166. ジャンケン弱いので有難いです


【試合終了】


前半 2-1

後半 2-0


長瀬愛莉

金澤瑞希

廣瀬陽翔×2


【フットサル部4-1Links】



 二試合目は失点こそ喫したものの快勝。

 優勝決定戦へとコマを進めることとなった。


 一試合目のチームよりも男性メンバーのクオリティーが比較的高かったこともあり、ボールを支配される時間が増え、前半は耐える時間が続く。


 それでも必死の全員守備と琴音の好セーブで劣勢の時間帯を凌ぎ切り、カウンターから一閃。左サイド浅い位置からの俺のクロスを愛莉がヘディングで合わせ先制に成功。



 相手の足が止まったと同時にハイプレスでボールを奪い、瑞希とのワンツーで抜け出した俺が右足で流し込み追加点。ショートカウンターを完成させ流れを掴む。


 前半終了間際にロングボールを放り込まれ、比奈の懸命のディフェンス空しく一点を返されたが、後半は冷静にボールを回し続け終始相手にチャンスを与えず。


 ディフェンスの隙を突き瑞希が個人技で突破し一点を加えると、終了間際に愛莉のポストプレーから比奈がゴール前まで持ち込んで、折り返しを俺が合わせ試合を決定づける4点目。


 耐えて、流れを掴み、チャンスをモノにする。

 理想的な展開で勝利を掴んだ。



「ありがとうございました」

「こちらこそ。決勝頑張ってね」


 相手から労いの言葉を戴き控えエリアへ戻る。


 決勝戦は午後の一番遅い試合。太陽もわざとらしく顔を出し、気温は上昇する一方。なんとか回復して試合に臨みたいところだが。



「お疲れー。やっぱり陽翔くん、流石だねえ」

「ありがと。まあ、これくらいはな」


 比奈からボトルを受け取り、それなりの握力を持って握り潰す。口に含むのか顔に掛けるのか曖昧な量を放出し、僅かに体温を下げる。滝水のような汗が全身を伝い、すぐに乾いて弾け飛んだ。


 表情こそ皆揃って充実の一途を辿っているが、やはり疲労の色は着々と濃くなって来ている。


 いつもと変わらない声色の比奈だが、最も消耗しているのは間違いなく彼女だろう。タオルで頻りに汗を拭き取る彼女はふくらはぎの様子を盛んに気にしている。



 新品のユニフォームも汗でベタベタに。みんな臀部の辺りに張り付いて、身体のラインが分かりやすく浮き出ている。比奈に限った話じゃないんだけど。


 揃ってハリのある身体しやがって。気が散る。

 


「お疲れさまですっ! おかわりですっ!」

「あ、うん。さんきゅ」


 ここぞとばかりにタッパーを差し出す有希。いや、ホンマに美味過ぎるレモンのはちみつ漬け。この夏の間ずっと食べてたい。今度また作ってもらお。



「どう? 比奈ちゃん、足攣ったりしてない?」

「うんっ、大丈夫。痛いところとかは無いよ」

「良かった……五人はやっぱキツイわね……」

「ゴレイロ持ち回りでやった方がいいかね」


 心配そうに声を掛ける愛莉に対し気丈に振舞う比奈だったが、連続でのゲームは未知の領域なだけに今後の状態についても断定はできない。仮にも初心者を抜け出したばかりの女子なわけだから。


