おみそれしましたぁ……!」
何故か家に置いてあった。
使うのは初めて。
「じゃあ、どこから行こっか。人気のアトラクションは混んでるから、空いてるところからどんどん回った方がお得だよね」
「それなー。あ、グリフィン○ールに10点」
「わーい」
「点数一番低かったやつ罰ゲームな!」
「ハ○ポタ勢有利過ぎやろ」
「はいネガティブ発言! マイナス5億点!」
「レートバグっとるやないけ」
どう挽回すればいいんだよ。
そんなこんなで行動を始めるフットサル部一同。バッチリ予習済みだという瑞希とノノに引っ張られてパーク内をあちこち回る。
至るところで写真を撮りまくるので、中々先に進まない。撮影係は、もちろん俺だった。買って出たというのもあるけれど。
「全部説明するのも面倒やな」
「え、なにが?」
「時間掛かるし、ダイジェストでええか」
「誰に向かって話してんの? 大丈夫ハルト?」
……………………
「バ○ービール買ってきたよーん」
「へぇー。アルコール入ってないのね」
「あ、琴音ちゃんおひげ付いてるよ」
「比奈もモコモコです。可愛いです」
「いやらしさを覚えるのはノノだけですかね」
「なにがどういやらしいねん」
「いや、○射っぽいなって」
「最低過ぎんお前」
……………………
「ハルっ! ディメンター! ディメンターきた!」
「おー。結構怖い顔しとんのな」
「くらえっ! アグアメンティ!」
「水じゃ効かへんやろ」
「ふうぉおおっっ! 熱いッ! えッ、寒ッ!?」
「わー。映像とリンクしてるんだねー」
「余裕ですね比奈センパイッ!?」
「えー? 楽しいよー?」
「ヌオオ゛オオオ゛オッッ゛!! 首ッ、首もげる!! ポイポイポポイポォォォ゛ォーイ!!!!」
「ノノちゃん元気だねえ」
……………………
「いっつも思うんだけど、蜘蛛の糸で壁よじ登ったり戦ったりって、ちょっと無理あると思わない?」
「アニメ漫画の話やしな」
「まっ、所詮は子供騙しよねこんなの。流石にこの年にもなってアトラクションでギャーギャー騒いだりしな……」
「あ。落ちる」
「ビヤアアアアア゛アアアア゛アアアアアア゛アーーア゛アアアアアア゛アアアアアアッッ!!!!」
「うるっせえな」
「瑞希センパイッ! なんか来ましたッ!」
「なんだあのマスクはっ! 誰だお前はッ!」
「情け無用の男ッ! スパイダーマッ!!」
「ナニィ!? 東○版だとぉっ!?」
……………………
「無理ムリムリムリムリィィ゛ィィ!!!!」
「絶叫系ですら無いのに!? 愛莉センパイしっかりしてくださいっ! ほら、バナナあげますからっ!」
「どっから持ち込んだのよぉぉオォォォ!!」
「なんで日本語吹き替えだと関西弁なんだろうね」
「変なところで個性出すなよなホンマ」
「あ、見てーっ。手降ってるーかわいー♪」
「あばばばばばばばばばばば」
「すごいっ! くすみんが○ニオン語喋ってる!」
……………………
「もうやだぁおうちかえるぅぅ……ッ!!」
「ながせー。大丈夫だよー。ほら恐竜さんだよー」
「やらぁ怖いのぉぉっっ!!」
「おぉっ……手に負えねえ……」
「すごーい、ティーレックスだ」
「うわぁ。ちょっとキモいっすねえ」
「ノノちゃん爬虫類とか苦手?」
「女の子はみんな嫌いじゃないですか?」
「そう? カマキリとか可愛いと思うけどなあ」
「分かんないっすねえ……ゴキは余裕ですけど」
「それはもっと分かんないなあ……」
「だから絶叫系は嫌だと言ったんです……っ」
「落ち着けって。ほら、これはただのボートやろ」
「あの、腕を掴んでもいいですか……っ?」
「ええけど、もう落ちるで」
「……はい?」
「覚悟しろ琴音。これも絶叫系や」
「えっ、ちょっ、待っ――――」
……………………
「で、どうしますかこのお二方」
