199. 天使と小悪魔の優雅なる日常


 こんにちはー。倉畑比奈でーす。

 今日は琴音ちゃんと一緒にいまーす。



 わたしと琴音ちゃんは最寄り駅も一緒でお家も近いので、フットサル部の練習が終わって、みんなでご飯を食べに行かないときは、一緒に夕飯を食べることが多いんだよ。


 放課後に琴音ちゃんと遊びに出掛けたり、ご飯を食べるのは、もうわたしの日常と言っても過言では無いのです。


 制服デートだよ。いいでしょ。



「今日もハンバーグ?」

「……なにか問題でもありましたか?」

「だって、いっつも同じもの食べてるし」

「ここならこれが一番美味しいので」


 駅のすぐ近くにあるファミレスがわたしたちの憩いの場。安くて美味しいから、琴音ちゃんもお気に入りみたい。


 琴音ちゃんはご飯にあまり拘りが無いタイプだから、いつも同じものを食べています。具体的に言うと、このハンバーグ定食。意外でしょ? こう見えて脂っこいもの好きなんだよ琴音ちゃん。


 でも、いっつも食べ切れなくてちょっと残してるんだよね。偶に「残しちゃ駄目だよ」って注意するんだけど、決まって「ミニサイズを用意しない店側の問題です」って言って聞かないんだもの。



「比奈はいつも、違うものを注文しますよね」

「だって、同じのばっかりじゃ飽きちゃわない?」

「適度にお腹を膨らませれば何でもいいので」

「女子力低いのか高いのか分かんないなぁ……」


 運ばれてきたハンバーグを黙々と口に運ぶ琴音ちゃん。ケチャップが頬に付いてるけど、言わないでおこう。そっちのほうが可愛いし。


 こういう、ふとした瞬間に可愛さが溢れるんだよねえ。羨ましいなあ、ただ普通に過ごしているだけでこんなに魅力的だなんて。


 もしかしたら、しっかりご飯を食べるのも重要な要素なのかも。だって琴音ちゃん、こんなに偏食なのにおっぱいは…………うん、これは触れないでおこう。すごく、敗北感を覚える。無念っ。



「ところで比奈」

「なーに?」

「何故、染めてしまったんですか」

「またその話ー?」

「私は納得してないんです」

「似合ってないかな?」

「似合ってますけど」


 どうやら琴音ちゃんは、わたしが髪の毛を染めたことにちょっぴり納得が行っていないみたい。


 わたしがこうしちゃったせいで、黒髪は琴音ちゃんと陽翔くんだけだからねえ。後の二人は地毛らしいけど。



「だって、興味あったんだもん」

「校則は大丈夫なんですか、それ」

「染髪の規定は特に無かったと思うよ?」

「……まぁ、二人の説明が付きませんしね」


 元々染めてみたかったっていうのもあるけど、愛莉ちゃんと瑞希ちゃんに憧れてっていうところも、実はちょっとだけある。


 どこに居ても目立つ二人だし、それに負けないくらい性格も面白くて、羨ましいんだよね。だからわたしも、まずは形から入ってみようかなって。勿論、ほかにも色々とあるけどね?



「琴音ちゃんは興味無いの?」

「特には……どうせ似合わないでしょうし」

「えぇー? 物は試しだよー?」

「そう言われましても……」


 確かに、琴音ちゃんはこの綺麗な長い黒髪もチャームポイントの一つだから、ちょっと勿体ないかもしれないね。そもそも染める必要も無いくらい可愛いし。


 本当にお洒落とか興味無いんだよねえ、琴音ちゃん。あ、でも普段着はとっても可愛いし……もしかしたら、無自覚のうちに自分に一番似合う恰好だったり髪型をチョイスしてるのかも。


