296. 愛莉「ハルトが寝てる……」
(…………超久々に授業をサボってしまった)
(いや、別に体調が悪かったとかそういうのではない。ただ古文の教師はどうにも俺を目の仇にしているというか、名指しで「今日も退屈そうに授業を受けますね」とか全員の前で嫌味ったらしく言って来るから、普通に嫌いという、そんだけの理由である)
(そんなわけで、少し早いが新館の談話スペースへとやって来た……勿論、みんなはまだ五限を受けているので、俺一人。着替えて先にボールを蹴るのも良いが、その様子を他の教師に見られるとそれはそれでまた面倒)
(…………しかし、この談話スペースのソファーは実に座り心地も、そして寝心地も抜群だ。これが私立高校たる所以なのか、どうでも良いところに金を掛けている。その恩恵をフットサル部が最も受けていることに異論は無いが)
(……最近、ちょっと寝不足気味だったし、アイツらが来るまで寝るか。練習が始まる頃には誰か起こしてくれるだろ。たぶん)
(……あー。ふつーに疲れた……寝よ…………)
……………………
瑞希「あ、こんなところおった」
愛莉「ハルトが寝てる……」
比奈「久々に授業サボってると思ったら、もうっ」
琴音「相変わらずマイペースですね。猫並みです」
ノノ「電話も出ない筈ですねえ」
瑞希「どうする? もう起こす? 水掛ける?」
ノノ「やめときましょうって。あれやられる側、結構ビックリするんですからねっ。瑞希センパイ掛けてばっかりですけどっ」
瑞希「チッチッチ。あたしはこんなところで寝顔晒すほどオロカじゃねーのだよ。あたしが無防備に寝てたら男子どもが黙ってねーかんな?」
愛莉「厚化粧が取れちゃうしね」
瑞希「アァァンっ!? ナチュラルメイクだっつってんだろォンッ!?」
比奈「まぁまぁ……でも、本当にどうしよっか?」
琴音「良いんじゃないですか。たまには。普段から喧しい人たちに囲まれて、陽翔さんもお疲れでしょうし」
ノノ「まるで自分は無関係だと言わんばかりに……」
愛莉「ほんと琴音ちゃん遠慮無くなって来たわよね……」
瑞希「ハルを疲れさせてんのは断トツでくすみんだもんねー」
比奈「それこそ瑞希ちゃんが言っちゃいけないと思うなあ」
琴音「…………しかし、珍しい光景ですね」
ノノ「確かにセンパイっていっつもぽへーっとした顔してますけど、ここまで無防備になるのもあんまり無いですよね~」
瑞希「え、待って。ちょっと集合」
愛莉「なによ」
瑞希「見てこれ。肌めっちゃツルツル」
愛莉「えぇ? そんなハルトに限って…………え? すごっ」
比奈「わぁー。ぷにぷにだねー」
琴音「人の寝顔を弄るのはどうなんですか」
ノノ「こうやってマジマジ見ると、センパイやっぱ美形ですよねぇっ……肌も色白で鼻も高くて、目元もスーッとしてて余裕があるっていうか。塩顔って言うんですかねこういうの?」
瑞希「なーっ。前髪で隠れてるから見えないけど」
比奈「髪型整えればモテるのに勿体ないよねえ」
瑞希「そーいうの無頓着っぽいしなぁー」
愛莉「…………意識されたらそれはそれで困るんだけど」
琴音「愛莉さん、なにか言いましたか?」
愛莉「えっ!? あ、い、いやっ、なんでもっ!?」
比奈「あ、写真撮っちゃおー」
琴音「比奈っ。流石に悪いですよそれは」
比奈「えー? わたしは陽翔くんの寝顔を興味深そうに眺める琴音ちゃんを撮りたいだけだよー?」
琴音「だったら尚更良くないですっ!」
瑞希「とかゆーといてツンツンを止めないくすみんであった」
ノノ「顔近過ぎません琴音センパイ」
琴音「あっ、いや、それはっ……! ただちょっと、ドゲザねこに似ているところがあるなと、それだけですからっ! 他に意図はありません! 勿論っ、ドゲザねこには劣りますがっ!」