「暫く横にさせよっか。流石に可哀想だし……」
「まったく、だらしねえやつらだなっ」
ベンチに力無くもたれ掛かる愛莉と琴音。
顔が真っ青だ。死屍累々とはこのことか。
続けざまの絶叫系にすっかり気をやられてしまった二人とは対照的に、まだまだ元気なご様子の瑞希、比奈、ノノの三人。パンフレットを広げ次の遊び場所を模索する。
「好きなとこ行って来いよ。俺コイツら見とるわ」
「えー? ハルも行こうよー!」
「ほったらかしには出来ん。愛莉と琴音やぞ」
「格好の獲物ですからねえ。おっぱい大きいし」
「ノノちゃんがそれを言ってもなあ」
まぁまぁ失礼なことを抜かすノノであるが、つまりそういうことだ。回避能力の高い三人と比べ、何かと隙の多いコイツらを放置するのは抵抗がある。
付け加えれば、俺も少し疲れてしまった。柄でもなく騒いでしまった感はあるし、ここらで遅い昼食も兼ねて休憩しておきたいところ。
「まーでも、流石に腹減ったかも。ご飯にすっか」
「もう3時過ぎちゃったからねえ」
「ノノこの格好でジッとするのキツイんですけど」
「知らんわ」
ということで揃って休憩のようだ。
いやホンマはしゃぎ過ぎた。反省しよう。
「この辺あれでしょ。子ども向けのとこ多いから、適当に遊んで時間もつぶせるし。お土産もちょっと見たいかも」
「さんせーい。ほら二人とも、移動しよ?」
「愛莉センパーイ。起きないと揉みますよー」
「ううー……やめてぇー……っ」
「もう揉んでんじゃねえか」
ぞろぞろとレストランエリアへ移動を開始。
じゃんけんの末、瑞希が琴音を負ぶって行くことになった。アイツ今日に限って人の背中借りてばっかだな。怠惰な奴め。
(…………あぁ。ここもそういや来たな)
ふと蘇る懐かしい記憶。
確か子どもの乗れるアトラクションがこの辺りにしか無いから、結構な長い時間をこのエリアで過ごしたんだっけ。あのコーヒーカップみたいなやつも無理やり乗らされたな。
「おっと」
「こら、たっくん! 気を付けないとだめだよ!」
「あっ、ご、ごめんなさいっ!」
「……おう。怪我してねえか。気を付けろよ」
「はいっ! だいじょーぶですっ!」
ボーっとしていると、小学生くらいの男の子が俺の足にぶつかってきて転んでしまった。一緒に着いて来た女の子が彼の手を引いて、どこかへ駆けていく。
ガキンチョの癖して一丁前にデートか。
まぁ人のこと言えないけどな。この状況。
「可愛いねー。デートなのかな?」
「ハッ。生意気なガキ共や」
「そんなこと言わないっ。ほら、陽翔くん」
少し強引に手を掴まれ、比奈の後を追う。
あんな頃が、俺にもあったんだよな。
ほとんど覚えてないけど。
言うて今も似たようなものか。
たかが10年の歳月だ。
感慨深いもなにもあるか。
スタッフから風船を受け取り、楽しそうにそれで遊ぶ二人の子ども。まるで縁の無い光景だと思っていたけれど。
そう言えば、あのときも。
俺はアイツに手を引かれて。
『はーくん、どうしたの?』
「…………えっ……」
「陽翔くん?」
「……あぁ、なんだ。比奈か」
「なんだって、分かってなかったの?」
「いやっ……そうじゃねえけど」
「もしかして、陽翔くんも疲れちゃった?」
「……少しな」
「じゃあちょうどいいタイミングだね」
いつも通り変わらない、笑顔の比奈だ。
間違ってもアイツではない。
「……呼ぶならちゃんと呼べよな」
「うん? どうしたの?」
「ダラッと伸ばすな。これでも名前だけは気に入ってんだよ」
「……んふふっ。はいはい、陽翔くんっ」
そうだ。それでいい。
余計なこと思い出させるんじゃない。
俺をああやって呼ぶのは、後にも先にも一人で。叶うことなら、二度と聞きたくないのだ。
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