 だとしたら、もう才能だよね。

 いいなあ。羨ましいなあ。



「でも、何事もチャレンジは大切だよ。わたしだって似合ってるかなんて分からなかったけど……みんなすっごく褒めてくれたし、結果オーライ?」

「比奈はどんな見た目でも、可愛いですから」

「まったまた~~」

「いえ、比奈は可愛いです。事実です」

「あっ……う、うん、ありがとうっ……」


 たま~にこういうところあるんだよねえ琴音ちゃん。わたしの話になると、目が「カッ!」ってなって、有無を言わせない雰囲気になるっていうか。


 うん、そうなんだよね。

 わたしも琴音ちゃんのこと大好きだけど。

 それ以上に琴音ちゃんが凄過ぎて。



 懐かしいなあ。小学校一年生の頃だっけ……先に話し掛けたのはわたしだけど、すぐに琴音ちゃん、わたしにべったりになって。あれ以来ずーっと一緒だもんね。


 高学年の頃なんか、凄かったんだよ。わたしがちょっとクラスの男の子と話したら「私の比奈になにしてるんですか!!」って飛んで来るんだから。私の比奈、だよ。凄いよね。


 わたしが恋愛に縁が無いのは、実際のところ琴音ちゃんのせいでもある。勿論、それを嫌だとは思ったこと無いけど、よくよく考えたらちょっと怖い話だよね。受け入れている自分も含めて。



 そう考えたら、よく陽翔くんとここまで仲良くなれたよなあって感心しちゃう。


 陽翔くんが我慢強く接していったのもあると思うけど、まさか琴音ちゃんがここまで男の子に心を開くなんて。


 気付いたら、本当に何気ないところで陽翔くんの隣に居るんだよ。特に最近なんて凄い。学校に向かうバスの席もいつの間にか隣に座ってるし、練習の休憩中もずっと一緒に居るし。



 まぁ、でも、しょうがないよねえ。

 陽翔くん、カッコいいもん。


 わたしだって教科係が一緒なだけだった陽翔くんと、まさか同じ部活に入って、二人でお出掛けするような仲になるなんて思ってもみなかったし。


 不思議な魅力があるんだよ。こんなに近くにいるのに、気付いたらふらふらどこかに行っちゃいそうで、目が離せない。


 駄目なところもいっぱいあるけど、それを覆い隠すような安心感みたいなものが溢れてるっていうか……もしかしたら陽翔くんって、駄メンズっていうやつなのかも?


 だとしたら、わたしも琴音ちゃんも、駄目な男の子に惹かれてる駄目な女の子ってことになっちゃうのかな。


 そういうの、ちょっとイイかも。

 少女漫画とか、えっちい小説みたい。



「陽翔くんだって、琴音ちゃんのいつもと違うところとか見てみたいかもしれないよ? ただでさえ陽翔くん、琴音ちゃんのこと気に入ってるんだから」


 茶化すような口ぶりに、ちょっとだけ罪悪感。


 やっぱり、悪い癖だなあ。そういう姿を見せたかったのは、他でもない自分なのにね。なかなか上手くいかないや。



「……なんであの人が出て来るんですか?」

「えぇ~? だって~」

「陽翔さんは関係無いです」

「じゃあ、そのスマホケースはどうしたのかな?」

「…………ぁ、ぃゃ、その……」


 バレてないと思ったら大間違い!


 もう、本当にびっくりしたんだから。合宿明けの練習に、二人揃って同じスマホケース付けて練習に来たんだよ? いつの間にそんな間柄に!



「……あまり深く聞かないで頂けると……」

「じゃあわたしが染めた理由も言わなーい」

「……では、結構です……」

「ふふふっ。わたしの勝ちっ♪」

「勝ち負けもありますか」


 ちょっと不貞腐れた様子で残りのハンバーグをせかせかと口に運ぶ琴音ちゃん。そういうところ、陽翔くんに見せないようにしないとね。わたしの前だからって、油断し過ぎなんだから。



 でも、そうだよねえ。わたしだって陽翔くんとお出掛けしたいって思ってたんだから、琴音ちゃんが思わないわけ無いよね。どっちから誘ったのかな。


 たぶん、行くの断っちゃったドゲザねこのコラボカフェだと思うんだけど。陽翔くん、よく付き合ったよねえ……わたしにはちょっと荷が重いや。



「……なに見てるんですか、比奈」

「んー? 琴音ちゃん可愛いなーって」

「馬鹿言わないでくださいっ。ほらっ、お料理来ましたよ。もう遅い時間なんですから、早く帰らないとでしょう。少し急ぎますよっ」


 分かりやすい照れ隠し。

 あー、ほんとに可愛いなーもう。



 元々、すっごく可愛かったけど。ここ最近の琴音ちゃんは、前にも増して輝いて見える。


 きっと、理由は一つしか無いよね。

 琴音ちゃん、自分でも気付いてるのかな?


 気付いてないよね。

 だって、琴音ちゃんだし。



「…………負けてられないなー」

「なにか言いましたか?」

「ううん。なんにも」



 だからって譲れないけどね。

 わたしも負けないくらい成長してるんだから!


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