2話 光と影がゆらゆらと動いていた。

「シルスさんは、馬車の中に入った方が良いかも」

碧依くんに言われ、接続式神は馬車の中に入った。


馬車の中は、ちょうどワゴン車ぐらいの広さがあり、車中泊も出来そうな広さがあった。


碧依くんは駿馬の夕凪を、轟轟ごうごうの隣に繋いで、2頭馬車に衣替えした。

綺麗ななりの夕凪が、隣に来た事で轟轟の動きがドギマギしているように見えた。

席替えで隣に美少女が座った時に様に。


「行くよ」

御者の碧依の声で、馬車は歩き始めた。


トンネルの中は暗闇に包まれていたけど、トンネルの壁には何かの気配がしていた。


多分、人の気配だ。

微かに聞こえる話声。

その生活感すら感じられた。


「人が住んでるの?」

シルスが聞くと碧依は、

「そうだね」

「こんな暗闇の中に?」

「そう、暗闇を好む性質の人種がいるんだ」

「魔族的な?」

「魔族じゃないけど、陰キャの極みみたいな感じかな」

「危なくないの?」

「外部の人間とは極力関わりたくはないんじゃない」


僅かに生活音が聞こえるトンネル内で、馬の蹄の音が響いていた。


その暗闇の中、場所の前に誰かが飛び出してきた。

馬は素早く停止した。


「なんだろう?」

「違う」

「ん?」

「これは人ではない」

と碧依は言ったが、どう見ても人に見えた。


「人は陰キャを極めると、思念体を飛ばすことが出来るようになる」

「しねんたい?」

「思念体、要するに思いの塊です」


いつのまにか馬車は、多くの黒服の人々に囲まれていた。

碧依くんは、それらを見つめ、

「囲まれれいるように見えるだけです。轟轟ごうごう、進んでも大丈夫だよ」

碧依くんの声に、轟轟は歩みを進めた。


馬車が進むと、前にいた人々はまるでフォログラムの様に姿を消した。

蹄の音だけが暗闇の中に響いていた。


シルスは、馬車内に誰かの気配を感じ、接続式神のコックピットの中で、

「誰かいるかも」

とはなもりに告げた。


御者席に碧依を見たが、碧依は外を警戒して、車内の様子までは手におえなさそうだ。


シルスの接続式神は、刀に手を駆けた。

攻撃力1の刀に、それほどの意味はないだろうけど、気持ちは落ち着いた。


コックピット内でシルスとはなもりは、外の様子を凝視した。

「いる?」

とはなもりに聞かれると、自信がなくなていく。

気配を感じただけだ、シルスは気配を感じるほど、上級者ではない。


馬車のリズムに合わせて馬車内のランタンの灯りのが揺れ、光と影がゆらゆらと動いていた。


その時、

「我は冷酷にして金欠にして半尻な、漆黒のあゆた!」

声がした。

声だけがした。


御者席に碧依が、慌てて振り返った。

その顔に焦りがあった。

神将級の碧依に気づかれず、車内に侵入を許した焦りだろう。


そして、馬車はゆっくり停まった。



つづく

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