恋とはどんなものかしら ~比奈編~

301. 独白 No.2


 なんてことない、ただのクラスメイト。

 それも、中々顔を出さない謎多き人。



 だから、気になった?



 まさか。わたし、そんなに気の利くような子じゃないんだから。これでもB組の学級委員長なんだよ。春の間にみんなの名前も、顔も覚えてないようじゃ委員長失格だよ。


 貴方の名前も、顔も、すぐに覚えました。むしろ他の人よりずっと努力したつもりなんだけどな。

 だって、偶にしか教室に居ないんだし。それが逆に。ううん、むしろ、良い方向に転がったのかもしれないね。



 英語の教科係は、私がお願いしました。

 余ったんじゃない。

 わたしがそうなるようにしたの。


 みんなと早く仲良くなってほしくて。

 わたしが近くにいれば、上手く行くかなって。 



 なんてね。


 本当にそれだけだと思う?

 だったら、陽翔くん。

 それはね。女を舐めてるよ。



 奥野さんに書いて貰った物語は、フィクションでもなんでもない。


 わたしが「そうであってほしい」という願望をすべて詰め込んだ末に出来上がった、わたしにとっては立派な「真実」なんだよね。こんなこと、言っても信じて貰えないかもしれないけど。


 ただ、残念ながらわたしには、幼いころに将来を誓い合った幼馴染や、自分のことを迎えに来てくれる白馬の王子様なんて人はいなくて。


 だから、取りあえず一番「相応しそうな」貴方を、わたしの理想に当てはめてみたの。



 こういうこと言うと「らしくないな」って思うかもしれないけど、わたし、こう見えて結構面食いなんだよ。始めてお話ししたときから、ちょっとだけ気になっていたのは本当。


 だって、わたしの思い描いている「影があるけど、本当は優しい魅力的な人」のイメージにぴったりだったんだもん。うわぁ、本物だぁ、って。



 もしかしたら貴方は、自分にお節介を焼いてくる真面目なクラスメイトっていう、それだけだったかもしれないけど。


 わたしはそうじゃなかった。初めから、貴方に近付きたくて、自分からそうしたんだ。幻滅したらごめんね?



 でもね。今は、それだけじゃないよ?

 勿論、貴方なら分かってくれると思うけど。


 フットサル部に誘われたとき、すっごくビックリしたの。まさか貴方にそんな趣味があるだなんて思っても見なかったし、勿論、昔なにをしていたかなんて知らなかったから。


 実は、ちょっとだけがっかりしたこともある。フットサルじゃなくて、実はあの人気バンドのボーカルでした! とか、昔活躍した天才子役でした! とか、そっちのほうが私の趣味に合ってたかな。


 だから、うーん。フットサルかぁって。ちょーっとだけ思っていたことがあります。これも謝らなきゃね。ごめんなさい。



 でも、それが逆に良かったのかも。


 私の理想とする貴方とはちょっとだけ違っていたけれど、だからこそ、もっともっと興味を惹かれたんだなって、今では思ってます。


 わたしの知らない世界を知っていて、でも貴方は、わたしでも知っているようなことを何も知らない。そんな貴方が面白くて、おかしくて。


 可愛らしくて。

 カッコよくて。

 何よりも、愛おしくて。



 一緒に居ると落ち着く。安心するって言ってくれたの、わたし的にはちょっと驚きでした。


 だって、わたしと貴方は何もかも違う。まるで正反対な二人が、パズルのピースみたいにハマってしまった。


 事実、わたしも似たようなことを考えていたことに気付いて。もしかして、これって奇跡なんじゃないかって。



 あー、どうしよう。自分でも何を言ってるのか分からなくなってきました。


 あんまり頭良くないんだよね、実は。フリだけはしてるんだけど。貴方には、もうバレてるのかな?



 けど、それで構わない。

 貴方には、わたしのすべてを見せたい。


 もう分かったでしょう? 本当のわたしなんて、貴方が思っているほど真っ直ぐでも、純情でも、可愛げがある方でも無いんだから。


 愛莉ちゃんや琴音ちゃんと比べれば、よっぽど汚れてるよ。瑞希ちゃんとノノちゃんは、うーん。どうだろう。五分五分ってところかな。でも、あれはあれでむしろ真っ直ぐってことなのかな。うん、よく分かりません。



 そういう気持ちを、ずっと隠してきました。

 だって、恥ずかしいことだから。


 本当のわたしが、貴方にとって不必要であることを。もう、とっくの前から知っていたから。



 だから、イライラしちゃうんだよ。


 なんで隠そうとするのに、そうやってすぐに本当のわたしを暴いてしまうの? どうして、それを嫌だって、気持ち悪いって、否定しないの?



 こんなわたしの、どこが良かったの?

 ねえ、教えて。


 わたしは貴方の、なにになれるの?

 たった一人のお姫様に。

 シンデレラになれる?



 なれないよ。だってわたしは、知っているから。シンデレラって、原作では意地悪な継母を暗殺したりしてるんだよ。凄いよね。童話ってそうやって出来てるんだよ。


 こんなわたしには、精々、白雪姫に毒りんごを食べさせた、醜い魔女の役がお似合いだと思います。


 意地悪で、汚くて、卑怯で、なんの取り柄も無い。そんな存在。



 でもね。王子様は、一瞬だけ。

 ほんのひと時だけ、魔女のものになるの。



 すべてはいらない。たった一部分だけでいい。



 毒りんご、食べてみて。

 それだけで、わたしの我が儘は許されるの。


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