295. 【衝撃】今ドキJCの日常、ヤバすぎる


「おはよーマコくんっ」

「有希っ。おはよう」

「わぁー。下駄箱がまた凄いことに……」

「ホントちっとも減らないんだよなぁ……」


 遅れて校舎へと駆け込んで来た有希が、今にも加圧ではち切れそうな真琴の下駄箱を興味深そうに眺めている。もはやお馴染みとなった光景に、真琴も深く肩を落とした。



 仮にも立派な女性であるにも関わらず、親友相手にすらくん付けで呼ばれてしまう絶世の美男子、もとい美少女。長瀬真琴。


 どういうわけか異性よりも同性からモテてしまうという、嬉しいのか悲しいのかよく分からない悩みをここ一年ほどずっと抱えている。



 中学でも上級生となり、後輩の数が増えて来てからと言うものの、名も知らない女子生徒からのラブレター、熱烈なアタック、放課後の校舎で愛の告白を毎日のように受ける日々。


 西中は体操着での通学が認められているため、元々可愛らしい格好を好まない真琴は進んでサッカー部のジャージを着て授業を受けている。


 そんな事情もあって、彼女の制服姿を見たこと無い後輩たちのなかには、本気で男だと信じ込んでいる層も少なくはないようで。



 サッカー部に所属している端正な顔つきの先輩となれば、このような事態が想定できなかったわけでも無いし、なんなら女子にモテるのは当人的にも悪くない現状なのだが。


 幾ら断っても収まる気配の無い人気ぶりに、真琴もこのところは若干辟易していた。深い理由も無く友人として接してくれる有希の存在が、彼女にとってはあまりに有難い。



「まこりーん、またラブレター?」

「エリ。悪いんだけど、手伝ってくれない?」

「はいはーい。毎日毎日大変ですなー」

「せめてラインの方ならまだマシなんだケド」

「マコくんの連絡先が出まわったら大変だねー」


 二人の共通の友人であるエリも下駄箱に現れる。開けた瞬間バラバラと地面に落ちていく手紙を一枚ずつ拾い、どこからともなく取り出した紙袋にそれを突っ込み、三人は教室へと向かうのであった。



 染髪に関する規制が無い西中でも比較的派手な部類に入る、明るい茶髪と短すぎるスカートが特徴的なエリ。顔立ちも中々に悪くなく、二人と並んでも遜色ない存在感を放っている。


 シンプルに美少女の有希、イケメン枠の真琴、ギャル系のエリとあまり接点が無さそうな三人だが、二年間同じクラスで過ごして来ただけあって仲の良さは相当なもの。


 なんとも凸凹なこのトリオもそれはそれで、男子の間では色んな意味で有名だったりするのだが、特に自覚はない当人たちであった。



「いっつも思うんだけどさー、最初からスルーじゃなくて、一回くらい付き合ってみれば良いんだよ。適当に一枚引いて、これだ! って」

「それじゃマコくん、本当に王子様みたいだね」

「いや……そんなゲームみたいなこと出来ないって。みんな一応には、真剣な思いで書いてるんだからさ」

「真面目だね~。そーゆーとこ嫌いじゃないけど」

「……無いものを揉むの辞めてくれない?」

「まこりんに勝てるのここくらいだし~?」

「そーゆー理由ならもっとムカつくんだケド」


 ワキワキと不審な動きで真琴の胸元を擦るエリ。廊下ですれ違う男子生徒の視線も気に留めない。



「それとも、他校で彼氏がいるみたいな噂流してあげよっか?」

「いいって……余計な尾ひれが付きそうだし」

「でもマコくん、気になる人とかもいないの?」

「有希じゃあるまいし」

「え……えぇー!? わっ、わたしは……っ!」

「あ、廣瀬様とはどうなんよ有希っ!」


 ターゲットが有希へ移りホッと肩を撫で下ろしたが、またも引っ掛かる話の題材に頭を抱える真琴。


 ヒロセサマってなんなんだよ。

 と冷静なツッコミもエリには届かない。



「なっ、夏休み以降はそんなに……かなぁ」

「もぉそんなんじゃ駄目だって! 有希っ! JCだよっ!? 中学生だよっ!? 今まさにこのタイミングで仕掛けないでどうすんのっ!」

「いや、その理屈はおかしい」

「いーや分かってない、分かってないねまこりんっ! あーいうクールでミステリアスな男こそ、女子中学生の素朴さや無邪気な姿を求めてるんだよっ! 長年の勘がそう言っているっ!」

「たかが15年の人生でなに言ってるのさ……」


 色恋沙汰には三人組のなかで最も敏感なエリである。有希と真琴がこれまで縁が無さ過ぎたというのも否定は出来ないが、先月にも出来たばかりの新しい彼氏と破局してしまったエリにしてみれば、二人の悶々とした態度には不満があるようで。


 それはそれで勇み足だと真琴も忠告はしたいのだが、ここまでヒートアップしたエリを止める手段が一向に見当たらない現状。


 有希の肩を掴みガタガタと揺らすエリの暴走を横目に、ため息を重ねる他ないのであった。



「や~~め~~て~~よ~~っ!」

「有希が行かないならわたしが狙うかんねっ! イケメン高身長、しかも英語ペラペラとかそんな逸材どこにでもいないんだからっ! 間違いなく将来有望っ! 専業主婦も夢じゃないっ!」

「そーゆー目で見てるから続かないんじゃない」

「ええんっ!? まこりんにだけは言われたくないなぁっ! だいたいさー、なーんのケアもしないでその肌の綺麗さはナニっ!? わたしの一ミリでも努力してみろってんだ! ぶーぶーっ!」

「そんなこと言われても……」

「有希もおかしいんだよっ! ふつーわたしたちくらいの年って、ニキビとか肌荒れとか絶対悩むでしょっ!? なんでそんなに可愛いんだよばーかっ!! わたしだって本気で恋すればこーなんのかっ!? どうなんだ答えてみろっ!!」

「目が回るぅぅぅぅ~~……」


 ますます暴走と一途を辿るエリに、真琴はいよいよ抵抗を諦め有希のサポートも疎かにさっさと教室へと向かってしまう。


 結局、大量の紙袋を持って教室に入ることになるのか。またクラスメイトたちに一から説明しないといけないのか。面倒だなあ。


 とガックリ肩を落とし、チャイムの鳴り響く廊下を急ぐのであった。



「あっ、待ってよまこりーんっ!!」

「やだよ。授業始まるよ」

「あ゛ーもうまこりんでいいっ! 付き合おっ!」

「やなこった。自分だって男の方が好きだよ」

「エッ!? それマジっ!? 詳しく詳しくっ!!」

「うるっさいなあもうっ!!」

「フラフラするぅぅぅぅ……っ」



 昼休み。いつも女子からばかりのラブレターの半数が男子からのものであること気付き、エリが囃し立て、有希が動揺し、真琴が更に頭を抱えることになるのだが、それはそれでまた別のお話。


 エリの過剰な追及に、ついぞ有希の家庭教師と自分も交流を持っていることを露見させてしまい、放課後まで追い掛け回されるのも、やはり別のお話である。


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