294. 仁義なき悪戯《タタカイ》 PART4


「ふむぅ……まずは瑞希センパイですよねぇ」

「えぇー? あたしは無いってぇー」

「この手の込んだ手抜きっぷり、実にセンパイらしい意地悪ですっ!」

「ハルぅぅ~~人望が無いよぉ~~!」

「自分で蒔いた種やろ……」


 そんなこんなで推理タイムがスタート。


 確かにこの手の度を過ぎた悪戯は瑞希の専門みたいなところあるし、真っ先に疑われるのも分からんでもない。平仮名っていうのもミソ。


 が、前に愛莉から受けたフライデー事件も考慮すると、以外に選択肢は広いかもしれない。うーん、手掛かりというか、決定打が無さ過ぎるな。



「候補を減らしていきましょう。琴音センパイはそもそもバンクシーを知らないので、可能性は低いですね。誰かに唆されたという可能性も否定はできませんがっ」

「共犯っつうわけか」

「かといって、琴音センパイが乗るとも……」

「琴音ちゃんだからねえ」

「あぁ~~比奈センパイもちょっと怪しいっぽい……っ! 最初に保険掛けておいて実はっていうの王道なんですよねぇーっ……!」


 前に俺がやられたときと同じパターンやな。あのときも共犯っちゃ共犯だったが、俺を騙すためのカモフラージュだったし。何を仕出かすか分からない怖さはある。


 しかし総合的に見ると、やはり怪しいのは瑞希と愛莉か。性格的にやりそうというのと、真っ先に動画を回し始めたという点で嫌疑が掛かる。



「……そう、そうなんですよっ。スマホカバー変えよっかなぁって話をしたときに瑞希センパイ確かいなかったんですよねぇ。で、話していたのが……」

「俺と愛莉やったな」

「やっぱり愛莉センパイ、ノノのこと嫌いです?」

「まあ好きでは無いわね」

「あぁ~~憎たらしい笑顔……ッ!」


 言葉通り受け取る必要も無い。

 愛莉の愛情はハードなのだ。裏返しというやつ。



「陽翔センパイのカバーって、ドゲザねこのやつですよね?」

「せやな」

「琴音ちゃんと色違いのねー」

「比奈は黙っててください」

「たぶん自分がやられて嫌な悪戯はしないと思うんですよ陽翔センパイっ。あとセンパイの土下座はもう何度か見てるんで、今回は違うかなぁと」

「意外と馬鹿だからねハル」

「お前だけにゃ言われたくねえわ」

「でも、そろそろやり返してもいい時期よね」


 元々は愛莉と瑞希の小競り合いから始まった悪戯選手権なのに、ここ最近被害を受けているのは俺が断トツで多い。そして結構な頻度で外している。これもまぁ事実だ。



「よく考えろノノ、流石に安直すぎる。仮に俺が復讐を目論んでいるとして、そのターゲットがお前になるか? 幾らなんでも大人げないだろ」

「……それは確かにそうですねっ」

「となると長瀬が一番怪しーなー」

「ノノの土下座撮る気満々でしたからねっ!!」

「そんなこと言って。後々知らないわよ」

「あ、いや、そのっ、それは、はい」


 シンプルに怖い先輩出すなこんなところで。


「私はアリバイあるわよ。だってハルトと一緒に来たんだもの、それも最後に。アンタのスマホ探して落書きする時間なんて無いわ」

「それもそうなんですよねぇ……やられたとしたらノノがトイレに行ってるときだと思うんですけど、お二人はまだここに居なかったんですよっ」

「瑞希やろ。状況的にもクオリティー的にも」

「じゃっ、あたしもアリバイ出しちゃおっかな!」


 ほほーん。これを覆すアリバイとな。

 このアホが論理的に証明できるとは思えぬ。



「よく見てみるのだっ! あたしがこんな綺麗な字を書けると思うかっ!」

「自慢げに言えることじゃないと思いますが」

「そう言えば、結構字体も綺麗よね」


 再びノノのスマホカバーを覗き込む一同。


 文面こそふざけ倒しているが……瑞希の書く文字はお世辞にも整っているとは言えないし、それを考えるとこの署名を瑞希が書いたとは考えにくい。かもしれない。



「ちょっと琴音ちゃんの文字に似てないかな?」

「ずば抜けて達筆やしな」

「比奈ちゃんもこんな書き方じゃなかったかしら」

「えぇー? わたしー?」

「ほらほらぁっ! どう考えてもあたしじゃねえだろこんな綺麗な字ッ!」

「だから誇んなって」


 悪戯をする時間的余裕。どことなく見覚えのある字体。まさかこの二人のどちらかなのか……?


