本編とは関係ないエピソードを雑に消化する番外編 その2

293. 仁義なき悪戯《タタカイ》 PART3


「――――なんじゃごりゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



 放課後の談話スペース。

 突如響き渡るノノの絶叫。


 ソファーにだらしなくもたれ掛かりスマホを弄っていたのだが、あまりの騒ぎように一旦手を止めてそちらの様子を窺ってみる。他の面々も何事かとノノの元へと集まり出した。


 ……またこれか。

 そろそろターゲットになるとは思っていたが。



「珍しく愛莉センパイが動画撮り始めた時点でなーんか怪しいと思ったんですよッ! えぇ!? 後輩苛めて楽しいですかッ! この人でなし共めッ!!」

「スマホ探してたから協力してあげようと思って」

「電話鳴らせばいい話じゃないですかッ! 動画撮り出す意味分かんないですよっ! ほんっっとこの悪しき伝統どうにかならないんですかッ!?」

「そうは言ってもねえ」


 クシシと嫌味ったらしい笑み全開でスマホの動画を回す愛莉に、ノノが大層怒っていた。この流れで行くと、間違いなく例のアレが始まりそうだな。



「で、なにがあったん」

「これですよこれっ!」


 掲げられたスマホを覗き込む。ノノにしてはシンプル過ぎる白を基調としたケースだ。だがそこには人為的な意図が見受けられる妙な羅列が。






『ばんくし~、で~~~~す』






「馬鹿にしとるんかおんどりゃああああッッ!!」

「おー。凄いなバンクシー来てたんか」

「凄いじゃないノノ。あのバンクシーよ?」

「んなわけあるかぁぁぁぁいッッ!!!!」



 油性マーカーで書かれたと思われる謎のサイン。

 すっ呆けた俺と愛莉のリアクションも届かない。



「ええ言いましたっ! 確かにノノはいつの日か言いましたともっ! このスマホカバーは臨時で使っているだけでそこまで思入れは無いとっ! そろそろ新しいものを買おうとっ! しかしそれが落書きをしていい理由にはならんのですよ、エェッ!? なんですかこの人に見られたら「お、おお、分かりにくいボケだね……」って微妙な反応されるタイプの面倒な悪戯はッ!! 悪質にも程があるッ!!」


 事の重大さを訴えるノノであったが、内容が内容なだけにあまり話が入って来ない。


 なんなら他の4人もヘラヘラしてロクに聞いていないし、もっと言えば愛莉の向けるスマホへ向かって喋っているノノもノノだ。しっかり面白くしようとして来てるこの人。だからやられんだよ。



「それで、バンクシーってなんですか?」

「んーとね、ストリートアーティストってゆーのかな。世界中色んなところに行って、壁とか建物に無断で絵とか描いちゃう的な」

「目撃情報が全然無くて、一人かグループなのかも分からないんだよね。政治的な主張も多くて、芸術テロリストって呼ばれてる凄い人なの」


 瑞希と比奈の補足にふんふんと頷く琴音。

 意外やな。瑞希も知ってんのかこの人。


 言うて俺も、ネットニュースで個展が開かれるみたいなのを読んでたまたま知っただけなんだけど。

 要するに、世界中の至るところに現れて高度な落書きを残していくという、凄いんだか悪戯好きなのかよう分からん存在という奴である。



 つまり状況を整理すると。


 俺たちが目を離しているうちにこの学校へ世界的ストリートアーティストのバンクシーが来て、ノノのスマホに著名をして帰って行ったと。


 んなわけあるか。

 本人がわざわざ「ばんくしーでーす」書かんわ。

 そもそも日本人ちゃうやろ多分。



「はぁ~~…………ノノは悲しいです……どうしてこんなに優しいフットサル部のセンパイたちを疑わなければならないのでしょうか。現実は実に残酷です。世界はいつもノノを試そうとします」

「お前が犯人捜ししなけりゃええ話やろ」

「エェッ!? この状況でッ!?」

「らしくてええやん。或いは高値で売るとか」

「本物なら構いませんけどねッ!!」


 というわけで、今日もまた「面白い悪戯仕掛けた奴が勝ち選手権」が開催される模様。思えばノノがターゲットになるのは初めてだな。外野から見てたのは何回かある気がするけど。


 

 夏休み中から始まった悪戯合戦は、ノノの加入を機に更なる泥沼へと突き進んでいる。たいていは瑞希が何かしら仕掛けて始まるのがお約束だが、やり返すたびに被害者も加害者も増える一方。


 加えてここ最近は愛莉と瑞希が積極的にスマホで動画を回しているものだから、やられる側もやられる側でちゃんとリアクションを取らなければいけないという。


 いや、勿論そんな義務は無いのだが。

 普通に巧妙化して来てるから困る。


 なんだよバンクシーって。

 ちょっとおもろいわ。



「でも、人の物に落書きしちゃうのは酷いかも」

「えぇえぇっ! そうですよね比奈センパイっ!」

「勝手に描くとか結構ワルだよねバンクシー」

「そうですね。無許可で行っているわけですから」

「お二人はバンクシーから一回離れませんッ!?」


 ノノのハイテンションツッコミはいつも通りだが、瑞希の適当なトークに琴音の天然が混ざるとどうにもやり辛そうな被害者であった。



「でも、なんで名前だけなのかしら」

「急いでたんじゃね? やばっ、時間ねえ! って」

「だとしたら山嵜に何しに来てんねんバンクシー」

「本物はもっと上手なイラストの筈だからねえ」

「意地でも自分たちではないと……ッ!」


 まぁ、仮に本物のバンクシーだったとしても調子に乗っているな。これまで私物そのものに悪戯したり隠したりってことは結構あったけど、落書きは一線超えた感ある。なんとなく。


 面白いからええけど。

 ノノ相手だから許されてるけど。



「百歩譲ってこのフットサル部のなかにバンクシーが居たとして、それは良いんですよ。ただ、それ以前にこれノノの私物ですから! 断罪ですッ!」


「へぇー。バンクシーがこの中に居るのね」

「そりゃビックリだなー」

「ねー。大変だねえ」

「あまり存じ上げませんが、事実なら凄いですね」

「いったい誰がバンクシーなんや……」


「いっ、意地悪な人たち……ッ!」



 まぁ、みんな犯人は分かっている。

 全力でノノをからかっているだけだ。


 とはいえ、一概に後輩苛めと断定されるのも困る。だってコイツ、ずっと悪戯合戦参加したがってたし。普通に楽しそうにしてるのがいけない。



「まっ、良いでしょう。ノノとしては、合法的にセンパイたちを土下座させることが出来るチャンスを得たというわけですからッ! 絶対に当ててみせますっ、誰がバンクシーなのかッッ!」


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