色々なものが進展したりしなかったりする章
18. 教室にいるだけで驚かれる
望まなくとも月曜日はやってくる。
その後、楠美琴音の徹底的な監視に遭った俺と倉畑。景品で貰ったクレーンゲーム券などでそれなりに充実したデートのようなものを楽しんだ。
が、常にその背後には楠美がいるのである。何が楽しいというのか。その後ほとんど声を掛けられなかったのが逆に恐ろしい。
(だるい)
学校に顔を出している理由は「完全にサボったら流石に風当たりがヤバイ」という雑なもので。面白いことも無いし、本当なら朝礼だけ顔を出してさっさと帰りたいのである。
しかし、長瀬愛莉らを筆頭にフットサル部の一員として認められてしまっているこの状況下。逃げ出したら最後、二度と関東の地を踏めなくなるような制裁が待っていることだろう。
最初はシンプルに、フットサル部が嫌だったのに。気付いたら彼女達とのコンタクトを「クソ怠い」とか思っちゃっている俺がいる。
なんというか、終わっている。
自覚できただけ成長だと思うんだよ。
「あ、ハルト……」
靴を履き替えていると、ちょうど先に来ていた長瀬と出くわする。いきなりかよ。
「おう。おはようさん」
「……こないだ、ちょっと言い過ぎた」
「まぁ、俺も余計なこと言うたわ。悪かったな」
「…………じゃ、おあいこで」
その一言と共に、彼女の表情は随分と明るくなった。恐らく帰り際のエンドレス罵倒のことを言っているのだろう。
本当に気にしていないのでどうでもいい。別に評価が覆るわけでもないし。言わんけど。
「珍しいわね。朝にちゃんと来るなんて」
「そうか? 別に学校には朝からおるけど」
「ならなんで授業受けないのよ」
「メンドイし」
「コイツ……」
文字通りの回答である。
教室に行くのは荷物を置く以外の理由は無い。
「昨日比奈ちゃんとお買い物だったんでしょ? ちゃんとアドバイスしてあげた?」
「ぼちぼちな」
「部員とか増えたりした? なーんて、流石にこの週末で五人揃うのは気が……」
「増えたぞ。試合できるで」
「えっ、本当に? よっしゃー、これで念願の部活作りが一歩ぜんし……」
そこまで言い掛けて、長瀬は外履きを抱えたまま活動を停止した。え、なに? 突然死?
「…………いっ、今なんて……っ?」
「増えた。部員。倉畑の友達」
「…………うそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!?」
いや、おまっ、声デカ。
周りの奴らみんな見てるだろ。羞恥心持てよ、朝っぱらからだらしないおっぱいしやがってクソ。
「ナンデッ!? あのハルトが!? 比奈ちゃんに飽き足らずその友達までっ!?」
「割とその場のノリっつうか、うん。とにかく、入部は決まった」
「めちゃくちゃ軽ッ!?」
俺に言われても。
「なにっ、ハルトなんなの!? 女の子にはコミュ障発揮しないタイプなの!?」
「いや、別にコミュ障てか、話し掛けられればそれなりに対処は出来るし。お前は知ら」
「友達だと思ってたのにいいぃぃぃぃ!!」
……………………
「……えぇ……」
学校でのクールなイメージなんぞ投げ捨てる勢いで、泣き叫びながら教室へ走り去っていった。
長瀬は俺を勧誘したのみで、残りの三人は実質俺が連れて来たみたいなもんだけど。
そうはいっても、本当にその場の流れで決まったのが大半なので、俺が特になにをしたかと言われても、という感じである。
俺みたいなぼっちにシンパシーを感じていた部分もあるのだろう。それが金澤みたいな奴を連れてくるは知らんうちに勧誘していたりと、何かしら彼女の琴線に触れるものがあったらしい。
いや、知らんて。
俺だって受け入れてねえよ。
* * * *
階段を登り廊下に顔を出すと、すぐ傍に見覚えのある顔が立っていた。友達と会話をしている。しかし俺の姿を見つけるや否やそれを切り上げ、こちらへ駆け寄って来た。
「ハルー! おはよっ!」
「おー」
「あん? 元気ねえな。あれか男の子の日か」
「んなもんねーよ。仮にあるとしたらジ○ンプの発売日とかだろ」
「あっ、それ言えてるかもっ! でもどしたの? 長瀬にフラれた?」
「脈絡無さすぎやろ」
彼女と話していると自然と口数が多くなってしまうのは気のせいではない。釣られて、というのともまた違うような。
長瀬や倉畑、楠美たちとはまた違う。会話を成立させるために必要な最低限の言葉が彼女の場合は通常より多い。そんなところ。
彼女との会話は案外嫌いじゃなかった。知らん間にコミュ力不足のリハビリを手伝って貰っている感じで。
鮮やかなショートの金髪に加え、小柄でやたら多動な出で立ちはどうしても目に付く。そんな奴が、他の人との会話を放棄して俺のところに来たらどうなるか。
金澤は気にした様子も無いが、廊下中の視線が彼女と、更に言えば俺に集まっている。
「みずきー、その人だれー?」
「んー? あたしの彼氏ー」
おい待て。
「えっ、うっそ! 瑞希ってこういうのがタイプなの!?」
「なーんて、冗談冗談! ちょっとね! ほら授業始まるし、教室戻ろっ?」
なんて心臓に悪い冗談を。
というか、寄ってきた女子数人がメチャクチャ驚いてたんですけれど。そんなに不釣り合いですか俺と彼女は。心外とは言えないが、控えろよ。
「……じゃ、また後でなっ」
「えっ。あ、あぁ」
連れの目を盗んで、振り返り小さくはにかむ彼女。それこそ「不釣り合い」な奴のように動揺してしまう。
分からない。アイツがなにをしたかったのか。サッパリ。そんなに悪い奴じゃないのだけは知ってるんだけど。
教室に入ると、友人たちが俺の元に寄ってくる。
なんて映画やアニメみたいな展開は当然待っていない。空気も同然である。いや別にだからなんだってわけでもないし、どうでもいいけど。
もうすっかり慣れてしまった。これも四月に編入して来てから「友達作り」を真面目にしてこなかったことによるものである。
クラスの連中も「今まであんなやついたっけ?」とは少なからず思っていただろうが。数ヶ月も経っては今更仲良くなろうとも思わないのだろう。俺も同意見だ。
「おはよう、廣瀬くん」
「なんや驚いた顔して」
「ううん、珍しいなって。廣瀬くん、いっつも鞄だけ置いて教室にいないから」
俺が教室にいるだけで驚かれるって。
高校生失格だろもはや。
「真面目に授業出ない輩がいるんじゃ、部活も良い顔されねえしな」
「…………へー!」
「なにその顔」
「へぇー、あの廣瀬くんが! へぇー!」
え、なに。なんでそんな上機嫌なの。
そりゃ俺だって、わざわざ好き好んで授業なんか受けねえよ。でも今となっちゃ俺だけの話でもないし……なに一つ納得してないけどな。
「廣瀬くん、変わったね。前と全然違う人だよ」
「んなことないて」
「うーん……まぁ、いいのかな。こういうのは自分が気付くものだよね」
「はぁ……」
そのままニコニコ笑顔のまま、彼女は自分の席に戻って行った。すごい、怖い。なに企んでるの。
(……変わった、ねぇ)
本当に変わっていたとしたら、それは多分、俺の周りのことで、俺のことじゃ無い気がするけど。まぁ構いやしない。時期に分かる。
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