 だが、今一度思い返すべきだ。そう、琴音はバンクシーの存在を知らないのである。ということは、犯人は自動的に……。



「…………なるほど。比奈センパイでしたか」

「あー。また疑われちゃうんだ、わたし」

「なにか弁明はありますかっ! エェんッ!?」

「んー? あるよー。ほら、わたしの目を見て?」

「…………あぁっ! 直視できないっ!!」


 良心の呵責に耐え兼ねたのか、思わず目を逸らすノノ。透けて見える上下関係。怖い。先輩怖い。



「わたし的には、陽翔くんが言ってた共犯説が一番あると思うけどなあ。琴音ちゃんに書かせた人がいるんじゃない?」

「なっ、なるほど……そうなれば、選択肢は一つですねっ!」


 ビシッ、と効果音付きで両手を引っ提げ、二人を指指すノノ。その先には……愛莉と琴音の姿が。



「実行犯は琴音センパイっ、計画したのが愛莉センパイですねっ! 間違いありませんっ!」

「……へぇー。なんで私なの?」

「冤罪です。ハッキリ理由を説明してください」

「字体に関してはもう琴音センパイ以外に候補が見当たらないのでっ、割と適当ですっ! 愛莉センパイはやっぱり、終始どことなく怪しいのでっ!」

「ふんわりしとんな……」

「私たちじゃ無かったらアンタ二回分だからね」

「ノノが頭を下げることはありませんけどねっ!」


 自信たっぷりで二人に向け対峙するノノ。

 では、ファイナルアンサーということ。


 撮影役だった愛莉からスマホを譲り受け、対面する三人をカメラに映し出す。誰がいつ土下座してもすぐに分かる完璧なポジショニングだ。こんなん習得したか無かった。



「さぁっ!!!! ノノに謝ってくださいッッ!!」

「はぁ……後輩に疑われるって悲しいわね……」

「えぇ、まったくです」











「――――私じゃ、ないわよっ!!」

「――――すみませんでした……っっ!!」

「ぬもおおおおっっ! もうホントごめんなさっ、え、えぇぇッッッッ!? 一個当たったッッ!?」

「琴音ェェェェ!!!!」



 うずくまる敬語コンビ。



「あっははははははwwww いえぇぇーーーい、あたしの一人勝ちぃぃーーっ!!」

「ぎょええェェーーッッ!? 瑞希センパイッ!?」

「瑞希さんっ!! 何故ですかッッ!! どうして裏切ったんですかッ! 貴方が字体の話をしなければ私は疑われなかったというのにっ!!」

「勝った者が強いのだーっ♪」

「ここでその名言は最低ねアンタ」


 というわけで、被害者も加害者も土下座し合うという意味不明な空間が完成した。二人ともめちゃくちゃ悔しそうに床を叩いている。なにこの絵面。おもろ。



「何故……何故なんですか……ッ!!」

「いや、簡単な推理やろ。愛莉は普通にアリバイあるし。どう考えても瑞希か比奈が煽ったに決まっとるやん」

「わぁー、琴音ちゃんの土下座は初めてだねえ」

「撮らないでくださいッ!! 後生ですからっ!!」


 初めてという割にそんな気がしないのは、普段の行いというか身に着けているグッズの影響というか、ともかく写真を連射しまくる比奈であった。良いものが見れた。眼福眼福。


 

「ケースの件は俺が瑞希に話したんやけどな」

「で、あたしがくすみんに書かせましたとさ!」

「結局アンタも一枚噛んでるじゃない……」

「別にやれ言うてへんし。俺は知らん」

「どう考えても予想出来た未来でしょ」

「華麗な連携プレーだねぇ~」


「うぅぅぅっ……! やはりノノはセンパイたちの掌の上で踊らされる運命なのですッ……!」

「気持ちは分かります……何故ペンを渡されて断らなかったのか、あのときの自分を許せません……!」

「センパイはセンパイで酷いと思います……っ!」

「ケースは新しいものを買いに行きましょう……私が出します」

「……こ、琴音センパイ……っ!」

「新作のドゲザねこスマホカバーが出たのです。せっかくですから、市川さんもお揃いにしましょう」

「あ、いや、それはちょっと」

「えっ?」

「えっ?」



 撮影終了っと。


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