瑞希「未だかつてない悪口のサイコーホーだと思うそれは」
愛莉「…………寝息も立てないのね。コイツ」
比奈「ねー。寝返りも打たないし、お行儀良いね」
ノノ「なんだか、白雪姫みたいですね。本家と真逆ですけど」
比奈「わたしたちが小人ってわけだね」
愛莉「お姫様には到底なれそうもないわね」
瑞希「ゆーてこの肌ならワンチャンあるかもな」
比奈「…………なるほど。女装、女装かぁ……」
ノノ(すっごい悪い顔してます比奈センパイ)
琴音(変なこと考えてますね比奈)
瑞希「あ。じゃーあれだ。じゃん負けがキスで起こすとか」
愛莉「はっ…………ハアァァァァ!? なっ、なにそれッ!?」
琴音「しないですよそんなの」
比奈「えー? でもちょっと面白そうかも♪」
琴音「また比奈はそうやってすぐに……」
ノノ「ノノ的には起きてるときの方が都合良いですねえ」
愛莉「アンタはアンタで軽いのよッ!!」
瑞希「さあ拳を掲げよっ!! 戦争の時間だっ!!」
ノノ「でも瑞希センパイ、じゃんけんクソよわじゃないですか」
瑞希「はっはーんっ!! いくたの敗北を経てあたしは生まれ変わったのだよっ! 絶対に負けないじゃんけん必勝法を思い付いたのだっ!」
比奈「いっつも同じこと言ってる気がするなあ」
ノノ「で、お二人はどうするんですかっ?」
琴音「わっ、私は流石に……っ」
愛莉「ぜったいにやらないっ! 負けたらどうするのよっ!」
比奈「熟睡してるからたぶんバレないよー?」
愛莉「そっ、そういう問題じゃ……っ!」
瑞希「残念ながらフットサル部において多数決は絶対なのだよっ! はいっ、やりたい人ー!」
比奈「はーい♪」
ノノ「勝つ準備はバッチリでーす!」
瑞希「オラオラッ! チキってんのかお二人さーん!!」
琴音「…………わ、分かりました。負けなければいい話ですしっ」
愛莉「えぇっ!? ちょっ、琴音ちゃんまでっ!?」
琴音「瑞希さんのじゃんけん力を信じましょう。それに、こういうものはだいたい巡り巡って言い出しっぺに回って来るものです。五分の一ですよ、流石に大丈夫でしょう」
愛莉「サラッと私を数に入れないでよぉ……!」
瑞希「はーい、じゃあ行くよー!」
ノノ「おっしゃーどんとこーい!!」
瑞希「負っけたらディープ! じゃんけん、ポンっ!!!!」
愛莉「ハッ!? ちょっ、なにそれなにそれっ!」
瑞希「はいあたし勝ちーっ♪ じゃっ、長瀬とひーにゃんで決勝なっ!」
ノノ「ぬうぉおおおおおおオオオオン勝ってしまったああああッッ!!!!」
琴音「…………あー。これは。とても残念です」
愛莉「しっ、白々しい……っ!」
比奈「あははっ……わぁー、困っちゃうなぁー」
愛莉「こっちはこっちで満更でもない!?」
瑞希「早く早くっ! ハル起きちゃうからっ!」
愛莉「ええっ、いや、そっ、そんなのむ……っ!」
比奈「負けたら写真っ! じゃんけんポンっ!」
ノノ「おおっ……追い込んで行くスタイル……」
愛莉「…………うっ、うそ……っ!?」
比奈「あー、勝っちゃった。残念だなー、とってもとーっても残念だなー。仕方ないから、今回は愛莉ちゃんに譲ってあげるねー?」
愛莉「ちょっ、勘弁してよぉぉーっ……!」
ノノ「じゃんけん参加したのはセンパイの意思ですからっ、こればっかりはどーにも! ほらほらっ、お目覚めのキスを待ってますよぉ~~!」
琴音「いやだから寝てますって」
瑞希「ディープ! ディープ! ディープ!」
ノノ「べーろーちゅー! べーろーちゅー!」
比奈「写真っ♪ 写真っ♪」
琴音「優しさの欠片も無い人たちです……」
愛莉「ううぅうぅぅぅぅ~~…………っ!!」
陽翔「」←起きるタイミング失った人
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