 瑞希の言うように、ゴレイロを交代しつつ様子を見るのが一番良いかもしれない。が、何故かフィールドプレーヤーと同じペースで消耗している琴音の心配もしてやらないと。



 やっぱり、交代要員、欲しいな。

 かといって男はいらないんだけど。


 いやどうだろう。チームとしては有難い限りだが、どうにも愛莉辺りが反発しそうで。かく言う俺もこの期に及んで男子メンバーと仲良くできる自信がねえ。



「次の試合までだいぶあるし、昼飯でも食うか。作戦会議はその後やな」


 昼休憩は一時間ほど。最後の試合も含めれば次の試合までに時間は空く計算になる。この間にどれだけ回復できるかが肝だな。幸いコンビニも近いし余計な気苦労も無い。



「あっ、やっべ。買うの忘れた」

「わたしもー。一緒に買いに行こ?」

「では私もお供します」

「おっけー。ジャン負けアイスね」

「いいよー。わたしが勝つから」

「おーん? 言ったなひーにゃん」

「瑞希さん、ジャンケン弱いので有難いです」

「なーんであたしが負けるぜんてーなんだよッ!」


 楽しそうでいいなアイツら。

 疲れた顔で飯食うよりか良いんだろうけど。



「俺、次の試合観るわ。愛莉は?」

「うん、私も観ておく。お弁当あるし」


 というわけで三人はコンビニへ昼食の調達へ。

 俺と愛莉、有希は残って試合観戦となる。


 恐らく次の試合の相手となるHerencia。ある程度の作戦を持って挑まなければ。初戦の様子を見る限り、楽な試合はならないだろうし。


 で、ウチの顧問はいつになったら顔を出すんでしょうか。

 そろそろ思い出してやるのも忘れるぞ。



「ベンチ座りましょっ。疲れちゃうし」

「ん。せやな。有希も座れば」


 俺を挟むように三人掛けのベンチに並んで座る。

 若干狭い。主に愛莉の方が。

 太ももが当たる。気が散る。



「あっ、はいっ。あの、廣瀬さん。お昼と言えばですねっ」


 近くに置いてあった鞄から何やら取り出す。

 小さな風呂敷だな。

 中身は、まぁ、あれしかないか。



「お弁当っ、作ってきましたっ! どうぞっ!」

「おー、サンキュー。悪いな色々と」

「いえいえっ、私に出来ることはこれくらいですからっ!」


 自信気に小ぶりな胸を張る有希。


 いや、中学生にしては大きい方だろうけどな。近いうちに愛莉とは言わんでも、比奈と同じくらいのサイズにはなるのだろう。


 駄目だ、暑過ぎて視点の変更が上手くいかない。おっぱいしか見えない。



「ま、食べながらゆったり見ますか」

「……そ、そうね……っ」

「……あん。どした愛莉」

「あっ、いや、そのっ…………」


 なにか言いたげな愛莉だが、口に出してはとモグモグ動かすせいで妙ちくりんな顔をしている。額に気まずいと横書きで書いてある類いのそれ。


 が、程なくして彼女の困惑の理由を知ることとなる。太ももの上に用意された、二つのお弁当箱。



「……もしかしてそれ」

「まぁ、うん……そう……作って来た」

「……悪いな。なんか、昨日の今日で」

「べ、別にっ……予行練習みたいなもんだし」


 てっきり学校が始まってからのことだと思っていたのだが、今日も用意してくれていたようだ。こないだも思ったけど、合宿のなんてことない一言をよく覚えているもんだよな。



「じゃ、そっちも貰うわ」

「……へ? でも、有希ちゃんのは……」

「どっちも食うけど。後出しとか関係ねえだろ」

「…………そ、そうっ? じゃあ、はいっ……」


 有難く頂戴することとする。


 有希の持ってきた奴の方が若干デカいけど、食えんことも無いだろ。どうせ二人とも滅多に会わないわけじゃないんだし、食べ切れなかったら持って帰ってから食べて洗って返せばええ話やし。



「長瀬さん、もしかしていっつも廣瀬さんに作ってるんですか?」

「あ、いやっ……き、今日はたまたまねっ!」

「お料理得意なんですかっ?」

「嘘みたいに上手いぞ、コイツ」

「いいなぁー。私、まだまだ特訓中なのでっ……」


 まさかの弁当被りで機嫌を悪くするかと思われた有希だったが、むしろ俺の話を聞いて感心しているようであった。愛莉も照れたように人差し指で頬を撫でている。


 そういや、有希が料理するって話聞いたことねえなあ。早坂家でバイト終わりにご馳走になったときも、配膳を手伝うだけでほとんどキッチンには立っていなかった記憶が。



「じゃあ、たぶん私のほうがへたっぴなので、先に食べちゃってくださいっ。ほっとくと冷えちゃうのでっ!」


 ではお言葉に甘えて、先にそちらを。

 受け取った風呂敷を広げ、弁当箱を取り出す。


 平べったい一段タイプの弁当箱か。ご飯とおかずというより一品詰め込んだ感じなのかな。



「さーて有希はなにを作っ…………あん?」

「どうかしたの…………え、え、うん?」

「どうぞっ! 召し上がってくださいっ!」


 自信満々のところ非常に申し訳ないんだけど。


 お前、この時期このタイミングで麻婆豆腐って。

 なんか手に付いたと思ったらこれかよ。



「…………なんで麻婆豆腐?」

「得意なんですっ! 唯一っ!」

「そ、そっか……たっぷたぷだな」

「いっぱい食べて欲しかったのでっ!」

「…………米とか無い感じですか?」

「代わりにお豆腐いっぱいですっ! 健康に良いんですよっ!」


 あれえ?


「有希ちゃん、お料理どれくらい経験あるの?」

「家族以外に作ったのは今回が初めてですっ」

「そうなんだっ……レモンのはちみつ漬けって」

「お母さんに差し入れはなにが良いか聞いたら、これが一番良いって、作って貰いましたっ」


 お前じゃなかったのかよ作ったの。


 と、取りあえず食べるか。

 嫌な予感がしないでもないけど。

 まぁ言うて麻婆豆腐だしな……。



「あっ、それと、暑い日はいっぱい汗を搔いた方がいいって聞いたのでっ、香辛料たくさん入れてみましたっ。隠し味は私の大好きなデスソー……」

「かッッッッッッッッッッッッッら!!!!」


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